タイ王国
タイ王国(Kingdom of Thailand)
基礎データ


一般事情
1 面積
51万4,000平方キロメートル(日本の約1.4倍)
2 人口
6,617万人(2021年)(タイ内務省)
3 首都
バンコク
4 民族
大多数がタイ族。その他 華人、マレー族等
5 言語
タイ語
6 宗教
仏教 94%、イスラム教 5%
7 略史
タイ王国の基礎は13世紀のスコータイ王朝より築かれ、その後アユタヤ王朝(14~18世紀)、トンブリー王朝(1767~1782)を経て、現在のチャックリー王朝(1782~)に至る。1932年立憲革命。
政治体制・内政
1 政体
立憲君主制
2 元首
マハ-・ワチラロンコン・プラワチラクラーオチャオユーフア国王陛下(ラーマ10世王)
His Majesty King Maha Vajiralongkorn Phra Vajiraklaochaoyuhua, The Kingdom of Thailand
(2016年10月即位)
3 議会
- 下院500議席(公選)
- 上院250議席(任命)
- (なお、憲法の経過規定により、上院は当初5年間のみ250議席。それ以降は200議席。)
4 政府
- (1)首相名 プラユット・ジャンオーチャー(Mr. Prayut Chan-o-cha)(注)国防大臣兼務
- (2)外相名 ドーン・ポラマットウィナイ(Mr. Don Pramudwinai)(注)副首相兼務
5 内政・社会状況
(1)インラック政権発足(2011年8月)まで
1997年のアジア金融危機の影響がまだ残る2001年1月の下院総選挙に勝利して政権に就いたタクシン首相(当時)は、国内需要喚起と外資誘致による輸出促進、大規模公共事業、社会保険制度改革、麻薬撲滅等の諸政策を大胆に実施して支持を集め、タイ近代政治史上はじめて任期を全うした公選首相となった。他方、トップ・ダウンの意思決定の導入や、タクシン首相自身の強引な姿勢が伝統エリート層や保守層の反発を招き、 2006年はじめから職権乱用や汚職を理由にタクシン首相を糾弾する社会運動が拡大し、同年4月の選挙は、野党がボイコットする事態となった。その後、憲法裁判所により選挙は違憲無効と判断され、選挙のやり直しが検討される中、2006年9月19日、ソンティ陸軍司令官(当時)を中心とする軍部によるクーデターが発生した。
2006年10月に発足した暫定政権の下、2007年12月に下院議員選挙が行われ民政復帰が実現した。2007年5月に憲法裁判所から解党判決を受けたタイ愛国党の後継政党である国民の力党が同選挙で勝利したものの、再び反タクシン運動が高まり、中心的なグループの「人民民主連合(PAD、通称黄シャツ)」が首相府や国際空港を占拠する中、2008年12月、憲法裁判所は政権与党の国民の力党の解党処分を決定した。連立の軸を失ったことによる政権崩壊を受けて政界再編が行われ、 第二党かつ最大野党であった民主党を中心とするアピシット政権が2008年12月に成立したが、2009年はじめから反クーデターと選挙に基づく政権樹立を主張する「反独裁民主戦線(UDD、通称赤シャツ)」による反政府運動が拡大した。
2009年4月に東部のリゾート地パタヤで予定されていたASEAN関連首脳会議の妨害やバンコク都内での大規模デモ等は、当局の非常事態宣言発出により収束したかに見えたが、2010年2月に最高裁判所がタクシン元首相の資産没収の決定を下したことを契機に、UDDデモが再燃した。デモ隊と当局の間の緊張が高まる中、4月10日、デモ隊と治安部隊との間で衝突が発生し、日本人1名を含む多数の死傷者を出す事態が発生した。5月19日のUDD幹部による解散宣言まで右衝突は散発的に発生し、一連の混乱による死亡者数は、当局発表では約90名にのぼった。
政府による国民和解の取り組みにも拘わらずUDDによる政府批判は収まらず2011年5月に下院は解散され、7月3日に行われた総選挙の結果、2008年に解党された国民の力党の後継政党であるタイ貢献党が勝利し、8月10日、タクシン元首相の実妹のインラック氏を首相とする政権が発足した。
(2)反政府デモの拡大とクーデターの発生(2014年5月)まで
インラック政権は、発足当初、北・中部地方を中心に発生した洪水被害への対応に追われたが、その後は、比較的安定的に政権運営を行った。他方、2013年7月に大赦法案が国会に提出されると、野党や反政府勢力のみならず、汚職を嫌悪する一般市民やビジネス界を巻き込んで強い反発を引き起こし、ステープ元副首相・元民主党幹事長率いる「人民民主改革委員会(PDRC):通称黄シャツ」が主導する大規模な反政府デモが繰り返され、バンコク都内各地で大規模な路上デモから首相府他の政府庁舎の占拠へと発展した。
このような状況を受けて、12月9日、インラック首相は下院を解散し、翌2014年2月に選挙が行われたが、反政府デモ隊の妨害により、一部の投票所で投票が完了できなかったことから憲法裁判所は同選挙を無効と判じた。さらに、5月7日、憲法裁判所は、公務員の人事異動を巡り、インラック首相の職権乱用を認定する判決を下し、同首相は失職した。都内のデモ拠点における銃撃によって死傷者が発生する等、緊張が高まる中、5月20日未明、プラユット陸軍司令官は全国に戒厳令を発令。対立する陣営を集めた対話が軍主導で行われたが妥協に至らず、5月22日夕方、軍を中心とする「国家平和秩序維持評議会(NCPO)」が全統治権の掌握を宣言し、クーデターが改めて発生することとなった。
(3)プラユット暫定政権の発足から総選挙を通じた民政復帰及びプミポン国王の崩御とワチラロンコン新国王の即位(2019年7月まで)
クーデター発生直後の5月30日、NCPOは、第1~3期で構成される民政復帰に向けた「ロードマップ」を発表。同ロードマップに基づき、7月に暫定憲法、8月に国家立法議会及びプラユット首相による暫定内閣が、10月に改革会議及び憲法起草委員会が順次立ち上げられ、新憲法発布に向けた作業が進められた。右から約2年後の2016年8月、国民投票により新憲法案が可決。2017年4月に公布された。その後、数回の選挙延期の後、 2019年3月24日、 8年ぶりとなる下院総選挙が実施された。5月までに上院議員(250名)が任命され、 6月5日、首相選出のための上下両院合同議会が開催され、NCPOが立ち上げた政党である国民国家の力党が推薦するプラユット首相が首班指名を受けた。7月16日、憲法の規定に基づき、プラユット新政権閣僚一同がワチラロンコン国王への宣誓式を実施し、プラユット政権が正式に発足した。同民政政権発足とともに、NCPOは解散となり、タイは5年ぶりの民政復帰を果たした。
この間、2016年10月13日のラーマ9世(プミポン国王)の崩御を受け、ワチラロンコン皇太子が新国王(ラーマ10世)として即位した。ラーマ9世の崩御に伴う服喪期間の後、 2017年10月26日には、プミポン前国王の火葬式が執り行われ、 2019年5月4日から6日にかけて、ワチラロンコン国王の戴冠式が国を挙げて執り行われた。
2 外交
(1)概観
タイは、長年にわたり全方位外交を基本としつつ、主要国との距離を内外の事情に応じて変更する柔軟な外交を展開しており、その基本的な姿勢は最近も変わっていない。
近年は、国際的に関心の高い問題に対して談話を発表する等、国外の情勢や地球規模課題等について立場表明を行う傾向や、中東・アフリカ地域との関係強化の動きが見られる。また地政学的にメコン地域の中核を成すことから地域情勢にも積極的に関与する傾向が見られ、エーヤワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力戦略会議(ACMECS)の活性化、タイ国際協力機構(TICA)を通じた周辺国への国際協力やハード・ソフト両面の連結性の向上持続等の取り組みが上げられる。
(2)主要国との関係
主要国との関係では、タイは米国にとって条約上の同盟国であり、アジア太平洋地域で最大級の多国間共同訓練の「コブラ・ゴールド」は、タイ国内で例年開催されている。また、2013年にタイ・米両国は近代的外交関係樹立180周年を迎えたが、2014年5月のクーデター発生に対し、米国務省は「失望」の意を表し、軍事援助の凍結や共同訓練の中断といった措置を発表した。トランプ政権発足後は、プラユット首相が訪米する等、関係改善が進展した。また2019年の民政復帰に際し、米国はプラユット新政権と共に取り組んでいくことを期待している旨発表し、インド太平洋地域への関与を重視するバイデン政権との間でハイレベルの往来が活発化している。
また中国との関係では、貿易、国内の多数の中国系タイ人の存在、メコン川が両国を貫流していること等を通じ歴史的に緊密な交流と友好関係がある。1975年に国交を樹立。2012年に包括的・戦略的パートナーシップ関係を構築している。タイは、2012年から2015年まで、ASEANにおける対中調整国を務めており、2013年7月には中ASEAN戦略的パートナーシップ10周年ハイレベルフォーラムを開催、また、同年9月の南シナ海における行動規範(COC)策定に向けた公式協議開始に貢献した。2014年のクーデター以降、欧米との関係が一時的に停滞した一方、中国との関係は進展している。2000年代以降は、中タイの海軍、空軍間で軍事演習を実施している。経済面では、中国はタイの最大の貿易相手国であり、中国企業による投資が増加傾向にある。インフラ開発を含め、中国との経済関係を全般的に促進する姿勢を示すも、健全な財務体制の維持への配慮も見られる。
(3)近隣国との関係
ミャンマーとの関係では、2021年2月のクーデター以降、ASEANと協調する立場を示しつつも、隣国としてミャンマー国内の安定化を最優先するための二国間外交を展開。ミャンマーの混乱による避難民・不法移民の流入や麻薬問題の増加等の国境を越える課題を懸念している。
カンボジアとの関係では、カンボジアが国際司法裁判所(ICJ)に提訴していたカオプラウィハーン(プレアビヒア)寺院周辺地域の帰属に関する解釈請求に対し、2013年10月に判決が示されたが、寺院及び周辺のごく限られた地域はカンボジアに帰属し、それ以外の係争地域は両国の話し合いで解決されるべきとの内容であり、判決後のタイ国内の反応は比較的落ち着いたものであった。近年は、国境周辺の情勢は沈静化している。
外交・国防
1 外交基本方針
タイは伝統的に柔軟な全方位外交を維持しつつ、ASEAN諸国との連携と日本、米国、中国といった主要国との協調を外交の基本方針としている。
2 軍事力
- (1)予算 2150億バーツ(2021年版ミリタリーバランス)
- (2)兵役 徴兵2年、予備役20万人
- (3)兵力 正規36万850人(陸軍245,000人、海軍69,850人、空軍46,000人)
(2021年版ミリタリーバランス)
経済
1 主要産業
農業は就業者の約30%を占めるが、GDPでは10%未満にとどまる。一方、製造業の就業者は約15%だが、GDPの約30%と最も高い割合を占める。
2 GDP
501.6(10億ドル)(名目、2020年、タイ国家経済社会開発委員会)
3 一人当たりGDP
7,217ドル(2020年、タイ国家経済社会開発委員会)
4 経済成長率
-6.1%(2020年、タイ国家経済社会開発委員会)
5 消費者物価指数
-0.8%(2020年、タイ商務省)
6 失業率
1.7%(2020年、タイ国家統計局)
7 総貿易額
- (1)輸出2,316億ドル(2020年、タイ商務省)
- (2)輸入2,062億ドル(2020年、タイ商務省)
8 主要貿易品目
- (1)輸出 自動車・同部品、電子機器・同部品(2020年、タイ商務省)
- (2)輸入 機械・同部品、原油、金属(2020年、タイ商務省)
9 主要貿易相手国・地域(2019年、BOT)
- (1)輸出 1.米国(14.8%)2.中国(12.9%)3.日本(9.8%)
- (2)輸入 1.中国(24.2%)2.日本(13.4%)3.米国(7.2%)
10 通貨
バーツ(Baht)
11 為替レート
1ドル=31.3バーツ(2020年、タイ国家経済社会開発委員会)
12 経済概況
(1)概観
2011年の経済成長率は北・中部地方で発生した大規模な洪水の影響により、0.8%にとどまったが、翌年の2012年には、大洪水からの復旧・復興による内需拡大により、7.3%の成長を記録した。しかし、2013年の成長率は、自動車購入者への減税措置の終了に伴う自動車の反動減、洪水からの復旧・復興投資の一巡により、2.9%に鈍化した。また、軍部を中心とする国家平和秩序維持評議会(NCPO)が全権を掌握した後の政情混乱等もあり、2014年は引き続き、0.9%の緩やかな成長率となった。
その後、外需を中心に成長し、経済成長率は2015年は3.1%、16年は3.4%、17年と18年は4.2%となった。しかし、2019年は米中貿易摩擦の影響もあり2.3%の成長率にとどまった。更に2020年には、世界的な新型コロナウィルス感染症の蔓延の影響により、-6.1%と2009年以来のマイナス成長となった。
年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
成長率 | 7.2 | 2.7 | 1.0 | 3.1 | 3.4 | 3.9 | 4.1 | 2.4 | -6.1 |
インフレ率 | 3.0 | 2.2 | 1.9 | -0.9 | 0.2 | 0.7 | 1.1 | 0.7 | -0.8 |
(2)対外経済関係等
ア タイの二国間のFTA/EPA
- <締結済みの主な協定>
- 日本(JTEPA、2007年11月発効)
- 豪州(TAFTA、2005年1月発効)
- ニュージーランド(TNZFTA、2005年7月発効)
- チリ(2015年11月発効)
- <アーリーハベストを開始済みの主な協定>
- インド(2004年9月発効、2012年1月に追加第2議定書へ署名):家電製品、自動車部品など、82品目の関税を先行して引き下げ開始
- ペルー(追加第3議定書署名、2011年12月発効)
- <交渉中の主な協定>
- EU(2013年5月に交渉開始、2014年4月には第4回交渉実施)
- パキスタン(2015年8月に交渉再開)
- トルコ(2017年7月に交渉開始)
- スリランカ(2018年7月に交渉開始)
イ ASEAN加盟国としてのFTA/EPA(締結済みの協定)
- 日本(AJCEP、2009年6月発効)
- インド(AIFTA、2010年1月発効)
- 韓国(AKFTA、2010年1月発効)
- 豪州・NZ(AANZFTA、2010年3月発効)
- 中国(ACFTA、2010年1月発効)
これら各協定では、 ASEAN先発加盟6か国と後発加盟4か国で関税撤廃の実施時期を分け、2010年1月1日より、AFTA、ACFTAおよびAKFTAは先発加盟6か国が対象品目の約9割において関税撤廃を開始している。
ウ ASEAN域内のFTA/EPA
タイは、ASEANの中軸国として経済の基盤をASEANに置いている。ASEAN域内のFTAであるAFTAは、1992年1月の第4回ASEAN首脳会合において1993年から2008年までの15年間で実現に取り組むことが正式に合意されてスタートした。AFTAを実現するための共通効果特恵関税(Common Effective Preferential Tariff、CEPT)が1993年1月から開始され、その後CEPT最終関税率(0~5%)の達成の目標年は累次前倒しされてきている。
その他、RCEP(ASEAN++)などASEANと他のアジア・太平洋諸国との経済連携強化の動きにも積極的に取り組んでいる。
エ 地域的な包括的経済連携協(RCEP)
2020年11月15日、ASEAN構成国10ヵ国と日本、中国、韓国、豪州及びニュージーランドが、多国間経済連携協定であるRCEPに署名した。RCEPは、地域の貿易・投資の促進及びサプライチェーンの効率化・活性化に向けて、市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野を規定することにより、地域における自由で公正な経済ルールを構築するもの。ASEAN構成国のうち少なくとも6ヵ国及びASEAN構成国ではない国のうち少なくとも3ヵ国が国内法上の手続に従って批准しその後60日経過すると発効する。2022年1月1日より、日本、中国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、カンボジア、ラオスの10カ国で発効(韓国は22年2月1日に発効)。
(3)周辺国との連結性強化
経済成長戦略の関連でタイが特に重視しているのが、周辺国との連結性の強化である。周辺国とのハード・ソフト両面の連結性を向上させることで、メコン地域、インドシナ半島の中心及び太平洋地域とインド洋地域の中間に位置するタイの地政学的優位性をより一層活用することが、次なる成長ステージを目指す上では重要な課題となってくる。このため、インドシナ半島を貫く南部経済回廊、東西経済回廊、南北経済回廊の構築を目指している。また、南部経済回廊のミッシングリンクを解消すべく、バンコクから約300km西にあるミャンマーのダウェー開発を日本とも協力してミャンマー政府と共に進めようとしている。更に、メコン地域開発のために、エーヤワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力戦略会議(ACMECS)の再活性化を通じ、地域の持続可能な発展に積極的に取り組む姿勢が見られる。
経済協力
1 日本の援助実績
年度 | 円借款 | 無償資金協力 | 技術協力 |
---|---|---|---|
2014 | – | 2.31 | 17.43 |
2015 | 382.0 | 11.68 | 23.95 |
2016 | 1,668.6 | 2.38 | 25.62 |
2017 | – | 4.30 | 26.92 |
2018 | – | 1.57 | 26.78 |
2019 | 94.34 | 0.14 | 28.27 |
累計(億円) | 23,789 | 1,725.16 | 2,373.96 |
- (注)
- 1.年度の区分及び金額は、円借款及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力は予算年度の経費実績ベースによる。
2. 累計金額は、円借款は借款契約ベース、無償資金協力は交換公文ベース、技術協力は予算年度の経費実績ベースによる。
二国間関係
1 総論
日タイ両国は600年にわたる交流の歴史を持ち、伝統的に友好関係を維持している。長年の両国の皇室・王室間の親密な関係を基礎に、政治、経済、文化等幅広い面で緊密且つ重層的な関係を築いており、人的交流は極めて活発である。
タイにおける在留邦人は81,187人(2020年10月)、タイへの日本人渡航者は約35万人(2020年)、バンコク日本人学校生徒数は2,350人、シーラチャー日本人学校生徒数448人(2021年4月)に上る。
日本における在留タイ人は51,409人(2021年12月)、また日本へのタイ人渡航者は年間約22万人(2020年)だったが、新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延の影響により、両国間の人の往来は激減している。
ハイレベルでの交流に関しては、2013年1月に安倍総理が就任後初の外国訪問先の一つとしてタイを訪問し、日タイ首脳会談にて「戦略的パートナーシップ」の更なる発展、協力関係の強化等を確認するとともに、プミポン国王に拝謁した。 2014年5月の政変後、同年8月、プラユット政権が発足し、同年9月、岸田外務大臣が国連総会(於:米国)に出席した際、日タイ外相会談が実施された。また、同年10月、城内外務副大臣がタイを訪問してプラユット首相を含む新政権要人と意見交換を行ったほか、同月、アジア欧州会議(ASEM)第10回首脳会議(於:イタリア)の際、日タイ首脳会談が実施された。更に、2015年2月、プラユット首相は首相として初めて訪日し、同年3月には国連防災世界会議、同年7月には日メコン地域諸国首脳会議に出席するため、それぞれ訪日し首脳会談が実施(7月には日タイ外相会談も実施)された。2016年5月には岸田外務大臣が訪問し、プラユット首相、ソムキット副首相、ドーン外相と会談した。2017年3月、天皇皇后両陛下は、2016年10月に崩御した前国王プミポン陛下を弔問するため、タイを御訪問された。また、同年10月には、秋篠宮同妃両殿下が、前国王プミポン陛下の御火葬式に御参列するために、タイを御訪問された。2018年6月には、河野外務大臣が、タイを訪問し、プラユット首相、ドーン外相と会談した。同年10月には、第4回日本・メコン地域首脳会議に参加するため、プラユット首相が訪日し、日タイ首脳会談が行われた。また同年12月には、秋篠宮同妃両殿下が訪問された。2019年6月には、G20大阪サミットに参加するため、プラユット首相が訪日し、日タイ首脳会談が行われた。同年7月から8月にかけ、河野外務大臣は、タイが議長国を務めるASEAN関連首脳会議出席のため民政復帰後初めて、タイを訪問し、日タイ外相会談が実施された。同年10月には、即位の礼に出席するため、プラユット首相が訪日し、日タイ首脳会談が行われた。また11月にはASEAN関連首脳会議に参加するため、安倍総理がタイを訪問し、再び日タイ首脳会談が実施された。2020年1月には、茂木外務大臣がタイを訪問し、プラユット首相、ドーン外相と会談した。以後、新型コロナウィルスの世界的蔓延の影響により、対面でのハイレベル交流はなかった(2022年1月の萩生田経済産業大臣訪タイを除く)ものの、2020年は3度の外相電話会談(5月、6月、10月)、2021年は3度の外相電話会談(3月、8月、11月)、2度の首脳電話会談(4月、11月)を実施した。
2 経済関係
1980年代後半以降、日本企業は円高を背景に積極的にタイに進出し、タイの経済成長に貢献。現在、タイ進出日系企業数は、5,856社(2021年3月JETRO調査)を数える。1997年7月に顕在化した通貨経済危機に関し、日本は大規模な資金的・人的協力を実施。2007年、日タイ経済連携協定の発効により、両国の経済関係の更なる緊密化が期待される。またメコン地域開発を進める上での日本の重要なパートナーである。
(1)日本からタイへの輸出入
ア 貿易額 (財務省貿易統計、単位:億円)
2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
輸出(タイへ) | 26,647 | 30,093 | 30,515 | 20,697 | 29,937 | 29,885 | 34,889 | 35,072 | 33,198 | 33,870 | 29,744 | 33,004 | 35,625 | 32,906 | 27,226 |
輸入(タイから) | 19,639 | 21,536 | 21,522 | 14,952 | 18,400 | 19,532 | 18,857 | 21,503 | 22,995 | 24,711 | 21,896 | 25,502 | 27,707 | 27,651 | 25,401 |
イ 主要品目(タイ商務省)
タイから日本への輸出:自動車・同部品、加工・冷凍鶏肉、電子機器・同部品
タイの日本からの輸入:機械・同部品、鉄・鉄鋼製品、電子機器・同部品
(2)日本からタイへの直接投資(タイ投資委員会、認可ベース)
年 | 件数 | 金額(バーツ) |
---|---|---|
2014 | 417 | 1,819億3,200万 |
2015 | 451 | 1,489億6,400万 |
2016 | 296 | 808億1,100万 |
2017 | 270 | 918億100万 |
2018 | 315 | 936億7,500万 |
2019 | 217 | 880億6,700万 |
2020 | 210 | 643億5,709万 |
(2020年時点では、日本はタイにとって外国直接投資額のうち25.5%を占める最大の投資元。2位は中国の22.2%)
(3)インフラ
タイにおけるインフラ海外展開として、日本は高速鉄道・都市鉄道整備をはじめとする各種案件について官民を挙げて売り込みを実施している。高速鉄道については、2012年締結された日タイ政府間のMOIに基づく鉄道ワーキンググループにおいて実務的な協議を実施しているほか、都市鉄道については、都市鉄道新線パープルラインの車両及び信号システム並びにメンテナンス保守請負業務や、レッドラインの車両及び信号システム等を日本企業連合が受注している。とりわけパープルラインについては、我が国鉄道事業者が海外の鉄道事業の保守請負業務を受注した初めての案件となっている。
(4)観光
観光客誘致・人的交流については、2013年7月、日ASEAN友好協力40周年を契機として、我が国は、タイ国民の短期滞在者に対して、ビザ免除措置を開始した影響もあり、訪日タイ人数は増加傾向にある。2019年は約132万人(同約16%増)で、過去最高を記録したが、2020年は新型コロナウィルス感染症の影響で約22万人だった。なお、訪日外国人の国・地域別ではタイは6番目に訪日者数が多い国・地域となっている(2019年時点)。
年 | タイ人渡航者数 | 前年比 |
---|---|---|
2013 | 約45万人 | 約74%増 |
2014 | 約65万人 | 約45%増 |
2015 | 約80万人 | 約21%増 |
2016 | 約90万人 | 約12%増 |
2017 | 約100万人 | 約11%増 |
2018 | 約114万人 | 約14%増 |
2019 | 約132万人 | 約16%増 |
2020 | 約22万人 | 約83%減 |
他方、タイへの日本人渡航者数については、2013年に約153万人を記録し2014年に政治情勢の影響を受け、一時、約127万人まで減少した。その後、2019年には約180万人に達し、過去最高を記録したが、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延の影響により、2020年には約35万人に止まっている。
年 | 訪タイ日本人渡航者数 | 前年比 |
---|---|---|
2013 | 約153万人 | – |
2014 | 約127万人 | 約17%減 |
2015 | 約138万人 | 約8%増 |
2016 | 約143万人 | 約3.6%増 |
2017 | 約154万人 | 約7.6%増 |
2018 | 約164万人 | 約7.1%増 |
2019 | 約180万人 | 約9.7%増 |
2020 | 約35万人 | 約81%減 |
(5)地方自治体の動き
近年では、我が国の地方自治体によるタイとの関係を構築しようとする動きが見られる。2018年は、12道県の知事、副知事が、観光客誘致及び食品輸出促進のためのトップセールスや県内中小企業の進出支援などのためにタイを訪問した。この背景には、東南アジア諸国の経済成長に伴うマーケットの拡大と共に、中国への進出を巡る環境の変化に伴う売り込み先の多角化の他、2013年7月に実施された短期査証免除措置による訪日タイ人観光客の増加、地方からも引き続き中小企業を中心とする企業のタイ進出が続いている事などが上げられる。
3 文化関係
(1)総論
2013年は、日ASEAN友好協力40周年を記念し、様々なレベルにおいて日タイ間での交流活動が行われ、双方向の二国間関係が一層強化された年となった。4月、アジアにおける文化交流の強化に資する具体的な方策の検討を行うことを目的に、安倍総理の下に「アジア文化交流懇談会」が立ち上げられ、7月には各界著名人から成る同懇談会一行がバンコクを訪問し、タイ側の文化人、有識者等と意見交換を行った。同懇談会の政策提言に基づき、12月には、日ASEAN特別首脳会議において、新しいアジア文化交流政策の実施が発表され、今後の文化・教育・スポーツ分野における日タイ間での交流強化に拍車をかけることになった。2017年は、日タイ修好130周年として、東京で日タイの外相が出席した記念コンサートの開催を始めとして年間を通じ、日タイ両国において様々な交流事業が多数実施された。また、2019年は日メコン交流年2019にあたり,様々な文化・スポーツイベントが開催された。
(2)日本語教育
タイ国内の日本語学習熱は高く、日本語学習者は約18万5千人(前回2015年調査比約6%増)、日本語教育機関は659機関(同比約8.7%増)以上あり、共に増加傾向にある(2018年度日本語教育機関調査)。上述のアジア文化交流懇談会の政策提言に基づく形で、2014年度から「日本語パートナーズ派遣事業」が開始され、タイにおける日本語教育の質的量的向上が期待されている。
(3)青少年交流
青少年交流事業においては、JENESYS2.0やアジア高校生架け橋プロジェクトによる交流事業の他、「青年の船」のタイ寄港や、サッカー交流、子供親善大使等、各種訪問団により、タイの若者との交流が図られている。
4 在留邦人数
81,187人(2020年10月)
5 在留当該国人数(短期滞在除く)
51,409人(2020年12月:外国人登録者数)
6 要人往来(2005年以降)
年月 | 要人名 |
---|---|
2005年1月 | 町村外務大臣 |
2005年8月 | 秋篠宮殿下 |
2006年6月 | 天皇皇后両陛下(タイ国王即位60周年記念式典) |
2007年3月 | 秋篠宮殿下 |
2009年1月 | 中曽根外務大臣 |
2009年4月 | 麻生総理大臣、中曽根外務大臣(ASEAN関連首脳会議:中止) |
2009年7月 | 中曽根外務大臣 |
2009年10月 | 鳩山総理大臣(ASEAN関連首脳会議) |
2010年8月 | 岡田外務大臣 |
2011年3月 | 秋篠宮殿下 |
2012年6月 | 皇太子殿下 |
2012年11月 | 秋篠宮殿下 |
2013年1月 | 安倍総理大臣 |
2016年5月 | 岸田外務大臣 |
2017年3月 | 天皇皇后両陛下(前国王プミポン陛下御弔問) |
2017年10月 | 秋篠宮同妃両殿下(前国王プミポン陛下御火葬式御参列) |
2018年6月 | 河野外務大臣 |
2018年12月 | 秋篠宮同妃両殿下 |
2019年8月 | 河野外務大臣(ASEAN関連外相会議) |
2019年11月 | 安倍総理大臣(ASEAN関連首脳会議) |
2020年1月 | 茂木外務大臣 |
年月 | 要人名 |
---|---|
2005年5月 | カンタティー外相(ASEM外相会合) |
2005年8月 | タクシン首相 |
2006年4月 | タクシン首相(非公式訪問) |
2006年5月 | カンタティー外相(タイ・フェスティバル) |
2006年8月 | シリントーン王女殿下 |
2006年10月 | チュラポーン王女殿下 |
2007年2月 | ニット外相(日タイ修好120周年開幕式典) |
2007年4月 | スラユット首相 |
2007年10月 | チュラポーン王女殿下 |
2007年11月 | ニット外相(日タイ経済連携協定(第1回合同委員会)) |
2008年1月 | ニット外相(日メコン外相会議) |
2008年5月 | ノパドン外相(タイ・フェスティバル) |
2008年9月 | チュラポーン王女殿下 |
2009年1月 | ソムサワリー王女殿下 |
2009年2月 | アピシット首相 |
2009年11月 | アピシット首相、カシット外相(日メコン首脳会議) |
2010年1月 | カシット外相(アジア中南米協力フォーラム) |
2010年10月 | シリントーン王女殿下 |
2010年11月 | チュラポーン王女殿下 |
2012年3月 | インラック首相、スラポン外相 |
2012年4月 | インラック首相、スラポン外相(日メコン首脳会議) |
2013年5月 | インラック首相、スラポン副首相兼外相 |
2013年11月 | チュラポーン王女殿下 |
2013年12月 | ニワットタムロン副首相兼商務相 |
2014年11月 | プラウィット副首相兼国防相 |
2015年2月 | プラユット首相、タナサック副首相兼外相 |
2015年3月 | プラユット首相(第3回国連防災世界会議)、タナサック副首相兼外相 |
2015年4月 | シリントーン王女殿下 |
2015年7月 | プラユット首相(第7回日本・メコン地域諸国首脳会議)、タナサック副首相兼外相 |
2015年11月 | ソムキット副首相 |
2016年5月 | ドーン外相(タイ・フェスティバル) |
2016年5月 | ソムキット副首相 |
2016年12月 | チュラポーン王女殿下 |
2017年5月 | タナサック副首相(タイ・フェスティバル) |
2017年6月 | ソムキット副首相(第3回日タイハイレベル合同委員会) |
2017年9月 | ドーン外相(日タイ修好130周年) |
2017年12月 | チュラポーン王女殿下 |
2018年7月 | ソムキット副首相(第4回日タイハイレベル合同委員会) |
2018年10月 | プラユット首相(第10回日本・メコン地域諸国首脳会議) |
2019年5月 | ドーン外相(タイ・フェスティバル) |
2019年6月 | シリントーン王女殿下 |
2019年6月 | プラユット首相、ドーン外相(G20大阪サミット) |
2019年10月 | プラユット首相(即位の礼) |
2019年11月 | チュラポーン王女殿下 |
2020年2月 | ソムキット副首相 |
7 二国間条約・取極
- 修好宣言(1887年)
- 航空協定(1953年)、文化協定(1955年)、貿易取極(1958年)、技術協力協定(1981年)、青年海外協力派遣取極(1981年)、租税条約(1990年)、経済連携協定(2007年)、受刑者移送条約(2010年)