ASEAN(東南アジア諸国連合)

岸田外務大臣ASEAN政策スピーチ
「多様性と連結性-パートナーとしての日本の役割」

於:タイ・バンコク チュラロンコン大学

平成28年5月2日

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1 はじめに

日本の外務大臣の岸田文雄です。本日は歴史と伝統のあるチュラロンコン大学においてスピーチを行うことができ,大変光栄に存じます。協力いただいた同学の皆様に感謝するとともに,大勢の方にお越しいただき,私のスピーチを聞いていただくことに心から御礼申し上げます。

まず,先月日本の九州地方を地震が襲いましたが,タイをはじめASEAN各国からたくさんの温かいお見舞いを頂いたことに心から感謝申し上げます。特に,ASEAN外相が発出された声明に心から感謝申し上げるとともに,日本とASEANとの強固な絆を再認識させてくれました。

本日のスピーチは,ASEANがテーマであります。ASEANは,太平洋とインド洋を股にかけるアジアの心臓部であり,人口6億人を超える巨大な市場です。今やまさに世界経済の原動力となっている生産・消費の中心地となっています。その重要性は経済にとどまりません。ASEANは,東アジア首脳会議(EAS)やASEAN地域フォーラム(ARF)といった東アジアの政治的枠組みの核として,アジア地域の平和と繁栄において中心的な位置を占めています。こうしたASEANとのパートナーシップが,日本にとっていかに死活的かつ重要であるか,また,尊いものであるかについては,想像に難くありません。

3年半前に私は外務大臣に就任しました。そして最初に訪問したのはフィリピン,シンガポール,ブルネイでした。すなわちASEAN諸国が私の外務大臣としてのキャリアのスタートでした。今回のタイとラオスへの訪問によって,ASEAN全10か国の訪問を達成します。私の対ASEAN外交が一つの節目を迎えたこと,そして,それにより日本の外務大臣として,実際の行動を通して日本のASEAN重視の姿勢を示すことができたということを,この上なく光栄に思っています。本日私が申し上げたいのは,日本はASEANの「多様性」を活かしつつ,「連結性」を重視して,ASEANの大いなる潜在力を開花させる上で欠かせないパートナーであるということであります。

2 日ASEANの3年半の歩み

過去3年半の進展

私が外務大臣を拝命してからのこの3年半の間,日本とASEANは様々な進展を見てきました。2013年には,日・ASEAN関係は40周年を迎えまして,東京で開催された特別首脳会議では,今後日本とASEANが,「平和と安定」,「繁栄」,「より良い暮らし」,そして「心と心」の4つを柱とするパートナーとして協力関係を強化していくことを確認いたしました。日本からは,5年間で2兆円規模のODAによる新たな共同体構築支援,そして1億ドルの日・ASEAN統合基金(JAIF)2.0を通じた新たな統合支援も打ち出しました。

この3年半で,日・ASEAN間の経済関係は大きく発展しました。2013年以来,ASEANはアジアにおける日本の最大の対外投資先となっており,ASEANからの訪日者数は,この2年間だけ見ても,2013年の約117万人から2015年の約210万人へとほぼ倍増しました。

ASEAN共同体元年

昨年末にはASEAN共同体が設立され,本年はASEAN共同体元年という記念すべき年を迎えています。日本はこれまで一貫してASEAN共同体の構築,統合そして域内格差是正を支援してきました。その際重視しているのは,ASEANの「多様性」を尊重しつつ,一体性,中心性といったASEANの基本理念も尊重するということです。

ASEANが共同体として一体性を維持し,そして強化していくこと,ASEANが東アジアの地域協力の中で中心性を占めるということ,そして,ASEANが政治・経済・文化・社会の各面において内包する「多様性」を活かしていくということ,これらのいずれもが,この地域の平和と安定,そして繁栄を確保していく鍵となっていること。これは言うまでもないと思っています。

3 今後の課題と日本の支援

2025年に向けての課題

「多様性」を活かしつつ,ASEANの一体性を強化し,その潜在力を十分に開花させる。そのためには,「連結性」の強化が重要です。それは,昨年まさにASEAN自身が,共同体構築と同時に将来への指針として発表した「ASEAN共同体ビジョン2025」に描かれています。

連結性の強化

ASEAN統合を発展させるためには,潜在力に富むメコン各国の発展が不可欠です。どの国も成長の道筋から取り残されず,成長の果実が地域全体に広がるためにはどうすればよいか。キーワードは,「連結性」です。

経済を発展させるためには,道路や橋,鉄道などでお互いをつなぎ,モノやヒトの流通を活発化させること,これが必要です。日本は,ただ道路や橋を作って終わりというような協力にはいたしません。国境の通関手続を改善し,物資の輸送を円滑化いたします。また,経済回廊の周辺地域を開発し,ヒトやモノの流れを生み出しています。整備されたインフラを一層活用できるようにする。これこそ,私の考える「生きた」連結性であると思います。

タイの東部とラオスを結ぶ第二メコン国際橋は,日本の支援により2006年に開通し,それまで海上輸送で2週間かかっていたバンコク・ハノイ間は,最短で陸路3日となりました。通関業務を改善することで物流は更に円滑化すると思います。日本の技術を活用した税関システムが導入されるヤンゴンの港では,通関の簡易審査に必要な時間が2時間弱から1分以内にまで短縮されることが期待されています。

また,南部経済回廊の西の出口であるミャンマー・ダウェーの開発を進めるなど,周辺の開発・発展を広げることで,回廊のインフラが一層活用されることになると思います。また,プノンペンとホーチミンを結ぶ「つばさ橋」が昨年4月に日本の支援で開通したことによって,7,8時間もフェリーを待つ必要がなくなりました。こうした取組によって,朝バンコクから東に向かえば,夜にはホーチミンでフォーが食べられる。また,昼バンコクから西に向かえば,インド洋に沈む夕陽をその日のうちに見ることができる。そんな日が一日も早く来ることを願っています。

人材の育成

インフラ整備とともに,各国の産業を担う人材育成をすることも連結性の強化のために重要です。昨年11月に安倍総理が発表した「産業人材育成協力イニシアティブ」の下,各国の人材ニーズを把握し,日本の企業や教育機関とも連携して,着実に具体的な支援を実施します。

タイでは,今年3月に日タイの産官学関係者が集まって,人材育成円卓会議を実施いたしました。その中で,タイに今必要とされている人材は,製造業を支える技術者やエン
ジニアであり,そのためには高等教育機関や職業カレッジ強化が重要だということが確認をされました。現在,技術者やエンジニアを育成する教育機関への協力を強化する準備を進めています。こうしたきめ細かい人材育成を各国で具体的に進めていきます。

また,タイの近代化を推進した偉大な国王の名を冠する,ここチュラロンコン大学には,ASEANと日本のトップ大学間ネットワークである「アセアン工学系高等教育ネットワーク(Seed-Net:シードネット)」の事務局があります。カンボジア工科大学を卒業後,チュラロンコン大学で修士号を取得したあるシードネットOBは,その後,日本の大学で博士号を取得し,現在はプノンペンの高速道路開発プロジェクトの一員として活躍をしています。ASEANで人を育てる流れを日本が支援をし,ASEANと日本は人の絆で結ばれています。こうした人的ネットワークの構築により,ASEANの連結性は一層強くなる。私はそのように確信しています。

メコン河支援

母なる河メコンの存在を抜きにして,このメコン地域を語ることはできません。メコン各国は,大規模な干ばつに直面しています。また,その一方で,洪水に悩まされる年もあります。気候変動による自然災害の激化は,この自然豊かなメコンの地域でも逃れることはできません。メコン河の環境や生態系保全等に対応するため,日本の能力強化や知見・経験の共有等,新しい取組を進めてまいります。

生きた連結性を実現するための支援枠組みの立ち上げ

これまで私が申し上げたインフラの一層の整備や活用,制度改善,そして人材育成,さらにはメコン地域の中央を貫くメコン河のための支援。これらは全て「生きた」連結性につながるものです。そして,連結性に命を吹き込むのは,メコンの国々や人々です。本日,私は,ここバンコクにおいて,そのような自発的な取組を支援するための新しい協力枠組み「日メコン連結性イニシアティブ」を立ち上げることを提案したいと思います。私は,本年から3年間で7500億円のメコン協力のための資金を活用してメコン諸国の取組をきめ細かく支援するための枠組みを,メコン諸国と共に作り上げていきたいと思います。このイニシアティブは,ドナーであるタイの協力なくしては成り立ちません。共に手を携え,この枠組みを進めていけることを期待しています。

連結性は陸から海へ広がる

先ほど述べた連結性は,陸がテーマでした。今後の地域の発展のためには,海の連結性も重要です。冒頭に述べたように,東南アジアは2つの大洋を股にかける,こうした位置にあります。地図を眺めてみますと,メコン地域の西には,インド洋が広がっています。ベンガル湾周辺のインド,バングラデシュ,スリランカ等の諸国は今や力強い発展を遂げようとしています。メコン地域とインド洋諸国との経済的つながりはますます深くなっています。一方,メコン地域の東には,南シナ海を経て太平洋が広がっています。TPP(環太平洋パートナーシップ)には既にブルネイ,マレーシア,シンガポール,ベトナムが参加をしています。タイ,フィリピン,インドネシアがTPP参加に関心を示していることを日本は大いに歓迎します。日本はベトナムに対し,国内実施体制を強化する支援を行っていきます。また,RCEP(東アジア地域包括的経済連携)が締結されると,ASEAN,メコン地域を中心にインド洋,太平洋を結ぶ広がりとなります。こうした一体的市場の機会を最大限生かし,これらの地域が一層緊密に結びついていくためにも,ASEANの陸と海での連結性強化が重要であり,日本としても協力を惜しみません。

4 地域・国際社会における協力

もちろん,こうした経済的繁栄を可能とするための前提は,平和と安定にほかなりません。平和と安定なくして地域の繁栄はあり得ない。この地域において,テロや過激主義,海洋の安全保障を始め,ASEANと日本を含むパートナーが直面する様々な課題が山積をしています。私たちは,これらの課題に共に立ち向かい,地域の秩序を維持していかなければなりません。そのために重視すべきは「多様性」の尊重であり,その根底となる「法の支配」です。

多様性

地域の平和と安定を確保するために,私は「多様性」の重要性を訴えたいと思います。日本は,自由,民主主義,人権等の普遍的価値をASEANと共有する一方で,宗教,民族,信条など,ASEAN各国が抱える事情,「多様性」を一貫して尊重してきました。

テロ対策において重要な穏健主義とは,「多様性」に対する寛容にほかなりません。本年1月にジャカルタで発生したテロ事件に象徴されるように,ASEANでも,テロの脅威がますます高まっています。日本は,この理念に基づいて,マレーシアの推進する穏健主義を支持し,日・ASEAN統合基金(JAIF)を活用して,暴力的過激主義対策のプロジェクトを進めています。

法の支配

「多様性」の尊重を支えるのは,「法の支配」です。「ASEAN共同体ビジョン2025」でも,ASEAN政治・安全保障共同体が価値と規範を共有する,ルールに基づく共同体として,ASEANの基本原則や共有する価値・規範及び国際法の原則を堅持する,こうしたことを掲げています。

今,「法の支配」の原則が最も問われているのは,海洋の安全保障の分野と言えるでしょう。日本は,「海における法の支配の3原則」,すなわち,「(1)国際法に基づく主張,(2)「力」を用いないこと,(3)紛争の平和的解決」という3つの原則を主張しています。先月,私の地元である広島で開催したG7外相会合においては,国際法の原則に基づく海洋秩序を維持することの重要性が再確認され,南シナ海における一方的な現状変更の動きに対して強い反対が示されました。「法の支配」の原則が徹底され,実践されるような地域秩序を作っていかなければなりません。また,かかる観点から,実効的な南シナ海行動規範(COC)の早期策定を改めて呼びかけたいと思います。

「法の支配」の確保に向け,鍵となる機構がEASです。昨年のEASにおいて,日本とASEANを含む地域18か国の首脳は,地域における政治・安全保障の問題に一層取り組み,機構を強化していくことに合意をいたしました。「法の支配」を確固たるものにするためにも,地域のプレミア・フォーラムとしてのEASを更に強化していかなければなりません。そのためには,ASEANが中心となり一体となった地域協力の推進が鍵となることは言うまでもありません。日本は全面的に協力してまいります。

来年はASEAN結成50周年

さて,来年はASEAN結成50年という記念すべき節目の年です。日本は,古くからのパートナーとして,この40年余りASEANと共に歩んできました。次なる半世紀におけるASEANの更なる発展に向け,日本は引き続き,ASEANと手を取り合って,ASEANの「多様性」を尊重しながら「連結性」の強化を支援してまいります。

今年のG7伊勢志摩サミットには,議長国ラオスを始め,アジア大洋州から6か国が参加する予定であり,また,7月にはASEAN関連外相会議,9月にはASEAN関連首脳会議が控えています。ASEAN全10か国を訪問するこの節目に当たり,日本国外務大臣として,ASEANとの協力を更に深化させていく決意を新たにし,これからのASEANとの外交日程に臨んでいきたいと思っています。

5 日タイ関係

バンコクはASEAN誕生の地

1967年8月,このバンコクの地において,ASEANは生まれました。タイを始め5か国の外相による共同宣言,通称「バンコク宣言」がASEANの設立文書であります。当時,タイの外務大臣を務めておられたタナット・コーマン氏は,ASEAN共同体の発足を見届けるかのように,本年3月に他界されました。氏の業績に深く敬意を示すとともに,改めて衷心よりお悔やみを申し上げたいと思います。

日タイ関係

タイは比較的安定した国内情勢を背景に,外資優遇政策を維持しながら,ASEAN域内で随一の産業集積を実現いたしました。日本経済のグローバル・サプライチェーンの一環として,生産,輸出拠点となったタイは,今や日本にとって欠くことのできない経済パートナーであると考えます。

約4500の日本企業がタイ国内で操業しております。アジア太平洋地域でも最大規模となっています。多数の日本企業は長年にわたって投資や人材育成を通じて,タイ経済の不可欠の一部を担うまでになっています。

ASEAN統合のために不可欠な域内格差の是正について,タイは長年にわたり近隣諸国支援を続けてきたドナー国です。日本の対メコン協力の主要パートナーとして,また,先ほど申し上げた「日メコン連結性イニシアティブ」を共に進めていくパートナーとして,タイの一層の取組に期待しております。

現在,プラユット首相は,民政復帰を含む国内の諸課題に粘り強く取り組んでおられます。累次にわたり安倍総理と首脳会談を行い,その中でも,プラユット首相は,持続的な民主主義がタイには必要であると強調しておられました。タイの皆様方が,現在直面している困難な課題を克服した上で,地域や国際社会において,これまで以上に積極的に役割を担うことを強く祈念しております。

御静聴いただいたことに,心から感謝申し上げます。
(タイ語で)コープクン・マーク・クラップ。


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