記者会見

吉田外務報道官会見記録

(令和3年1月20日(水曜日)15時45分 於:本省会見室)

米国情勢(トランプ政権の評価)

【朝日新聞 北見記者】日本時間の明日未明をもってトランプ政権が終わるわけですが、この4年間の評価をお願いできますでしょうか。
 
【吉田外務報道官】ご指摘のとおり、明日バイデン新政権が発足することになります。
 この間、過去4年間は、トランプ大統領の下で、トランプ政権との間で、日米関係、日米同盟を一層強固なものにするように推進してきたわけです。この間、昨日も茂木外務大臣からの言及がありましたが、日米間におきましては、日米貿易協定、デジタル貿易協定といった、重要な経済協定を締結することもできました。
 それから日本が推進をしている「自由で開かれたインド太平洋」構想につきましても、日米同盟を基に多くの国を巻き込んで理解を広げていく、そういった取組ができたと思います。
 特にトランプ大統領との間の、首脳レベルの個人的な関係ということもありましたので、これまでの日米同盟の強固な関係は一層強化されたと認識をしています。
 明日発足するバイデン新政権、当面、巷間言われていますように、大統領選挙のプロセス等も含めて、露わになってきた米国国内における分断を克服するために取り組まれるというふうに承知しています。
 新政権の下におきましても、更に日米同盟が一層強固なものになるように、早い段階で新しい政権との間の話合いをスタートしたいと思っていますけれども、まずは米国における、そういった分断への取組であるとか、国内のコロナ対策であるとか、そういったものへの取組について、我々としても大きな関心を持って注視していきたいと、このように思っています。

在日米軍駐留経費交渉

【朝日新聞 北見記者】その上でお尋ねいたしますが、前政権時代の宿題と言っていいかと思いますが、ホストネーションサポートの交渉に関して、未だ妥結していない状態だと思います。現在までの交渉の状況はどのようなになっているかという点と、新政権への移行によってどのような影響を受けるか教えてください。
 
【吉田外務報道官】ご質問のあったホストネーションサポート、駐日米軍駐留経費に関する特別協定は3月で期限が来ますので、昨年、何度か対面も含めて交渉が行われてきています。現時点において、ご指摘のように、まだ妥結に至ったという状況にはありません。
 日本を含めたこの地域を取り巻く厳しい安全保障環境、これにどのように対処するかという観点から、在日米軍の存在はその中核にあるわけですので、新しい状況に対する対処も含めて、新政権の下においても、この交渉を鋭意進めてまいりたいと思っています。
 他方、日本における厳しい財政状況というのも一つの現実です。それから、今回政権をまたいでこの交渉が継続されるのもかつてないことですので、そういった状況を十分踏まえながら、引き続き交渉を加速していきたいと考えています。現時点では、これ以上のことを申し上げられる状況にはまだ至っていません。

東アジア情勢(日米の連携)

【NHK 渡辺記者】まずバイデン政権の誕生に向けてのことで伺います。今の質問にも関連するのですが、今度新政権ができたときに、東アジア情勢、日本から見ても懸念される東シナ海の問題、そういったことについての東アジア情勢、北朝鮮の問題もありますよね。そこに対する、そういう状況の中での米国の新政権との関係、新政権の関与と言ったらいいのか、どうやって日本としては連携して諸問題に取り組んでいきたいのか、東アジアの。その辺の、トランプ政権のときとどう変わるのか、あるいは変わらない部分は変わらないのか。その辺の東アジアの日本を取り巻く状況の中での、新政権との関係というのは、どういうふうに構築していきたいと、日本としては考えていらっしゃるのでしょうか。
 
【吉田外務報道官】いろいろな機会に申し上げていると思いますけれども、日米同盟、これは要するに日米二国間に留まらず、この地域、特に東アジア、それからインド太平洋、こういった地域、ひいては世界の平和と安定に資する、そういった関係に成熟してきていると認識をしています。
 繰り返し申し上げていますけれども、この地域における安全保障環境はますます厳しくなっていると。ご指摘のあった東アジアにおける、様々な問題、あるいは懸案、こういったことについては、従前から米国との間ではあらゆるレベルで意思疎通を図ってきていますし、そういったものに対する取組、あるいは防衛上の、安全保障上の備えといったものに対する、日米の間における役割分担であるとか、その機能の強化といったことについて、取り組んできているという状況にあります。
 日米同盟については、ご案内のように、米国国内におきましては超党派で支持が得られていますし、今回発足する新しいバイデン政権、多くの、主要なそういった安全保障に関連するポスト、あるいは地域情勢に関連するポストには、私どもにとっては非常になじみのある、非常に経験ある人たちが指名されるという状況にも接しています。したがいまして、これまでの蓄積を踏まえて、新しい状況も視野に入れながら、そういった人たちと意思疎通を図って、この間、この状況に、迅速に対応できるように取り組んでいく必要があると認識をしています。
 特に前政権との関係をお尋ねになりましたけれども、先ほども冒頭申し上げましたけれども、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンについては、現在その取組の途上にあるわけですので、新政権との間でもまずこういったことについて、きちんと確認をして、具体的な協力に進めるように取り組んでいくことが必要だろうと思います。
 それから安全保障にとって非常に重要な影響をもたらす朝鮮半島情勢、あるいは東シナ海・南シナ海における現状変更の試み、こういったものに対する対処、それから我が国が推進をしているミサイル防衛、あるいはそういったものに対する抑止力、対処力の強化、こういったことについても、新政権との間ではしっかりとした取組をしていく必要があると考えます。

米国情勢(トランプ大統領の評価)

【朝日新聞 安倍記者】先ほどトランプ政権をめぐる評価についてお話がありましたけれども、この4年間、日米関係という面で言えば概ね良好だったと思うんですが、一方でトランプ氏は国際秩序ですとか、また民主主義を軽視し続けて、多くの国がトランプ氏の言動に振り回されたという現実もあるんだと思います。こうしたトランプ氏の指導者としての在り方については、どのように評価されるのでしょうか。
 
【吉田外務報道官】非常にストレートなご質問をいただきましたけれども、トランプ大統領、現時点では大統領でまだあられるわけですけれども、について、様々な見方、こういったことについては、巷間、報道あるいはいろいろな方々の論評、あるいはコメントということで、承知をしています。
 他方、一国の指導者については、こういった公式の会見の場で論評をすること、これは外交上の儀礼から言っても、そういうことは通常しないというふうに考えますので、ご質問に対するお答えとしては、コメントは差し控えさせていただきたいと思います。
 いずれにしましても、巷間言われているような、いろいろな国際協調であるとか、あるいは一国主義との関係だとかそういったものについては、新しく発足する政権との間で、日本として協力をして取り組んでいくことが重要なのではないかと考えます。

韓国関連(元慰安婦等による日本政府に対する損害賠償請求訴訟)

【朝日新聞 安倍記者】別の話題ですが、韓国の慰安婦訴訟をめぐる判決についてお伺いしたいと思います。先週もお伺いしましたが、このままいきますと23日に判決が確定することになります。韓国側に、現時点で国際法違反を是正しようとする、そういった動きはないわけですが、先日の会見では、報道官、イタリアとドイツをめぐるICJの事例に言及されておられました。こうした主権免除をめぐる判例もある中で、ICJへの提訴というのは現時点で有力な選択肢となり得るのかどうか、その点、お考えをお聞かせください。
 
【吉田外務報道官】韓国の、元慰安婦等による訴訟の判決につきましては、先日も申し上げましたし、幾度か外務大臣にもご質問いただいていますので、日本政府の立場については繰り返しません。
 他方、韓国側に対しては、行政府のみならず、国家としてその国際法違反状態を是正する、そういうことが求められている、あるいはそれを私どもは求めているということですので、その措置を自らの責任で早急に講じていただきたいということを、繰り返し申し上げています。
 ご質問のあったICJへの提訴のような、何らかの我が国による対抗措置のようなもの、あるいは我々としてどのような対応をしていくか、これは韓国側のそういった対応を見極めながら考えていくべき問題だと思いますけれども、これも繰り返し申し上げていますけれども、その選択肢、これについてはあらゆる措置を、選択肢を視野に入れて、毅然と対応していきたいというのが、現時点での私どもの考え方であります。
 したがいまして、特定のご質問のあったような措置についてどうする、あるいはそのタイミングがどうだということについては、現段階では申し上げるステージにはないと認識しています。

核兵器禁止条約

【NHK 渡辺記者】テーマ変わりますけれども、近く核兵器禁止条約が発効する運びとなっておりますけれども、改めてこの核兵器禁止条約に対する日本政府の考え方を聞きたいということと、一方で、いろいろ取材をしてますと、やはり戦争で米国から実際に原子爆弾を投下された日本という国がこのようなスタンスでいいんだろうかと、従来のですね、という声はもう常にあるわけなんですけれども、そういうことも踏まえた上で、今後のですね、日本政府のスタンスっていうのはどうなんでしょうか。
 
【吉田外務報道官】核兵器禁止条約については50か国が批准をしてから、90日間ということで、1月22日に発効する予定だと承知しています。これも従来からご説明申し上げてきていますけれども、まずこの核兵器禁止条約が掲げている核廃絶といった目標については、日本としても戦争被爆国で共有をしています。
 他方、核兵器のない世界、これを実現するためには、実際に核兵器を保有している国、これが核兵器を廃絶していく、核軍縮を進めていくということが不可欠であります。現状を見ますと、そういった核兵器を保有している国、とりわけ核兵器国と言われる安全保障理事会の五つの国がありますけれども、いずれもこの条約に対する支持を表明しておりません。それからドイツ、カナダといった、いわゆるNATO諸国、こういったものを含めて、実際に核兵器の脅威にさらされている、そういった国々からも支持を得られておりません。
 最近、発出されたかと思いますけれども、NATO理事会で核兵器禁止条約についての声明が出ていますけれども、改めてこの条約がそういった厳しい安全保障を踏まえていないということを指摘されているかと思います。
 翻って我が国を見ますと、この周辺には北朝鮮の核ミサイル開発をはじめとして、多くの大量破壊兵器があると。極めてこの地域を取り巻く安全保障環境は厳しいという現実があります。
 そういった中で、日本政府としてどう考えるかといった場合に、冒頭申し上げたように、ゴールそのものは共有すべきものでありますし、唯一の戦争被爆国として、同じものを目指したいということに何ら変わりはありませんけれども、今申し上げたような現実を踏まえて、我々が取るべき道筋というのは、まずは抑止力・対処力といったことをきちんと強化をして、現実の脅威に対処すると同時に、地道に現実的に核軍縮を前進させる道筋を追求していくのが日本の立場ではないかと考えます。したがいまして、被爆者の方々にいろいろなご意見があるということは、真摯に受け止めてはおりますけれども、この条約に署名することはできないというのが、日本政府の考え方であります。
 では現実的にどうするのかということですけれども、まずは、申し上げたように、核兵器国が核軍縮を進めることが必要なわけですから、まずは核兵器国と非核兵器国が協力をしていくと、その中で現実的に一つひとつ、その核兵器を減らしていく。それが実際に削減されて、ある程度低いレベルまでに達した段階で、信頼性の高い検証措置を備えたような法的な枠組みを導入するというのが現実的であろうと思っています。
 そのためには、現在ある核兵器国・非核兵器国の間、あるいは非核兵器国同士の間にある不信感・分断、これを克服するために、信頼関係を再構築をして、お互いが協力して一致して取り組める共通の基盤を形成していく、これが遠いようで、着実な道筋ではないかと考えております。そのような観点から、日本政府としては、従来からそういったものへの橋渡しの努力をするために、同じ志を持った非核兵器国の集まりである軍縮不拡散イニシアチブ、NPDIの取組でありますとか、核軍縮の実質的な進展のための賢人会議などを開催して、極めて有益な提言をいただいております。こういったものを基に信頼関係の構築、共通基盤の形成、これに努めていきたいと考えます。

日米関係(ポスト・コロナの国際秩序、気候変動)

【朝日新聞 北見記者】先ほどですね、国際協調に関連して、新しく発足する政権と協力して取り組むとおっしゃったことに関連して伺います。先日の菅総理の施政方針演説でも、ポスト・コロナの国際秩序づくりに言及があったかと思います。日本政府としてですね、ポスト・コロナの国際秩序づくりにどのようなものを想定していらっしゃるのでしょうか。またそれに関連して、恐らく気候変動問題が大きなアジェンダになってくると思いますけれども、バイデン政権が強い関心を示している中で、この問題に関して日米でどう連携していくお考えでしょうか。
 
【吉田外務報道官】ポスト・コロナの国際秩序につきましては、まず現代の国際社会、様々な地球規模の課題、あるいは地域的な懸案に直面しておりますけれども、こういったものに対処していく上で重要な基盤というのは、法に基づいた国際秩序だろうと考えます。
 とりわけ、新型コロナの感染拡大によって世界経済が疲弊をしている、こういったものからの秩序ある回復が必要であるといった場合に、その新しい現実に対して、どのように公正・公平な世界を確立していくか、そのためには、やはりルール、秩序といったものが必要になろうかと思います。
こういった取組に、まだ現実に何か現れているというわけではありませんけれども、例えば、これまで日本政府が推進をしてきた「自由で開かれたインド太平洋」といったビジョン、こういったものをいろいろな地域の国々と共有していく。これは単にインド太平洋地域に留まらず、法に基づいた国際秩序との在り方ということについては、先の茂木外務大臣の中南米訪問においても確認をされてきたことであります。こういった取組を進めるのが一つの中核になろうかと思います。
 それから、ポスト・コロナの中では、いわゆるリモートな生活というものがクローズアップされてくる。こういった中で現在急速に進展しているデジタル化、こういったものにおけるルール作りと、これも従来から日本政府は、例えば日米のデジタル貿易協定であるとか、あるいはG20における自由なデータの流通といった取組、こういったもので推進をして呼びかけてきたわけですけれども、こういったものを広げていくような、そういった作業も必要になってこようかと思います。
 それからお尋ねのありました気候変動ですけれども、菅総理大臣はカーボン・ニュートラル、2050年の実質的なカーボン・ニュートラルということを表明されていますし、バイデン次期大統領は政権発足初日にパリ協定に復帰されることを表明されています。この分野におきましても、国際社会は取組むべき喫緊の課題として、COP26に向けた具体的な取組を進めていく必要があろうかと思います。
 日米ともに、この分野においては技術的な知見、あるいはそういったものを開発していく能力に秀でていると思います。米国との間で、そういった首脳間あるいは閣僚レベルのやり取りを通じて、世界に向けて日米が、新しい取組でこうした分野に資するような貢献ができるように意思疎通を図っていきたい、このように考えます。

中国海警法案

【毎日新聞 青木記者】先ほど少し話題にもなった、法に基づく国際秩序とも関連するんですけれども、中国の海警法に関して22日にも成立というふうに言われていますけれども、この中でその管轄権という文言が使われていて、その中では、例えば領海の外であってもですね、外国の船舶、軍艦とか政府の船舶なんかを取り締まることができると。この管轄権という考え方についての日本政府の現在の考え方、それとこれについて何か中国側に問い合わせ等を、今されているのかどうか。そしてそれが成立した後の対応についてですね、聞かせてもらえればと思います。
 
【吉田外務報道官】お尋ねのありました、中国海警法案、今、実質審議中ということで、各種報道等によって、間もなく可決されるのではないかと巷間言われております。この法案につきましては、基本的にはまだ審議中でありますし、今後の動向にも関連しますので、その法案の特定の条項について、どのように分析しているか、あるいはどのような可能性があるかということについて、現段階で申し上げるのは適当ではないだろうと思っています。ただ、さはさりながら、この法案については引き続き非常に高い関心を持って、その内容についても情報収集を行っております。
 基本的には、海警につきましては、昨今、尖閣諸島周辺における活動を急速に活発化させているという状況があります。特に、日本の漁船を追跡するといった行為が行われていて、日本の国民の生命財産、それから日本の領土・領海、これに対する深刻な懸念だと認識しています。関係省庁間で、当然のことですけれども、引き続き高い緊張感を持って、警戒監視、これに万全を期していくというのが当面の日本政府としての考え方です。

韓国外交部長官の交代

【NHK 渡辺記者】韓国の新しい外務大臣に任命された鄭義溶(チョン・ウィヨン)氏のことなんですけれども、官房長官は他国の人事の話だということで明言は避けたので、そういった答弁要領なのかもしれませんが、とは言いつつも、日韓関係、今、問題が山積する中で外交当局が変わるというのは、トップが変わるというのは大きな意味があると思うんですけども、この新しい外相、鄭義溶大統領特別補佐官ですね、この方に何か期待することとかですね、あるいはこれまでの康京和(カン・ギョンファ)前外相の果たしてきた役割をどう評価しているのか、その辺の、韓国の外交当局のトップが変わることについての受け止めをお願いします。
 
【吉田外務報道官】官房長官の会見でのやり取りについて言及されましたように、先ほども別の件でご質問がありましたけれども、他の国の閣僚の方、あるいは閣僚に指名されている、もちろんまだ一定の手続きがないと就任されないわけですので、現時点では候補者の段階でありますけれども、こういった方々について論評・評価するというのは、通常やりませんので、コメントすることは差し控えたいと思いますけれども、新しく外交部長官になるとされている方に対しては、現在の日韓両国を取り巻く非常に厳しい状況、この現実を十分認識をしていただいて、それと同時に日韓両国というのは極めて重要な隣国でありますから、先ほどからも出てきている朝鮮半島情勢についても、日韓両国、米国も含めた連携、これを基礎に対応していく必要があると認識をしておりますので、そういったことを十分踏まえて、私どもが求めている日韓関係を健全に戻すため、このためにはどのようにされる必要があるのかを十分ご認識いただいて、迅速に適切な対応をとっていただきたいと考えます。
 康京和長官も依然として現職の方ですし、この方について論評することは適切ではないと思いますけれども、茂木大臣との間で、電話会談も含めて幾度もやり取りをされてきたわけですので、職を退かれても引き続き日韓関係について、日本側の立場を十分にご認識されている方として、今後の将来の日韓関係にも貢献していただければなと思います。

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