中南米
南米南部共同市場(メルコスール)
(MERCOSUR:Mercado Común del Sur/MERCOSUL:Mercado Comum do Sul)
南米南部共同市場(メルコスール)とは
1 設立年月日
- 1991年3月26日
- アスンシオン条約署名
- 1994年末までに域内関税の撤廃を目的としたメルコスールを発足させることで合意
- 1991年11月29日
- アスンシオン条約発効
- 1994年12月17日
- オウロ・プレット議定書調印(メルコスールの機構を制定)
- 1995年1月1日
- 関税同盟として発足
2 加盟国
- (1)加盟国:アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ(注)(全6か国、域内人口約2億7,200万人(2022年世銀)、域内GDP合計約2.7兆ドル(2022年世銀)(数値はベネズエラを除く加盟国合計))
- (注)2016年12月アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイの外相がベネズエラの加盟資格停止を通知。
- (2)準加盟国:チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルー、スリナム(全6か国)
3 目的・原則
- (1)域内の関税及び非関税障壁の撤廃等による財、サービス、生産要素の自由な流通
- (2)対外共通関税の創設、共通貿易政策の採択及び地域的・国際的な経済・貿易面での協調
- (3)マクロ経済政策の協調及び対外貿易、農業、工業、財政・金融、外国為替・資本、サービス、税関、交通・通信などのセクター別経済政策の協調
- (4)統合過程強化のための関連分野における法制度の調和
4 主な内容
(1)域内関税の原則撤廃
1995年1月より域内関税は原則として撤廃され、現在、自動車、自動車部品及び砂糖を除き、域内関税は原則ゼロ。ただし、国ごとに保護品目が認められている。
(2)対外共通関税
- 1995年1月から全品目の約85%に当たる品目(約9千品目)につき対外共通関税率(0~20%)を適用。ただし、例外品目(基礎品目100品目+資本財、情報通信関連品目(例:ブラジルの自動車・部品、砂糖、繊維等))が認められたほか、関税収入の公平な分配等の問題が残っている。
- 例外品目とは別に、2011年12月20日の共同市場理事会(CMC)において、各国が国際経済情勢を理由に100品目を上限として関税を引き上げることを認める合意がなされた。
- 2012年6月29日の共同市場理事会(CMC)において、例外品目における基礎品目の上限は200品目とする合意がなされた。
(3)原産地証明
域内貿易において、メルコスール原産とみなされる(域内関税が適用される)ための現地調達率は原則60%。
(4)紛争処理手続
当初、1991年のブラジリア議定書により共同市場理事会(CMC)での仲裁手続が設けられたが、その後2004年1月に発効した「オリーボス議定書」により、同年8月、常設仲裁裁判所が設置された。
(5)民主主義条項
1998年7月に署名された「民主主義遵守に関するウスアイア議定書」には、メルコスール諸国及びメルコスールと協定を結んだ国において民主主義の秩序が失われた場合は、協定上の権利及び義務の中断も可能とする民主主義条項が定められている。
(6)ラテンアメリカ統合連合(ALADI)との関係
メルコスールはラテンアメリカ統合連合(ALADI)を通じたラ米地域の経済統合に向けた取組の一部と位置付けられる。メルコスールがALADI加盟国と締結する経済補完協定(ACE)は、ALADIの統合プロセスを進めるための一手段である域内部分協定(域内の一部の国のみが参加する協定)の一種として扱われる。
5 機構
- (1)共同市場理事会(CMC):最高機関(加盟国の外務大臣、経済大臣で構成。半年に一度、首脳会合とともに開催)
- (2)共同市場グループ(GMC):執行機関(加盟国の外務省、経済省、中央銀行の代表で構成)
- (3)貿易委員会(CCM):1995年12月に設置された関税同盟全体の実施・運営機関
- (4)事務局:モンテビデオ(ウルグアイ)
- (5)議会:2006年12月発足。本部はモンテビデオ。
- (6)議長国:半年ごとに交代。2017年7月21日からブラジル(アルファベット順で交替)。
6 日本との関係
(1)日・メルコスール高級事務レベル協議
1996年の橋本総理の中南米訪問時の提案により、同年10月に第1回日・メルコスール高級事務レベル協議が開催(於:サンパウロ)され、その後計7回の協議が実施されてきた(第7回協議は2006年にブエノスアイレスにて開催)。
(2)日・メルコスールFTA/EPA
民間(日本経団連、日伯経済委員会、ブラジル全国工業連盟、伯日経済委員会、日本商工会議所及び日亜経済委員会等)から日・メルコスールEPAに関する政府間の検討開始を求める報告書が提出されている。
(3)メルコスールとの経済協力
2005年1月から2010年1月まで、「メルコスール域内産品流通のための包装技術向上計画調査」(開発調査)、「観光振興セミナー」(地域特設研修)、「観光振興プロジェクト」(技術協力プロジェクト)及びメルコスール広域技術協力のための計画管理研修(国別研修)を実施。
(4)日・メルコスール経済関係緊密化のための対話
2011年6月、アスンシオンで開催された第41回メルコスール首脳会合に我が国が初めて招待され、松本外務大臣(当時)が出席。スピーチの中で、成長戦略の柱の一つである経済連携の推進の重要性を表明するとともに、日・メルコスール間の経済関係緊密化の可能性を探る場として、日・メルコスール経済対話の立ち上げを提案し、2012年11月にブラジルアで第1回日・メルコスール経済関係緊密化のための対話を開催。その後、2015年7月に第2回、2016年5月に第3回、2017年5月に第4回、2024年4月に第5回の対話を実施。
(5)松本外務大臣の第41回メルコスール首脳会合出席
7 域外との関係
共同市場理事会(CMC)決議(CMC決議32/00号)により、2001年6月以降、第三国又は域外ブロックとの通商協定交渉は、加盟国単独ではなく、メルコスールとして共同で行うこととされている。
(1)米州域内
ア アンデス共同体(CAN)
- 1996年12月にボリビア、2003年8月にペルー、2004年10月にコロンビア、エクアドル、ベネズエラとそれぞれ経済補完協定に署名。
- 2004年12月の第3回南米サミットで決定された南米共同体(CSN)の創設に向けて、メルコスールとCANが協力していくことで一致。2005年6月の第28回メルコスール首脳会合では、メルコスールとCANの各加盟国が相互に準加盟国として乗り入れることが決定された。
(注:南米共同体(CSN)は2007年「南米諸国連合」(UNASUR)と改称)。
イ その他の域内国
- チリ、メキシコ、キューバと経済補完協定を締結。
ウ 米州自由貿易地域(FTAA)
- 1994年12月の第1回米州サミットにおいて、北米、南米及びカリブ(キューバを除く)の34か国がFTAAの創設に取り組むことで一致。
- 2005年1月までに協定交渉を完了の上、同年中に発効させることを目指していたが、包括的な協定を目指す米国(ただし、農業補助金やアンチダンピング等の非関税障壁を含めることには消極的)とサービス・投資・知的所有権等を含めることに消極的なブラジルの両議長国間で意見の相違があり、2005年11月の第4回米州サミットにおいてメルコスール4か国とベネズエラが交渉再開に反対。FTAA交渉は実質上中断に追いこまれた。FTAAの9つの交渉委員会は2004年以降一度も会合が開かれていない。
(2)EU
- 1995年12月、メルコスール・EU首脳会合(於:マドリッド)において、連携協定交渉の準備を目的とする地域間協力枠組協定に署名(1999年7月発効)。
(注)連携協定:政治対話、持続可能な開発のための経済・社会協力及びFTAを柱とする。 - 2000年4月交渉開始。当初は非関税分野について交渉が行われ、2001年7月(第5回交渉)以降、関税やサービス分野についても交渉が開始された。
- その後、2004年に関税引き下げ交渉を巡る意見の対立により交渉が中断。2005年に交渉再開するも、2006年以降交渉は再度中断。
- 2010年交渉を再開し、2015年5月に物品貿易、サービス・投資、政府調達のオファー交換を実施。現在交渉中。
(3)その他の国・地域
- 南部アフリカ関税同盟(SACU)と特恵関税協定署名(メルコスール側2008年、SACU側2009年署名)。現在、同協定の拡大交渉中。
- インドと特恵関税協定(2004年署名、2009年発効)。現在、同協定の拡大交渉中。
- イスラエル(2007年署名、2009年発効)、エジプト(2010年署名、2017年8月発効予定)、パレスチナ(2011年署名、未発効)とFTA。
- EFTA:2017年6月にFTA交渉開始。
- 韓国:2017年2月、第2回予備的対話を実施。
- 中国:2012年6月、温家宝首相がアルゼンチンを訪問した際、同首相よりFTA締結を提案。メルコスールは同月の首脳会合において、中国との間で政府代表者間会合開催等を内容とする共同宣言を発表。同年11月に上海で両者間の対話が行われたがその後主立った進展はない。
- カナダ:2012年予備的対話を完了。その後、同対話の結果の見直し協議を実施。
- 太平洋同盟:既存の経済補完協定の深化・拡大のための交渉を実施中。2017年4月にメルコスールと太平洋同盟の合同閣僚会合を開催し、関係強化に向けたロードマップを策定。
- ASEAN、オーストラリア・ニュージーランド経済緊密化協定(CER)とも対話を進めている。