加藤 伸吾
研究ノート: 欧州安全保障・防衛政策(ESDP):創出、発展と日本
吉井 愛
研究ノート: 化学兵器禁止条約第2回運用検討会議評価 ―国際社会における安全保障に及ぼす影響―
田中 極子
研究ノート: 米太平洋軍の同盟マネージメント対策と市民社会との連携 ―えひめ丸事故とその後の友好関係―
中村 邦子
研究ノート: 国連における地域経済社会委員会の役割 アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の事例を通じた考察
薄井 次郎
研究ノート: モロッコ王国の「人間開発に係る国家イニシアティブ(INDH)」 ─貧困・格差問題と格差是正政策の観点から─
八田 善明
世界遺産条約のグローバル戦略を巡る議論とそれに伴う顕著な普遍的価値の解釈の質的変容
河上 夏織
国際機構におけるグループの政治力学 ─包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会を事例として─
齋藤 智之
スペイン「歴史記憶法」の成立過程(2004~2008年)(PDF)
加藤 伸吾
スペインにおいて先頃成立したいわゆる「歴史記憶法」の成立過程を概観し、その特徴を析出する。 同法は、スペインにおける歴史認識問題に対する「現時点での結論」としてみなしうるが、法案の作成及び審議は、難航を極めた。第一に、スペイン内戦及びフランコ体制の抑圧の犠牲者の高齢化が進み早期の法制化が叫ばれる一方、法技術的な難点や「合意重視」のスペインの政治文化の存在にもかかわらず、歴史認識問題に関わる各党の主張の距離が大きく、議論の成熟に多大な時間を要するという根本的なディレンマを抱えていた。第二に、そのディレンマの解決に際し、議会という場で交渉による政治的な決着が図られたことで、歴史認識問題の「結論」となるべき同法には、議会政治の政党間関係と交渉の論理(政党間合意の重視、地域主義との連関、及び絶対過半数を持たない与党)が大きく影響することとなった。
この点、例えばドイツにおいては、歴史認識問題の国家としての結論が、いわゆる「戦う民主主義」概念という、いかなる合法的政治勢力によっても異論を挟むことすらはばかられる理念として結実していることや、関連法制化のプロセスで市民社会からの直接参加度が高かったチリ、アルゼンチンなどの事例に比して、きわめて特徴的である。
研究ノート:
欧州安全保障・防衛政策(ESDP):創出、発展と日本(PDF)
吉井 愛
欧州連合(EU)は第2次世界大戦後の欧州における平和の定着と紛争予防を目的として誕生した。当初はその手段たる市場・経済統合が先行したものの、戦略的環境の変化等に後押しされる形で、次第に政治的な主体、さらには国際安全保障分野の主要アクターとして成長を遂げてきた。
本稿は、まずその過程において中軸となった欧州安全保障・防衛政策(ESDP)の創出と発展を整理する。その中で、EUが定義してきた危機管理能力の指標や、国連との関係等についても考察する。次に、ESDPミッションの事例としてアフガニスタンに展開するEU警察ミッションの概略を説明し、さらに、フランスEU議長国下(2008年後半)におけるESDPの現在について述べる。最後に、今後日本がEUとの行動指向型の協力を推進していく上での具体策を提案する。
研究ノート:
化学兵器禁止条約第2回運用検討会議評価
―国際社会における安全保障に及ぼす影響―(PDF)
田中 極子
2008年4月、化学兵器禁止条約の第2回運用検討会議が開催され、今後の条約の活動指針が定められた。本条約は、締約国における国内実施や産業検証体制を通して化学兵器の不拡散を確保し、国際社会の安全保障に資する意義のある条約である。しかしながら、締約国による国内実施措置が不十分であったり、産業検証体制の目的が明確でないことから、不拡散を効果的に確保することができていない。これは、締約国間において条約の解釈に相違があり、必ずしも化学兵器の不拡散が本条約の目的であると解釈する締約国ばかりではないのが現状であることによる。本稿の目的は、第2回運用検討会議において示された各締約国による条約解釈の相違を明らかすることにより、本条約が不拡散を目的として効果的に機能していない原因を示し、その結果、本条約が日本及び国際社会の安全保障に及ぼす影響を考察することである。
研究ノート:
米太平洋軍の同盟マネージメント対策と市民社会との連携
―えひめ丸事故とその後の友好関係―(PDF)
中村 邦子
2001年2月9日にホノルル沖で発生した米海軍の原子力潜水艦グリーンヴィル号の愛媛県立宇和島水産高校実習船・えひめ丸への衝突事故は、日米安全保障体制を揺るがしかねない事故であった。その対応として、米太平洋軍は事故後の支援・捜索活動と同盟体制を安定維持させるための政策及び世論形成対策としてのアライアンス・マネージメント(Alliance Management)を実施し、ハワイにおいて市民社会と積極的に連携することで、異文化理解と被害者や遺族への適切な対応に努めた。事故後のアライアンス・マネージメント及び市民社会の活躍が両地域間の中・長期的関係構築へと発展性のある関係に転化させた稀有な事象を取り上げる。
研究ノート:
国連における地域経済社会委員会の役割
アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の事例を通じた考察(PDF)
薄井 次郎
地域経済社会委員会は経済社会理事会の下部機関であり、現在地域毎に5つの委員会が設立されている。そのうち欧州経済委員会(ECE)やアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)は1947年に設立される等、これまで長い歴史を有しているが、その活動や役割については必ずしも広く知られているとは言えない。ESCAPについては、日本は1954年に加盟して以来、その活動に対し種々の面で支援してきたが、設立以来60年を経過した今、ESCAPを取り巻く状況も大きな変化を遂げてきたと言える。地域経済社会委員会はこの様な状況の変化に応じ、その役割を見直した上で新たな存在意義を強く発信する必要に迫られていると思われるところ、地域委員会の設立以来の歴史を振り返りつつ、今日的な意義についてESCAPの事例を通じた考察を行ってみる。
研究ノート:
モロッコ王国の「人間開発に係る国家イニシアティブ(INDH)」
─貧困・格差問題と格差是正政策の観点から─(PDF)
八田 善明
現代社会においては、先進国・途上国を問わず格差の問題が課題となっており、グローバリゼーションの下で、この問題は深刻化してきている。また、途上国における格差の問題について注目した場合、先進国との関係における国家間での格差、そして一国内でも例えば、都市部と地方村落部の間における地域間格差や、都市部における社会的格差といったものが課題となっており、併せて、貧困の問題も内包されている。
本稿では、特にモロッコ王国における貧困と格差(地域間及び社会的)の問題に着目し、近年国際的に貧困・格差問題に対する処方箋として実践されてきている参加型開発アプローチを採用したモロッコ政府による「人間開発に係る国家イニシアティブ(INDH)」を研究対象とし、中低所得国における貧困・格差対策の実例から、その実践と効果について分析を行うものである。
世界遺産条約のグローバル戦略を巡る議論とそれに伴う顕著な普遍的価値の解釈の質的変容(PDF)
河上 夏織
1972年にユネスコで採択された『世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約』は、「顕著な普遍的価値(OUV)」を有する文化遺産及び自然遺産を保護するために採択された条約である。世界遺産のキーワードであるこのOUVの解釈は条約の成熟や文化遺産及び自然遺産の概念そのものの変化・再考と共に変化してきた。また、記念碑的な遺産の記載が一段落した現在、世界遺産一覧表に世界の様々な地域・文化圏に存在する遺産をバランスよく記載し、それらを保護していくにはどうしたらよいかが改めて見直されている。本稿は、こうした議論の中で、OUVの焦点が生命の歴史や社会における生活の表現に移りつつあり、こうした変遷は単なる西欧的価値観に対する非西欧的価値観の導入としてのみ解釈されるべきではなく、方法論的、哲学的観点からの再考を促す問題であることを指摘している。
国際機構におけるグループの政治力学
─包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会を事例として─(PDF)
齋藤 智之
包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会の場裏では、複数の国から成るグループが意思決定に一定の関与を果たしている。本稿の目的は、このような国際機構におけるグループによる政治力学をCTBTO準備委員会を事例として解き明かすことにある。本稿ではまず、法的文書においてグループに相当する地理的地域の概念がいかに規定されているかを精査する。次に、政策決定の現場に視点を移し、地域グループおよび機能グループの実態と特性を描写する。最後に、これらの枠組みを類型化するとともに、その影響力について比較検討を試みる。筆者の評価によれば、特に昨今の先進国側と開発途上国側の対立を観察すると、地域グループの影響力が頭一つ抜きんでている面は否定できない。事実、EUとG77+中国が軸となり、そのほかの地域グループや主要国を交えて、議論の流れを形成していくのが近年の典型的な政治力学となっている。
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