大洋州
第8回太平洋・島サミット(PALM8)首脳会合における
安倍晋三日本国内閣総理大臣の冒頭発言
(平成30年5月19日,福島県いわき市)
(写真提供:内閣広報室)
(写真提供:内閣広報室)
(写真提供:内閣広報室)
皆さま,パーム・エイト首脳会合が,ここに始まります。
ニューカレドニアと仏領ポリネシアの方々,おいででしょうか? パームは皆さまの参加を,拍手をもって歓迎します。
そしてトゥイラエパ首相。議事をご一緒できて光栄です。
首相の国サモアで先ごろ会議を開いた太平洋諸島フォーラムが,「青の大陸」という言葉を打ち出しました。
その意味は,「太平洋」。青くて広大な海への,敬意に満ちた言葉ではありませんか。
「緑を守れ」というのと同じ情熱を込め,私たちはもっと,「青を守れ」と申しましょう。
海が,悲鳴をあげているからです。
1万メートルの深海に棲む生き物から,PCBが高濃度で出てきます。媒介物は,一説によればマイクロ・プラスチック。
プランクトンや貝が減りました。原因は,海水のアルカリ性が弱くなったことで,人類が,二酸化炭素を途方もない量,海に吸わせたせいだといいます。
違法に乱獲されている海洋水産資源も,たった40年の間で,3倍に増えてしまいました。
公海のみならず,皆さま各国のEEZがその舞台になって,無法者の外国漁船が,乱獲を続けています。
それから深海底の資源。その開発で海のエコシステムが壊れたら取り返しがつかないというのに,各国の行動を律する仕組みはなお不十分です。
海の酸化,海面上昇は,パーム諸国を直撃します。海が無法の場となれば,パーム諸国は深刻な打撃を受けます。
私は改めて,皆さまに呼びかけます。パームのプロセスを,これらに対する解決策を見出す場にいたしましょう。
海が劣化し,法の支配が踏みにじられるのを阻むため,行動へと一歩を踏み出そうではありませんか。
3年前,ここ福島・いわきで,私はお約束しました。
総額550億円(約4億6,000万ドル)以上の支援,4,000人に上る人づくりと,人的交流を実施するというお約束です。
サモアに本拠を置くスプレップ(SPREP)のキャンパスに,気候変動に備える専門家育成のため,新たに「太平洋気候変動センター」を建設することは,PALM7でお約束した事業の一つでした。
先週,その起工式があったことを皆さまにご報告し,ともに喜びたいと存じます。気候変動に目を配る拠点として,世界でも重要な場になることでしょう。
気候変動は,太平洋島嶼国にとって最も重要な問題ですから,「タラノア対話」を含め,協力してまいります。
これからも,海を守ることは地球と人類を守ることだと思いを定め,努力を,皆さまと続けてまいります。
これから力を入れたいのは,第一に,海の秩序に法の支配を打ち立てることです。
古来,私たちに海の恵みをもたらしてくれた太平洋。その太平洋で我々が昔からもっている権利を,国の大小にかかわりなく守ってくれるのが法の支配です。
各国の法執行能力を含む,「海を守る」能力の向上に,日本は助力を惜しみません。
皆様には,日本の漁業活動に,格別の配慮をお願いしたいと思います。他方,皆様自身の警備力,資源保存の能力を高める力添えは,日本が,自信と誇りをもって担える役割であると思っています。
第二に,自立的で,持続可能な繁栄が実現できるよう,ハード,ソフトの,質の高いインフラ整備に努めることです。
そして第三に,人と人との交流を一層盛り上げ,パームの未来を背負って立つリーダーたちを,皆さまと一緒に育てることです。向こう3年,次なる集まりまでの間に,5000人以上の育成,交流に取り組もうと思っています。
皆さま,太平洋といい,インド洋と呼んで区別するならわしは,あくまで人為的,便宜的なものです。二つはもとより,一体です。
はるかな昔,交易によって「二つの海の交わり」をもたらしたのは,パームの父祖たちでした。
「huti」というタンザニアの言葉は,ポリネシア語の「punti」が語源だとする説があります。どちらもバナナのことです。
太平洋からアフリカ東海岸へと,バナナは渡りました。運んだのはパームの父祖たち,人類史に現れた,最も偉大な航海者たちでした。
私たちが生きる「青の太平洋」は,「青のインド洋」と一体です。機会と可能性は二つの海に共存し,解くべき問いと,つのる危機も,両洋をまたいで不可分なのです。
この際,二つを巨視的に見る,拡大海洋アイデンティティを,私たち一人ひとり,身につけようではありませんか。
それは私たちの視野を,地理的に広げます。超長期の時間軸で,広い海洋のシステムを見る視座を与えてくれます。
パーム・プロセスは,始まって21年。
長い距離,バトンをつないで走るリレー競技さながら,私たちはここまできました。
パームのプロセスは,日本で,太平洋諸国で,草の根の人たち,ビジネス界,学界の人々を含め,無数の人たちが努力してつないだ流れです。私は,先人たちの労苦に心からなるお礼を申し上げ,挨拶を閉じようと思います。
ありがとうございました。