アジア
第6回日・SAARCエネルギーシンポジウム
「SAARC地域における商業的に実施可能なエネルギー網」
(概要)
平成25年3月10日
3月6日(水曜日)及び7日(木曜日),ネパールの首都カトマンズにおいて,当省及び南アジア地域協力連合(SAARC)事務局の共催による第6回日・SAARCシンポジウムがネパール電力公社により開催されたところ,概要は以下のとおり。会合には,SAARC7カ国(都合によりパキスタンからは参加できず。)に加え,日本及びADBが参加した。
1.経緯
2005年11月の第13回SAARC首脳会議においてSAARCへのオブザーバー参加が認められたことを機に,我が国は2006年に第1回,2008年に第2回,2010年に第3回,2011年に第4回、2012年に第5回シンポジウムを開催した。第6回シンポジウムでは,SAARC地域における国際電力取引を含めたエネルギー網の構築について,(1)技術的観点,(2)インフラの観点,(3)政策的,法的観点,(4)経済的観点の4つのセッションにおいて課題抽出を中心とした議論が行われ,提言がまとめられた。
2.講演の内容
1.開会挨拶
(1)ヤダブ・ネパール電力公社総裁より,ネパールは電力を水力発電に依存しており,潜在的に開発可能な包蔵水力も大きいが,一方乾期には河川流量の現象に起因する発電能力の低下とそれに伴う長時間の停電が問題となっており,電力の輸出,輸入の両面から国境をまたぐ送電網の構築が必要であると述べた。
(2)高橋在ネパール日本大使より,SAARC各国のエネルギー事情は深刻であるが,個別に見ると各国でエネルギー源及び需要・供給のピークは異なっており,域内ネットワークを構築する事により,エネルギー源の多様化,変動する電力需給へのよりよい対応が可能となるだろうと述べた。
(3)セネビラトナ・在ネパール・スリランカ大使より,スリランカでは火力発電の燃料費として年間約29億ドルを支出しており,燃料代の高騰によるインフレが問題となっている,増え続ける電力需要を全て賄うだけの資源は国内にはなく,域内からの電力輸入は有力な選択肢であると述べた。
(4)マズンダール・在ネパール・インド臨時代理大使より,インドはすでにブータン,ネパールとエネルギー融通を始めており,バングラデシュ,スリランカとも送電網を建設中であると述べた。
(5)イスマイル・SAARC事務局課長より,現在のSAARC地域におけるエネルギー網は,安全性,継続性,適正価格での供給という面で不十分であると述べた。
(6)遠藤南西アジア課地域調整官より,日本はSAARC各国に対して安定的な電力供給の観点からこれまで円借款等を活用した支援を実施してきている,また,今回のシンポジウムはSAARC域内のエネルギー網構築のための具体的かつ実行可能な計画策定のため,今後のさらなる議論の土台を作ることを目的としていると述べた。
(7)コイララ・ネパール・エネルギー省次官より,南アジアはエネルギー資源が豊富であるにもかかわらず電力不足に悩んでいる。これは逆に考えればビジネスチャンスであり,大きな電力市場が存在するという事でもある。将来的に,競争的な取引環境の整備,域内での発電・送電インフラの統合等を実現するためにすべきことを考えていきたいと述べた。
(8)ポーデル・ネパール政府官房長官より,エネルギーは経済にとって不可欠な問題であり,世界人口の1/5を占めるSAARC地域のエネルギーをどのように賄うかは重要な課題である,SAARC域内でのエネルギー融通については,すでにいろいろな取組が始まっているが,より活発化するために何が足りないのか,本シンポジウムで明らかになることを期待すると述べた。
2.各セッション
(1)事前セッション
須藤帝京平成大学教授より,SAARC各国,特にインドにおける電力不足を改善するために,(1)インド国内における原子力および石炭火力発電所の開発,(2)SAARC域内でのエネルギー融通,(3)中央アジア,中東等SAARC域外からのエネルギー輸入の3つの方向性が考えられると述べた。
(2)セッション1:「技術的観点から見た問題点の抽出」
直流・交流,電圧,周波数の同期の問題,送電ロスの少ない送電方法,異なる送電システムをつなげた場合の影響等について,テクニカルな議論が行われた。
(3)セッション2:「インフラの観点から見た問題点の抽出」
各国において発電能力が十分でなく,輸出する余裕がないこと,送電設備も完成済みはインド-ブータン,インド-ネパール間のみであり,容量も十分でない事が最大の課題であるとの指摘がなされた。同時に,オフピーク時の余剰電力についてはやりとりする余地があること,また送電設備についてもスリランカ-インド,バングラデシュ-インド間で建設中であり,アフガニスタン-中央アジア間もすでに存在するなど,SAARC域内のみならず域外とのエネルギーのやりとりの可能性も含め,ポジティブな議論がなされた。
(4)セッション3:「政策的、法的観点から見た問題点の抽出」
電力が各国政府により規制された商品であるため,市場取引になじまない商品となっている,規制や法律,ガイドラインは投資家と消費者の権利保護のバランス,安全で信頼性のある電力供給の観点から必要なものであり,開発許可,電気料金,設備運営等の面において設けられているとの指摘がなされた。また,国内法における電力輸出に関する状況はネパール及びブータンにしか存在せず,また国際取引は包括的な合意ではなくプロジェクトごとの契約に基づき実施されているのが現状であることなどの課題が抽出された。
(5)セッション4:「経済的観点から見た問題点の抽出」
SAARC域内での電力融通を行う経済的合理性として,投資の最適化,余剰電力の販売機会,環境負荷の低減,電源の多様化によるリスクヘッジ等が挙げられた。また売買電の際の価格形成の方法等についても議論がなされた。一部の国はカントリーリスクが高いため,発送電インフラ整備にあたりODA以外でのプロジェクトファイナンスが困難であることが課題として挙げられた。
(6)総括
各セッションの報告者よりセッションごとの概要が報告された。
3.提言
以上の議論を踏まえ,同シンポジウム参加者は,SAARC域内におけるエネルギー網の構築促進にあたり取り組むべき課題として,以下を主要点とした提言を採択した。
(1)域内における発電・送電能力の強化。
(2)域内各国の電力関連法や規制に電力の国際取引に関する条項を導入。
(3)直流・交流,電圧,周波数等の域内における調和。
(4)円滑な国際的電力取引のための支払い保証メカニズム等,商業的なアレンジの確立。
(5)域内における電力取引の成功のための送電網への自由なアクセスの許可。
(6)現在行われている二国間のみならず,第三国を経由した多国間でエネルギー取引を行う場合のメカニズムの確立。
- 提言全文(英語)(PDF)
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