寄稿・インタビュー

令和6年12月27日

【見出し】
 日本岩屋毅外務大臣:台湾有事は日本有事か?

【ナレーション】
 岩屋毅外務大臣の訪中は、日中関係の新しいモードの幕開けとなった。「砕氷」から「融氷」へ進む中、両国は論争と意見の相違に、いかに対応するのか。台湾有事は日本有事になるのか。台湾について、石破政権はどのような基本姿勢になるのか。

 年末の北京は寒い中、日中ハイレベル対話を迎え、両国の関係に暖かさが加わった。12月25日、中国国務院李強総理は日本岩屋毅外務大臣と会談した。王毅外交部長は岩屋外務大臣と会談後、共に「第二回日中ハイレベル人的・文化交流対話」に出席し、中国と日本は教育、観光、スポーツ等10項目の共同認識を達成。岩屋外務大臣は訪中前、「風雲対話」による独占取材を受けた。

【インタビュアー】今回の(中国)訪問の狙いと、一番重要視されている議題、期待される成果とは何か。

【岩屋外務大臣】一番大きな大局的な目標は、戦略的な互恵関係を包括的に進めるということ。まずは王毅外交部長と個人的な信頼関係をぜひ作らせて頂きたい。取り組む話題が多岐にわたっていると思う。そして外交分野の地域情勢、世界情勢についてもしっかり話し合いたい。日本との経済面での協力関係、地球規模の課題、気候変動や環境問題、少子高齢化等、多岐にわたるテーマについて、日中の協力を更に進化させていく、そのようなスタートの訪中にしたい。

【インタビュアー】今の日中関係をどのように位置づけられ、現状認識をどのように見ているか。

【岩屋外務大臣】日中関係というのは、お互いにとってだけではなく、地域全体にとっても、世界にとってもとても大事な二国間関係。中国も日本もそのことに責任を負っている国であるため、石破総理もASEANの会合に行って、李強総理と会談を行い、APECの会合で習近平国家首席と会談した。日中両国は戦略的互恵関係を包括的に前に進めていこう、建設的で安定的な関係を作っていこうということを確認した。私は、それを進めていくことが両国のためにもなり、アジア全体のためにもなり、世界のためにもなり、多くの方に歓迎されることだと思う。(日本と中国は)隣人だから、色んな難しい問題もあるが、それを粘り強く対話することによって、一つ一つ片付けていくという関係をぜひ作っていきたい。

【インタビュアー】中国では日本人のビザ免除措置は大きな一歩という風に評価される声があるが、大臣はどう受け止めているか。

【岩屋外務大臣】とても歓迎している。コロナという時期があって、その間(両国の)往来も厳しくなったが、今般、中国が短期のビザの日数を倍に伸ばして、免除措置を再開して頂いたことを歓迎している。これは日本の経済界からも強い要望だった。日中の経済交流もこれからもっと盛んになっていってほしいし、観光客もお互いにもっと行き来ができるようになっていけばいいと思っている。

【インタビュアー】中国人に対するビザ免除措置は日本の中で検討されていると思うが。

【岩屋外務大臣】はい。今回の訪中の機会に、中国から日本への旅行の利便性を一層高めるために、団体観光の滞在可能日数を15日以内から30日以内に延長、それから10年間有効な観光数次査証を新たに導入するといった措置を是非発表したく、準備の整ったものから実施に移していければいいと考えている。実際にそこに住んでおられる方々と触れ合うということがないと、相互理解がなかなか進んでいかないので、中国からもたくさんの方に来て頂きたいし、日本からもたくさん中国に行って頂きたいと思っている。

【ナレーション】ここ数年、日本防衛省の「防衛白書」や、外務省の「外交青書」、最新の「安保三文書」にも、「台湾有事は日本有事」という論調が多かれ少なかれ入っている。また、「中国脅威論」も頻繁に民間やメディアに取り上げられていて、そういった雑音が中国の核心的利益に触れ、日中関係に不確実性を高めることになった。

【インタビュアー】最近、自民党の議員、あるいは高官が台湾を訪問し、「台湾有事は日本有事」というような発言も日本の中では時々取り上げられている。台湾有事は日本有事になるのか。台湾について、大臣、石破政権はどのような基本姿勢か。

【岩屋外務大臣】私は「台湾有事」という言葉があまり好きではなく、台湾は「無事」でないといけない。台湾も日本にとってはご縁のある大切な友人だが、我々は、日中国交回復の時の共同宣言の精神を未だに堅持しているので、台湾と大陸の関係は、あくまでも対話によって平和的に解決をしてもらわなければならないという思いなので、台湾は無事でなければいけない。

【インタビュアー】台湾との関係は非公式的で実務的な関係で、日本はやはり中国の立場を理解した上で、一つの中国という原則で変更はないということか。

【外務大臣】はい。中国の考え、主張を我が国は理解し、尊重するというのはあの時の精神で、それは今もそのとおり。ただ、「有事」というのは、武力によって何か現状が変わっていくという話だろう。それはあってはならないというのが日本の立場なので、あくまでも対話で平和的に物事が解決されるということを願っている。

【インタビュアー】この点については少し関連で、南西諸島の防衛には非常にお金を投入して、今後43兆円、安保三文書というものが出来上がったが、日本にとって中国は脅威の国になるという声は日本の中でもあるが。

【岩屋外務大臣】中国がものすごいスピードで軍拡をされてきたことは事実で、かなりその周辺に大きな影響を与えていると思う。どの国も本当は軍事費、防衛費が少なくて済むのなら、少ない方がいい。国民が幸せになるということのためにお金を使うべきだが、軍事力がどんどん上がり、軍事力の競争になれば、皆そこに大事な国民の税金を使わざるを得なくなる。

【インタビュアー】中国との今後の争いを念頭に置いた防衛力の増強ということになるか。

【岩屋外務大臣】そういうことではなく、今の国際情勢全体を考える時に、我が国で言うと戦後で一番厳しい状況になっていると感じざるを得ない。日本は平和国家であり、戦後ただの一発も日本の外で銃弾を発したことはない国。これからもそうでなければいけないと思うが、周りがどんどん物騒になっていけば、やはり用心はせざるを得ない。その上で、やはり対話によって、話し合いによって、外交によって問題を解決していく、紛争を解決していく、というのが我が国の基本姿勢で、それはこれからも変わらない。

【ナレーション】石破総理はトランプ次期大統領との会談を早く行い、日米関係をさらに高めたいとしている。

【インタビュアー】来年トランプ政権がまた誕生する予定だが、中国と米国の間で様々な摩擦要因がある中、アジアの国の日本としては、この中国と米国の間でどのような役割を果たすべきか。

【岩屋外務大臣】米国と中国は世界の大国として正しくリーダーシップを発揮していただきたい。中国には「王道」を歩んでほしく、米国の新政権も、世界のいろいろな紛争を解決していくために正しくリーダーシップを発揮してもらわなくてはならない。その間に立っている日本は、日米関係、日中関係を安定的で建設的なものにし、両国が正しく「王道」でリーダーシップを発揮してもらうための役割を果たさなくてはならないと思っている。

【インタビュアー】日本がアメリカに寄りすぎだと批判する声もあるが、日本が独自に米中あるいはこの米中日の中で果たしていくようなアプローチがありうるのか。

【岩屋外務大臣】あり得ると思う。日米関係というのは非常に大事な二国間関係であるが、中国はお互い引越しのできない永遠の隣人である。中華文明はアジアの大文明。中国とは途中、不幸な時期もあったが、長い間お付き合いがあるということを大切にしないといけない。(米国、中国)それぞれに良好な関係を築いていきたい。

【ナレーション】石破政権はかつて自民党内で「親中親韓」と批判され、右翼の政治家から弱腰とも指摘された。こういった懸念に対し、石破総理は「ずっと嫌中嫌韓では外交は成り立たない」と。石破総理の政治生涯は、恩師の田中角栄に始まる。これは石破総理の外交政策にも一定の影響を及ぼしている。

【インタビュアー】石破総理の過去の歴史に対する認識や中国との向き合い方は田中角栄先生の影響を受けている印象がある。岩屋大臣は、この過去の歴史についてどう考えるか。

【岩屋外務大臣】自分(岩屋大臣)は石破総理と同級生で、自分も田中先生の末の末の弟子の1人という気持ち。日中国交回復を成し遂げられた先人たちの思いを引き継いでいかなければいけない。いくつか歴史に対する談話を出してきたが、しっかり引き継いでいかなければいけない。我が国は一時期、国策を誤ったと考えている。二度とそういうことが起こらないよう、平和国家として、しっかりと歩み続けていかなければいけない。
 村山談話と河野談話を継承していく。

【インタビュアー】岩屋大臣、独自の中国に対するアプローチ、あるいは対中姿勢、何かお考えになることはあるか。

【岩屋外務大臣】最近行われた世論調査の結果をとても心配している。日本も中国も9割の人たちが相手のことをあまりよく思ってないことについて、とても好ましくないと思っている。「反日」「嫌中」という状況は是非解消しなければならない。中国は日本にとって大切な永遠の隣人。それをまず1番大事に思って、 日中外交を展開していきたい。

【ナレーション】岩屋大臣が30年に及ぶ政治生涯の中で、外交と安保の2点を軸にしてきた。防衛大臣にせよ外務大臣にせよ、中国について話をすると、対話を強化し、中国という重要な隣国と安定した関係を築きたいと話してきた。

【岩屋外務大臣】書道の本元は中国。日本は漢字を習ったが、非常に奥深い文化だと思う。「己の欲せざるところは人に施すことなかれ」を一言で孔子様が「恕」で表したが、自分は一字ならあの字が好き。
 30数年前に中国をお邪魔して以来行ってない。この間の中国の発展ぶりは目覚ましいものがあった。そういう姿を拝見するのがとても楽しみである。


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