倉田 徹
小林 成信
研究ノート: イラン・イスラム共和国における経済自由化プロセスの特色 ─シーア派教義とイラン対外経済関係の構造分析─
田中 福一郎
研究ノート: 我が国のODA世論の把握とその調査方法についての一考察 ─インターネットニュース記事選考分析から得られた我が国国民のODAに対する評価─
塚本 剛志
先進国水道事業の規制改革 ─持続可能な水利用の実現に向けて─
辻本 政雄
西川 圭輔
中央アジア諸国経済の域内協力プロセスの特色 ─シルクロード地域経済圏の一考察─
田中 福一郎
松村 正義
小林 成信
南コーカサス地域のエネルギー輸送 ─原油及び石油製品を中心に─
篠原 建仁
研究ノート: 「チューリッヒ演説」の一解釈 ─チャーチルと戦後の欧州統合運動─
川崎 晴朗
民主化に対する中国中央の態度
─香港の民主化運動を例に─(PDF)
倉田 徹
2003年から2004年にかけての香港の民主化運動は、中国胡錦濤新政権の民主化問題に対する態度を知る上での試金石であったが、結局中国中央は普通選挙を認めない保守的な決定を下した。中央が香港の普通選挙を認めない理由には、香港の安定を優先する、民主化は民主派の権力奪取の口実である、民主化は外国の中国への内政干渉の口実である、民主化は香港の独立をもたらす、民主化は大陸の内部に悪影響を波及させるなどの、香港内部・中央-地方関係・国際関係にまたがる様々な理由が挙げられた。しかし、普通選挙を否定する中央の政策決定には躊躇も見られ、中央最高指導者の発言は曖昧であり、中央が香港の民主化運動をむげに否定できないと言う限界も見られた。
対イラク武力行使における米国ナショナル・ガードの役割(PDF)
小林 成信
2003年3月、米国は世界各国からの軍事的支援が限定されている中で対イラク武力行使を開始した。本稿ではこの武力行使において米国ナショナル・ガードが果たした役割について分析を行うこととし、また、今後のナショナル・ガードの役割についても展望する。
米国ナショナル・ガードは米国独立以前の民兵を起源とし、平時においては全米各州の州兵として勤務し、緊急時には連邦軍に編入される。このようにナショナル・ガードは連邦の任務と州の任務を負っているが、最近では連邦での活動が徐々に増え、海外にも展開している。
他方、米国連邦軍の対イラク武力行使における展開能力は、湾岸戦争時より60万人も減少しており、米国ナショナル・ガ-ドが軍事面で果たす役割は大きい。2003年初めにはナショナル・ガードにも緊急に動員令が発せられており、ナショナル・ガードの動員は2004年にも続いている。
米国ナショナル・ガードは政治力を強化してきた歴史を有し、各州の将兵やコミュニティーを通じての州内での影響力は大きく、ナショナル・ガードが参加することで州民の対イラク武力行使への理解、賛同を得ることに貢献してきた。このようにナショナル・ガードは対イラク武力行使という米国の安全保障政策を遂行する上で、軍事面及び政治面での役割を担ってきた。
しかしながら、米国ナショナル・ガードの展開能力にも限界があり、また米国民の対イラク武力行使に対する否定的な世論の中では米国民からの賛同を得るのも容易ではない。さらに、ナショナル・ガードの連邦化が進展することで、ナショナル・ガードの安全保障政策面での役割自体が長期的に変化する可能性も指摘できる。
研究ノート:
イラン・イスラム共和国における経済自由化プロセスの特色
─シーア派教義とイラン対外経済関係の構造分析─(PDF)
田中 福一郎
本稿では、イランにおける経済自由化のプロセスにつき、考察を試みる。現在のイランは、ホメイニ師によるイスラム革命から四半世紀を経て、革命を経験として知らない世代を中心にあらたな社会変革を希求する兆候が顕在化してきている。こうした国民意識の変化も踏まえ、イラン内政の諸側面について観察の上、今後の経済自由化プロセスの行方につき考察したい。結論として、経済自由化のプロセスについては、現体制下での保守派、改革派の対立の中で現実派が今後キャスティング・ボートを握るであろうとの推論に至るところ、イランの統治構造・法制度機構から考察を試みる。
研究ノート:
我が国のODA世論の把握とその調査方法についての一考察
─インターネットニュース記事選考分析から得られた我が国国民のODAに対する評価─(PDF)
塚本 剛志
一般国民の広範な支持・理解の下に実施すべき政府開発援助(ODA)であるが、世論は賛否両論である。これまでアンケート調査による世論調査が実施され、一般国民の対ODA感情を明らかにする試みは行われているものの、果たしてどのような点においてODAに賛成し、また反対しているのかについて個別具体的な実情までは明らかにされていない。そこで、本稿では世論形成に大きな影響を及ぼす媒体である各新聞社のODA関連ニュース記事及びその他情報における選好を詳細に分析することで、それにより醸成されるODA世論の個別具体的な在り様を明らかにすることを目的とする。また、本稿でサンプルとして扱うデータは、一般国民が手軽にアクセスし得るインターネットによる情報のみに限定し、世論の実態をより詳細に把握するためのツールとしてのインターネットの有効性についても検討する。
先進国水道事業の規制改革
─持続可能な水利用の実現に向けて─(PDF)
辻本 政雄
水道事業では今日、従来からの要請である公衆衛生や安定供給、社会的結束の確保などを一層高い水準で実現するとともに、効率性の向上や行財政運営の適正化、顧客満足度の向上、情報公開・説明責任の確保や民主的プロセスの重視、環境保護対策などの要請に応えるべく、規制改革が実施された。しかも、知見の共有により、改革の国際的な普及が見られる。そこで、本稿では、学術的な研究と水問題解決への指針提供を目的とし、水道事業における規制改革の意義が持続可能な水利用の実現を目指したガバナンス能力の向上にあることを述べる。
NZにおける南太平洋島嶼国系住民の経済状況とその課題(PDF)
西川 圭輔
ニュージーランド(NZ)は、その地理的な位置関係から南太平洋島嶼地域と非常に密接な関係を有してきた。20世紀以降の経済関係については、貿易を通じた「モノ」の往来のみならず、移民制度等の影響による「ヒト」の流れも活発化しており、現在NZ国内に居住する南太平洋島嶼国系民族の割合は全人口の7%近くに達している。それに伴い南太平洋島嶼国系住民のNZ経済・社会に果たす役割や貢献も近年になりようやく強く認識され始めてきており、彼らの経済社会状況を的確に把握することは、多民族化するNZの今後の経済運営の方向性を考察する上でも重要な要素である。
本稿ではNZにおける南太平洋島嶼国系住民の人口変化、社会環境、経済状況、政府の取り組みについて分析を行い、今後の課題を考察する。
中央アジア諸国経済の域内協力プロセスの特色
─シルクロード地域経済圏の一考察─(PDF)
田中 福一郎
1989年にベルリンの壁が崩壊し、91年にはソ連邦が解体され、ロシアほか多数の独立間もない諸国によりCIS(独立国家共同体)が結成されてはや10年余りが経過した。
中央アジア諸共和国はモスクワの中央集権による計画経済体制の軛から解放されはしたものの、逆にモスクワからの助成を殆ど失うなかで、それぞれが市場経済への体制移行を強いられてきた。
以下においては、中央アジア単一市場に関する関税同盟や自由貿易協定等の動向、この地域の石油・天然ガスを有する資源諸国の域内競合と協力の関係、上海協力機構等の多国間協力モデルの評価を通じ、中央アジアの域内協力の我が国にとっての意義を探る。
松村 正義
20世紀初頭の日露戦争は、アジアの一新興小国がヨーロッパの一大強国に対し敢えて死活の戦いを挑むという、いやが上にも国際的な関心の高まりを呼んだ大事件であった。世界の主要な新聞社・雑誌社・通信社からは、1904年2月6日に日露間の国交断絶が伝えられ、10日には両国相互間に宣戦が布告されるや、それぞれの戦地派遣を希望する記者らの日本軍従軍許可申請が、日本政府に矢継ぎ早に提出された。日本軍当局としても、報道の重要性についてはそれなりに認識していて、従軍申請を行なったそれらの外国新聞記者には一定の割合いで従軍許可を与えた。そして3月5日には、『外国通信員諸君ニ告グ』と題した外国新聞記者への従軍注意事項などを、従軍を許可された外国新聞記者らに英文で配布した。また海軍当局でも、同月28日に外国新聞記者らの海上での通信活動に関して、『従軍外国通信員海上通信規定』を英文とともに布令した。
しかし日本の陸海軍当局では、作戦の機密が敵側に知られてしまうとして、彼ら外国新聞記者らが戦場へ赴いて取材することまでは認めなかった。その代わりに同軍当局では、彼ら記者を日本の内地に滞留させて精々ご馳走したり娯楽場へ案内するという方途に出た。こうなると、彼らの本社では、経費が嵩むばかりで一向に原稿が送られて来ないということになって、その結果、日本に滞留する記者らにもまた各新聞の本社でも不満が募るばかりであった。しかも日本軍当局の待遇に不満な外国新聞記者らの中には、本国へ帰ってしまったばかりか、日本に不利益な記事を彼らの新聞に掲載し始めたので、日本の外債募集にまで好ましくない影響が出始めたのである。
こうなると、憂慮したのがワシントン駐在の高平小五郎公使であり、また開戦後まもなく渡米して米国世論の対日友好化に尽瘁していた金子堅太郎男爵であった。両人は、軍の機密保持については十分理解できるとしながらも、米国や国際世論の親日化という観点からもう少し再検討できないものかと本国政府へ訴えた。そのため、同年9月16日に山縣有朋参謀総長から大山巌満洲軍総司令官あてに訓令が発せられ、外国新聞記者には軍の機密に抵触しない限り努めて懇切寛容に処遇すべきことが命じられた。同訓令の要領は、すぐに米国の諸新聞にも掲載されて報道され、外国新聞記者らの怨嗟の声も次第に減却していった。
金子によると、米国政府では、日露戦争の終結後に彼らの軍事当局者を日本へ派遣して、同戦争の開始後まもなく日本の陸海軍当局が作成して実行した外国新聞記者従軍規則やその実施状況について調査させ将来への参考にしたという。今年は日露戦争開始100年に当たるが、同戦争の開始後まもなく日本政府の鋭意制定して実施した外国新聞従軍記者規則がその後の戦時の関係規程の制定や実施をめぐって欧米諸国のモデルとなったというのも、記憶されてよいであろう。
米国の対EU拡大政策
─自由貿易協定(欧州協定)への戦略─(PDF)
小林 成信
2004年5月、EUは中・東欧諸国を加え、15ヶ国から25ヶ国に加盟国を拡大した。このような大規模な拡大に際しては、EU及び新規加盟国以外の第 3国に対して経済的に大きな影響が及ぶことが容易に予想される。本稿では、EU域外国として米国がこのEU拡大の影響の中で、特に否定的な影響に対してどの様に対応してきたかを分析した。
この分析の過程で、米国は、新規加盟国がEUに加盟する以前に、この種の否定的な問題が発生する可能性を認識し、関税面での対応策を模索したことを明らかとする。そして、米国はこの問題につき新規加盟国と協議を重ね、貿易関係が大きい主要国を中心にかなりの成果を上げることができた様子を示すこととする。
本稿では、米政府が何故このような成果を獲得することができたのか、米国の対応策策定の背景につき、当時の状況を振り返り分析を加える。この分析により、米国は、通商政策を重視する傾向を踏襲し、その手法としては単独主義的な傾向をも含んだ政策実施のための組織を応用し、かつ、新規加盟国との間で使用可能となった一般特恵関税制度(GSP)などの政策手段を効果的に活用し、また、前回のEU拡大の際に培った経験などを参考とし、今回のEU拡大に効果的に対処したことを確認する。
更に、EU域外の他の先進国である日本、カナダが、この問題に対し、米国のようには対応しなかったことから、その理由が、米国との政策背景の違いにあることを説明し、EU拡大が及ぼす否定的な影響の性質は、一見、同種であっても、各国のおかれた事情により対処振りは異なることを結論づける。
南コーカサス地域のエネルギー輸送
─原油及び石油製品を中心に─(PDF)
篠原 建仁
アゼルバイジャン、グルジア両国を中心とする南コーカサス地域は、アゼルバイジャンのみならずカスピ対岸のカザフスタン及びトルクメニスタン両国が原油を中心に増産を予定する中、バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)・パイプラインが完成することで、原油・石油製品の輸送路として重要性を高める。
輸送関連収入の増加は、南コーカサス両国の安定的な発展に貢献する。筆者の試算に拠れば、2010年に両国合計で最大約12億ドル超の増収となる。
日本は、既にカスピ海海上油田への出資、BTCパイプラインへの資金・資材供給等を通じ、南コーカサス地域へ積極的に関与しつつある。同地域の安定を促進すべく、鉄道・港湾等の輸送インフラ整備、カスピ海海上輸送力強化、輸送効率改善等ソフト面での技術支援を行うべきである。
研究ノート:
「チューリッヒ演説」の一解釈
─チャーチルと戦後の欧州統合運動─(PDF)
川崎 晴朗
1946年9月、イギリスのチャーチル前首相はチューリッヒで演説を行い、“Council of Europe”の設立を訴えた。そして1949年8月、実際に“Council of Europe”(欧州評議会)の名称を持つ国際機関がフランスのストラスブールに誕生した。しかし、欧州評議会はチャーチルの提案がそのまま実現したものではない。例えば、チャーチルは“Council of Europe”をヨーロッパ大陸諸国、とくに仏独両国の協調の場として考えていた。しかし、実際にはイギリスは欧州評議会の原加盟国の一つであり、ドイツは1951年5月になってようやく加盟を認められた。また、チャーチルは“Council of Europe” を「欧州合衆国」建設の第一歩と規定したが、欧州合衆国という考えは、伝統的国際機関の特徴を色濃く残す欧州評議会より、むしろ欧州共同体により強く具現されているのではないか。これは、1950年5月9日にフランス政府が発表し、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)を生むきっかけとなった「シューマン宣言」からも明白である。
チャーチルの「チューリッヒ演説」は古くから唱えられてきた欧州統合の理念を踏まえ、第2次世界大戦中いわば休眠状態にあった欧州統合の実践的な運動に強い刺激を与えたもので、欧州評議会のみならず、欧州共同体の設立にも影響を与えたことは否定できないと思う。
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