ASEAN(東南アジア諸国連合)

概況

令和元年10月7日

一般事情

1 ASEAN(Association of Southeast Asian Nations、東南アジア諸国連合)の概要

 1967年の「バンコク宣言」によって設立された東南アジア10か国による地域共同体。原加盟国はインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、シンガポールの5か国。1984年のブルネイの加盟後、加盟国が順次増加し、現在は10か国で構成されている。

 2015年に共同体となったASEANは、近年、高い経済成長を見せており、世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が世界各国から注目されている。

2 加盟国

10か国:(アルファベット順)
ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム

3 総面積(10か国)

449万平方キロメートル(日本の約12倍)

4 総人口(10か国)(出典:世銀、2018)

6億5千万人(日本の約5倍)

5 ASEAN共同体

 1990年代に生じたアジアの政治経済構造の変化の中で、1992年にASEANはASEAN自由貿易協定(AFTA)を締結するなど域内経済協力の強化に取り組み、2003年には「第2ASEAN協和宣言」を発出し、ASEAN共同体を構築することを宣言した。2007年には、民主主義、人権、法の支配、紛争の平和的解決、内政不干渉等のASEAN諸原則を再確認し、ASEAN共同体の構築に向けてASEANの機構の強化、意思決定過程の明確化を目的とする「ASEAN憲章」を採択した(2008年12月発効)。その後、2015年11月の首脳会議において、ASEANは、「政治・安全保障共同体」、「経済共同体」、「社会・文化共同体」から成る「ASEAN共同体」の構築を宣言し、更なるASEANの統合を深めるべく、「ASEAN共同体ビジョン2025」及び3つ共同体それぞれのブループリント(2016~2025)を採択した(共同体の発足は2015年末)。

 今後は、ASEAN事務局の強化をはじめ、ASEANの機構としての作業効率・効果の向上等を通じ、ASEAN関連業務の調整を促進し、国・地域・国際社会レベルのASEANの組織的プレゼンスを向上させることが課題となる。

6 略史

年月 略史
1961年 マラヤ連邦(現マレーシア)、フィリピン、タイによる東南アジア連合(ASA)発足
1963年 インドネシア、マレーシア、フィリピンによるマフィリンド(Maphilindo)発足(ただし、同年中に解消)
1967年 ASEAN設立(バンコク宣言)。原加盟国:インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ
1976年 第1回ASEAN首脳会議開催(バリ)。東南アジア友好協力条約(TAC)、ASEAN共和宣言を採択。ASEAN事務局設立(ジャカルタ)。
1984年 ブルネイ加盟
1995年 ベトナム加盟
1997年 ラオス、ミャンマー加盟
1999年 カンボジア加盟
2008年 ASEAN憲章発効
2015年 ASEAN共同体設立
2017年 ASEAN設立50周年

主要機関

1 ASEAN首脳会議(最高政策決定機関)

 ASEANの意思決定は定期的に開催される加盟国の首脳が集まる首脳会議において行われる(近年は年2回開催)。議長国は各国の持ち回り(基本的には国名のアルファベット順であるものの例外も多数あり。)であり2019年の議長国はタイ。ASEANの意思決定の基本は協議を通じた全会一致方式でありEUと異なり加盟国から独立し政策決定に実質的に関与する機関や組織は存在しない。またASEANはEUのように国家主権の一部委譲通貨統合共通の外交・安全保障・防衛政策実施を目指すものではない。

2 ASEAN事務総長・ASEAN事務局

 ASEAN事務総長はASEAN各国のアルファベット順により輩出されASEAN首脳会議において任命される任期5年(再任不可)の閣僚級ポスト。現職はブルネイ出身のリム・ジョクホイ(H.E. Mr. Lim Jock Hoi)事務総長(任期:2018~2022年)。

 ASEAN事務局は1976年2月にジャカルタ(インドネシア)に設立(現在の本部には1981年に移転。)。主要業務はASEAN関連条約プロジェクト等の実施促進及び進捗管理各種年次報告書の作成ASEAN関連会議への参加関連文書の管理対外広報等。経済規模の格差にかかわらず運営予算はASEAN10か国が均等拠出しており(ASEAN憲章の規定に基づく)2017年の予算規模は約1,900万米ドル(1か国当たり約190万米ドル)。2018年1月現在の職員数は約340名でありASEAN各国出身の職員が勤務している。

3 常駐代表委員会(CPR)

 2008年に発効したASEAN憲章に基づきASEAN加盟国はジャカルタに駐在する大使級の常駐代表(Permanent Representative)を任命。同常駐代表は常駐代表委員会(CPR:Committee of Permanent Representatives)を構成し概ね隔週のペースでASEAN事務局において会合を開催している。

 CPRの任務はASEAN憲章(第12条)に規定がありASEAN共同体理事会及びASEAN分野別大臣機構の任務を支援(ASEAN首脳会議に提出する報告書や勧告の作成支援等)ASEAN国家事務局及びその他ASEAN分野別大臣機構と連携(各加盟国に設置されたASEAN国家事務局との連絡チャネルとしての機能等)外部のパートナーとのASEAN協力を促進(ASEANと域外国との協力基金(日ASEAN統合基金(JAIF)等)によるプロジェクトの検討・承認等)等を担っている。

(図1)常駐代表委員会(CPR)

経済

1 経済概況

 ASEANは名目GDPがこの10年間で2倍以上になるなど成長著しい地域である。各国の実質GDP成長率は2010年以降、安定的な成長を維持しており、ASEAN10か国の2018年の実質GDP成長率も5.2%となり、2015年以降約5%の成長率を維持している。

2 名目GDP(10か国)(出典:World BankWorld Development Indicators database

約3兆米ドル(2018年)(日本の約60%)

3 一人当たりGDP(10か国平均)(出典:World BankWorld Development Indicators database

4,540米ドル(2018年)(日本の約11%)

4 実質GDP成長率(10か国)(出典:ASEANstats)

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
6.2% 5.2% 4.7% 4.7% 4.8% 5.3% 5.2%

5 貿易総額(10か国)(出典:ASEANstats, 2019年6月時点)

(1)輸出(ASEAN域内含む)
1兆4,255億米ドル(2018年)
(2)輸入(ASEAN域内含む)
1兆3,753億米ドル(2018年)

6 主要貿易相手国(2016年)(出典:IMF、Direction of Trade Statistics

(1)輸出
ASEAN域内(24.2%)、中国(14.0%)、米国(11.3%)、EU(11.3%)、日本(8.0%)
(2)輸入
ASEAN域内(21.7%)、中国(20.5%)、EU(9.0%)、日本(8.6%)、米国(7.8%)

7 対内直接投資(10か国)(出典:ASEANstats)(10億米ドル)

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
23.9 18.5 22.2 20.8 25.7 25.5 24.5

日・ASEAN関係

1 外交関係

1973年
合成ゴムに関する日本とASEANの閣僚級会合を契機に、日・ASEAN関係が開始。
1977年
初の日・ASEAN首脳会議開催。「福田ドクトリン」を表明(下記2参照)。
1981年
日本アセアンセンター(東京)開設(下記2参照)。
2003年
日・ASEAN関係が「戦略的パートナーシップ」に。
2008年
日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定発効。
2010年
ジャカルタ常駐のASEAN大使を任命。
2011年
ASEAN日本政府代表部開設(ジャカルタ)。
日・ASEAN首脳会議において、日・ASEAN共同宣言(バリ宣言)及び行動計画を採択。
2013年
安倍総理が「対ASEAN外交5原則」を発表(下記2参照)。
日・ASEAN友好協力ビジョン・ステートメント(PDF)別ウィンドウで開く」及び同実施計画(PDF)別ウィンドウで開くを採択。地域・地球規模課題に関する日・ASEAN共同声明(PDF)別ウィンドウで開くを発出。
2017年
日・ASEAN友好協力ビジョン・ステートメント実施計画改訂版 (PDF)別ウィンドウで開くを採択。
2018年
日・ASEAN友好協力45周年記念・第21回日ASEAN首脳会議共同声明(仮訳(PDF)別ウィンドウで開く英文(PDF)別ウィンドウで開く)を採択。

2 日・ASEAN協力

 日本とASEANは、1973年の合成ゴムをめぐる対話以来、過去45年にわたり、アジア太平洋地域の平和と安定、発展と繁栄のために、緊密な協力関係を築いている。1977年には、福田赳夫総理(当時)がフィリピンを訪問し、(1)日本は軍事大国にならない、(2)ASEANと「心と心の触れあう」関係を構築する、(3)日本とASEANは対等なパートナーである、という対東南アジア3原則(「福田ドクトリン」)を発表した。さらに、同年には、初の日・ASEAN首脳会議がクアラルンプールで、翌1978年には日・ASEAN外相会議が開催され、その後定例化されている。こうした関係が日・ASEAN友好関係の礎となり、日本はASEANにとって最も重要な対話国の一つとなっている。

 2006年、ASEAN共同体設立を目指し、域内格差是正を中心に統合を進めるASEANの努力を支援するために、日・ASEAN統合基金(JAIF)が設置された。日本は、同基金に対し、これまで総額6億5,000万米ドル超を拠出し、防災、テロ対策、経済統合、青少年交流、日本語訓練等様々な分野における事業を支援してきている。

 日・ASEAN友好協力40周年に当たる2013年1月、安倍総理は、対ASEAN外交5原則を発表した。

(注)対ASEAN外交5原則

  • (1)自由、民主主義、基本的人権等の普遍的価値の定着及び拡大に向けて、ASEAN諸国と共に努力していく。
  • (2)「力」でなく「法」が支配する、自由で開かれた海洋は「公共財」であり、これをASEAN諸国と共に全力で守る。米国のアジア重視を歓迎する。
  • (3)様々な経済連携のネットワークを通じて、モノ、カネ、ヒト、サービスなど貿易及び投資の流れを一層進め、日本経済の再生につなげ、ASEAN諸国と共に繁栄する。
  • (4)アジアの多様な文化、伝統を共に守り、育てていく。
  • (5)未来を担う若い世代の交流を更に活発に行い、相互理解を促進する。

 同年12月に東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議において、安倍総理とASEAN10か国の首脳が、「日・ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント(PDF)別ウィンドウで開く」及びその「実施計画(PDF)別ウィンドウで開く」(注:2017年8月には実施計画改訂版 (PDF)別ウィンドウで開くが採択された。)を採択し、日本とASEANは「平和と安定のためのパートナー」、「繁栄のためのパートナー」、「より良い暮らしのためのパートナー」及び「心と心のパートナー」の4つのパートナーを柱として協力を進めていくことを表明した。

(1)平和と安定のためのパートナー(政治・安全保障)

 アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化する中、地域と世界の平和、安全及び安定の維持のためには、日本とASEANが地域の多国間枠組みを活用しつつ、協力を深めていくことが不可欠である。この地域では、ASEAN+3、東アジア首脳会議(EAS)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)、ASEAN地域フォーラム(ARF)等、ASEANを中心とした協力枠組みが多層的に発達しており、それぞれの特性に応じた協力を行っている。日本は、2005年に発足したEASを特に重視し、地域にとって戦略的に重要な政治・安全保障問題に関する首脳間対話と協力の場として活用している。また、ADMMプラスやARFにおける実務的な協力を通じ、相互の信頼醸成を促進している。

 日本とASEANは、「開かれ安定した海洋」の重要性に鑑み、海洋における国際法の遵守や、紛争の平和的解決へのコミットメントを確認している。2012年からは、日本の提案に基づきASEAN海洋フォーラム拡大会合(EAMF)も開催され、EAS参加国間で海洋協力について議論している。また、テロや国境を越える犯罪への対策に関する協力や、災害救援及び人道支援の分野における協力も推進している。

(2)繁栄のためのパートナー

 日本とASEANとの経済的な相互依存関係は、拡大・深化の一途を辿っている。国境を越えたヒト、モノ、カネ、情報の動きはますます活発化しており、2016年時点で日本はASEANにとって第4の貿易相手国となっている。ASEANにおける日系企業の事業所数は一万を越え、日本にとってASEANは東アジア地域で最大の投資先となるなど、日本とASEANはビジネスパートナーとして強固な協力関係を築いている。

 このような活発な経済交流をより一層円滑に進めるため、これまで日本とASEAN諸国は二国間の経済連携協定や投資協定、さらには日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定を締結し、貿易、投資のみならず、競争、知的財産、人の移動等幅広い分野での協力関係を構築している。また、2013年からは、日本とASEAN諸国、中国、インド、韓国、オーストラリア、ニュージーランドとの間で東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の交渉が開始されており、より広域の経済連携が模索されている。

 また、日本はこれまで一貫してASEAN共同体の構築、統合及び域内格差是正を支援しており、特に、共同体構築の中核たるASEAN連結性強化の取組については、官民を挙げた支援を進め、日・ASEAN経済関係を深めてきている。

 1981年に設立された日本アセアンセンター(正式名称:東南アジア諸国連合貿易投資観光促進センター/事務局:東京)も、設立以来、長年にわたり、ASEAN諸国から日本への輸出の促進、日本からASEAN諸国への直接投資の促進、日本からASEAN諸国への観光の促進を目的に事業を実施してきている。さらに、近年では、投資及び観光分野におけるASEAN諸国から日本への促進及び人物交流の促進事業も進めている。

(参考)

ア 日・ASEAN間の貿易(2018年、財務省・貿易統計)
(ア)貿易額
日本の輸出 12兆6,345億円(前年比 +6.4%)
日本の輸入 12兆3,991億円(前年比 +7.4%)
(イ)主要貿易品目(上位5品目)
日本の輸出 鉄鋼、半導体等電子部品、自動車の部分品、自動車、原動機
日本の輸入 液化天然ガス、衣類・同付属品、 絶縁電線・絶縁ケーブル、通信機、半導体等電子部品
イ 日・ASEAN間の直接投資(2018年、日本銀行)
(直接投資)
日本からASEAN 3兆2,906億円
ASEANから日本 1,169億円
(直接投資収益)
日本からASEAN 2兆4,729億円
ASEANから日本 3,854億円
(投資残高、2018年末時点)
日本からASEAN 25兆2,676億円
ASEANから日本 3兆32億円

(3)より良い暮らしのためのパートナー

 近年、ASEANは著しい経済成長を遂げているが、それに伴い、環境、都市化、保健・医療、高齢化、エネルギー問題、防災等様々な問題に直面している。日本は、同様の問題を克服しながら経済成長を遂げてきた経験があり、ASEANがより良い暮らしを実現していくために協力を行っている。例えば、省エネルギーや高効率石炭火力発電などのクリーン・エネルギーに関する知見は、日本がASEANの暮らしの向上に貢献できる分野である。また、世界第一位の健康寿命達成国である日本の知見を活かし、母子保健や感染症対策等の基礎的保健サービスの拡充、救急救命、高齢化や非感染性疾患等保健・医療分野での協力も進めている。さらに、女性の輝く社会の実現のため、女性の活躍推進・能力向上分野でも、ASEANとの協力を追求している。

(4)心と心のパートナー

 日本とASEANは長年にわたり文化面での交流を深めている。2013年12月に、東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議において、安倍総理は、「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト~知り合うアジア~」と題したアジア文化交流政策を発表した。このプロジェクトでは、2020年までに新しいアジア文化の創造を目指すべく、2014年4月に、国際交流基金内にアジアセンターが設立された。現在アジアセンターでは、芸術家・文化人の対話や協働を促進する芸術・文化の双方向交流事業や、各国の高校等に日本語教師のアシスタントや日本文化の紹介を行うパートナーを派遣する「日本語パートナーズ」の派遣事業を実施している。

 また、2007年に開始した「JENESYS事業」((注)JENESYS:Japan-East Asia Network of Exchange for Students and Youths)では、政治、経済、社会、文化、歴史、スポーツ等様々なテーマの下、日本とASEANの若者の交流を続けている。これまでにASEAN諸国からは3万人以上が日本を訪れ、日本からは2千人以上がASEAN諸国を訪れており、教育・研究機関、先端・伝統産業、文化遺産、地方自治体等で、関係者や同世代の若者との意見交換やワークショップへの参加、ホームステイ及び伝統文化の体験等を行っている。

 日越友好協力40周年の2013年及び45周年の2018年には日本とASEAN10か国の歌手が東京に集い日ASEAN音楽祭が開催された。また、2019年には、ASEAN-Japan Dayとして、シンポジウムや音楽祭を通じた大型交流イベントが実現した。

 これら事業を通じて、日本とASEANの未来を担う若者が相互理解と友情を深めてきた。未来を担う世代が交流し、各国との関係を強化することは、アジア太平洋地域の平和と安定に不可欠である。このような文化交流の事業を更に推進することによって、日本とASEANの絆が一層深まることが期待される。


ASEAN(東南アジア諸国連合)へ戻る