欧州連合(EU)
EUにおける通貨統合
令和2年6月29日
1 通貨統合の歴史
欧州において単一通貨を導入しようとする構想は,古くは第二次世界大戦前から存在したが,具体的に動き出したのは,1989年に欧州共同体(EC=後の欧州連合EU)がEMUの完成へ向けて,以下の具体的なロードマップを定めた以降である。
第1段階(1990年7月-1993年12月):域内市場統合の促進
- 人,物,サービスの移動の自由化
- 中央銀行総裁会議(EC各国の中央銀行総裁の集まり)の機能強化
第2段階(1994年1月-1998年12月):マクロ経済政策の協調強化
- 経済収斂基準の達成(ユーロに参加する条件として各国が物価安定性,健全な財政等,定められた基準を達成する)
- 欧州通貨機構(EMI)の創設
1998年5月に第3段階当初からの参加国を決定
第3段階(1999年1月から):経済通貨統合の完成
- 単一通貨ユーロの導入
- 欧州中央銀行(ECB)による統一金融政策の実施
2002年1月よりユーロ貨幣の流通開始
2 ユーロの導入
- (1)銀行間取引など非現金取引を対象に,単一通貨ユーロは1999年1月1日から導入された。同時に欧州中央銀行による統一的金融政策が開始され,ユーロ圏各国は独自に金融政策を行う権限を失った。この時からユーロに参加したのはドイツ,フランス,イタリア,スペイン,ポルトガル,アイルランド,オーストリア,フィンランド,ベルギー,オランダ,ルクセンブルグの11か国であり,経済収斂基準の達成が間に合わなかったギリシャは2001年1月から遅れてユーロに参加した。一方,これら以外のEU加盟国(英国,デンマーク,スウェーデン)は,国内世論の支持が得られなかったこと等によりユーロへの参加を見送った。
- (2)2002年1月1日よりユーロ参加国内において,ユーロ貨幣の流通開始。
3 ユーロ非参加国のユーロ導入の展望
- (1)EC条約においては,EU加盟国は,基本的にEMU(経済通貨同盟)に参加し,単一通貨ユーロを導入することが想定されている。但し,EC条約第122条に適用除外規定(オプト・アウト)が認められており,デンマークは適用除外が認められている。また,一定の経済収斂基準(注)を満たしていないブルガリア,クロアチア,チェコ,ハンガリー,ポーランド,ルーマニア及びスウェーデンの7か国は,「Member States with a derogation」(ユーロ非参加国)として,条約の規定の一部及び欧州中央銀行制度(ESCB)の権利義務の一部の適用を除外されている。
- (2)これら諸国がユーロを導入するためには,物価安定性・健全な財政・為替安定・長期金利の安定性といった経済収斂基準を満たす必要がある。このうち為替安定に関しては,欧州通貨制度(EMS)の為替相場メカニズム(ERM II)への参加が法的に要請されており,ユーロに対する自国通貨の標準変動幅を2年間,上下15%の範囲とする必要がある。
- (注)経済収斂基準
- ア 物価安定性:過去1年間,消費者物価上昇率が,消費者物価上昇率の最も低い3か国の平均値を1.5%超上回らないこと。
- イ 健全な財政:過剰財政赤字状態でないこと。(財政赤字GDP比3%以下,債務残高GDP比60%以下)
- ウ 為替安定:少なくとも2年間,欧州通貨制度(European Stability Mechanism : ESM)の為替相場メカニズム(European Rate Mechanism:ERM II)に深刻な緊張状態を与えることなく参加し,ユーロに対して自国通貨の切り下げを行わないこと。
- エ 長期金利の安定性:過去1年間,長期金利が消費者物価上昇率の最も低い3か国の平均値を2%超上回らないこと。 このほか,市場統合性や国際収支の状況等も考慮される。
- (3)ユーロ非参加国の7か国は,総じて可能な限り早期のユーロ導入を望んでいるが,財政赤字やインフレ率といった経済収斂基準を満たすには相当な期間を要すると見られる国もある。
- (4)ユーロ非参加国のユーロ導入の見通し
国名 | ユーロ導入目標年(政府方針) |
---|---|
ルーマニア | 2024年 |
チェコ | 未定 |
ハンガリー | 未定 |
ブルガリア | 未定 |
ポーランド | 未定(但し,ユーロ導入は政府の最優先課題の1つとされている。) |
クロアチア | 未定 |
スウェーデン | 未定 |
(出典:欧州委員会)