科学技術

平成30年1月16日
  1. 今般,岸輝雄外務大臣科学技術顧問と米国,英国,ニュージーランドの科学技術顧問等の連名による寄稿が,「Science and Diplomacy」誌(米国の科学技術外交専門誌)2017年12月号に掲載されました。(1月16日付,同誌ウェブサイト別ウィンドウで開くに掲載)
  2. 共同投稿では,科学技術外交の類型について,従来よりも実務的な観点から,各種取組のもつ政策的意義に一層即したかたちで記述がなされました。
  3. その結果,科学技術外交の新たな3類型(国益追求に直結したアクション,国境をまたぐ利益に対応するアクション,地球規模の要請や課題に応じるアクション)に即して科学技術外交の様々な取組が整理され,最後に,科学と外交の緊密な連携の必要性が指摘されました。(要旨:下記参照)

要旨

 国際科学協力には,一般に,知識増進と国益増進の2側面があり,政府外交当局での科学顧問任命などにみられる科学外交の概念は,主に後者の視点を含む。

 科学外交の概念は,2009年に英国王立協会と米国科学振興協会(AAAS)により開催された会合で取り上げられ,会合の成果として,下記の科学外交の3分類が整理され,広く用いられるようになった。

  • 外交における科学(Science in diplomacy)
  • 科学のための外交(Diplomacy for science)
  • 外交のための科学(Science for diplomacy)

 この分類は学術的な議論には役立つとされてきた。一方で,国際的な科学の営為は,科学分野そのものの目標のみならず,よりよい国際関係を支えるといった多様な目的に供するものである。こうした現実により,従来の分類は,科学や外交を担う政府機関への浸透に限界があった。

 南極のような管轄権のおよばない空間の統治,または開発協力,若しくは貿易上の紛争解決における科学の役割など,科学外交に関する他の重要な要素も,従来の3分類には収まりきらないものである。

 外交当局などからみれば,従来の分類は,学術的で実用性に限界があるといえるかもしれない。一方で,科学外交の重要性が増すにつれて,関係省庁は,各自の役割や外交と科学という2つの異なる分野の相互作用の範囲を検討しなければならなくなるであろう。

科学外交のプラグマティックな再構成に向けて

 なぜ国家が科学外交に労力や資源を投資するのかとの観点に着目したときに,科学外交の新たな分類としては,下記の3つが想定される。

  • 国益追求に直結したアクション
  • 国境をまたぐ利益に対応するアクション
  • 地球規模の要請や課題に応じるアクション

 新たな区分は,一連の政策上の論拠や政治的必然性により導かれるものであるがゆえに,役に立つ。

 科学外交の新たな類型の策定は,専門的な知見の習得と入手を確保しようとする省庁の需要を浮き彫りにするものでもある。科学的素養を備えた外交官は多く,大きな組織では技術部門を抱えることもあるとはいえ,専門的な科学助言メカニズムを内部に抱える外交当局は,ほとんどない。近年,政府内において,そして利害関係者や専門家の集まりにより,外交当局に対して,正式な科学助言メカニズムの必要性の検討を提案する取組が目立ってきた。

国益追求に直結したアクション

 科学外交は,ソフト・パワーの行使から,国家安全保障及び緊急時対応,経済的利益への貢献,そしてイノベーション促進に至るまで,一連の国内の要請に応えるため希求される場合がある。

科学外交と国境

 二国間の又は国境をまたぐ課題に対応するために科学を利用することで国益に資する場合もある。一例として,国境をまたぐ生態系や資源の管理が挙げられる。食品安全評価,医薬品規制などの技術的な役務も同様に,諸国間で共有し得るものである。

地球規模の利益の増大

 国益を超えたところで直面するのは,気候変動,オゾン層破壊,生物多様性,海洋汚染などの地球規模課題である。国境をまたぐ共通課題の多くは,国連持続可能な開発目標(SDGs)に集約されている。これらについて進展をみるには,国内の科学助言システムと国際機関や外交当局との間に強力なつながりが確立されなければならない。

 他にも,国家の統治のおよばない空間として,排他的経済水域外の海洋や極域が挙げられる。海洋や宇宙空間の統治においても科学の重要性は高まっている。また,サイバー空間の統治への関与を高めることは,外交官,科学者ともに不可避である。

科学外交の未来

 10年程前の2009年に,科学外交の概念の輪郭が示された。それ以来,2つの分野間の交わりについての理解は進み,新たな分類を創る必要が生じた。本稿が示す新たな枠組みは,政府自身が関与する論拠に焦点を置くことで,関係機関が共通の目標に向けて機能するのを助けることを意図している。科学外交の発展をはかるのであれば,外交,貿易,開発協力,安全保障に関与する関係機関すべてが,科学外交を主要な手段とみなければならない。

 科学外交は,国の大小,発展段階を問わず,すべての国の「道具箱」の重要な部分である。科学外交が必要とする仕組みには,科学の推進のみならず,国,地域,地球規模レベルの諸課題への明確な関心も含まれなければならない。専門省庁や外交当局には,より緊密に協力し,一層の調整を行い,専門知識の必要性を認識するに足る理由がある。―地球のため,そして国境を越えた紛争を減らすためである。


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