
我が国漁船の拿捕事案の国際海洋法裁判所への提訴(国際海洋法裁判所における判決)
平成19年8月6日
- 8月6日、ドイツ・ハンブルクの国際海洋法裁判所(ITLOS)において、我が国がITLOSに提訴したロシアによる漁船拿捕事案に関する判決が言い渡された。日本側より、政府代理人として、小松一郎外務省国際法局長が出席したほか、外務省及び水産庁の関係者が出席した。
- 判決では、「第88豊進(ほうしん)丸」について、船体及び乗組員の釈放のための合理的な保証金の額として1,000万ルーブル(約4,600万円:ロシア側当初提示額の4割)を認定するとともに、ロシアに対し、その支払いにより船体を早期に釈放すること、並びに、船長及び乗組員の無条件の帰国を認めることを命じた。また、判決は、本事案については、保証金額の算定基準として船体価格を考慮すべきでないことも明確に判示した。この判決の内容は、我が国の主張が全面的に認められたものと考えている。
- 「第53富(とみ)丸」については、口頭弁論後にロシアの国内裁判手続がすべて終了し船体没収が確定したため、もはや日本側の請求の目的が失われたとして、裁判所は「早期釈放」の決定は下せないと判示した。その一方で、判決が一般論として、船体の不当に性急な没収は、合理的な保証金の支払いにより船体を速やかに釈放するという国連海洋法条約に定める早期釈放の制度の趣旨に矛盾することを指摘したことの意義は大きく、我が国として評価している。
- なお、同時に、旗国は合理的な期間内に早期釈放の請求を行うべきであるとの点も指摘された。
- 今回の判決により、「第88豊進(ほうしん)丸」の船体及び乗組員の釈放が速やかに実現することを期待する。また、今回の判決をきっかけに、ロシアが外国漁船の拿捕・釈放に関する国内制度及びその運用を改善し、これが我が国漁船の長期抑留の再発防止につながることを期待する。
【参考】
1.国際海洋法裁判所への提訴
(1) 国連海洋法条約は、排他的経済水域において拿捕された船舶及び乗組員を「合理的な保証金の支払」により「速やかに釈放する」義務を定めている。
(2) カムチャッカ半島沖のロシア200海里水域において、ロシア当局により、6月初めに拿捕された「第88豊進(ほうしん)丸」の乗組員及び船体、並びに、昨年11月初めに拿捕された「第53富(とみ)丸」の船体は、現在に至るまで釈放されておらず、政府は、7月6日、ロシアによる国際法上の義務の履行を求めて、これらの事案を国際海洋法裁判所に付託した。
(3) 「第88豊進(ほうしん)丸」については、ITLOSへの付託後の7月13日になって、ロシア側が保証金の額として2500万ルーブル(約1億2000万円)を提示した。その後、7月19日及び20日に行われた口頭弁論の際、ロシア側は同金額を2200万ルーブル(約1億500万円)に減額した。
(4) 「第53富(とみ)丸」に関しては、船主側がロシア最高裁判所に対し、ロシアの下級裁判所による船体没収判決の取消しを求めていた問題について、ロシア側は、口頭弁論(7月21日及び23日)が終了した後、7月26日、ITLOSに対し、本件を再審理する根拠がないとするロシア最高裁判所の決定を通知した。
2.国際海洋法裁判所(International Tribunal for the Law of the Sea)