アジア
最近のインドネシア情勢と日・インドネシア関係
1 インドネシアの特徴
(1)国土
面積約189.08万平方キロメートル(日本の約5倍)。約13,500の島々からなる世界最大の島嶼国家。東西約5,110キロメートル(米国の東西両海岸間の距離に匹敵)、南北約1,888キロメートル(赤道を挟む)に及ぶ。
(2)人口、種族
約2.55億人(2015年)。中国、インド、米国に次いで世界第4位の人口。大半がマレー系(ジャワ、スンダ等約300種族に大別される)。総人口の約6割が、全国土面積の約7%に過ぎないジャワ島に集中している。
(3)宗教
イスラム教約87.2%、キリスト教約9.8%、ヒンズー教1.6%ほか(宗教省(2016年))。世界最大のイスラム人口を有するが、イスラム教は国教ではない。公的に認められた6つの宗教(イスラム教、キリスト教(カトリック・プロテスタント)、ヒンズー教、仏教、儒教)いずれかへの信仰が必要。
(4)国家政体
共和制の下、34州から構成。国家元首は大統領(大統領は、国家元首であると共に行政府の長でもある)。現大統領は、ジョコ・ウィドド大統領(2019年再選。第2期政権は2019年~2024年)。
議会は、国会(DPR)(立法機能、国家予算作成機能、政府に対する監視機能)、及び地方代表議会(DPD)(地方自治等に関する法案の提言、審議への参加)がある。また、国会議員(575人)と地方代表議会議員(136人)で構成される国民協議会(憲法の制定及び改正、大統領・副大統領の任期中の解任)がある。
2 最近の内政・社会動向
ジョコ大統領は、非政治エリートとして2014年10月20日に大統領に就任し、インフラ整備、社会保障拡充、格差是正等の経済・社会政策を優先し、国民に分かりやすく方針を示し、迅速かつ目に見える成果を求める新しいスタイルを志向した。
国政での経験がなく、かつ少数与党という厳しい状況での政権立ち上げであったが、徐々に体制を強化。与党勢力が国会の3分の2以上となることを確保するとともに、4度の内閣改造を経て政治基盤は安定化。
2019年4月に正副大統領選挙・総選挙が実施され、ジョコ大統領が再選された。2019年10月に始動した第2期ジョコ政権では、大統領選の対抗馬であったプラボウォ・グリンドラ党首を国防大臣として閣内に取り込み、政権基盤の安定化を図った。第2期ジョコ政権では、人材育成や、インフラ開発、経済規制緩和を優先事項とし、インドネシア建国100年を迎える2045年の先進国入りを目指している。
3 最近の経済動向
- (1)インドネシア経済は、世界金融・経済危機の影響を受けた2009年も比較的高い4.6%の伸び率を達成し、その後も一貫して5~6%の堅調な経済成長を維持。近年の経済成長率は、2017年は5.1%、2018年は5.17%、2019年は5.02%。
- (2)失業率は、2006年には10%を超えていたが、近年は5~6%前後(2020年8月には、5.28%)(中央統計局統計)。ただし、毎年250万人が新規に労働市場に参入すると試算されており、それを吸収する雇用を創出するためには年率6%以上の経済成長が必要との指摘もある。
- (3)2019年の外国直接投資(実現ベース)は前年比7.7%増の423.1兆ルピアに達した。国内投資も前年比17.6%増の386.5兆ルピアに達し、ともに過去最高を記録。
4 治安情勢
1 概況
- (1)インドネシアでは、2016年1月にジャカルタ中心部においてテロ事件が発生し、外国人1人を含む4人が死亡(犯人4人も死亡)する事件が発生した他、2018年5月13日~14日にかけて、東ジャワ州スラバヤ・シドアルジョの5カ所でテロ事件が発生し、25人(うち実行犯13人)が死亡するなど、イスラム過激派組織ISIL(イラクとレバントのイスラム国)の指示や影響を受けていると見られる事件が発生している。
- (2)こうした近年のテロ事件における、テロリストの主たる標的は警察官及び警察関連施設であり、外国権益を主たる標的としたと見られるテロは発生していない。
- (3)また、イラクやシリアに渡航し、ISIL等のイスラム過激派組織に参加しているインドネシア人が相当数に上ると指摘されており、今後、イラクやシリアで戦闘技術等を身に付けた者がインドネシアに帰国することで、治安上の脅威が高まることも懸念されている。
- (4)中部スラウェシ州ポソ及びパプア州中央部山岳地帯
2012年以降、中部スラウェシ州ポソにおいては、小規模なテロが発生しており、警察部隊等に対する襲撃が散発。ポソを拠点とするテロリストに対する警察当局の取締りも実施されている。また、パプア州中央部の山岳地帯においては、パプアの分離独立を標榜する組織とみられる武装集団による警察・国軍への襲撃が散発している。
5 地方情勢(パプア問題)
- (1)インドネシア独立(1945年)後も、西イリアンの帰属をめぐってオランダとインドネシアの間で対立が続く。現地では、インドネシアへの帰属を拒否し、独立を目指す住民が「自由パプア組織(OPM)」を結成し、60年代~70年代にかけて独立運動を展開。
- (2)1962年に国連での米国主導の調停を経て、西イリアンの行政権はオランダからインドネシアに移譲され、1969年の「住民代表」による投票の結果、同11月、インドネシアへの帰属が確定。1973年、西イリアンは、イリアン・ジャヤ州へ改称。
- (3)1999年10月、イリアン・ジャヤ州を3分割する「パプア分割法」が成立。その後、イリアン・ジャヤ州議会をはじめ反対意見が強まり、政府(ワヒッド政権)は同法の施行を無期延期とした。
- (4)2002年1月、パプア州特別自治法が施行される。州名が「イリアン・ジャヤ州」から「パプア州」に変更。上記(ハ)のパプア分割法との関係を巡って混乱が生じた。
- (5)2003年1月、メガワティ大統領(当時)は、無期延期とされていた「パプア分割法」の実施促進を指示する大統領令を発出。パプア州分割の有効性に関する議論が再燃。同年2月、「西イリアン・ジャヤ州」の発足式が平穏に開催された一方で、8月、「中部イリアン・ジャヤ州」の発足に際し、分割賛成派及び反対派の住民の衝突が発生し、政府はパプア分割法の実施を延期。
- (6)2004年4月5日、西イリアン・ジャヤ州とパプア州(未分割の中部イリアン・ジャヤ州を含む)において総選挙が実施され、両州の州議会議員及び4名ずつの地方代表議会(DPD)議員が選出された。同年11月、パプア州政府が憲法裁判所に訴えていた西イリアン・ジャヤ州の合法性につき、同裁判所はパプア分割法を違憲とする一方、既に州政府等の統治体制が整っていることから、西イリアン・ジャヤ州についてはその存在を認めるという判決を下した。2007年4月、西イリアン・ジャヤ州の名称が「西パプア州」に変更。
- (7)パプア州及び西パプア州における分離独立を求める声は依然として続いており、プンチャック・ジャヤ県及びミミカ県周辺ではOPM(パプア分離独立運動グループ)と見られる武装集団が治安当局等を襲撃する事案が散発的に発生している。
- (8)2013年1月にパプア州知事選が行われ、同4月、元民主党パプア支部長のルカス・エネンベ氏が知事に、元パプア州ミミカ県知事のクレメン・ティナル氏が副知事にそれぞれ就任した。州内では、依然として、パプア州プンチャック・ジャヤ県やミミカ県を中心に銃撃事件が発生している。
- (9)2014年12月に、西パプアの独立を目指す西パプア統一自由運動(ULMNP)が結成。メラネシア先鋒グループ(MSG)への正式加盟と、西パプア独立を目指した運動が引き続き行われている。
- (10)2019年8月16日に、東ジャワ州スラバヤ市でパプア人学生に対して人種差別的な言動や暴行行為が行われたとされる事件が発生したことを受けて、8月19日以降、パプア州及び西パプア州において断続的にデモが実施され、一部地域では暴動に発展した。報道ベースでは、9月23日に、パプア州ジャヤプラ市(州都)及びジャヤウィジャヤ県ワメナ市においてデモが発生したが、ワメナ市においてはデモ隊と治安部隊の間で大規模な衝突に発展し、治安部隊員を含めて約30人が死亡、約70人が負傷、5,000人近くの住民が避難した。
6 日・インドネシア関係
(1)政治
- ア 2006年11月、ユドヨノ大統領訪日時、「平和で繁栄する未来へ向けての戦略的パートナーシップ」に安倍総理(当時)と署名。地域及び世界の平和と安定のために協力することで一致した。
- イ 2014年11月、APEC首脳会議が行われた中国・北京において、安倍総理とジョコ大統領との間で初の首脳会談を行い、ジョコ新政権下でも両国間の関係を一層強化していくことで一致した。
- ウ 2015年3月、安倍総理は、大統領として初めて訪日したジョコ大統領と会談を行い、会談終了後、共同記者発表において、「日本・インドネシア共同声明-海洋と民主主義に支えられた戦略的パートナーシップの更なる強化に向けて-」を発出した。
- エ 2015年12月、岸田外務大臣及び中谷防衛大臣は、訪日中のルトノ外務大臣及びリャミザルド国防大臣との間で、日本とインドネシア及び日本とASEAN加盟国との間で初となる外務・防衛閣僚会合を開催し、海洋安全保障分野における協力やテロ対策等について議論し、両国の安全保障・防衛協力の強化及び地域の平和と安全へ貢献していくことで一致した。
- オ 2016年12月、岸田外務大臣と訪日中のルフット海洋担当調整大臣との間で、海洋フォーラム立ち上げのための覚書への署名が行われ、海洋分野において両国の協力を推進していくことで一致した。
- カ 2017年1月、安倍総理はインドネシアを訪問し、ジョコ大統領と首脳会談を行い、戦略的パートナーシップの強化に関する日本・インドネシア共同声明を発出した。
- キ 2018年は日本インドネシア国交樹立60周年にあたり、各種の記念事業が実施された。また、同年1月に二階自由民主党幹事長(日本・インドネシア国会議員連盟会長)が総理特使として同60周年記念開会式典出席等のためにインドネシアを訪問したのを皮切りに、年間を通じて両国要人の相互往来が活発化した。
- ク ジョコ政権発足後、電話会談を含めて、首脳会談は13回実施されている。2019年11月、安倍総理はASEAN関連首脳会談に出席するため訪問中のタイ・バンコクにおいて、ジョコ大統領と会談し、ジョコ政権二期目の4つの優先課題のうちインフラ整備と人材育成での協力やインドネシアにおける戦没者遺骨収集事業再開に向けた協力等につき一致した。
- ケ ジョコ政権発足後、電話会談を含めて、外相会談は11回実施されている。2020年1月にインドネシアを訪問した茂木外務大臣は、ルトノ外務大臣との間で日・インドネシア閣僚級戦略対話を行い、「自由で開かれたアジア太平洋(FOIP)」とインドネシアが主導した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」のシナジー強化のための具体的な協力を進めることで一致したほか、インフラ整備や人材育成等の分野での協力を強化することを確認し、これらの分野を含めた二国間の協力案件を総覧する枠組みを立ち上げることに一致した。
- コ 2020年4月の日インドネシア電話首脳会談において、安倍総理とジョコ大統領は新型コロナウイルス対策のために緊密に協力していくことを確認した。
(2)経済
ア 貿易
- (ア)非石油・ガス部門だけでも、インドネシアにとって日本は輸出入の両面で最大の貿易国の一つであり、経済連携協定(EPA)も発効済み(下記ウ参照)。2019年のインドネシアの対日輸出は1兆9,799億円で国別輸出総額第3位、対日輸入は1兆5,243億円(財務省貿易統計)で第2位であり、日本の大幅な輸入超。
- (イ)日本のインドネシアからの主な輸入品は、金属鉱及びくず、天然ガス及び製造ガス、石炭・コークス及びれん炭、石油及び同製品、電気機器、衣類及び同付属品、木製品及びコルク製品(除家具)。他方、日本からインドネシアへの主な輸出品は、一般機械、輸送用機器、電気機器、プラスチック、化学製品、鉄鋼。
- (ウ)インドネシアは日本にとって重要なエネルギー供給国。
(注)日本のエネルギー輸入に占めるインドネシアの割合(2018年財務省貿易統計)
石炭:11.4%(第2位)、液化天然ガス:5.9%(第5位) - (エ)インドネシアは、中東の石油、豪州の食料品などの産品を日本に運ぶ重要なルートに位置しており、日本の輸入石油の約9割がマラッカ海峡を通過している。
イ 投資
- (ア)日本からインドネシアへの民間直接投資については、2019年は実現ベースで43億ドルで、第3位であった。(投資調整庁)
- (イ)インドネシアにおける日系企業は2,000社近くに上る。
ウ 日インドネシア経済連携協定(EPA)
日インドネシアEPAについては、2005年6月のユドヨノ大統領訪日の際に正式交渉立上げを決定。2007年8月の安倍総理(当時)のインドネシア訪問時に首脳間で署名、2008年7月1日に発効。これまでに鉄鋼及び自動車等の貿易額増に寄与している。また、本EPAにより、2019年3月までに174名の看護師候補生と470名の介護福祉士候補者が日本の国家試験に合格。日本の病院や介護施設等に勤務している。
(3)経済協力
日本は長年に亘りインドネシアに対する最大の政府開発援助(ODA)供与国。2018年の援助実績は、有償資金協力700.21億円、無償資金協力29.80億円(以上、交換公文ベース)、技術協力54.39億円(JICA経費実績ベース)。(参照:在インドネシア日本国大使館ホームページ)