記者会見

川村外務報道官会見記録

(平成28年4月13日(水曜日)16時40分 於:本省会見室)

G7外相会合関連

【ジャパンタイムズ 三重記者】「広島宣言」についてですね,原文でいうと「human suffering」というところなんですが,それの訳が日本語だとたしか「非人間的」というふうになりましたが,原文を読むと,英語にすると「inhumane」,そういったワードのほうが適切なのではないかなと思って,一部にはそれは誤訳ではないかというようなことも言われているんですが,それに対する所見と,あと,オバマ大統領の広島訪問が取りざたされておりまして,ホワイトハウスの報道官などもその可能性について言及をされていますが,そういったことについて日本政府は直接に招請をされているのか,あるいはされていないのであればその理由を教えてください。

【川村外務報道官】最初のご質問,「human suffering」というG7外相「広島宣言」の中の言葉,そしてその訳語ですけれども,「human suffering」をG7の外相「広島宣言」で使ったということ,これはG7の外相の総意として決まったものです。
 「human suffering」の「human」というところをどう訳すかについては,発出された文書の訳を作る,これは仮訳と申しますけれど,仮訳を作成するにあたっては全体の文脈を考え,それに照らして適切な言葉を当てております。このパラグラフの中での文脈についていえば,原子爆弾投下というか,被爆の実相を正確に伝える,そしてその悲惨さを広く訴えていく,そして「核兵器のない世界」に向けた力強いメッセージを出すという「広島宣言」の趣旨を踏まえて考えるということであれば,「非人間的な苦難」と訳すことが適切であると考えています。
 オバマ大統領の件,ご指摘がありましたホワイトハウス報道官の発言が,報道されておりますけれども,現時点でオバマ大統領が伊勢志摩サミットのために訪日する際の大統領の日程については,この報道官は,まだきちんと承知していないというふうに発言していると理解しております。また,日本政府としまして,米国大統領が日本に来られたときの日程についてコメントするということについては差し控えさせていただきたいと思っております。また日米間でオバマ大統領,広島の訪問について具体的に当局間で調整をしているということはございません。そういう事実はございません。

【ジャパンタイムズ 三重記者】何かそれをやらない理由とかというのはあったりするのですか。

【川村外務報道官】オバマ大統領の伊勢志摩サミットの際に,日本に来られるという日程作成管理はアメリカの政府の方でご検討いただく話だと思いますので,私どもの方として現時点で調整するとか,あるいはこれについてコメントするということは差し控えております。

【毎日新聞 田所記者】今のオバマ大統領の広島訪問の関係ですが,日程自体は米政府の検討することですが,日本政府として広島訪問があった場合,なかった場合,あった場合に備えた事務的準備はしておかなければいけないという,今の米政府の発信するからすると,事務的準備はしておかなくてはいけない状況かもしれないと思んですけれども,そういう事務的準備はしているとか,今後しなくてはいけないというようなところはいかがでしょうか。

【川村外務報道官】今のご質問の趣旨がオバマ大統領が仮に広島に訪問されるとすればということだと思うのですが,繰り返しで恐縮ですけれども,アメリカ大統領の訪日日程等について私の方からコメントするというのは差し控えさせていただきたいというふうに思っています。また,オバマ大統領の広島訪問について,日米政府間で調整を行っているという事実もございません。

【NHK:栗原記者】先ほどの訳のところなのですけれども,報道官の今の解説を伺って,一般論として国際的な合意文書,そういったものは必ずしも逐語訳ということではなく,文書全体の趣旨を踏まえて多少の意訳というか,「word to word」ではない訳ということが,普通に,一般的に許されるという認識でよろしいですか。

【川村外務報道官】例えば,「human」という言葉について辞書を引けば,いろいろな訳が出てまいります。「人間の」あるいは「人の」などなどいろいろ出てくると思います。いろいろな訳が確かに日本語にはあって,この中で一番適切な訳を当てていくと,これは文脈を見て,そういう訳を当てていくということに尽きると思います。一つの例として過去にも「humanitarian」という言葉が原爆の関係で,そういう文書に出てきたことがあるんですけれども,これを「非人道的」と訳している例もございます。「humanitarian」という言葉を辞書で引けば,「人間的な」というような訳だと思うんですけれども,原爆,あるいは原爆投下,その下での人々の苦難というような否定的な文脈で用いられる時には,その意味がきちんと伝わるような訳を使うという先例もございますので,必ずしも辞書に出ている訳を一対一で定訳として当てているというでは必ずしもないということであります。もう一度,繰り返して言えば,そういう意味で,「human suffering」 という今回の言葉について「human」の部分の訳に「非人間的」という言葉を当てることは,被爆の実相を伝えるという文脈において見れば適切な訳であると思っています。

【毎日新聞 田所記者】冒頭の「非人間的な」の質問へのお答えのときに,今回の訳は適切だったというご趣旨で,仮訳については適切だったというお話なのですが,仮訳なので「仮」ということで,別に変えることは将来的にありえなくもない話だと思うんですが,適切なので修正する必要はないという,そういう趣旨ですよね。

【川村報道官】仮訳の「仮」の字に必要以上の重点を置いてみていただくということは,必ずしも必要ではないかなと思いますが,結論から言いますと,おっしゃったとおりで,今回,「human suffering」という言葉を「非人間的な苦難」と訳すことは適切であったと思っております。

【朝日新聞 武田記者】その関連で確認ですが,この訳というのは意訳ということでいいのかどうかということと,仮訳とはなっていますが,後で翻訳がまた今回の文書について出される予定があるのかどうか,伺えればと思います。

【川村外務報道官】翻訳とか和訳とかいろいろな言葉が日本語には存在しているわけですけれども,通常,外務省がこうした公式の文書,外交文書を日本語に訳して,それを発表するという場合には,仮訳という言葉を使って訳文を載せる,発表するということを一般的にしております。意訳なのか直訳なのかというような表現ぶりは,通常は使っておりません。仮訳だから今後,翻訳というような言葉に変えていくのかどうかというご質問につきましては,現時点で今の仮訳を出しておりますので,このままで今の時点の判断としては適切な訳文をもって維持するということです。
 今後,訳文,発表した内容が一切変わらないかということについて言えば,時々,タイプミスなどいろいろな事が通常,起こりうるので,可能性の問題としてそういうものが見つかった場合には,訂正したりすることもあり,かつては先例としてはあったかと思いますけれども,通常は仮訳を作って,そのまま維持しておくという場合が多いと思います。

【朝日新聞 武田記者】私もこちら外務省の担当になって1年なので,不勉強なところがたくさんあるんですが,外務省の翻訳というのは,どこまでいわゆる意訳というのが許されるものなんでしょうか。そういう指針というのが特にあるのかどうかということと,普通,訳というのは逐語訳という,直訳に近い形で訳すことが一つ方法としてあると思うんですが,外務省の訳というのはそれとは違うという方針なんでしょうか。

【川村外務報道官】外交文書と呼ばれるものは多種多様であります。そのような外交文書が締結されるに至った,あるいは発表されるに至った経緯もそれぞれあるかと思いますけれども,交渉に携わった担当者,担当責任者等はそれまでの経緯等をよく理解しておりますし,また今回の場合「広島宣言」の趣旨というものも十分理解した上で,そこで書かれている文言,内容が正確に理解されるように訳を作っていく,こういう下で作業するとようになっておりますので,その役割を十分果たせるように訳文を作るということです。こういう場合には逐語訳,こういう場合には意訳と今おっしゃいましたけれども,そういうような分け方というよりかは,今言いましたように,外交文書を発出するに至った経緯,交渉の目的,あるいはこの文書を発出する趣旨,今回の「広島宣言」について言えば,繰り返しですが,「核兵器のない世界」に向けた力強いメッセージを出すというG7外相の総意を体現しているわけですけれども,そういうものがきちんと伝わるように訳を作っていくということに尽きると思います。

【朝日新聞 小林記者】過去はですね,「非人道的」という言葉を使われて,今回は「非人間的」ということなんですが,その両者の違いをどう受け止めていらっしゃるのか,より深刻なのはどちらか,その辺の解釈についてお願いします。

【川村外務報道官】先ほど挙げました例で,「humanitarian」という言葉をですね,非人道的と訳した例があるというふうに,その一つの例として申し上げたのですけれども,「humanitarian」というのは,通常で言えば,「人間的」とか「人道的」という言葉ですけれども,その文脈によっては,これが「非人道的」だというふうに訳す場合が適当だと判断されて,そのように訳した例があるというふうに申しました。ですから「human」という言葉も今回の文脈に照らせば,「非人間的」と訳すことが適切だと考えたわけでございます。もしかしたらご質問の趣旨を取り違えた可能性がありますけれども・・・。

【朝日新聞 小林記者】いや,深刻さを比較する上ではどう違うのでしょうか。

【川村外務報道官】深刻さですか。これもまた繰り返しになってしまうのですけれども,今回の文書,「広島宣言」の趣旨が,被爆の実相,あるいは原子爆弾の投下の悲惨さをより広く世界に訴えていくと,「核兵器のない世界」に向けた力強いメッセージを出すという趣旨があって,そういったものを踏まえて考えての訳文ということでありますので,非人道性という言葉がかつての文書に出てきたということがあるかと思いますけれども,それはそのそれぞれの文書の発出された経緯なり,目的なりというものを十分踏まえてですね,最も適切な訳を出してきたということだと思いますので,一概に比較するということは,この文の訳文の議論の中ではですね,適切ではないんではないかと思います。

【毎日新聞 田所記者】今回のG7外相の平和記念公園訪問がですね,おおむね海外のメディアで好意的に評価されているというふうな,そういう記事が多いかと思うのですけれども,それについてどう受け止めていらっしゃるのかというのが一点と,あと「広島宣言」で世界の指導者の被爆地訪問を,G7,または日本として求めているわけですけれども,そのためにですね,そういう好意的な評価というのは役立つかなと思うんですけれども,そこら辺どうご覧になるのか…。

【川村外務報道官】海外の主要なメディアも,今回のG7外相会合の結果,それから「広島宣言」,更にはG7外相による平和記念資料館訪問,あるいは原爆死没者慰霊碑への献花などに高い関心を示して広く報道されている,ということは十分認識しております。一部の主要新聞では,社説でも取り上げていることでありますし,一面で大きく慰霊碑の前に立っているG7の外相の姿を伝えているということで,世界に対して,この広島にG7の外相が集まって,また,「広島宣言」を発出し,「核のない世界」に向けて力強いメッセージが発出されたということはですね,着実に伝わったと考えています。
 引き続き,海外の報道ぶりというのはフォローしていきたいと思っていますけれども,それぞれの報道の内容は,それぞれの新聞であれ,テレビであれ,いろいろな報道がされておりますので,今申しましたような最大公約数的に何が伝えられているかと言えば,今申しましたとおりです。こういうものを踏まえて,引き続き海外に対して,日本の立場,あるいはこの後,伊勢志摩サミットが行われるわけですけれども,G7の外相会合の成果が伊勢志摩サミットに十分反映されていくように,努力をし,また日本の立場を海外に正確に伝えていくということを留意をしていきたいというふうに思っています。

【毎日新聞 田所記者】後半の質問ですけれども,世界の指導者の訪問につながる結果,評価ぶりかどうかについては…。

【川村外務報道官】これは,いろいろな報道を丹念に見て,どういう報道ぶりをしているかということを見ていく必要があると思います。岸田大臣が総括記者会見の時に言っておられましたとおり,世界の指導者の方に広島を訪れていただいて,それで被爆の実相に触れていただくということが,引き続き重要だと思っていますということがあります。このような考え方が,もう既に報道等で伝わっているかと思いますが,いずれにしても,引き続き,我々としてはこういう考え方が国際的に正確に伝えられて,「核兵器のない世界」の実現という目標に向かって,一層協力が行われるようにしていきたいというふうに思っております。

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