シンガポール共和国
最近のシンガポール情勢と日・シンガポール関係
1 内政
- (1)基本政体:立憲共和制(1965年8月9日マレーシアより分離・独立)
- (2)元首:ターマン・シャンムガラトナム(2023年9月に第9代大統領に就任。任期6年)
- (3)国会:一院制。議席数87。任期5年。
- (4)首相:リー・シェンロン
リー・シェンロン首相率いる人民行動党(PAP)政権は引き続き盤石な体制を維持するも、2011年5月の選挙は、87議席中、過去最大の6議席を落とすなど、近年は盤石な体制にも多少の変化が見られたものの、2015年9月の選挙では、得票率69%、89議席中83議席を獲得し、支持率低下に歯止めをかけた。また、「第4世代」と呼ばれる40代を中心とした若手議員を積極的に閣僚に起用するなど、世代交代を着々と進めている。
2 外交
ASEANの原加盟国として、ASEAN重視の外交政策を推進し、東・東南アジアにおける安全保障面・経済面での米国の関与を重視している。中国の成長は自国の経済発展につながるものとして歓迎し、活発な要人往来が行われている。「一つの中国」政策を支持しつつも、台湾とも伝統的に友好関係にある。日本に対しては、地域におけるプレゼンスの一層の拡大を期待している。
3 国防
(1)国防政策
- ア シンガポールを取り巻く地政学的条件から、国防は軍事力のみでは全うできないとの判断により、国民を心理・社会・経済・民事・軍事の各分野にわたって組織化するトータル・ディフェンス(総合防衛)政策を推進。ナショナル・サービス(2年間の義務兵役、訓練終了者は即応予備役に登録され、年間最高40日間の招集訓練に40歳まで参加することが義務付けられている)の充実を図っている。
また、国防政策の優先順位は高く、国防関連予算は、2017年度予算で約142億シンガポール・ドルで予算総額の約19%のシェアを占めている。 - イ 五か国防衛取極(FPDA:1971年11月に英国、豪州、ニュージーランド、マレーシア及びシンガポールの間で締結)に基づき、これら4か国と軍事協力関係にある。ASEAN諸国等を主として共同演習等の二国間の軍事交流を積極的に推進し、また、自国の地理的条件に伴う演習地不足を補うために、タイ、インドネシア、オーストラリア、ブルネイ、ニュージーランド、米国等で訓練を行っている。
(2)国防組織及び指揮系統
- ア 常備軍事力は、陸軍5万人、海軍5千人、空軍約1万3千5百人となっており、ASEAN内で最も近代化が進んでいる。非常時には予備役約30万人の動員が可能とされている。
- イ 制服軍人は、国防第一事務次官の直接指揮を受けることとなっており、完全なシビリアン・コントロールの下で運営されている。
- ウ 非常時の軍隊発動権は、形式上首相にあるが、実際には主要閣僚で構成する国防閣僚会議が行使。
4 経済
- (1)マレーシアからの分離・独立(1965年)後、「外資導入を軸とする工業化」等を積極的に推進。1996年1月、経済協力開発機構(OECD)途上国リストを「卒業」した。
- (2)実質GDP成長率の推移
実質GDP成長率の推移 | ||||||||||
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2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 |
8.9% | 9.1% | 1.8% | -0.6% | 15.2% | 6.2% | 3.9% | 5.0% | 3.6% | 1.9% | 2.0% |
(出典:シンガポール統計局)
- (3)戦略的な経済政策
国内産業構造の高度化や、サービス(運輸、金融、教育等)のハブ機能強化を推進(近年のシンガポール経済を、バイオメディカル、製造業、サービス業等が牽引)。バイオメディカル産業については「バイオポリス」、情報通信・メディア産業については「フュージョノポリス」といった産業集積拠点を設置。 - (4)経済連携枠組構想の推進
シンガポールはこれまでに、日本、米国、中国、豪州等、32の国及び地域と21の自由貿易協定/経済連携協定(FTA/EPA)を締結。また、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの広域経済連携構想にも積極的で、アジア太平洋地域における自由貿易の推進に努めている。 - (5)最近の経済動向
世界経済の成長鈍化、資源価格の低迷等を背景に2016年は2.0%の低成長。政府は、今後の景気下振れのリスク要因として、ア 欧州経済の先行き不透明感の高まり、イ 中国における企業債務の拡大や不動産バブル崩壊による急激な景気悪化の可能性、ウ 反グローバリゼーションの台頭が世界貿易に打撃を与える可能性を挙げ、2017年も低成長が続くと予想。これらリスクが完全に顕在化しなかった場合の通年の経済成長見通しとして、1.0~3.0%を予想している。
5 日本・シンガポール関係
(1)概観
長年にわたり、両国間には大きな懸案はなく、要人の往来も活発であり、二国間関係は極めて良好。1970年代後半以降の工業化推進の過程では、多くの分野において日本の経験が参考とされた。現在、先進国となったシンガポールとの間では日・シンガポール経済連携協定(JSEPA)やJSPP21(後述)等、先進的な取組が行われている。2016年には、日・シンガポール外交関係樹立50周年を迎え(外交関係樹立は1966年4月26日)、オーチャード通りで約11万人を動員したSJ50Matsuriを始め、合計260件を超える事業が実施された。
なお、2016年4月には、ビビアン・バラクリシュナン外相が来日し、外交関係樹立の記念日である26日に外相会談を実施。8月、安倍総理はSRナザン元大統領の葬儀に参列するためシンガポールを訪問した。9月には、リー・シェンロン首相が来日、首脳会談を実施すると共に、故リー・クァンユー初代首相に対する桐花大綬章を、遺族を代表して授与された。11月、トニー・タン大統領が国賓として来日。
(2)協力の枠組み
- ア 日本・シンガポール新時代経済連携協定
(The Japan-Singapore Economic Agreement for a New Age Partnership(JSEPA)) - 2002年1月、小泉総理のシンガポール訪問の際、ゴー・チョクトン首相との間で協定に署名。2002年11月30日に発効した。本協定は、日本にとって初めての経済連携協定であり、貿易・投資のみならず、金融、情報通信、人材育成といった分野を含む包括的な二国間の経済連携を図る枠組み。2007年、更に自由化を拡大した改正議定書が発効。
- イ JSPP21(Japan-Singapore Partnership Programme for the 21st Century)
「21世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム」 - ODA卒業国であり、技術協力について開発援助実績を有しているシンガポールと共同で途上国支援を行うもの。主にアジア太平洋、アフリカ及び中東の国々を対象として実施しており、これまで海上航行安全、ASEAN事務局の能力強化、交番システム等に関する技術研修等を実施している。
(3)文化・人物交流
- ア 文化交流及び文化協力に対するシンガポール側の関心は高く、特に日本語普及及び日本研究振興に対して熱心である。在シンガポール日本国大使館でも、年間計画に基づき日本映画祭、音楽祭等各種文化・スポーツ事業を実施すると共に、シンガポール政府・民間団体等の行う行事に対し積極的に協力している。
- イ 1995年10月には東京において、「第1回日本・シンガポール・シンポジウム」が開催され、両国の政府・経済関係者、学者、ジャーナリスト等が共通の関心事項につき幅広く意見交換を行った。本シンポジウムは、1994年8月に村山総理がシンガポールを訪問した際に両国間の知的交流を促進するための場として開催を提唱し、ゴー・チョクトン首相の賛意を得て開催されたものであり、2016年4月には第11回が東京で開催された。
- ウ シンガポール日本商工会議所は、1991年5月に「日本商工会議所シンガポール基金(JCCI Singapore Foundation)」を設立し、毎年日系企業より資金を集め、シンガポールの機関、団体及び個人に対し表彰を行うことにより、シンガポールの文化・芸術・学術・スポーツ振興に協力している。
- エ 2007年3月の日シンガポール首脳会談において、リー首相から、日本文化情報の発信拠点として「日本センター」をシンガポールに設置することを提案、両国で検討を進めることで一致。同年11月の首脳会談においては、「ジャパン・クリエイティブ・センター(Japan Creative Centre)」の早期設置に向け協力していくことに合意。デザイン、ファッション、アニメ等、現代の日本の魅力を若者を始めとする多くの人々が体感できる場所として、2009年11月14日開所。
- オ 青少年交流の進展
JENESYSプログラムを通じた訪日教育旅行の拡大等、青少年交流も拡大。訪日観光客数は東日本大震災後、前年比40%減と大きく減少したが、その後、回復している。