「外務省を知りたい」

平成24年度(2012年度)国際情勢講演会 開催報告

平成24年9月27日

―主催:日本国際連合協会福岡県本部―

  • (写真)平成24年度(2012年度)国際情勢講演会 福岡県 福岡市,北九州市(平成24年9月27日)-1
  • (写真)平成24年度(2012年度)国際情勢講演会 福岡県 福岡市,北九州市(平成24年9月27日)-2

 平成24年9月27日(木曜日)よみうりプラザ(福岡市),9月28日(金曜日)北九州国際会議場(北九州市)において,外務省アジア大洋州局大洋州課 寺澤地域調整官による国際情勢講演会が開催されました。

演題:「太平洋の島々と我が国との関係」

(講演要旨)

 太平洋島嶼国は太平洋上の14の国と地域で,それぞれの国・地域が大洋に点在する島だが,排他的経済水域をもっているので主権的権利が及ぶ面積は広大である。

 今年5月に第6回太平洋・島サミットが沖縄で開催された。17ケ国・地域の首脳等を招いた会議であり,東日本大震災後初の我が国主催の首脳級の国際会議であり,我が国の震災からの復興をアピールする意味も込められた。サミットの結果,「沖縄キズナ宣言」を採択し,震災の経験をふまえた防災協力,環境・気候変動のための再生可能エネルギーの導入に向けた協力,人間の安全保障の視点に立った持続可能な開発,人的交流の促進のための来日査証の緩和,海洋の問題で漁業協力,国連海洋法条約の重要性等を確認し,これらの協力を進めていくため,今後3年間で最大5億㌦の援助を行うべく最大限努力する旨表明した。太平洋・島サミットの意義は,太平洋島嶼国の我が国にとっての戦略的重要性として,(1)日本の委任統治時代から日系人の指導者も多い歴史的な絆を深めること,(2)国際社会における日本のパートナーとして,国連等国際場裏における支持を確保すること(例えば,我が国の国連安保理常任理事国入りを支持。),(3)資源として漁業,天然ガスや鉱物の持続可能な利用を確保すること,(4)太平洋島嶼国に対する中国の進出の拡大を日中の戦略的互恵関係の中で如何にとらえていくべきか議論すること,などを挙げることが出来る。

 今や国際情勢の変化が国民生活に直結する時代の中で,我が国の経済・社会活動が安定した国際環境の中で利益を享受できるよう,政府が諸外国・国際機関と協力し,外交によって紛争を平和的に解決し,紛争の種を未然に防ぐなどの役割を果たしていき,国際社会に貢献していく重要な外交ツールとなっているのがODAである。

 ODAの実績は,二国間援助(無償資金協力・技術協力・有償資金協力)と国際機関に対する拠出金からなり,政府の一般会計予算の全体の中では1978年~97年までは増額してきたが,その後減少している。平成24年度の政府予算の中でODAが占めるのは1%で平成9年の半分以下,諸外国との比較でも我が国は1995年から2000年までは世界1位の援助大国であったのが,現在は米,英,独,仏に次ぐ第5位,国連等の拠出金も2001年1位が現在6位と低迷している。援助の手法も米,英は無償資金協力が主体であるが,我が国は有償資金協力の割合が多い。2010年のODA予算額のうち太平洋島嶼国向けは1%,アジア向けは52%,アフリカ向けは15%である。現在,中国と台湾が外交関係を持つ太平洋島嶼国の数は拮抗しているが,資源の豊富なパプア・ニューギニアやフィジーは中国が重点的に援助を増大し,資源獲得に努めているほか,島嶼国からの留学生の受け入れ,軍艦による寄港訪問など海軍の行動範囲も拡大しており,国際場裡での支持獲得運動も活発化させている。米国も近年の中国の影響力の増大に注意を払っていることを表明し,これまでになく太平洋島嶼国への関与を深めている,

 太平洋島嶼国は,(1)国土が群小島からなり(狭小性,分散性),国内市場が狭く,(2)主要国際市場からも遠く(遠隔性),人員・物資の搬送には高コストがかかり,(3)自然災害や気候変動(地球温暖化による海面上昇)等の環境変化に弱いという脆弱性を抱えている。これにより産業振興が困難となり,生活や資本財のほぼ全量を輸入に依存せざるを得ない状況を生んでいる。過剰な輸入依存は,国民所得の多くを海外に流出させ,国内の貯蓄・資本の蓄積が伸びず,民間の投資を不振にし,これが生産力の低迷,産業不振をさらに悪化させるという悪循環を生んでいる。しかも,産業不振は,雇用の低迷による出稼ぎのための人材の海外流出,税収の低迷による財源不足と公共サービスの不振を招いている。輸入される物資は,ペットボトル,アルミ缶等の分解しにくい製品等であり,環境負荷が大きい。さらに,高カロリー・濃食塩の食品の輸入は,生活習慣病の原因となっている。過剰な輸入依存は,島嶼国の発展を阻害する要因となっている。

 我が国は,この悪循環を逆転させ,輸入を抑制するための地産地消型の農漁業をはじめとする産業振興,人間の安全保障に着目した支援,人材育成のための技術協力等,限られたODA予算の中で島嶼国の国作りに寄与し,島嶼国の悪循環を好循環に変え脆弱性を克服できるように支援している。 中国の支援は資金援助が中心であるが,我が国は,物的支援だけではなくJICAを通じて技術協力のための専門家やボランティア等を派遣し,人による貢献を活発に進め,島嶼国の国民から高い評価を受けている。

 今後,島嶼国は,我が国民間企業とのビジネス関係も促進しようとしている。島嶼国の経済規模に鑑みれば,我が国の大企業だけでなく,中小企業が活躍する分野も多いと考えられる。我が国の企業の96%が中小企業であることに鑑み,外務省は,関係省庁の協力を得て,ODAを活用した中小企業の海外展開支援も進めている。これは,途上国におけるビジネス環境整備を念頭においてODAを活用して官民連携で,環境エネルギーや廃棄物,水の浄化など様々な事業を島嶼国を含む途上国で展開してもらうことによってビジネスにつなげていく新たな取組みである。地域経済の主役である中小企業の皆様にもこの制度を活用して頂きたい。

質疑応答要領:
参加者の感想(抜粋):
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