大洋州
第8回太平洋・島サミット(PALM8)連載インタビュー企画 「島から島へ 紡ぐメッセージ」
第5回 安田早紀×いわき市
5月18日~19日にかけて,福島県いわき市において「第8回太平洋・島サミット(PALM8)」が開催され,太平洋島嶼国・地域の首脳が訪日します。
PALM8開催に合わせ,太平洋の国々や開催地である福島県とご縁のある著名人の方々にインタビューを行い,島での思い出や日本と島嶼国の絆について語っていただきました(全6回連載の予定)。聞き手と記事作成は,隔月刊誌『外交』編集部です。
第5回の今回は,PALM8開催地である福島県いわき市出身の女優,安田早紀さんにお話を伺いました。
【第5回インタビュー】
安田早紀×いわき市 いわきから伝えたい,防災と復興への思い

やすださき 女優・モデル
福島県いわき市出身。TVドラマやCMで活躍中。2017年より福島県公式SNSサポートガールを務める。
少しずつ日常が戻ってきた

第8回太平洋・島サミットが福島県いわき市で開催されます。
安田 前回の2015年に引き続き,2回目のいわき市開催ですよね。日本と太平洋島嶼国との関係強化が主題のサミットですが,復興する福島の姿を島嶼国の皆さん,そして日本の皆さんに見てもらえる機会にもなりますので,いわきで生まれ育った一人としてとてもうれしく思います。
……と言いつつ,恥ずかしながら,つい先日までこのサミットのことを存じ上げませんでした(笑)。
今回は知っていただけてよかったです(笑)。
安田 ホームページや資料を拝見して,地震や津波などの自然災害とどう向き合うかは,日本も島嶼国も共通する課題だとわかりました。その点でもいわき市で開催されることは意義深いと思います。防災の観点から協力できることはたくさんありそうです。島嶼国ひとつひとつは決して大きな国ではないと思います,だからこそ協力し合う必要があるでしょうし,日本がそのような環境をサポートするのは素晴らしいことです。
それに,いわきといえば「スパリゾートハワイアンズ」。フラはハワイの伝統的な舞踊ですが,そのルーツの一つはポリネシアなどこの地域ですよね。不思議な文化のつながりで,親近感を覚えます。
いわき市のどのような姿を見てもらいたいですか。
安田 前回の太平洋・島サミットから3年ですが,この3年でいわきの姿もだいぶ変わってきました。一言でいうと,日常が戻ってきたという感じです。例えば,福島県では震災以来海水浴場が閉鎖されていましたが,一昨年にいわき市の勿来と四倉の2つの海水浴場が海開きし,昨年はさらに薄磯海水浴場も加わりました。今夏には小名浜に大型のショッピングモールがオープンする予定です。地元の人たちも楽しみにしていて,帰省のたびに母が「こんなにできてきたよ」と建設現場の状況を詳しく報告してくれます。3年前に比べ,新しいしい建物やお店ができてきました。観光という点でも,実家のすぐ近くにあるアクアマリンふくしまや,隣の物産館「いわき・ら・ら・ミュウ」などは,震災前と同じとまでは言えませんが,賑わっています。だいぶ「ふだんの生活」が戻ってきて,これからもっと前に進んでいこうという気持ちが感じられるようになってきています。
震災の影響が残る部分もありますか。
安田 もちろんあります。隣接する双葉郡を中心に,原発事故から避難してきて,現在も仮設住宅に住まわれている方がいますし,故郷を離れていわきで新生活を始めた人,逆にいわきから転出した人もいます。7年かけて進んだこと,進まなかったこと,いろいろあります。でもそれを踏まえて,みんなが日々の生活を取り戻そうと努力してきました。そして,ある程度は目に見えてる形で戻りつつあるのを感じます。
福島には美味しいものがたくさんあります

今回のサミットを機に,福島からどのような発信をしたいですか。
安田 二つあります。一つは防災を考える機会になるといいな,ということです。もう一つは,世界の皆さん,日本の皆さんに福島の魅力を知ってもらえるように,たくさんアピールしたいですね。
防災は,主要テーマの一つです。
安田 気候変動対策や防災は,日本が世界と協力できるテーマだと思います。それを進めることは,震災のときに世界からたくさんの支援をいただいたことへの恩返しでもあると思います。同時に,日本の人たちに向けても,あの震災を忘れないというメッセージになります。日本は自然災害が多い国ですから,東日本大震災以降も茨城の洪水や熊本の大地震など,常に災害と向き合っています。時間の経過とともに忘れてしまうのではなく,前向きな形で次代につなげていってほしいし,メディアにも積極的に報道してほしいです。
安田さんは福島県のフェイスブックの公式サポートガールとして,福島の魅力発信の仕事に取り組んでいらっしゃいます。
安田 そうなんです。福島のよいところをSNSにアップして,皆さんに来ていただくのが私のミッションです(https://www.facebook.com/FutureFromFukushima/)。春は一本桜が咲き誇る迫力の「三春の滝桜」を愛でていただきたいし,新緑の季節はぜひ裏磐梯の五色沼を歩いてみてください。瑞々しい緑色の葉をつけた木立のなか,神秘的な湖面の色が印象に残るはずです。夏になったら,ぜひいわきの海を見に来てほしい。
もう一つアピールしたいのは食べ物です。福島は肉も魚も野菜も果物も本当においしい。ぜひ味わってほしいです。ただ,いまでも原発事故の影響で野菜や海産物に対して「本当に大丈夫?」と聞かれることがあるのは,残念なことです。
福島県も放射能検査のデータを公開するなど,懸念の払拭に取り組んでいます。
安田 福島県では,国のガイドラインによる農林水産物等緊急時環境放射線モニタリングを行っています。また,米の全量全袋検査をはじめとした産地・生産者による自主検査など,安全な農林水産物の栽培・流通に取り組んでいます。検査結果は例えば福島県のホームページ上などで公開され,誰でも閲覧できます(http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/mon-kekka.html)。安全なものを生産・流通させているので,安心して口にしてもらいたいと思います。きっとそのおいしさが分かります。
安田さんの,お薦め地元料理ベスト3を教えてください。
安田 候補がありすぎて難しいですが……,そうですね……(しばし黙考),うん,決まりました。私の第1位は「うにの貝焼き」です。いわきの郷土料理で,北寄貝やはまぐりの殻にうにを乗せて焼いたものですが,ちょっとしょうゆを垂らして食べると,うにの甘さが引き立って絶品です。程よいサイズ感もいいですね。
第2位は穴子の白焼き。江戸前のイメージが強い穴子ですが,いわきでもよく食べます。いわきは海鮮食材が豊富で,水揚げされたばかりの鮮魚の刺身も抜群ですが,私はひと手間加えたふわふわの白焼きにはまっています。
第3位は「揚げかまぼこ」。いわゆるさつま揚げを炙ったものですが,いろんな具材が練り込まれていて,私はタコとネギが入っているのが好きです。棒にさしてあって食べ歩きもOK。揚げかまぼこ片手に,いわきの町を回ってみてください。
それから,めひかり。いわき沖でよく獲れる魚で,先日干物を食べましたが,脂がのっていました。ちなみにいわき市のイメージキャラクターもメヒカリをモチーフにした「メピカリ」です。ぜひ福島の日本酒と合わせて楽しんでください。
最後に番外編。レトルト食品ですが,「うに炊き込みご飯の素」は帰省した際には必ず2~3箱まとめ買いして持ち帰ります。「ベスト3」と言われたのに,5つも答えてしまってすみません(笑)。
いわき,いいところですね。
安田 食べ物はもちろん,いわきは住みやすいところです。冬でも雪はほとんど降らないですし,夏は海風が涼しい。季節ごとに顔を変える小名浜の海,稲穂が揺れる田んぼ道,近所を散歩すればおばあちゃんが話しかけてくる。田舎の日常ですが,日本の原風景の一つですよね。故郷だから当たり前かもしれませんが,帰省の際に電車がいわきに近づくと風景が変わってきて,「帰ってきた」という感じがします。いわき出身でなくても,その感覚は共有してもらえそうな気がします。「おかえりなさい」という気持ちで,お待ちしています。