平成23年9月30日
平成23年9月29日(木曜日)よみうりプラザ(福岡市),9月30日(金曜日)北九州国際会議場(北九州市)において,外務省欧州局中央アジア・コーカサス室池上室長による国際情勢講演会が開催されました。
中央アジアの5カ国は,1991年にソ連から独立。その後の20年間,日本はこれら5カ国の国造りを支援してきた。日本人にはあまりなじみのない地域であるが,現在周辺の大国やアフガニスタン情勢との関係もあって国際的な注目を浴びている。一口に中央アジアと言っても,5カ国の状況は非常に異なってきている。民族的にも多種多様であるし,経済的にも,石油・天然ガス・ウラン・レアアース・レアメタルなどの資源が豊富なカザフスタン,ウズベキスタン及びトルクメニスタンと資源の乏しいキルギス,タジキスタンとの差が非常に開いている。政治的には,多くの国で独立以来20年間政権交代がなく,権威主義的傾向が強いと言われる。まもなく大統領選挙が行われるキルギスが唯一の例外であり独立以来西側型の民主主義・市場経済を指向してきたが,2回の政変を経験してきた。域内5カ国間の関係も必ずしも単純ではなく,特に水資源問題をめぐる上流国(タジキスタン,キルギス)と下流国(ウズベキスタンなど)の対立はしばしば指摘されているところ。本日は,このような中央アジアと周辺主要国との関係を俯瞰した上で,日本との関係について論じたい。
ロシアとの関係:中央アジア5カ国はソ連から独立したという歴史的経緯があり,現在でもロシア語という共通の言語を有しており,ロシアとの関係は引き続き深い。ロシアの「裏庭」という言い方をされることもある。次期大統領に復帰すると宣言したプーチン露首相が旧ソ連圏の再統合という方向性を打ち上げていることからも明らかなとおり,ロシアとしては引き続き中央アジアへの影響力を維持・拡大しようという意図がある。豊富な天然資源を有するカザフスタンとは既に関税同盟を作っているし,特に政治・安全保障面での影響力は引き続き強固なものがある。
中国との関係:最近めざましいのが中央アジアへの中国の経済的進出である。中国も国内に少数民族問題を抱えていることもあり,中央アジアの政治的安定を重視しているが,同時に中央アジアの資源・市場に大きな関心を持っている。象徴的なのは,最近建設されたトルクメニスタンから上海まで続く天然ガス・パイプラインである。他にも,中央アジアの各国で資源開発等を進めると共に,特に中国と中央アジアを結ぶ道路・鉄道などの運輸インフラの整備に力を入れている。中央アジアとしても中国との経済関係の深化は避けて通れない道であり,中国の経済的進出を歓迎する声も強いが,同時に中国の影響力の過度の拡大を警戒する声も少なくない。
アフガニスタンとの関係:2014年までに米軍がアフガニスタンから撤退するとされている中,アフガニスタンをいかに安定させていくかは国際社会の最重要課題の一つ。中央アジアはまさにその鍵を握る地域である。軍事的にはアフガニスタンへの物資輸送のための中継基地がキルギスに置かれているし,アフガニスタンが今後安定化していくためには,アフガニスタン経済が中央アジアを含む周辺地域の経済に統合されていくことが不可欠である。現在米国が提案している「新シルクロード構想」もそういった視点から出されているもの。
日本との関係:日本にとっての中央アジアの重要性は,(1)ユーラシア大陸の中央という地政学的要衝にあるこの地域が独立した開かれた地域として維持されること,(2)アフガニスタン,テロ,麻薬といった喫緊の課題に取り組む上での鍵となる地域であること,(3)資源確保,という3点に集約できる。問題はこの地域内の5カ国自身が自発的に地域内協力を進めていく場がないこと。日本は,そのような観点から,2004年から「中央アジア+日本」対話を開始した。これは,地域内協力の主役はあくまで中央アジア5カ国としつつも,日本が地域内協力の「触媒」としての機能を果たそうとするもの。域外の経済大国であること,政治的に中立と見なされていること,現地の親日感情が強いこと,といった要素があるからこそ果たせる日本ならではの役割と言える。来年次回外相会合が予定されており,この地域の安定化のため,我が国として最大限の貢献を行っていく。