欧州
第16回日本・スペイン・シンポジウム(概要と成果)



3日,東京において第16回日本・スペイン・シンポジウムが開催された。その概要及び成果は以下のとおりである。
1 シンポジウムの概要
(プログラム(PDF)

(1)今回のシンポジウムの位置づけ
今回のシンポジウムは,1613年の慶長遣欧使節派遣を起点とする「日本スペイン交流400周年」の日本における事業開始の一環に位置づける形で開催された。また,同じく400周年事業開始を期して,日本政府の公式実務訪問賓客として訪日中のマリアノ・ラホイ・スペイン首相(H.E. Mr. Mariano Rajoy Brey, President of the Government of Spain)が開会式に出席し,スピーチを行った。日本側からも岸田文雄外務大臣が冒頭スピーチを行った。シンポジウムの内容面では,日本とスペインが共に持続可能な成長を達成し,ひいては世界経済の再生と安定に貢献するために,二国間でいかなる協力が可能か,という観点からテーマ設定が行われた。具体的には,「イノベーションのための科学技術協力」と「新興国市場における協力」の2つのテーマを設定し,活発な議論が行われた。
(2)開会式
開会式では,ラホイ首相,岸田文雄外務大臣,横山進一日本側座長(日本経団連ヨーロッパ委員会共同委員長)及びゴンサロ・デ・ベニート・スペイン側座長代理(スペイン外務省外交長官)が,それぞれ冒頭挨拶を行った。(岸田外務大臣冒頭挨拶(PDF)
岸田大臣は,スピーチにおいて,シンポジウムのテーマである「イノベーション」と「新興国市場」は,日本とスペインの協力が大きな潜在力を持つ分野であり,今後の協力深化に大いに期待する旨述べると共に,そうした協力を進めることによって,日本にとってのスペインの魅力(ブランドパワー)が一層高まるようにしたいとの希望を表明した。
(3)ラウンドテーブル・テーマ1「成長の原動力としての技術革新(イノベーション):現在および将来における日西間の科学技術協力」
基調講演:カルメン・ベラ スペイン研究・開発・イノベーション担当長官(Prof. Carmen Vera, State Secretary for Research, Development and Innovation of Spain)
日本とスペインが持続可能な成長を実現していく上で特に鍵となる科学技術分野について,両国それぞれがどのような長所を有しているかを分析した上で,近い将来に二国間協力が可能となる分野を特定することを目的として議論が行われた。
議論の中では,そうした協力増進のための具体的な施策として,産官学の連携強化,両国の関連組織間の交流活発化,若手人材の育成・交流といった提案も行われた。
(4)岸外務副大臣主催昼食会(副大臣冒頭挨拶(PDF))
(5)ラウンドテーブル:テーマ2「新興国市場における協力」
基調講演:宮本聡 日本貿易振興機構(JETRO)副理事長
日本とスペインの経済成長のためには,新興国市場の活力をうまく取り込んでいくことが不可欠であるとの問題意識に基づいて,両国の企業間の協力を中心に,新興国市場において両国がどのような連携を進めるべきかについて議論が行われた。
議論の中では,企業間連携の具体的な分野として何が適切か,どの地域で,日本とスペインのそれぞれが持つ長所をどのように組み合わせることが効果的か,またそうした企業間協力を促進する上で求められる政府の施策は何か,といった点について様々な提案が行われた。
(6)最終提言書の採択
これらの議論を受けて,最後に,両国座長連名にて,両国の政府や経済界に具体的な行動を提案する「最終提言書(PDF)」が採択された。
2 意義と成果
(1)今回のシンポジウムは,日本が6月に新たな成長戦略を策定し,まさにその実施に向けて大きく動き出そうとしている時点で,経済再生のための構造改革を断行中であるラホイ首相が出席し,日本の成長戦略と軌を一にした形での新たな両国間協力のあり方を呼びかけたという意味で,極めて時宜を得ており,二国間協力の新たな地平の開拓に向けた第一歩となるものであった。
(2)スペインが,日本の成長戦略において重点分野とされている医療,再生可能エネルギー,インフラといった分野での最先進国の一つであることは,日本でもまだ十分には知られていない。今回のシンポジウムを通じ,スペインが持つこうした「強さ」が日本国内でもより広く認識され,「日本にとって頼りになる友人」としてのスペインとの協力の機運が一層高まっていくことが期待される。
(3)EU第5位の大国であるスペインはまた,世界第2位の言語であるスペイン語を介して,有望な新興市場である中南米と深くつながっている。日本もまた中南米とは,長い移民の歴史を通じて深い関係を有し,現在では同地域の3か国と既に経済連携協定(EPA)を締結済みである。今回この中南米を,日本とスペインの経済協力の場と明確に位置づけたことは,政府の外交政策にとっても,欧州と中南米を地球規模の視野において多角的に関係づけるという意味で,画期的なものであった。