記者会見

川村外務報道官会見記録

(平成27年10月14日(水曜日)17時03分 於:本省会見室)

ユネスコ記憶遺産

【NHK 渡辺記者】ユネスコの記憶遺産の関係でお伺いしたいと思っているのですが,何らかのユネスコへの働きかけというのは日本政府としては,もう既に行っていると思いますけれども,たとえば,何か公の会合みたいなもので,想定されているものというのは何かあるのでしょうか。

【川村外務報道官】ユネスコの記憶遺産の件,今回の南京事件の文書の記憶遺産への登録に関し,日本政府としましては,中国側,あるいはユネスコ事務局に対して登録されるべきではないということを働きかけて,申し入れてきたわけですけれども,こういったことが実現しないまま,登録が行われてしまった,これは非常に残念に思っている次第です。
 日本政府としては,ユネスコが設立の本来の目的と趣旨に立ち戻って,関係国間の友好と相互理解を促進する役割を強く求めるということを考えておりまして,そのためには今回の記憶遺産の登録の課程でいろいろな制度において,透明性,あるいは公平性というものが確保されていないという問題点が明らかになった訳ですので,このような問題が解決されるように,記憶遺産制度の改善ということを働きかけていきたいというように思っております。
 これらの問題点は,今日までのユネスコ記憶遺産,あるいはユネスコの制度の中で,我が国として問題意識として持っているということをユネスコの事務局長やユネスコの事務局に対しても,表明してきたことですので,今後の日程の中で,会議が行われるというような機会をとらえて,主張していきたいと思いますけれども,まずは今回日本政府として発表しておりますように,こういった記憶遺産の事業の政治利用を未然に防いで公平性や透明性が確保されるように事業・制度の改善が実現するように,あらゆる可能性を含めて見直しを検討していきたい。その上で,今後ユネスコとの関係で,どういう機会に,どのようにそれを表明していくかということを考えていきたいというように思います。

【朝日新聞 安倍記者】今,報道官から政治利用を未然に防ぐという発言がありましたけれども,今朝自民党でこの問題を巡ってですね,会合が開かれまして,その中で外務省はなぜこのような登録を阻止出来なかったのかというような意見があがりました。これについて外務省してはどのように考えていらっしゃいますでしょうか。

【川村外務報道官】結果として,このような形で記憶遺産への登録がおこなわれたということ,これまでこの問題というか,南京事件に関して,あるいは慰安婦についてですね,記憶遺産に登録の意思が表明されて以来,1年近くの時間があったわけですけれども,その間,あらゆるレベルで,中国政府,あるいはユネスコの事務局に対して,問題点,それからこれらが登録されないようにということで,働きかけをしてきたということは確かです。
 あらゆるレベルを通じて,例えば,ボコバ事務局長に対しても,このような主張というのは続けてきた訳ですけれども,特に問題点としましては,申請資料の中に恣意的に抽出されたものがある,「完全性」が欠如しているということになるのですけれども,こういう問題があったり,あるいは資料,内容が本物かどうか,本当に資料として値するかどうか,「真正性」といっておりますが,こういった基準から照らして問題があるというようなことがありました。こういう問題があるということを,具体的に指摘をして,慎重な審査を求めてきたということです。
 ユネスコ側からは,こういった日本からの主張に対して審査を行う国際諮問委員会(IAC)というものがありますが,こういった実際に審査をする委員会の方に伝達をするというようなことをいってきたわけですけれども,結果的にこういう形になりまして非常に残念に思っております。
 繰り返しになりますが,記憶遺産の審議,それから決定の過程において,公平性,透明性といった問題点が惹起されたわけですので,こういった問題が解決されるように,ユネスコ側に制度の改善というのを働きかけていきたいというように思っております。

【NHK 渡辺記者】たびたび済みません。関連ですけれども,そうしますと,中国から公式に反応が出てきていますが,今までの中ではこういったことはなかったわけですね。今回,日本にとって歴史的な評価が分かれる部分がテーマになったのでこうなっている。そうすると,国際的に見た場合に日本の立場というものが,中国の言説を支持するわけではございませんが,歴史について修正主義的な側面があるのではないか,そういった目で見られることは危惧されているのでしょうか。これはハンドリングが難しい問題だと思いますけれども,政治的な問題がゆえに日本も反応しているわけですね。今まで制度の改革といったことを言っていなかったわけですね。今回の政治的なことがあったからそう言っているということで,むしろ政治的な話に乗っていってしまっているのではないかと思うのですが,その辺は今後,例えば慰安婦の件も申請されるかもしれないという中でどういうように考えていらっしゃるのですか。

【川村外務報道官】政治的な問題,政治性のある問題というご指摘ですけれども,もう少し問題点を具体化しますと,今回問題になったものが南京事件というものです。先ほど修正主義という言葉がありましたけれども,南京事件に関する日本政府の基本的な立場というものは,官房長官もこれまでの会見で明らかにされていますけれども,その事実をめぐって種々の議論が存在していることは確かであるというものであります。旧日本軍の南京に入城があった1937年12月13日ですが,その後,非戦闘員の殺害あるいは略奪行為などがあったということは否定できないと考えています。こういうことを申し上げて,ただ,南京事件それ自体については,その事実,中身については歴史家を含め種々の議論が存在していることは確かです。
 それを申し上げた上で,日本がユネスコの記憶遺産の登録制度の改革をこれまで求めてこなかったということのご指摘ですけれども,今回,この事案をめぐって,そういう制度的な問題点が明らかになったということですので,この点に関して改善を求めていくということにした次第です。
 それから,政治問題化を避けるべしと言いながら相手の政治問題化の流れに乗っているのではないかということですけれども,これは話が少し,どちらが先に政治的な発言をするかということになってしまうかもしれませんが,いずれにせよ,今回の議論の過程で,やはりこういった政治的な主張に則って申請をする,あるいはユネスコの制度を使うことが適切なものではないということは改めて申し上げておきたいと思います。
 ユネスコの制度に立ち返って申し上げれば,本来メンバー国間同士の問題・課題に対しては国際機関としては中立・公正・公平であるべきだということですし,日中間の過去の一時期の問題をいたずらにプレーアップすることについては,こういう動きに与することは控えるべきだろうと思っています。そういった観点からいろいろな働きかけをユネスコにもしてきた,この問題点が顕在化した時点で,ユネスコ事務局にも登録すべきでないということは申し上げてきたということです。

【朝日新聞 武田記者】菅官房長官が,これを機会にユネスコとの関係を見直す,その中で,分担金の停止を含めて検討するという発言が昨日ありましたが,分担金の停止というのはかなり波紋が広がる話なのだと思うのですが,外務省から見て,この分担金停止・減額,このことをどういうふうに考えておられるのか,教えていただければと思います。

【川村外務報道官】菅官房長官のお考えと外務省の考えの間を区別するということは本来ございません。日本政府としまして,今,考えていることは,繰り返しですけれども,やはりユネスコの記憶遺産制度の改善,公平性と透明性を確保できるようなシステムに改善をしていくように考えていく,あるいはユネスコに働きかけていくということです。その手段として,今,おっしゃったようなことも含めて,あらゆる可能性を含めて,どういったことをするのがよいのかということを検討していくという立場です。

【朝日新聞 武田記者】あらゆる手段の検討の中で,分担金については,私が聞いた話では,2015年度についてはもう支払いが終わっていて,2016年度はまだこれからといいますか,来年の春の支払いになるということですが,対象となるのは来年の春の分担金からということでしょうか。その場合,いつまでにそういう,どの手段をとるかという結論を出されるのでしょうか。そのあたりの見通しを教えていただけますか。

【川村外務報道官】確かに,分担金というお話がありますけれども,先ほど申し上げましたとおり,今,あらゆる可能性を含めて今後検討していくという段階ですので,具体的にこの手段,この方法をとるということを決めたわけではありませんので,まず制度の問題点が今,顕著になったということで,これを改善するにはどうしたらいいかということを考えて,その上でそういった目的からどういった対応があり得るか,そういう意味でのあらゆる可能性を考慮して検討していきたいと考えています。

楊中国国務委員の訪日

【北京日報 童沛記者】昨日,中国の楊国務委員が谷内局長と会談を行われましたが,その結果について紹介いただけませんでしょうか。特に今月末行われる可能性がある日中韓首脳会談について,双方が何か合意に達しましたか。

【川村外務報道官】昨13日の谷内国家安全保障局長と楊潔篪中華人民共和国国務委員との意見交換の概要は以下のとおりです。
 日中関係全般について,それから,日中双方の安全保障政策,更に海洋をめぐる問題などについて意見交換を行い,加えて国際情勢,地域情勢等についても会談を行ったと承知しています。
 会議の模様ですけれども,日中双方が,日中関係は様々な問題があるわけですが,これまで2度の首脳会談を踏まえて,全体として日中関係は改善の流れにあること,そして,その日中関係を対話と協議を通じて一層確かなものにしていくという日中双方の意思を確認しました。こういった観点から,日中双方がトップレベルを含めて様々なレベルや分野で今後とも対話と協議を継続していくということで意見が一致しました。
 更に,東シナ海をめぐる情勢についても意見交換を行い,日本側の立場に基づいて,日本からは深刻な懸念を表明しました。また,南シナ海問題についても突っ込んだ意見交換を行って,日本側の立場と懸念を明確に楊潔篪委員にお伝えしました。
 それから,谷内局長からは先般成立した平和安全法制について3つの点。すなわち,1点目,特定の国を対象としているものではないという点,2点目,日本は引き続き平和国家としての歩みを続けていくという点,3点目,今般の平和安全法制は地域や国際の安全保障に資するものであるという点の説明を行いました。
 今回,このような会合が行われたということで,日中両国が今後,トップレベルを含めて様々なレベルで,あるいは分野で今後とも対話と協議を推進していくということで意見が一致したわけです。
 それから,最後のご質問で,今月末にも予想される日中韓サミットの見通しですけれども,日中韓サミットにつきましては,引き続き中国,韓国,両国政府と一層,意思疎通,コミュニケーションを図って,このサミットの早期開催に向けて努力をしていきたいと考えています。
 言いかえれば,現時点でこの日時あるいは場所といった詳細が決まっているわけではありません。これらの点について,意見調整を進めていきたいと思っています。

ユネスコ記憶遺産

【朝日新聞 安倍記者】ユネスコの話題に戻って恐縮なのですけれども,本日報道官がおっしゃるように,日本政府として様々な政治利用を防ぐための働きかけはこれまでされてこられたということですが,このような登録を未然に防ぐことができなかったということからすると,外務省,また政府として,これまでの働きかけが不十分であったといった反省があるというご認識なのでしょうか。

【川村外務報道官】本来,ユネスコの記憶遺産登録制度は,諸国間の友好と相互理解を促進する制度あるいは役割といった前提で設立をされてきているということで,こういうことを理解して各加盟国が参加をし,議論をしてきました。記憶遺産制度については,少しユネスコ本体の意思決定のメカニズムなどとは違うものが用意されているという事情はありますけれども,そういった中で日本としても活動してきたということです。
 この記憶遺産制度については,本来,こういった諸国間の友好と相互理解を促進する役割を担っているわけです。そういうことから,当初の想定というものはこういう前向きなものに諸国が,あるいは委員が協力をしていくということでやってきたわけです。
 そういった中で,昨年の南京事件の,あるいは慰安婦の登録への期待の表明という時点から,このユネスコの制度についての問題点が生じてきたということかと思います。以後,先ほど一言で申しましたけれども,いろいろなレベルで働きかけをしてきたということを申しましたけれども,それは,この1年間は実は非常に長い期間で,担当の局長級,現地の大使,それから,中国における大使館員・幹部も含めまして,あるいは大臣,総理からもボコバ事務局長が来日した折等には懸念を伝え,働きかけもしてきたということですが,残念ながら当方の主張が認められなかったということです。
 これは結果ということですけれども,ただ,いろいろな働きかけをする過程の中でユネスコの制度というものがだんだんに明らかになってきたという側面もございます。ですから,そういうものも踏まえまして,今後,あるべき制度の改善ということを求めるのが必要であるというように痛感して,今回,こういう立場をとっているということです。

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