国連における後発開発途上国のカテゴリーと卒業問題
-「円滑な移行」プロセスと開発政策委員会の役割に焦点を当てて-
森田 智
国連安保理による作業方法改善の動向
-安保理議長ノート507(S/2006/507)改訂を題材に-
都築 正泰
研究ノート:アジア諸国における責任ある企業行動の推進への課題
-OECDインストルメントの普及活動の観点から-
藤田 輔
研究ノート:スリランカ武力紛争の軍事的解決がもたらしたもの
-大統領への集権化と民族問題の政治的解決の停滞という逆説-
村田 真一
研究ノート: もう一つのイラク:クルディスタン地域政治の変容 ─揺らぐ二大政党支配とゴラン運動の挑戦─
木我 公輔
研究ノート: EUの金融監督体制の改革:その影響と日EU・EPAへの視座
松下 千明
淺村 卓生
国連における後発開発途上国のカテゴリーと卒業問題
-「円滑な移行」プロセスと開発政策委員会の役割に焦点を当てて-
(PDF)
森田 智
後発開発途上国(LDC)がLDC 卒業に抵抗を示す主な理由は、国際社会からのLDC向け特定便益を手放したくないことにある。本稿では、国連におけるLDC卒業問題について、開発政策委員会(CDP)の役割に焦点をあて、「円滑な移行」の観点から論考した。LDCリスト及び各基準等の改定における妥当性判断においては、CDPの独立性と中立性を前提とした上で、CDP の専門性及びマンデート付与の有無が重要な論点となる点が示唆され、今後、CDP 及び同事務局の戦略的活用の視座が鍵となる。LDC 卒業の際の円滑な移行促進に向けたLDC側の課題として、国内でのデータ収集体制の整備等が、CDPの課題として、卒業国及び予定国のモニタリング強化が主に挙げられた。これらの課題解決への貢献のため、LDC諸国に対する統計分野での技術協力が有効と考えられ、我が国が果たし得る役割は大きい。
国連安保理による作業方法改善の動向
-安保理議長ノート507(S/2006/507)改訂を題材に-
(PDF)
都築 正泰
本稿は,国連安保理による作業方法改善の動向を2010年版507議長ノートの発出,すなわち2006年版507ノートの改訂を題材として検討する。まず,安保理作業方法とは何か,またそれがどのような観点から改善が必要であると認識されているのかについて分析する。安保理における作業方法改善の議論の中心となるのは文書手続作業部会であり,安保理作業方法改善における同作業部会の役割についても分析する。これらの分析を踏まえ,2010年版507における2006 年版507 からの主要な改訂点を検討し,安保理の作業方法における新たな慣行を検討する。ここから浮かび上がってくるのは,安保理の協議形式の多様化(非公式対話の導入やPKO 要員派遣国との事前協議の定例化等)であり,その一方で安保理が非公式協議の密室性を維持している点である。この点をどのように評価するべきか,最後に考察として述べる。
研究ノート:
アジア諸国における責任ある企業行動の推進への課題
-OECDインストルメントの普及活動の観点から-(PDF)
藤田 輔
本稿では,アジア諸国において,責任ある企業行動(RBC)を推進するにあたり,OECDインストルメントがどの程度普及しているのか,また,アジア諸国がそれに対してどのような反応を見せているのかを明らかにするべく,具体的な議論を展開することを主眼としている。第1章では,企業の社会的責任(CSR)とRBCの相違に着目しつつ,OECDの文脈においては,RBCの方がより普遍的な概念であることを明らかにする。第2章では,主要なOECDインストルメントの概要を述べた後,OECDによるアウトリーチ活動の一例として,2009年11月に開催された「企業責任に関するアジア地域会議」を紹介する。そして,第3章では,アジア各国におけるRBC推進のための取組みを把握するべく,中国,インド,インドネシアに対するOECD投資政策レビュー(2008~10年)で行われた分析内容を紹介した後,これらの国々が持つOECDインストルメントへのスタンスについて考察を図りたい。
研究ノート:
スリランカ武力紛争の軍事的解決がもたらしたもの
-大統領への集権化と民族問題の政治的解決の停滞という逆説-(PDF)
村田 真一
スリランカの武力紛争終結後から約2年半を経て,二つの逆説的な現象が生じている。第一に,民族問題の政治的解決(民族間の和解やマイノリティ居住地域への権限移譲)の停滞・退化現象,第二に,LTTEの軍事的打倒の成功を発端とするラージャパクサ大統領への国民人気の加熱,それに続く同大統領への集権化現象である。本稿は,これら二つの現象の関係を分析する。スリランカでは,これまで大統領へのある程度の集権化は,必ずしも悪いこととはみなされてこなかった。大統領に大きな権力が与えられれば,民族問題の解決も進むと信じられてきた。しかし実際は,集権化に伴い民族問題の政治的解決の展望はむしろ閉ざされつつあり,ラージャパクサ大統領への集権化がむしろ民族問題解決の停滞をもたらしている点を指摘する。
研究ノート:
もう一つのイラク:クルディスタン地域政治の変容
─揺らぐ二大政党支配とゴラン運動の挑戦─(PDF)
木我 公輔
これまでイラクの中央・地方関係,あるいは民族問題の文脈から論じられることが多かったクルディスタン地域の政治について2006年のKDPとPUK二大政党間の戦略合意から今日までの政党政治に注目し,クルディスタン地域政府の制度的形成,二大政党による権力分有,第三極ゴラン運動出現のインパクト,今年2月にスレイマーニーヤで起こった若者のデモによる地域政治の変化を概観・分析することによって,クルディスタン地域政治の考察を行う。
研究ノート:
EUの金融監督体制の改革:その影響と日EU・EPAへの視座(PDF)
松下 千明
EUは金融サービス市場の統合を積極的に行ってきたが,競争的側面を重視した結果,統一市場でありながら分権的な監督体制をもつという大きな矛盾を抱えた。曖昧な監督体制は金融危機拡大の一因とも言われ,金融危機後,EUは統一的な監督機関を設置し統合を更に深化させることで,危機を克服する道を選択する。このEUの新しい試みの成否は不明であるが,EU域内の統合が深まれば域外国企業の市場参入はより難しくなるであろう。EUの金融市場は国際的にも重要であり,日本の金融機関がEU市場で劣後することなく活動するためのEPAの締結が今後は不可欠となる。本稿では,金融監督の変遷に焦点を当て,金融市場の統合の歴史とその課題を分析し,統合深化が我が国金融セクターに与える影響をふまえ,日EU・EPA検討にあたっての視座を提供する。
カザフスタンにおける自国語振興政策及び文字改革の理念的側面(PDF)
淺村 卓生
独立後のカザフスタンの言語政策は比較的穏健であったが,2006年頃を境にして自国語振興政策を急速に強めている。その頃から,政府により国家と同名の基幹民族であるカザフ人には国民統合の核となるべく歴史的な使命があることが強調され始めており,このような民族政策を前提とした上でカザフ語に関する言語問題が論じられていることについて,十分な注意が必要である。また,近年カザフ語のラテン文字化の気運が高まりを見せていることも見逃せない動きである。ラテン文字化は社会的・政治的に様々な事象を象徴し得るためにその是非をめぐる多くの議論がなされているが,上記のような言語政策を背景として,民族アイデンティティ構築手段の一環として位置づけられようとしている。
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