記者会見
吉田外務報道官会見記録
(令和2年10月28日(水曜日)15時51分 於:本省会見室)
核兵器禁止条約
【朝日新聞 北見記者】先日発効の目処が立ちました核兵器禁止条約に関してお伺いいたします。公明党からも、締約会議へのオブザーバー参加について可能性を検討するように要望が出ていると思いますが、官房長官会見でも締約会議の中身は分からないとして、慎重に検討するという旨、回答をされていると思います。それを受けてなんですけれども、締約会議は、逆に言えばどういった中身であれば、参加に検討し得るのでしょうか。そのお考えがもしあればお願いします。
【吉田外務報道官】核兵器禁止条約につきましては、ご案内のように、要件である50か国の批准がなされて、確か90日後ですから1月22日に発効する段取りになっているかと承知しています。核兵器禁止条約の中に、発効後1年以内に締約国会議を開催するという規定があったかと記憶しています。
官房長官からも言われていましたように、この締約国会議については、依然として特にどういう形でやるのか、それからいつやるのか含めて、何ら明らかにはなっておりませんし、恐らく批准した締約国からも、そのような話は出ていないかというふうに承知します。
おっしゃったとおり公明党から、オブザーバー参加について、大臣の方にもご要望があったと承知をしています。我々としてはそれを十分に踏まえまして、どうするかということを考えていくことになるかと思いますけれども、いかんせん会合のモダリティを含めて、時期も含めて、今、なんらインディケーションはございませんので、この時点で、どういうものであれば参加できるかとかできないかとか、ということを議論する段階にはまだ至っていないのかなと、このように考えます。
自由で開かれたインド太平洋(FOIP)
【朝日新聞 安倍記者】菅総理は先日の所信表明演説の中で、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指すというような発言をされています。一方で、このFOIPについては、「自由で開かれたインド太平洋戦略」と言われることもありますし、その後は「自由で開かれたインド太平洋構想」と言われることもありました。現在は「戦略」ですとか「構想」を付けないようですが、それぞれどういった違いがあるのか教えてください。
【吉田外務報道官】「自由で開かれたインド太平洋」、略してFOIPですが、内容としてはご案内だと思いますけれども、インド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現していく、地域全体・世界の平和と繁栄を確保していくことが重要だというのがコンセプトになっています。
この考え方は、日本政府としては、様々な機会に、いろいろな国であるとか国際場裡で働きかけを行っているということでして、その場というのは二国間会談や国際会議というものもありますし、今ご指摘のあったような演説であるとか、所信表明のようなものもあろうかと思います。
このような中でどういう表現を使うかというのは、その時々におきまして、関係者の考え方等も踏まえながら、表現をしてきているというのがこれまでの経緯です。したがいまして、過去には戦略と言った場合もありましたし、ビジョンとか構想と表現する場合もありますし、そういったものを付けずに、「自由で開かれたインド太平洋」とのみ表現する場合もございます。
それぞれどういう違いがあるかというお尋ねですが、基本的には先ほど申し上げたFOIPのコンセプトを、それぞれの文脈の中で表現しているということですので、その意味内容において、大きな違いがあるとは認識をしておりません。
【朝日新聞 安倍記者】そうなると今年の外交青書でも、この戦略とか構想というのは付いていませんでしたけれども、現在の外務省の考え方としては、そうした「自由で開かれたインド太平洋」というので、特にそういった「戦略」「構想」を付けないというのが、今の正式というか、外務省としての考え方なのでしょうか。
【吉田外務報道官】今ご指摘のあったような青書であるとか、各種の文書、それから演説において、「自由で開かれたインド太平洋」という表現を使っているのは現実でありまして、ここに特に何か方針が変わったとか、そういうことではございません。
他方、先ほど申し上げたように、それぞれの場に応じて、コンテクストに応じて、適切な表現を使いますので、必ずしもこれに限らなければいけないということではないというふうに考えます。
日韓局長協議
【共同通信 中田記者】一部の報道で、滝崎アジア大洋州局長が、本日から3日間の日程で韓国を訪問して、韓国の金丁漢(キム・ジョンハン)アジア太平洋局長とか、李度勲(イ・ドフン)朝鮮半島平和交渉本部長と会談をして、いろいろと日韓間の懸案について話し合うのではないかという報道が出ています。この点についての事実関係について、伺えますでしょうか。
【吉田外務報道官】そのような報道がされていることは承知をしています。日韓で局長級協議を行う方向で調整を行っています。依然として、その内容であるとか、誰と会うかとか、どういう形でやるかといったことについては、まだ申し上げられるほどの段階に至っておりません。いわゆる調整中という段階ですので、今申し上げたことに尽きるという感じです。
米国大統領選
【朝日新聞 安倍記者】米国の大統領選が迫っていますけれども、アメリカ国内の世論調査ではバイデン候補が優勢だというふうに伝えられています。共和党政権から民主党政権に代わる可能性もあるわけですが、日本として、こうした政権交代に対応するための準備というのは、どういった形で進めているのでしょうか。
【吉田外務報道官】ご質問のあった米国の大統領選挙、11月3日に国民の投票があるということです。当然その動向ですとか、各種いろいろな観測、世論調査、分析、こういったものについては、非常に高い関心を持って、フォローをしてきています。
いずれの方が勝者となるのか、これは予断を許さないわけですが、日米同盟というのが日本外交の方針の基軸であるということは、選挙の結果如何に関わらず、変わりはないということであります。したがいまして、この動向はしっかりと注視をしながら、いつでもすぐに新しい政権、あるいはその大統領に選ばれる方との関係を築いていく、こういった努力は不断に行っておりますし、そのような方針に変わりはないということです。
【朝日新聞 安倍記者】今おっしゃいました、日米同盟というのが外交の基軸というのはよく分かるんですけども、トランプ政権が続くことと、バイデン政権になることと、どちらがより日本の国益にかなうのかという観点からの分析はいかがでしょうか。
【吉田外務報道官】それぞれの陣営について、どのような政策・公約をしておられるか、これは注意深くフォローしております。日本政府としては、これまでも様々な形で、政権が変わる、指導者が変わるということは、経験はしてきておりますけれども、一貫して、日米同盟が重要であるという認識においては、どのような結果になっても、これは多分日本からだけではなくて、米国政府から見ても同じだと考えておりますので、そのような認識の上で、日米関係、両国間の政府の関係を引き続き、維持・強化していきたいというふうに思います。
ベラルーシ情勢
【NHK 渡辺記者】欧州の話に移るんですけど、ベラルーシの大統領が今も権力を行使しておりますけれども、デモなんかも相次いでいて、在日ベラルーシ人なんかもデモを行っていると、今後のベラルーシに対する日本の対応ですね、政府として、どういうふうに考えているのかということと、あとは、拘束中の日本国籍を持った方の現状はどうなっているのかということをお願いします。
【吉田外務報道官】この会見の場でも何度かお尋ねいただいております、ベラルーシ情勢ですけれども、繰り返し談話を出させていただいておりますように、現在のベラルーシの状況、非常に懸念をしております。特に、平和裏に行われているデモの参加者に対する圧力、それから拘束、こういった対応を即時にやめるよう、繰り返し呼びかけておりますし、働きかけてきているということです。依然としてデモが継続をしておりますし、それから、全体的な情勢について緊張した状況が継続しております。
したがいまして、日本政府としては、引き続き今申し上げたような立場を踏まえて、政権側に対しては、我々の考え・立場を伝えて、改善を求めていきたいと、このように考えております。
お尋ねにあった、日本人の拘束者につきましては、これまで何度か領事面接という形で面会はして、状況については確認をしてきております。現時点で、それ以上にこの場で申し上げられるような情報はございません。引き続き、拘束された日本人の方の状況については、高い関心を持って、動向をフォローしていきたいと考えています。
ナゴルノ・カラバフ情勢
【NHK 渡辺記者】ちょっと別の件なんですけど、アゼルバイジャンとアルメニアのナゴルノ・カラバフをめぐる紛争の件なんですけども、今のところ、ロシアのラヴロフ外相の仲介活動に対して日本は評価するということで、先日、日露の電話外相会談で、日本としての姿勢を示していると思うんですけれども、今後その関係国、当事国に対して、直接何らかの働きかけ、日本はどこの国とも関係がいいでしょうから、そういったことをされるのか、あるいはアゼルバイジャンの背景に関与しているトルコに対して何かすることがあるのか、その辺もちょっと教えてください。
【吉田外務報道官】ナゴルノ・カラバフ情勢につきましても、これまで日本政府として、考え方をお示ししてきていると思います。残念ながら紛争が継続している状況にありまして、各国、いろいろな仲介努力もされておりますし、この情勢をめぐっては、従前から米・露・欧州が中心となって、仲介努力をする枠組みもございます。
日本政府としては、そのような様々な仕組みを利用しながら、両者が対話に着いて紛争を平和的に解決してもらうべきだと、このように考えております。
今、言及がありましたように、先日電話会談でラヴロフ外務大臣から茂木大臣に対して、情勢についてのロシアの努力についてご説明を受けました。日本政府としては、ロシアのそういった努力は高く評価したいと思っております。
この他、米国、それから欧州も、仲介の努力をしておられると思います。私どもとしては、そういった努力を後押ししていきたいと思います。
それ以外の影響力のある国々に対しても、日本政府としては、様々なやり取りをしながら、状況の改善に努めていくように、引き続き取り組んでいきたいと、このように考えています。
WTO事務局長選
【朝日新聞 北見記者】WTO事務局長選に関連してお伺いいたします。報道ではですね、各国それぞれ支持表明されているやに、一部ではありますが、まず、現状をどのように見ていらっしゃるか教えてください。
2点目として、今朝、自民党の部会がございまして、そこの中で今回どうして日本の候補を立てられなかったんだという意見が出たやに聞いています。改めて、今回日本として、この選挙、どのように臨むおつもりでいたのかというところと、今後、国際機関トップにですね、日本人を送り込むために、どのようなお考えなのかを改めて教えてください。
【吉田外務報道官】お尋ねになったWTO事務局長選挙、現在、候補者が2名に絞り込まれている状況で、各国、最終的にどの方にするのかということで検討を進めている段階だろうと思います。国によっては公に態度表明をされているところがあるのかもしれませんけれども、基本的には私どもは国際機関の選挙については、どうするのか、誰に投票するのか、こういうことは言わないというのが一般的な国際慣行だと思っております。
したがいまして、この場でどういうふうに臨むのかということについては、差し控えたいと思いますけれども、従前から申し上げているとおり、WTO上級委員会が機能不全に陥っている、それから、今、コロナで非常に重要性が増してると思いますけれども、新しい分野、デジタル経済とか、そういったもののルール作り、こういったものが喫緊の課題になっています。そういった山積する課題に、先頭に立って取り組んでいただけるような事務局長が選出されることが重要だと思っておりまして、そういった主要国間の利害を調整する能力であるとか、日本が重視しております多角的貿易体制の維持・強化、こういったものへ貢献する能力の資質を満たす候補者が選ばれるように、各国ともやり取り・連携をしていきたいと思っております。
日本から候補者が出なかったのはどうしてか、というお尋ねですけれども、今回の事務局長選挙が改めて行われる段階によっては、様々なオプションについて検討はされました。その中で、日本政府としては、各国の候補者の立候補の動向、こういったものも睨みながら、先ほど申し上げたような立場を踏まえて、今回は日本から候補者が出ないということで、結論に至ったということです。
今後、こういった国際機関の選挙にどうするのかと、これは党からも、あるいは国民の方からも、国際機関の長というものに対して、もっと積極的に対応する必要があるという声があることは十分認識しております。過去にも日本からIAEAの事務局長であるとか、ユネスコの事務局長であるとか、主要な国連の国際機関の長に立候補した事例があります。ふさわしい資質と、それからそういった能力のある人、これは時代によって要請される内容も変わってくるかと思います。そういった中で、人材の発掘・育成も含めて、今後とも、そのような機会があるか、ある場合には、真剣に検討していきたいと考えます。