川崎 晴朗
中鉢 奈津子
国際機構における職員任期政策と職員の身分保障問題 ─国際労働機関行政裁判所(ILOAT)の判例の意義と問題点─
阿部 達也
安藤 慶太
廣木 重之
国連安保理による「授権」行為の憲章上の位置づけに関する一考察 ─多機能化する多国籍軍型軍事活動を例として─
山本 慎一
川崎 晴朗
西田 充
川崎 晴朗
筆者は、本月報2006年度/No.3及び2007年度/No.1において、欧州共同体が第三国及び他の国際機関に派遣し、また第三国から接受した最初期の常駐代表部・事務所について述べたが、それでは、欧州共同体は国際法でいう使節権を享有しているといえるであろうか。
使節権はいわゆる国際交通権の一部であるが、従来は、たとえ高度に発達した国際機関といえども外交交渉、条約締結等の権利の行使を通じて国際交通に参加するにとどまっていた。欧州共同体は、これらの権利を行使するだけではなく、域外主体、とくに第三国と広範囲に常駐代表の派遣・接受を行なっており、しかも、これら常駐代表のステータスは、現在では多くの場合、国家間を往来する外交使節のそれと同一、またはそれにきわめて近い。
筆者は、国際法でいう国際交通権をごく狭義に解釈するのでない限り、国際社会を構成するほとんどの国(社会主義諸国を含む。)が、欧州共同体は従来の国際機関以上に国際交通権を幅広く享有すること、具体的には使節権がこれに包含されることを広く認めるに至った、と結論したい。また、この事実が、欧州共同体がしばしば「超国家的」な国際機関であるとされる内在的な原因の一つであると考えたい。ただし、欧州共同体が第三国等と常駐使節を交換するという慣行につき、国際社会を構成する諸国の多くがこれを法規範に属するものと確信するに至ったのがいつであるかを確定することは、きわめて困難である。
欧州共同体は、欧州評議会が制定した「ヨーロッパの旗」及び「ヨーロッパの歌」を1980年代から使用するようになった。同評議会及び欧州委員会は、これらの標章の尊厳を維持することに責任を負っている。本稿では、欧州共同体がいかにしてこれらの標章を採用するに至ったかについてもふれる。
中鉢 奈津子
本稿は、近年のハワイ日系人の人口的・社会的・経済的特徴を考察することを目的とする。主に米国国勢調査データを用い、ハワイ日系人の人口統計・教育達成度・所得・職業・社会進出度を、必要に応じて全米の日系人やハワイの他の民族グループと比較しつつ明らかにする。
本稿の主な知見は以下のとおり。ハワイの日系人は、州内総人口に占める割合は低下傾向にあるものの、現在も州人口の約四分の一を占め、マイノリティである米本土日系人とは異なった状況にある。また、ハワイの日系人は、他の民族グループと比較すると教育達成度・経済的達成度が共に高く、政界への進出も顕著であり、ハワイのミドルクラス~アッパーミドルクラスを堅実に占める傾向がある。
国際機構における職員任期政策と職員の身分保障問題
─国際労働機関行政裁判所(ILOAT)の判例の意義と問題点─(PDF)
阿部 達也
包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会と化学兵器禁止機関(OPCW)は、いわゆる職員任期政策を採用する数少ない国際機構であり、職員の在職期間が原則として最長7年に制限されている。この職員任期政策の適用をめぐって、両機構と職員との間でそれぞれ争いが生じ、国際労働機関行政裁判所(ILOAT)に対して二つの訴訟が提起された。本稿の目的は、国際機構における職員任期政策の導入とその適用に起因する職員の身分保障の問題に関し、ILOATの判例の意義と問題点を明らかにすることにある。前半では、判例の分析の前提として、両国際機構が職員任期政策を採用し実施するまでの過程を明らかにする。いずれも職員任期政策の採用そのものについて早々に合意していながら、実際に採用が決定されたのは両国際機構の設立後となり、また職員任期政策の開始時期をめぐる意見の不一致からその実施がさらに遅れるという経緯を辿っている。後半では、職員任期政策に関連する論点を中心に、ILOATの二つの判例を分析する。筆者の評価によれば、一方で、職員任期政策と職員規則との合致および任用書と法源との連関につき意義のある判断が示され、他方で、不遡及原則の適用方法および契約不更新の理由の正当化については疑問が残る。
安藤 慶太
本稿は、ライス国務長官の変革外交のうち、何がライス外交の遺産として残るかを考察した。2つの分析手法を用いた。第1に、変革外交が誕生した背景を考え、それが変化した場合の変革外交に対する影響を考察した。第2に、変革外交に対する様々な批判を吟味した。その結果、変革外交がライス国務長官の個人的な外交観、時代認識を背景に生まれた点は、別の国務長官が就任した際に忘却される可能性が高いが、変革外交の5つのイニシアティブは、種種の批判に晒されてはいても、米外交に影響を及ぼし続けると結論した。とりわけ、変革外交を担う新しい外交官像(「変革外交官」)が生まれるメカニズムを指摘するとともに、変革外交が直接触れない「国務省の自国民への接近」という米外交の課題が、変革外交の存続に重要であることを指摘した。
廣木 重之
本稿は、わが国ODA実施体制が適切に時代の要請に応えてきたか検証しようというものである。英、米、仏いずれの国の援助機関も、その置かれた時代背景のもとで誕生・進化してきている。
翻ってわが国外務省に経済協力部が創設されたのは1959年であり、アジア局賠償部と2本柱で国際社会への復帰に向けて諸努力が行われた。1972年の世界穀物市場の混乱、1973年の石油ショックを経て、JICA設立構想が急速に具体化し、1974年に正式に発足した。44年間定着していた経協局が 2006年には国際協力局に改組された。最大の変化はODA事業の立案における重点化と選択と集中の一層の推進である。
ODAは、開発途上国の経済成長と貧困削減という大きな目標を掲げつつも、日本の顔が見え、感謝される援助となって「外交力強化」に貢献できるものとなることが求められている。そのためには効果的なODAの実施体制を整備し、有能な人材を育成し、真に成果を生むプロジェクトを実施していくことが益々大切になっていくであろう。わが国ODA関係者は、今後とも国内外にしっかりとしたアンテナを張り、適切に時代の要請を吸い上げていくよう日々努力しなければならない。
国連安保理による「授権」行為の憲章上の位置づけに関する一考察
─多機能化する多国籍軍型軍事活動を例として─(PDF)
山本 慎一
冷戦終結後、国連安保理が活性化して多数の決議が採択される中で、安保理が加盟国に対してあらゆる必要な手段の行使を許可し、いわゆる多国籍軍が組織される実行が繰り返されるようになった。本稿は、1990年代から現在に至る多国籍軍型軍事活動の展開に着目し、任務内容が多機能化している現状を捉えた上で、安保理による武力行使の「授権」行為が、国連憲章上どのように位置づけられるのかを考察するものである。
「授権」行為を規定する安保理決議では、一般的に憲章第7章に言及されるのみであり、具体的な憲章条文に基礎づけられていない。しかし本稿は、「授権」に係る安保理決議の形式やその性質から、「授権」行為を第7章中の具体的な条文規定に根拠づけられることを指摘し、その憲章上の位置づけを明らかにする。
研究ノート:
欧州共同体が派遣した初期の代表部・連絡事務所(PDF)
川崎 晴朗
三つの欧州共同体--欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)、欧州経済共同体(EEC)及び欧州原子力共同体(ユーラトム)--は、その草創の時期、ECSC については最高機関、他の二つについてはそれぞれの委員会が、域外第三国及び国際機関のいくつかに常駐の代表部または連絡事務所を置いた。すなわち、最高機関は1952年、欧州経済協力機構(OEEC)に、1956年、イギリス(当時は欧州共同体に未加盟であった。)に、そして1964年、ラテン・アメリカに、ユーラトム委員会は1960年、米国に、またEEC委員会は1964年、ジュネーヴに、それぞれ代表部等を開設した。最高機関及び二つの委員会は、 1967年7月、EC委員会となったが、これに伴ない、それまでに設置された代表部等はEC委員会の代表部等に変貌した。EC委員会(1993年11月より欧州委員会)は引き続き第三国及び国際機関に数多くの代表部等を設置、現在その数は120を超える。
本稿は、最高機関及び二つの委員会が域外に置いた最初期の代表部及び連絡事務所の沿革を記述したものである。これら代表部及び事務所のステータスは概して低く、また、相互の間には代表・事務所長の資格、信任(着任)の手続、代表部の名称及び享受する特権・免除の内容等にかなりの差異があった。しかし、半世紀を経た現在では、欧州委員会の代表のほとんどは派遣先の国・国際機関から国家間で交換される外交使節と同じ、またはこれにきわめて類似する地位を与えられている。その上、委員会の代表を接受している国には、いまやあらゆる政治・経済体制をもつものが含まれている。
本稿では、建設期の欧州共同体の許に多くの第三国が外交ステータスをもつ代表部を続々と設置したことにくらべ、EC委員会及びその前身となる各委員会(ECSCについては最高機関)が第三国及び国際機関に対し常駐代表を置くという慣行についてはその定着がやや遅れた理由、欧州憲法が実施された場合、現在の欧州委員会の代表部(「EU代表部」となる。)のステータスに加えられるであろう変革等にも触れる。
西田 充
2003年5月にブッシュ米大統領が発表した「拡散に対する安全保障構想」(PSI: Proliferation Security Initiative)は、冷戦後の国際社会における脅威認識及びそうした脅威に対処するための手段が変化する流れの中で徐々に形成されてきた必然的な概念であった。同年9月に合意された「阻止原則宣言」は、変化する脅威に対して柔軟な対応が可能となるよう可能な限り曖昧な表現に留められた。PSIは国際法違反ではないかとの批判が強いが、同宣言において、PSIの活動は一般的に国際法の範囲内で行われることと明記された。しかし、PSIは、単に国際法の範囲内で活動するのではなく、国際法及び国内法を現実の脅威に合わせて強化することも目標の一つとして掲げられており、実際にそのような動きが見られている。引き続き、そうした国際法及び国内法の強化に関する多国間の努力を継続する必要がある。
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