ソ連邦解体後のカスピ海イスラム資源地域:アゼルバイジャン ─エネルギー新生国家の体制移行10年の過程─
田中 福一郎
ユーロリージョンの役割と展望 ─カルパチア山脈周辺を事例として─
吉田 康寿
阿部達也
1962年ミャンマー軍事クーデターの背景要因としての外部介入 ─米国国務省外交記録を中心として見たその経緯─
熊田 徹
辻本政雄
欧州連合のアイデンティティと自立性 ─グローバリゼーション環境における自律性の観点から─
八田善明
小林成信
研究ノート: 米国の対イラン経済制裁と国際投資 ─イラン・リビア制裁法を巡る事例分析─
田中福一郎
「オーストラリアの移民政策と不法入国者問題 ─「パシフィック・ソリューション」を中心に─
浅川晃広
墓田 桂
ソ連邦解体後のカスピ海イスラム資源地域:アゼルバイジャン
─エネルギー新生国家の体制移行10年の過程─(PDF)
田中 福一郎
ソ連邦解体後10年を経たカスピ海のイスラム資源地域が新生国家として安定していくことは、延いて国際エネルギー事情の安定にもつながる重要な要素である。この点につき、同地域の代表的なエネルギー新生国家アゼルバイジャンを一事例として取り上げ、氏族政治構造、体制移行する経済構造に加え、この地域特有のイスラムの要因をもう一つの柱として分析し、さらにこの地域の地政学的な諸条件の観点からの分析の総合を試みた。
これらの観点から、氏族政治の継承としての新大統領が誕生した現時点で導きだされる今後の方向性として、アゼルバイジャンは短期的な諸障害を克服する潜在力をもち、中長期的に安定していく傾きにあるということを指摘しておきたい。
ユーロリージョンの役割と展望
─カルパチア山脈周辺を事例として─(PDF)
吉田 康寿
現在の欧州では、EU拡大や国家主体の下位地域協力が進展している。しかし、欧州には、もう一つの流れがある。それは、近隣諸国と国境を接する地方自治体間における準下位地域協力「ユーロリージョン」である。冷戦後、西欧諸国の国境領域と同様、旧共産圏下にあった地方自治体間においても、そうした協力が行われるようになった。本稿は、ユーロリージョンが位置する地域を「準下位地域」として概念付け、旧共産圏下において最初に創設されたカルパチア・ユーロリージョンを事例研究として取り上げた。そして、それが機能するための条件を、その機構枠組みや活動といった内的要因、民族分布や中央政府の動向などの外的要因から包括的に探り、その役割と展望について欧州統合との関連から論じた。
ブスターニ事件
─ILO行政裁判所第2232号判決─(PDF)
阿部達也
化学兵器禁止機関(OPCW)締約国会議第1回特別会期は、ブスターニ事務局長の任期を中途で終了させる決定を行った。これに対して、ブスターニ前事務局長は、右終了決定を不服として決定の破棄を求める訴訟をILO行政裁判所に提起した。本件はILO行政裁判所にとって、国際組織の長の任期終了決定の合法性を審理する初めてのケースであり、内部救済手続の完了、人的管轄及び適正手続原則などの論点に関して興味深い判断が示されている。本稿の目的は、ILO行政裁判所の判例に言及しつつ本判決を分析することにある。筆者の見解によれば、判決は、国際組織の権限及び国際組織の長の身分保障につき大きな意義を有すると同時に、裁判所の人的管轄権とくにILO行政裁判所規程及びOPCW職員規則の適用に関して問題を残している。
1962年ミャンマー軍事クーデターの背景要因としての外部介入
─米国国務省外交記録を中心として見たその経緯─(PDF)
熊田 徹
ミャンマーの1962年クーデターは、同国政治軍事化の結節点となった事件であるが、その記述・評価は定まっていない。たとえばSilversteinはそれが英国植民地統治がもたらし、ウ・ヌ時代に根付いていた議会制民主主義を破壊したと見るが、Taylorは1942-62年の間に瓦解しかけていた「国家」が同クーデターにより再興した、と論ずる。他方、両者ともこれを同国内政枠組内の問題として扱っている。
しかし、米国国務省外交史料集は、クーデターの主要因がラオス危機対策として立案されたSEATO Plan 5 Plusなる作戦計画であったことを示している。本稿では、その経緯を、同作戦計画採択前後期における米政府内の「正統派外交」政策対「不正規戦争」政策の軋轢や各種の秘密工作とミャンマー国内政治との連動関係のなかで、辿ってみる。
辻本政雄
本稿では、電力改革が進展する要因を解明し、改革の進展が有する意義について考察する。その例として、中欧3カ国(チェコ/ハンガリー/ポーランド)を取り上げる。
中欧の電力改革は、EUの電力改革とは出発点が異なるものの、改革が実施された要因は同じである。さらに、改革による構造変化は中欧各社の企業行動の改革を通じて成果を生んだ。その際、外資と国際協力も一定の役割を果たした。
中欧の電力改革は、全欧州の繁栄という観点では、国際的なエネルギー政策の方針転換により、欧州の統一電力市場を東側から支える責務を負い、公企業改革の方針転換という観点では、社会的に調和の取れた経済発展を目指す政策転換が実施されるようになった点で、中欧の産業政策史上、時代を画する意義を有するといえるのである。
欧州連合のアイデンティティと自立性
─グローバリゼーション環境における自律性の観点から─(PDF)
八田善明
欧州連合(EU)は、歴史的な2004年の中・東欧等10か国の加盟による拡大や欧州憲法条約の検討等により、我が国のみならず、国際社会におけるプレゼンスがこれまで以上に高まっている。ECからEUへ、そして更なる拡大へと向かう欧州は、何を求めて統合の深化と拡大を推進しているのか。EUの統合研究へのアプローチにあたっては、EUの構成要素たる加盟国間の関係も重要であるが、ここではなるべくEUを総体として捉え、EUの個々の行動や政策を概観することによって、様々な分野におけるEUの自立性への志向を明らかにしたい。その過程で、EUとしての価値観、いうなればアイデンティティをどのように域内で維持し、発展させ、また国際場裏においてそのアイデンティティをどのように反映し、確立していくのか。EUのグローバリゼーション環境における自律性の前提としての自立性の性格と実態を分析する。
小林成信
2002年11月、NATOはプラハ首脳会合にて加盟予定国のと協議開始を決定し、そのわずか4ヶ月後には加盟協議を終了している。これまでNATOは政治的な文脈から加盟を決断し、EUのような厳しい加盟交渉を行わないと言われてきた。しかし、最近の文書によると、加盟手順に関する透明性が向上しており、NATO拡大の手順に変化の可能性が伺える。
本稿では、NATOの加盟国手順についてNATOの基本文献並びに最近の具体例としてハンガリーの加盟事例を検討することでこの状況を模索したい。まず、ハンガリーの加盟協議に関するプレスリリースや加盟議定書などの文書が加盟手順についてどのように規定しているかを参照し、次に加盟協議での主要な協議項目について、ハンガリーはどの様な準備を進めたのか実体面につき検証する。これにより最近の加盟手順の傾向を指摘することで、今回のプラハ首脳会合以降のNATO加盟手順がどのように進められるのか探ることとしたい。
研究ノート:
米国の対イラン経済制裁と国際投資
─イラン・リビア制裁法を巡る事例分析─(PDF)
田中福一郎
1996年に成立したイラン・リビア制裁法(Iran Libya Sanctions Act, 以下ILSA)は、2001年8月5日に米国上下両院の多数をもって5年間の延長がきめられている。他方でILSAは国内法の域外適用を明示的に打ち出したものとして国際法上の違法性が論議される立法例とされている。
本稿では、まずILSAの制定目的につき述べ、制裁手段の第三国にかかる域外適用について国際法上指摘しうる問題点につき分析する。次ぎに運用上、米国務省が適用回避措置を発動したサウス・パース・ガス田開発投資プロジェクトを検証し、右ILSAの構造を事例的に分析する。最後にILSAの域外適用から生ずる、米国の管轄権と第三国企業権益の対立の調整に関する視点として、域外適用に対する第三国の対応措置の類例を分析する。結びにかえて日米対話でのチャネルでのILSAに関する日本国政府の対応措置の推移を概観し、総括するこことしたい。
「オーストラリアの移民政策と不法入国者問題
─「パシフィック・ソリューション」を中心に─(PDF)
浅川晃広
オーストラリアにおける移民政策においては、その数による統制といった特徴から、国内で難民申請を行う不法入国者は、難民認定されれば受け入れる義務が生じるため、大きな課題となっていた。こうした不法入国問題への対応は、1990年代後半から強化され、沿岸警備力の強化、国際的協力の模索などを通じて行われた。しかし、こうした措置は期待した成果がなく、結局いわゆる「パシフィック・ソリューション」では、オーストラリアの一部の領土に漂着した不法移民を海外の収容所に移送し、そこで難民認定を行うという措置が導入された。これは、本来ならオーストラリア国内で難民申請を行っていた者を、海外に移送することにより、政府の裁量により受け入れを決定できるようにするという意味で、あくまでも、オーストラリアの移民政策の基本的枠組みを維持しようとするものであった。
国内避難民(IDP)と国連
─国際的な関心の高まりの中で─(PDF)
墓田 桂
「難民」と同様の境遇にありながらも、国境を越えていないという理由で国際的な保護を受けることができなかった「国内避難民」の存在は、1990年代、国際の場における取り組みを通じて国際社会の関心事項となった。これまで、既存の人権法・人道法の保護規範を統合し、国内避難民の保護に適応させるべく「国内避難民に関する指針」が策定され、また国内避難民の問題に対処する国際機関の間において活動調整が強化されつつあるなど、保護の枠組み構築に向けた努力が重ねられてきた。本稿は、こうした取り組みとともに、国連難民高等弁務官事務所の活動、さらには国連安全保障理事会による対応にも考察を加え、国連システムが国内避難民の問題にどのように取り組んできたかを検証し、この問題の全体像に近づこうとするものである。
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