I.前文
- 2012年11月10日,東京において「中央アジア+日本」対話第4回外相会合が開催され,玄葉光一郎日本国外務大臣,イドリソフ・カザフスタン共和国外務大臣,アブディルダエフ・キルギス共和国外務大臣,ザリフィ・タジキスタン共和国外務大臣,メレドフ・トルクメニスタン副首相兼外務大臣及びノロフ・ウズベキスタン共和国第一外務次官(以下「各国代表」という。)が出席した。
- 各国代表は,中央アジア地域の平和と安定が地域及び国際社会全体にとって重要であるとの認識を共有した。中央アジア諸国は,独立以来,体制移行期の困難を然るべく乗り越えて着実に発展しており,各国代表は,地政学的位置,豊富な天然資源,更にはアフガニスタンを含む地域全体の安定に果たす役割から,国際社会におけるこの地域のプレゼンスが着実に増大していることを指摘した。この関連で,各国代表は,地域の安定及び持続可能な発展を確保するため,共通の課題に取り組んでいく重要性を改めて確認した。
- 各国代表は,日本と中央アジア諸国との外交関係樹立20周年を祝賀し,その間,日・中央アジア間の協力が,政治,経済並びに科学,教育及び人的交流を含む文化・人文分野において飛躍的に発展してきたことを満足の意とともに指摘した。各国代表は,諸国間のパートナーシップを一層高いレベルに引き上げ,地域内外における協力を強化していく意思を表明した。
II.国造りの進展及び中央アジア諸国と日本との協力
- 各国代表は,1991年の中央アジア諸国の独立以来,これら諸国の努力により,民主化と市場経済化に向けた国造りが大きな進展を遂げていることを強調した。この関連で,日本は,二国間及び本件対話の枠組を通じて,中央アジア諸国において国造りを引き続き支援していく意思を表明した。
- 各国代表は,これまで日本政府が中央アジア諸国に対し35億ドル以上の政府開発援助(ODA)を実施して経済社会基盤の整備や地域住民の生活水準向上を推進してきたことに加え5,000人以上の研修員,800人以上の留学生受入れ,1,600人以上の専門家・青年海外協力隊員の派遣等を通じて技能の高い専門家の育成に取り組んできたことに謝意を表明した。これに関し,中央アジア側各国代表は,国際協力機構(JICA)の中央アジア地域における活発な活動を高く評価した。
- 各国代表は,これまで日本が実施してきた中央アジア諸国におけるインフラの整備が,各国の経済発展のみならず中央アジアに規模の大きな市場を形成する上で多大な貢献をしてきたことを指摘した。この関連で,日本側は域内の物流促進及び域外との貿易・経済関係の強化に資する運輸・物流インフラ整備を引き続き支援していく意向を表明した。
III.「中央アジア+日本」対話
- 各国代表は,「多様性の尊重」,「競争と協調」及び「開かれた協力」という本件対話の基本方針の堅持を確認した。この関連で,各国代表は,「中央アジア+日本」の枠組の下,中央アジア諸国が地域協力を促進する用意があること,また,そうした中央アジア諸国間の協力を日本がパートナーとして支援していくことを改めて指摘した。
- 各国代表は,日本と中央アジア諸国が,例年開催されている高級事務レベル会合に加えて,「知的対話」,「専門家会合」,「外務省間交流」等の対話の機会を定期的に設けることで枠組の更なる発展を目指す意図を表明した。
- 各国代表は,この対話に国連,世銀等の国際機関・組織を招待する等,対話パートナーの必要に応じた拡大につき意見の一致を見た。
IV.今後の協力の優先的方向性
- 各国代表は,これまで「中央アジア+日本」対話の成果及び地域協力の経験等を踏まえ,以下の分野における協力を互恵的な形で強化していくとの認識で一致した。日本側は,これらの分野での地域協力を支援するため,総額7億ドル規模の事業を行うことを表明した。
- 各国代表は,貿易・経済関係において良好な条件を創り出すことを通じて中央アジア地域全体を一つの市場として整備するとともに,域外市場との連繋強化を図っていくことが,貿易・投資を活性化する上で重要であるとの認識を共有した。
- 各国代表は,2011年7月,東京で開催された,日・中央アジア諸国間の貿易・投資関係活発化を課題とする「日本・中央アジア経済フォーラム」の結果を高く評価するとともに,中央アジア諸国から,化学・石油化学工業,製薬業,繊維工業,農業,更には,自動車・医療機器・精密機器・建材等の製造業の分野における協力を発展させる目的で,日本企業誘致の要望があることを改めて確認した。
- 各国代表は,中央アジアに日本企業が進出し,活発に活動を展開していることを歓迎するとともに,中央アジア諸国における貿易・投資環境の改善が引き続き必要であるとの認識の下,より一層取組を強化するとの意見で一致を見た。各国代表は,エネルギー・鉱物資源開発と非採掘部門の高付加価値製造の分野における日本企業の中央アジア諸国におけるプレゼンスを強化するため,日本の政府関係及び民間機関,企業による技術支援,投融資の形で供与される資金支援及び貿易保険を積極的に活用するとの認識で一致した。
- 各国代表は「知的対話」の枠内で行われてきた中央アジア諸国及び日本の学界の会合の結果を高く評価し,貿易・投資促進における地域協力の役割をテーマとする次回会合の開催に係る日本の提案を歓迎した。
- 各国代表は,環境・気候変動問題は,国際的な問題であり,一致団結した取組が求められているとの認識を共有し,日本が有する環境保護の技術・ノウハウを中央アジア地域で活用していくとの認識で一致した。日本側は,引き続きこの分野で協力していく用意がある旨表明した。
- 各国代表は,気候変動対策に取り組む上でも,省エネ技術及び代替エネルギー源の導入・開発が不可欠との認識を共有し,この分野での協力を推進することで一致を見た。中央アジア諸国は,技術革新の活用や低炭素型発展プロジェクトの技術(省エネ技術の導入,代替エネルギー源の開発,クリーン開発メカニズムによるプロジェクト)に係る日本の経験を学び導入することが重要である旨表明した。
- 各国代表は,包摂的,衡平且つ持続可能な成長を確保するため,特に保健・医療及び教育の分野において,ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた取組を強化していくことの重要性を再確認した。
- 各国代表は,2012年9月の第66回国連総会において,日本の主導により「人間の安全保障の共通理解」に関する国連総会決議がコンセンサス採択されたことを高く評価するとともに,持続可能な成長とMDGsを含む国際的な開発目標の実現に向け,人間の安全保障を促進する取組を強化することを改めて確認した。
- 中央アジア諸国代表は,日本がこれまで実施してきた累計1,000以上の医療,教育等の施設の改修及び建設,機材供与,世界基金を通じた三大感染症対策支援等の支援が,保健及び教育分野の発展に大きく寄与してきたことを高く評価した。日本側は,中央アジア側に対し,こうした支援を引き続き行っていく用意がある旨表明した。
- また,各国代表は,地方開発,小規模ビジネス振興等を通じた農村開発に係る協力を更に促進する意思を表明した。
- 各国代表は,2012年7月のアフガニスタンに関する東京会合の成果を踏まえ,今後のアフガニスタンの持続可能な経済・社会発展に必要な条件を創り出し,そのような発展を後押ししていくことが重要であるとの認識で一致した。
- 中央アジア側は,アフガニスタンの周辺国に対し総額約10億ドル規模の事業を行うとの日本側の表明を高く評価しつつ,中央アジアからアフガニスタンを縦断しパキスタンに至る回廊の整備に関する日本の支援に対する期待を表明した。日本側は,カザフスタン,キルギス,タジキスタン及びトルクメニスタンによる人材育成,ウズベキスタンによるハイラトン-マザリシャリフ間の鉄道支線敷設,トルクメニスタンによるエネルギー・輸送プロジェクト等,中央アジア諸国がアフガニスタンの安定化に向けた支援を実施していること,また,ドゥシャンベでの第5回アフガニスタン地域協力会議(RECCA V)及び2013年4月にカザフスタンで予定されているイスタンブール・プロセスの枠内でのアフガニスタンに関する閣僚級会合の開催の重要性を強調した。
各国代表は,アフガニスタン情勢の更なる安定化及び同国の経済復興に共に取り組んでいく必要があるとの認識で一致した。 - 各国代表は,中央アジアにおけるテロ・麻薬等の流入の脅威が依然として高いことを指摘しつつ,中央アジア地域諸国の国境管理能力を強化していくことが不可欠との認識で改めて一致した。これに関し,中央アジア諸国は,この分野で,日本が実施している検査機材の供与,国境管理システムの整備,税関研修等の支援を高く評価するとともに,更なる協力強化への期待を表明した。これに対し,日本側より引き続きこの分野の支援に取り組んでいくとの意向が表明された。
- 日本側は,東日本大震災に際して中央アジア諸国から示された連帯に対し改めて深い謝意を表明するとともに,震災から得られた知見と教訓を国際社会と共有し,国際社会において災害に強い強靭な社会の構築を支援していくとの決意を改めて強調した。
- 各国代表は,2012年7月の世界防災閣僚会議in東北の開催を指摘し,日本が防災における国際協力を推進していることを高く評価した。各国代表は,日本の現代的防災技術を中央アジアで活用していくことが重要との認識の下,この分野で経験の交換を行うことが必要との認識で一致した。この関連で日本側は,国連開発計画(UNDP)と連携し,災害リスク軽減のための地域協力の強化を目的とする支援を近く実施する意向を表明した。
V.国際場裡における協力
- 各国代表は,21世紀の国際社会が直面する様々な脅威に効果的に対処するためには,国連システムを改革することが喫緊の課題であり,就中,平和と安全の維持において主要な役割を担う安保理を改革するために協力する必要性を強調するとともに,安保理改革の核心は,常任・非常任双方の議席数の拡大にあることを確認した。カザフスタン,キルギス,タジキスタン及びウズベキスタンは,日本の常任理事国入り及び非常任理事国選挙の立候補に対して支持を表明した。これに対し,日本側は,非常任理事国としての安保理での作業への参加に係る地域諸国の意欲に留意し,安保理を始めとする国連諸機関における中央アジア諸国との協力を一層強化していくことを表明した。
- 各国代表は,国際的な原子力安全の強化に貢献するため,12月に原子力安全に関する福島閣僚会議を開催するとの日本のイニシアティブを評価した。各国代表は,国際的な核軍縮・不拡散の理念へのコミットメントを再確認するとともに,中央アジア地域における核セキュリティ向上のための協力が進んでいることを歓迎した。各国代表は,核兵器国による中央アジア非核兵器地帯条約の消極的安全保証議定書への署名について議論するため,核兵器国を含む関係国間の協議が可能な限り早期に行われることへの期待を表明した。
- 各国代表は,テロ,人身売買,麻薬・武器の不法取引,マネーロンダリング等の脅威に対し共同で取り組む有用性を確認し,国連を含む多国間の枠組での協力を促進することの重要性を表明した。また,各国代表は,金融活動作業部会(FATF)並びにユーラシア地域グループ(EAG)における中央アジア諸国の取組を歓迎した。
- 各国代表は,2011年,南アフリカ・ダーバンで開催された国連気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)において,将来の枠組に関する法的文書を作成するための新しいプロセスである「ダーバン・プラットフォーム特別作業部会」を立ち上げたことは重要な成果であることを確認した。また,本年,カタール・ドーハで開催されるCOP18で,この新しいプロセスを軌道に乗せ,全ての国が参加する公平且つ実効性のある新たな国際枠組の構築に向けて各国が連携することが重要であるとの意見で一致を見た。
- 各国代表は,中央アジア諸国が法の支配,民主化,市場経済化及び基本的人権の尊重に向けた取り組みを行う必要性があるとの認識で一致した。日本側は,中央アジア側のこうした分野における努力を引き続き支援していく用意があることを表明した。
VI.結語
- 各国代表は,「中央アジア+日本」対話第5回外相会合を自国において開催するとのキルギスの意向を歓迎し,同会合開催に向けた準備のため高級実務者会合を適切な時期にキルギスが主催することを確認した。各国代表は,「中央アジア+日本」対話の全体像を示すため,ウェブ・サイトを開設するとのキルギスの時宜を得た提案を歓迎した。
2012年11月10日,東京にて署名された。
- 玄葉 光一郎
日本国外務大臣 - エルラン・アブディルダエフ
キルギス共和国外務大臣 - エルラン・イドリソフ
カザフスタン共和国外務大臣 - ハムラーハン・ザリフィ
タジキスタン共和国外務大臣 - ラシード・メレドフ
トルクメニスタン副首相兼外務大臣 - ウラジーミル・ノロフ
ウズベキスタン共和国第一外務次官