皆さん、こんにちは。御紹介いただきました横田洋三でございます。
今日は、町村外務大臣と語るタウンミーティングにコメンテーターとして参加する機会を与えられまして大変光栄に思います。
今大臣の方から、国連改革の必要性、特に国連の中心的な機関である安全保障理事会について、日本の立場から大変詳細にわたるお話しがありました。
私は、これまで国際法、国連研究というような分野を学問的に扱ってまいりまして、また、国連大学の学長顧問とか、それから国連の人権促進保護小委員会の委員というような立場で、どちらかというと日本を背負ってというよりは、国連としての仕事を進めるという立場でかかわってきた部分があります。そこで、国連改革、特に日本と国連とのかかわり、そういったことが国際的に見てどういうふうに見えるかということを話させていただきたいと思います。
今日の主役は町村大臣ですので、私のコメントは、ごく簡単に五点に絞ってお話させていただきたいと思います。
まず第一点ですが、国連は第二次大戦直後にできてもう60年。今大臣からお話しがあったとおりです。60年の間に色んなことがありましたが、多くの国々、人々が一致していることは、国連という機関の目的と、そこで守られている原則、これは60年たっても依然として今日の世界において有効である。こういう理解が一般的です。
どういうことかというと、国連をやめてもっと新しいものを作ろうというような動きは今のところ世界にはないということです。しかし他方で、60年前にできた機関、例えば安全保障理事会とか経済社会理事会、信託統治理事会といった機関のあり方、どういう国が理事国になるかとか、あるいは、そこでどういうことを議論するかという細かい点になりますと、やはり60年の間の変化に追いつかなくなってきており、やや時代遅れの感がある。この認識は日本に限らず世界の多くの国々が持っているところです。これが第一点です。
第二点は、とりわけ国連の中で重要な役割を果たしている安全保障理事会の状況が時代に合わなくなってきているということです。五つの常任理事国、イギリス、アメリカ、フランス、ロシア、中国、それぞれ重要な国ではありますけれども、60年前にこの五つの国が持っていた力は、実はその後の色々な国の発展によって相対的に小さくなってきています。むしろ日本とかドイツ、ブラジル、インド、こういったような国々が力をつけてきて、今ある五大国に匹敵する力を持ってきています。ところが、これらの国々はまだ安全保障理事会の常任理事国になっていませんので、どうしても安全保障理事会が何かやろうとしても、そのバックになる国々がかつてほどには強くなくなってきているという実態があります。これを国連のアナン事務総長のもとに作られたハイレベル委員会、先ほど大臣が触れられましたが、昨年の暮れに報告書が出されまして、そこでもはっきりと指摘されていまして、安全保障理事会は今日、効率性、有効性、代表制の点で問題があるといわれております。この点を高めませんと、安保理の決定が実行に移されないという状況が今後ますます続くようになるということになるわけです。この認識も国際社会で広く共有されているところです。
第三番目に、それでは安全保障理事会をどういうふうに改革していくのかということですが、今の15の理事国を増やして、大体20~25の範囲に増やさざるをえないということでは、多くの国々の意見が一致していますが、それを20にするのか、21にするのか、あるいは24にするのか、25にするのか。この辺は、まだはっきりとした傾向は見られません。ただ、全体としては24という数字がわりあい多くの国々の支持を受けているようで、ハイレベル委員会の報告書も24を基準にA案とB案二つを出しているという状況です。
ハイレベル委員会のA案のほうは、六つの新しい常任理事国を増やすとしています。ただし、これはこれまでの五大国とは違って、拒否権のない六つの常任理事国という提案になっています。この六つの国がどういう国になるかということは、報告書そのものははっきりとは書いていませんが、分担金等の経済的な貢献度、それからPKOなどに人的・物的協力をしているかという、軍事的な協力ということ。そして第三に、いろいろな物事の決定に積極的に参加して世界をリードしていける外交的な力があるか。こういったようなことを考慮して決めるべきであるという選択の基準を提案しております。大体頭に置かれているのは、日本、ドイツ、それにインド、ブラジルあたりも念頭に置かれているのかなという感じがします。あと、アフリカからは二つ出てくることを想定しているようですが、まだその二つがどの国かということははっきりとは分かりませんが、大方の一致するところは、南アフリカ、ナイジェリア、エジプトのうちの二つではないかといわれています。
この第三番目の私のコメントとの関係で申し上げますと、今議論されていることは日本一国が常任理事国になるという案ではありません。今議論されているのは、日本を含めていくつかの国が常任理事国になるということです。どの国がなるかということになりますと、例えば今インドという名前を挙げましたが、インドが入るということになると、パキスタンは面白くない。それからブラジルという名前を挙げまたしたが、ブラジルがなるとすると、メキシコとかアルゼンチンとかラテンアメリカの有力国もあまり好意的になれない。また、ドイツは問題がないかというと、そうでもなくて、やはりイタリアやスペインが必ずしもいい気持ちがしない。その辺で、日本だけではなくて、あと四つないし五つの新しい常任理事国を作るということになりますと、それぞれに賛成、反対が分かれてしまいまして、パッケージとして出てきたときに、果たして必要な3分の2の支持が得られるかどうかという問題があるということです。
日本では報道機関でも、日本の安全保障常任理事国入りという議論になりますけれども、実は国連の場では、日本を含めた五つないし六つの常任理事国のパッケージで出ますので、日本だけが努力しても必ずしも通るとは限らない。そういうところにこの問題の難しさがあります。
第四点ですが、日本との関係でよく議論されますのは、安保理の常任理事国になると軍事的な貢献をしなければいけなくなって、憲法改正とつながるのではないかということです。そしてそれは絶対に認められないという議論が日本にはあります。
私の専門の立場から申しますと、現在の日本国憲法の規定の枠の中で、日本は国連の安保理の常任理事国になっても十分に責任を果たしうる状況にあるということだけは申し上げることができます。
国連改革、これは憲章改正に結びつきますが、これと日本国憲法をどう調和させるか。今憲法改正の話が出ていますが、それは、私どもの専門の立場から見ますと、直接結びつくものではなくて、国連改革、憲法改正、それぞれに必要があって議論されているということです。
最後に第五点として、先ほどの大臣のお話にもありましたが、日本は分担金の面でも国連に大きな貢献をしています。それから、国連の平和活動についても人的・物的協力をしています。また、津波のような自然災害に対しても非常に大きな貢献をしております。スマトラ島沖・インド洋沿岸津波については、私は、その直後にジュネーブにまいりましたが、非常に多くの人から、日本政府がいち早く5億ドルを出すということで、これが最初に出てきたものですから、ほかの国もそれに引きずられて自分の国もこれだけ出すというふうになりまして、日本が言ってくれたおかげで非常に多くの国々が協力するようになったと言って感謝されました。実はこういうことはあまり日本で報道されないものですから、現場で見ている立場からしますと、日本の協力に対しては非常に高い評価があるということを感じますので、お伝えしておいたほうがいいだろうと思います。
ところで、そういう点での協力は国際的に評価されておりますが、もう一つ国連の中で非常に重要な役割を果たしています事務局の中に、日本人職員が少ないと言う問題があります。日本は分担金、それから人口の面でも1億2000万ということで、世界の国の中では比較的大きな国なのです。ところが、そういう分担金とか人口に比例して決められた望ましい国連職員の数というのがありまして、これは現在大体230から250ぐらいなのですが、日本人職員は現実にはその半分にもいっていません。120を超えるということはない状況なのです。本当は日本は、第二次大戦後の目覚しい経済発展を見ても分かりますように、日本人の能力やいろいろな活動に貢献しようという意欲は実証済みで、世界でも評価されているのです。ところが、現実に国連のような場でその力を発揮してくれる日本人がどれだけいるかということになると、実は望ましい数の半分以下という状況です。わたしの立場からしますと、もっと国連職員に、日本の、特に若い人たちがどんどん入っていって、その面でも大きく貢献するようになってほしいと思います。
わたしのコメントは一応ここで止めさせていただきます。どうもありがとうございました。