寄稿・インタビュー

令和7年10月26日

 マレーシアのASEAN関連首脳会議開催を心よりお祝い申し上げます。総理大臣就任後、初の外国訪問先としてマレーシアを訪れ、ASEAN関連首脳会議に参加することを大変嬉しく思います。

 本年は、ASEAN共同体発足10周年、ASEAN共同体ビジョン2045の発出、東アジアサミット(EAS)発足20周年という歴史的節目にあたります。ASEANは、インド太平洋地域の「要」として、また世界の成長センターとして、ますます重要となっています。マレーシアが、活発な貿易や投資を通じて地域の繁栄を牽引し、今年のASEAN議長国として優れたリーダーシップを発揮されていることに敬意を表します。日本は、「強靭で革新的でダイナミックかつ人間中心のASEAN共同体を実現する」というASEANの決意とマレーシアの議長役を全面的に支持します。

 日本とASEANは、半世紀を越えて、「心と心」の繋がる「信頼のパートナー」としての関係を構築してきました。安倍晋三元総理大臣も、政権発足直後の2013年1月、最初に東南アジアを訪問し、日本の対ASEAN外交の基本方針を示しました。2023年12月に採択された日ASEAN50周年共同ビジョンは、世代を超えた人的交流、未来の経済・社会の共創、平和と安定という、我々のパートナーシップの3本の柱を示しました。私もまた、これまで築き上げられてきた友好関係を踏まえ、日本とASEANが、共に強く、共に豊かになるために全力を尽くします。

 日本とASEANの信頼関係を支えるのは、世代を超えた人的交流です。約3,000名の実績を持つ日本語パートナーズ(日本語補助教員)の派遣及び双方向の知的・文化交流事業から成る「文化のWA」を着実かつ効果的に実施します。昨年50周年を迎えた東南アジア青年の船や、JENESYS等の事業による青年交流、またASCOJA(ASEAN元日本留学生評議会)及びそれを支援するASJA(アスジャ・インターナショナル)を通じた留学生交流も活発に行われています。これらの取組を通して、将来の世代を担う人材同士の信頼と相互理解を深めていきます。

 このような信頼と相互理解を基盤にしつつ、日本とASEANが未来の経済・社会を共創し、共に成長するためには、デジタルやグリーンといった新たな分野への戦略的かつ積極的な投資が欠かせません。

 デジタルの分野では、AIには経済・社会を大きく変革し発展させる高い潜在力があります。日本は、「安全、安心で信頼できるAI」を推し進め、国際的なAIガバナンスの構築やAIを活用したイノベーションを促進していきます。その観点から、イノベーションの基礎となる科学技術分野も重要です。私が掲げる「新技術立国」を目指す上で、ASEANは重要なパートナーです。AI、量子、半導体等の最先端分野で、国際共同研究や研究者の交流を柔軟で重層的に強化していきます。

 また、グリーン分野に関しては、今次訪問に際し、私はアンワル・マレーシア首相と、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合を共催する予定です。脱炭素化、経済成長、エネルギー安全保障の同時実現に向け、様々な技術を通じて各国の移行の道筋に沿ってASEAN各国と具体的な協力を進めます。

 そのほかにも、激甚化する災害対応や人道支援のため、日本として、引き続きASEAN防災人道支援調整センターの活動や人材育成を支援します。今もASEAN感染症対策センター設立、能力強化支援のため、日本の専門家が活躍しています。

 こうした交流や協力が進む一方で、我々は、世界中の様々な場所で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序がかつてない挑戦にさらされていることを直視しなければなりません。今日、平和と安定のための日本とASEANのパートナーシップは極めて重要です。アジアでも欧州でも、世界のどこであれ、力による一方的な現状変更の試みを許容してはなりません。

 日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、ASEANが掲げる「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」と、開放性、透明性、包摂性、そして法の支配といった本質的な原則を共有しています。日本とASEANは、インド太平洋地域の平和、安定、繁栄のため、今回の日ASEAN首脳会議において共同声明を採択し、FOIPとAOIPの相乗効果と更なる協力を促進していきます。

 最後に、先般成功裏に閉幕された大阪・関西万博への、マレーシアをはじめとするASEAN各国、ASEAN事務局からのパビリオン出展とご協力に改めて感謝申し上げます。多くの日本国民が「調和の未来を紡ぐ」をテーマとする、マレーシア・パビリオンを訪れ、その多様で豊かな文化を体験し、マレーシアは日本にとってさらに身近で魅力ある国となったことを申し添えます。

 日本は「信頼のパートナー」として、今後ともマレーシアをはじめとするASEAN諸国との幅広い協力を一層強化させていく考えです。


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