寄稿・インタビュー
茂木外務大臣による現地紙寄稿(南アフリカ)
「日本と南アフリカ、自由で開かれた未来を共に拓く」
(頭語)
日本の外務大臣の茂木敏充です。外務大臣として6年ぶりに、5月4日から5日にかけて、南アフリカを訪問します。2020年の訪問時には、南アフリカの持つ多様性、ダイナミズム、雄大な自然に心を強く動かされました。今回の訪問では、これまで両国が積み重ねてきた友好の歴史を振り返るとともに、その絆を更に深め、未来に向けて、南アフリカと共に新たな一歩を踏み出す機会としたいと考えています。
そうした思いから、本日は二つの点を申し上げたいと思います。第一に、本年、提唱から10年を迎える「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の理念と、それに基づく今後の日アフリカ関係の方向性です。そして第二に、日本とアフリカが共に育ててきたアフリカ開発会議(TICAD)を中心とした、日本とアフリカ、そして日本と南アフリカの「共創」の未来についてです。
(本文)
日本は、100年以上前の1910年にケープタウンに名誉領事を設置し、以来、長年にわたり南アフリカとの間で友好関係を育んできました。今や、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有する両国は、二国間関係にとどまらず、国際社会の諸課題についても率直に意見を交わしながら協力を積み重ねています。一世紀を超える歩みの中で育まれてきたのは、単なる協力関係ではなく、共通の課題に向き合い、その解決に向けて力を尽くしていく「信頼関係」であると、私は信じています。
そして今、その「信頼関係」は、これまで以上に重要な意味を帯びています。世界は今、大きな構造的変化の中にあります。我々が長い時間をかけて築き、守ってきた国際秩序が、世界の様々な場所でかつてない挑戦にさらされています。日本とアフリカが、改めて手と手を取り合い、歩みを進めることがより重要になっています。こうした中で、欠かすことのできない明確なビジョンが、2016年、初めてアフリカで開催されたアフリカ開発会議(TICAD)6において、安倍晋三元総理が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」です。-倍元総理は、「両大陸をつなぐ海を、平和な、ルールの支配する海とするため、アフリカの皆様と一緒に働きたい。それが日本の願いです。」と訴えました。FOIPは、アジアとアフリカ、太平洋とインド洋という「二つの大陸」と「二つの大洋」を、未来の国際社会の平和と繁栄の鍵として位置付け、この地域において自由で開かれた国際秩序を構築していくとの日本の覚悟を示したものです。
FOIPを提唱してから10年が経ち、私たちは、地政学的な競争の激化、経済安全保障の重要性の増加、AI・デジタルなどの加速度的な技術革新とその覇権争いといった、新たな時代の現実に直面しています。「自由」、「開放性」、「多様性」、「包摂性」、「法の支配」といったFOIPが掲げる中核的理念の重要性は揺るぎません。同時に、こうした厳しい国際情勢のもとでFOIPを実現していくためには、各国が経済、社会、安全保障等の分野で「自律した、強靱な」存在となることが必要です。日本が、信頼できる対等なパートナーとして、そのための尽力をしていきたいと思います。この考え方に基づき、日本はFOIPを「進化」させ、アフリカとの連携を一層強化していきます。
自由で開かれ、安定した海洋を願う心は、日本だけではなく、南アフリカの皆様と深く響き合うものだと信じています。1995年、故ネルソン・マンデラ大統領は、「歴史と地理が導く自然な流れの中で、インド洋沿岸圏という協力構想が広がっていくべきだ。」と語りました。そこにあったのは、海は、国と国を隔てるものではなく、人と人、地域と地域を結び、平和と繁栄をもたらす空間であるとの発想であり、その精神は、環インド洋連合(IORA)へと受け継がれました。この思想は、日本のFOIPと共鳴するものです。海洋の平和と安定は、世界の繁栄を支える上で欠かすことができません。
中東情勢の悪化は、ホルムズ海峡のみならず、南アフリカの喜望峰ルートを含むシーレーンが、エネルギーの安定供給を含め、世界経済と人々の暮らしを支えていることを改めて浮き彫りにしました。日本は海洋秩序を守るため、今後もインド太平洋地域に対し、海上法執行能力の向上、人材育成、海賊・テロ対策を含む能力構築支援を進め、この海の安定を確かなものとするために貢献していきます。
アフリカと課題を共有し、解決策を共に生み出すための中核的なプラットフォームとして、TICADがあります。1993年に始まったTICADは、アフリカのオーナーシップと国際的なパートナーシップを基本理念に、30年以上にわたり続いてきました。ラマポーザ南アフリカ大統領には2019年のTICAD7、そして昨年のTICAD9にも参加いただきました。このことは、日本と南アフリカが、長年にわたり対話と協力を重ねながら、未来をともに切り拓いてきたことを象徴しています。日本は、急速に変化する国際情勢と、進化を続けるアフリカの現実を踏まえ、TICADを時代に即した形へと不断に「進化」させ、アフリカ、ひいてはグローバルな課題の解決策を「共創」すべく、アフリカと共に歩みを進めていきます。
アフリカは、次なる世界の成長センターとして国際的な注目を集め、日本の民間セクターからの関心も着実に高まっています。アフリカの成長と、日本のイノベーションや技術、資本が交わることで、単独では生み出し得ない新たな価値と持続的成長の好循環が生まれると、私は確信しています。
この確信は、日本と南アフリカが積み重ねてきた協力の実績に支えられています。例えば、昨年11月に南アフリカが主催したG20サミットに先駆け、両国は脱炭素に関する協力覚書(MoC)を作成しました。現在、これを踏まえ、官民連携の下、ガス火力サプライチェーンの構築、水素・アンモニアの活用、自動車のリサイクル法制度整備などの取組が進められています。日本は、南アフリカのエネルギー部門の改革のために円借款を供与する方針であるほか、グリーン・インフラ整備を促進し、持続的な経済発展に寄与するために、南部アフリカ開発銀行に対して日本の民間企業とともに協調融資を行っています。
これらに限らず、日本は南アフリカの持続的な発展に寄与する取組を積み重ねており、今後もエネルギーや重要鉱物を始めとする分野において、具体的な協力を進めていきます。
(結語)
私は、日本と南アフリカが、長年にわたり培ってきた信頼関係の上に立ち、連携をさらに深めることで、インド太平洋とアフリカ、そして国際社会全体に、より安定した、持続的可能な未来をもたらすことができると、強く確信しています。そして、今回の訪問が、その新たな一歩となることを心から願っています。経済や人的交流を始めとする幅広い分野で、両国の結びつきを一層豊かなものとするために、私自身、力を尽くしていきます。


