アジア
第6回バリ民主主義フォーラムにおける高村総理特使スピーチ
平成25年11月7日
1.冒頭
ユドヨノ大統領閣下、
御列席の皆様、
本日、ここバリ島において、日本政府を代表し、総理特使としてバリ民主主義フォーラムに参加できることを大変光栄に思います。私はこの8月にも、東南アジアで初めて行われた大相撲巡業の機会にジャカルタを訪問し、ユドヨノ大統領と会談したところですが、それから間を置かずにこの国を再訪できたことは大きな喜びです。
ちょうど5年前、第1回のフォーラムにも総理特使として出席し、ユドヨノ大統領始め出席者の皆様とこのフォーラムの誕生の場に立ち合ったことを昨日のことのように思い出します。その後、このフォーラムが開かれたフォーラムとして順調に参加国数を増やし、昨年は首脳級会合を行うまでに大きく発展してきたことを喜ばしく思います。世界屈指の多元的社会でありながら、幾多の困難を乗り越えて民主主義を確立したインドネシアほど、このフォーラムの主催国に相応しい国はありません。ユドヨノ大統領のリーダーシップに、心から敬意を表します。
2.日本の外交方針と民主主義
さて、民主主義に関する日本の取組について少しご紹介したいと思います。日本は、確固たる民主主義体制の下、国民が平和と幸福を享受する豊かな社会を築いてきました。その背景には、日本が常に、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済などの「普遍的価値」に重きを置き、これらを着実に培ってきたことが挙げられます。こうした日本の姿勢は、外交政策においても変わることはありません。わが国は、戦後一貫して、世界各国の経済・社会開発に様々な形で協力する中で、各国がそれぞれの道筋で自由、民主主義、人権、法の支配等の基本的価値を確立していくことを重視して参りました。昨年末に成立した安倍政権においても、これらの価値に立脚して、グローバルな課題に積極的に取り組み、日本のみならず世界全体の利益の増進を図ることを重視しています。日本が5月に打ち出した国際保健外交戦略や、先日の国連総会で安倍総理が表明した「女性が輝く社会」の実現に向けた取組は、その具体的な取組の一例です。
このようなグローバルな課題に取り組んでいくパートナーとして不可欠なのが、今年日本との友好協力40周年を迎えるASEAN諸国です。安倍総理は、本年1月に、まさにここインドネシアで、民主主義や法の支配を重視する対ASEAN外交5原則を発表しました。12月にはASEAN全ての首脳を東京に招待し、あらゆる分野での協力を更に強化していく予定です。この5原則にのっとり、日本は今後もASEAN諸国と連携を深めていきたいと考えています。
3.世界各国の民主化状況と日本の民主化支援
一方で世界に目を転じれば、民主主義の普及と定着が決して容易な道のりではないことは明らかです。「完璧な民主主義というのはどこにも存在していない。民主主義は、終わりなき旅といってよい。」5年前、ユドヨノ大統領がこのフォーラムで述べられたこの言葉を、私は今でも鮮明に覚えています。民主主義を実効的なものとするには、法制度の整備、市民社会の発展、表現・報道の自由の確保等、いくつものピースを組み合わせ、継続的かつ粘り強く取り組んでいくことが求められます。
(アジア)
例えばアジアでは、この10年の間に、インドネシアに続き、東ティモール、ブータン、ネパール、モルディブといった国々が次々と民主化を果たしました。
各国の状況は違えども、民主化への流れは地域の大きな潮流として支持されています。我々はこの流れを着実に推し進める努力を怠ってはなりません。
インドネシアの経験の重要性についてはここで繰り返すまでもないでしょう。ユドヨノ大統領は本年8月の国政演説において「国家の使命は多様性を保持することである」と述べられました。まさにその言葉通り、世界第4位の人口を有し、多様な民族・言語・文化・宗教から成る多元的社会であるインドネシアは、世界でも有数の民主主義国家として、安定した政治の下で経済成長を続け、外交でもリーダーシップを発揮して国際社会での存在感を増しています。これは、インドネシアが、選挙制度や地方自治制度の整備、市民社会との対話等、民主主義を実効的なものとするための不断の努力を進めてきたからに他なりません。
この経験は、アジアにとどまらず、世界の国々にとって一つのロール・モデルとなり得るものです。日本としても、重要な戦略的パートナーであるインドネシアが、今後も世界の民主主義の普及にイニシアティブを発揮されるよう、協力を一層深めていきたいと思います。
同じアジアでは、ミャンマーにおける変化も重要です。我々は、ミャンマーにおいて、民主化・国民和解・経済改革・法の支配の強化に向けた進展が見られることを歓迎します。同時に、2015年に予定される総選挙を見据え、改革の更なる進展と国際社会への復帰を後押ししていく必要があります。日本は引き続き、同国政府の少数民族との和平に向けた支援を含め、関係国・機関と緊密に意思疎通しながら、同国の諸改革に向けた取組を官民を挙げて支援していきます。
(中東地域)
中東では、3年前に歴史的変革が訪れたと言われたものの、移行国の政府は、政治プロセスの遅れや経済・社会状況の悪化から、政変後の国民の高い期待に応えられない現実に直面しています。日本は、(1)公正な政治・行政運営、(2)人づくり、(3)雇用創出・産業育成、の3つを重点分野として、12億ドルのインフラ整備支援、そして民主化や若年層失業対策についての追加支援を実施して来ました。現在、国際社会の最大関心事であるシリア情勢についても、先日の国連総会で安倍総理から6,000万ドルの追加的人道支援を表明したところです。
この地域の安定に向け、今後も国際社会は支援を継続していかなければなりません。
日本は、国際的枠組みであるドーヴィルパートナーシップの下で引き続き協力を進めていきます。また、経済的繁栄のもと、地域の平和と安定を実現してきたアジア諸国の経験を、中東諸国と積極的に共有していきたいと考えます。日本は、東アジア諸国の発展の経験を活かして中東和平の実現に貢献すべく、CEAPAD(パレスチナ開発のための東アジア協力会合)を立ち上げました。来年には、第二回閣僚級会合がインドネシアの主催で開催されます。こうした枠組みも活用し、今後もインドネシアを始めとするアジア諸国と連携しながら、中東諸国の民主化に向けた支援を続けて参ります。
(女性が輝く社会の実現)
ここで、冒頭述べましたグローバルな課題への取組の一つとして日本が力を入れている、「女性が輝く社会」の実現についてご紹介したいと思います。私は、民主主義の普及を支える力としての女性の更なる活躍が不可欠と考えます。日本は、(1)女性の社会進出を進め、その能力開発を行うこと、(2)女性を対象とした保健医療分野の取組に注力すること、(3)そして紛争下の女性の権利侵害の防止と権利の保護、この3つの柱を立て、今後3年間で30億ドルを超すODAの実施を表明しました。日本は、あらゆる分野で女性の力を育て、活かすことに焦点を当てた支援を強力に推進し、今後も、日本国内でも、また、紛争や貧困に直面する国々においても、女性がますます輝く社会を作り上げていきたいと考えています。
4.結語
この意義あるフォーラムが今後も更に発展していくためには、参加国の協力が不可欠です。日本は、2009年以来、公正な選挙がアジアで根付くよう、各国の選挙実施に携わる方々を日本に招待し、民主主義や日本の選挙制度について研修を行う「選挙訪問プログラム」を実施してきました。同プログラムの継続を含め、今後も本フォーラムの益々の発展のために、助力を惜しまない考えです。
日本として、今後もアジアを始め世界各国の民主化を更に後押ししていくべく、ASEANや地域の各国の皆様と力を合わせて、貢献していく決意をここに改めて申し上げて、私のスピーチを締めくくりたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。