記者会見

吉田外務報道官会見記録

(令和3年8月4日(水曜日)15時45分 於:本省会見室)

ベラルーシ五輪陸上選手の亡命希望(日本からの出国)

【NHK 渡辺記者】本日、東京オリンピックに参加していたベラルーシの選手が、ウィーン行きのオーストリア航空で成田を出発して、亡命先であるポーランドに向かったということの事実関係を確認したんですけど、外務省として、その辺の事実関係の確認状況と、今回のその亡命に際して、亡命を受け入れた国がポーランドでしたけれども、舞台は日本だったので、その辺の、もし対外的に出せる範囲で、日本政府として、この間どういった活動を行ったのか、あるいはどんな支援を行ったのかとか、あと今回のこの事案に対する受け止めと、あとはやはりベラルーシの体制、ルカシェンコ大統領の体制というものが大きく影響していると思います。それに対する現時点での見解をお願いします。

【吉田外務報道官】お尋ねがありましたベラルーシの短距離走者の代表選手でありますクリスチナ・チマノウスカヤさん、本日午前、亡命を希望して、第三国に向けて日本を出国されたと承知しています。
 ご質問には、具体的な場所とか国名とか、言及されましたけれども、今から申し上げます外務省としての考え方とか対応をお聞きいただければ、現時点で、具体的な行き先や、そういったものに言及しないのはどうしてか、ということはお分かりいただけるかと思います。
 まず、政府外務省として、チマノウスカヤさんの身体の安全、これを確保すること。それから、彼女が希望される国への安全な移動、これを最大限優先すること。これを基本として、この事件が発生した当初から、関係する機関、当局と連携をして、対応に当たってまいりました。その関係機関というのは、まず一義的に、この方の身柄について直接の対応にあたっている組織委員会、それから、そういった関連する行き先の在京の外交団、こういった方々であります。
 まず今、日本を出国されたというところですので、安全に最終的な目的地まで行かれることを、第一に考えるべきだと考えますので、そういった事柄の性質上、今申し上げた以上の詳細に触れるのは、控えなければいけないかなと考えています。
 お尋ねのあったベラルーシの体制、ベラルーシ情勢についてでありますけれども、この会見の場でも、昨年来、何度かご質問をいただいてお答えした基本的な認識、これに変わりはないわけであります。
 談話を昨年の8月に出させていただいていますけれども、ベラルーシで大統領選挙が実施されて以降、大規模な抗議活動が続いて、治安部隊と衝突して多数の死傷者・拘束が出ていると、こういった情勢を強く懸念してまいりました。
 ベラルーシ当局に対しては、そういった抗議集会は平和的に行われているわけですから、その方々に対して暴力的に対応する、あるいは恣意的に身柄を拘束する、そしてその拘束された方々に対して不適切な扱いをする、これは直ちに止めていただきたいということを求めてまいりました。今回の事案をめぐっても、今申し上げたような基本的な認識というのは、共通する部分があろうかと思います。
 まずは、そのベラルーシ国内で幅広い政治勢力の間で対話が行われて、国民の意思を反映した民主主義的な原則、法の支配、これが遵守されるような形にしていくよう、引き続き、強く求めたいと考えます。
 引き続き、ベラルーシ情勢については、日本政府としても注視してまいりたいと、このように考えます。

東アジア首脳会議(EAS)参加国外相会議

【朝日新聞 安倍記者】話題変わりますけれども、今夜、EASの外相会議が開かれますが、日本としては同志国と連携し、地域情勢を中心に発信するということのようですが、日本政府の立場としてはどういった立場で臨むのでしょうか。

【吉田外務報道官】本日、日本時間だと、だいたい夜の8時ぐらいからだと思いますけれども、今回一連のASEAN関連の外相会合は、オンライン形式で行われていますので、同じような形式で東アジア首脳会議参加国外相会議、これが行われるということであります。議長はブルネイでありまして、当然日本側からは、茂木外務大臣がご出席される予定です。
 今回のEASの外相会議、これはこれから議論が行われますので、その結果や内容について予断することは、現時点では差し控えますけれども、基本的には、やはり現在世界が直面して、特にこの地域において猛威を振るっている新型コロナ、それへの対応、国際的な取組、こういったことが一つ議論の大きな課題になろうかと思います。
 それから、地域情勢について様々な議論が行われると考えます。当然この地域における、特に東シナ海・南シナ海における状況でありますとか、あるいは、北朝鮮における大量破壊兵器、あるいは拉致問題、こういった状況、更には東南アジアの中で取組が進められているミャンマーを巡るような情勢、こういったことが議論の対象になろうかと思います。
 多分ご案内だろうと思いますけれども、日本政府としてのこういった課題についての基本的立場を踏まえて、特にその中心に位置するASEAN、これを後押しする立場から、関係国に対して働きかけをしていきたいと、このように考えます。
 また、このEASの参加国には共通の課題として、我々、日本がこれまで中心になって連携を広めてきていますけれども「自由で開かれたインド太平洋」、そのインド太平洋地域の中核にあるASEANが提唱している「インド太平洋に関するASEAN・アウトルック」、こういったものへの呼びかけ、連携の強化、こういったことも一つのテーマになってこようかと、このように考えています。
 詳細というか結果については、また然るべく会議の後に皆様に対して、発表することになろうかと思います。

【朝日新聞 安倍記者】関連してもう一点お伺いしたいんですが、昨日行われました日・ASEAN外相会議では、茂木大臣からAOIPに対する高い評価と支持というような言及がありました。日・ASEANの共同首脳声明でも、「自由で開かれたインド太平洋」構想が、アウトルックと本質的な原則を共有していることに留意、というふうにありますが、この日本としてFOIPとAOIPというものは、本質的には同じ概念だというふうに理解して良いのでしょうか。

【吉田外務報道官】ご指摘のありました「自由で開かれたインド太平洋」のFOIPというビジョン、その中核にあるのは、法の支配、航行の自由、自由で開かれたその経済的な体制、そういった基本的な価値観、考え方であります。
 一方、このASEANが発出したASEANの「インド太平洋アウトルック(AOIP)」、この中にも、今申し上げたようなコンセプトが織り込まれているということだと認識をしています。
基本的に、従って、このFOIPとAOIP、これが目指す、実現しようとしている方向、これは共通しているのではないかなというのが我々の認識であります。
 更に申し上げれば、今、新型コロナのその難局に直面するこの地域、こういう状況であるからこそ、国際協調、国際協力が必要だと。一つワクチンの普及をとっても、公平で公正なアクセスということを実現していこうと思えば、そういった法の支配や開放性や透明性、それから誰をも排除しないという意味における包摂性、こういったものが必要になってくるだろうと考えます。
 ですから、こういった課題に直面したタイミングということにおいても、二つの概念、ビジョンというか考え方は、時宜を得た共通の土台を提供するものだと、このように考えています。

第1回核兵器禁止条約締約会議

【共同通信 浅田記者】核兵器禁止条約と、来年1月に予定されています条約の締約国会議のオブザーバー参加についてお尋ねします。核兵器禁止条約は今年1月に発効して、初めての原爆の日を明後日8月6日に迎えます。核兵器禁止条約とオブザーバー参加について、改めてになりますが、政府の見解をお願いします。

【吉田外務報道官】お尋ねいただきました核兵器禁止条約、本年1月に発効したということですが、まず日本政府としては、日本はその唯一の戦争被爆国ですので、核兵器のない世界の実現に向けて、国際社会の取組、これを引っ張っていく、リードしていく立場にあると認識をしています。当然、その目指すところは核廃絶ということでありまして、そのこと自体は、この核兵器禁止条約が目的に掲げている核廃絶と、ゴールは同じと、共有していると、このように認識をしています。
 実際、その核廃絶をどういうふうにして実現していくのか、ということでありますけれども、実際に核兵器を保有している核兵器国が、実際に核軍縮を進めていかなければ、この核廃絶というものに到達しないというのが現実だろうと思います。残念ながら、その現状におきまして、この核兵器禁止条約、核兵器国と言われる国が五つありますけれども、どの国からも支持が得られていない。これが現状であります。
 翻って、日本の周辺について見ますと、この地域、特に東アジアを取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増していると。当然、北朝鮮の核ミサイル開発、これは言うに及ばず、この近傍には複数の核兵器国が存在します。極めて不透明、不確実な地政学的要素が現存しておって、大量破壊兵器の拡散を含めて、軍事情勢は予断を許さない状況であり、その傾向に拍車がかかっているというのが実態ではないかと思います。
 日本の安全保障、それからこの地域の平和と安全を確保するためには、どうしても米国の核抑止力、これが不可欠になってまいります。この核兵器禁止条約は、その条文で、あらゆる形態の核兵器に関連する活動・行動を制約しています。従いまして、今申し上げたような核抑止力そのものを否定していると言わざるを得ません。
 日本としては、まずは、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的に核軍縮を前進させる道筋、これを追求していくのが適切であると考えています。従いまして、お尋ねにございましたけれども、核兵器禁止条約に署名するという考えはありません。
 それからオブザーバーというか、核兵器禁止条約の締約国会合が来年1月に行われるだろうということで、そこに参加するかどうかということについて、お尋ねがありましたけれども、今申し上げたような、日本政府の立場に照らして考えれば、締約国会合の実際の在り方、これまだ明らかになっておりませんし、それから今後の内外の情勢、こういったことも考慮した上で、見極めていく必要があると、このように考えています。

【共同通信 浅田記者】関連でもう一問お伺いします。それと弊社や全国紙などが加盟しています、日本世論調査会が、6月から7月に実施した平和に関する全国郵送論調査で、「核兵器禁止条約に日本が参加すべきだ」という声が71%、「締約国会議、オブザーバー参加で出席すべきだ」という声が83%に上りました。これは日本の一定数の人が、やはり核禁条約に参加すべきという意見がある、また、その核兵器禁止条約に参加しないまでも、オブザーバー参加すべきだという声だと思うんですけれども、これに対する政府の受け止めをお願いします。

【吉田外務報道官】ご指摘の世論調査の結果につきましては、今お聞きした次第ですが、その調査の具体的な手法や、それから設問の中身や、回答された方々等々、詳細は我々承知しておりません。また、お答えになった方々に、どれほど私が先ほど申し上げたような、政府の考え方を認識していただいているかと。これは当然のことながら、政府側のそういった努力が、まだ十分でない面もあるかもしれませんけれども、どれぐらい認識していただいているかということも定かではありませんので、今伺った世論調査の数字そのものに対して反応するのは控えたいと思います。
 先ほども申し上げましたけれども、日本政府としては、現在、この核廃絶・核軍縮を巡っては、国際社会に非常に多くの立場の異なる国々のグループ、これがあります。やはり、全ての関係する国々のコンセンサスで物事を進められるような環境にならなければ、実際のその核廃絶というのは難しいだろうと考えます。従いまして、その立場の異なる国々をどうやって橋渡ししていくか。それから、こういった現実的な核軍縮を進めるための議論を行う、対話の共通の基盤を形成していく。そういった取組に対して、それらの国々、特に、とりわけ核兵器国と非核兵器国、お互いを関与させていくと。こういった取組を粘り強く促していくことを推進していきたいと考えます。
 核兵器禁止条約締約国会合につきましては、まだ具体的にどうなるのかということも定かでありませんし、ご参考までですが、新型コロナ感染症の影響で何度か延期されていますNPTの運用検討会議、これも、このほど、つい先般、来年の1月に会議を開催することを念頭に準備を進めていくという、運用検討会議の議長候補の書簡が公表されています。こういったものが、どういう形になるのかというようなこともございます。
 従いまして、現時点において、先ほど冒頭に申し上げたような、このオブザーバー参加についての日本政府の考え方、これに変わりはないというふうにご理解いただきたいと思います。

ワクチン接種証明書(国内での活用)

【時事通信 近藤記者】ワクチン接種証明書についてお伺いしたいんですが、日本が発行するワクチン接種証明書の受入れ国が、徐々に広がってきるようで、ただ一方、日本に入る際の自主隔離措置などは変わらず、その交渉国からは、日本の方も対応して欲しいとか、あと国内の経済界からも、国内での活用について要望の声が上がっているんですが、感染状況とか五輪等の状況もあると思いますが、将来的なその入国時帰国時、国内での接種証明書の活用について、政府が前向きなのかどうか、今のところのお考えをお聞きしたいんですけれど。

【吉田外務報道官】まず、ワクチン接種証明書につきましては、これまで、順次、日本のワクチン接種証明書が、有効な国々の状況については発表して、外務省の海外安全ホームページでお知らせしてきているという状況です。引き続き外務省は、その前線で各国と調整を進めていますので、対象国は順次これから増加していくと思いますけれども、引き続きそういった形で情報提供は進めていく考えであります。
 翻って、その接種証明書の国内での活用についてお尋ねございました。現在のこの接種証明書の発行は、あくまでも海外に渡航する際に、防疫措置等の緩和を受けることを目的としたものでありまして、それぞれの国の制度に基づいて、例えば、その陰性証明の提示であるとか、入国後の自己隔離や再検査、そういったものが免除されるということを容易にすることを念頭に置いて進めているものであります。
 国内でその接種の事実を証明することによって、何らかのそういった便宜が受けられるかどうか、これはこれからのその社会の取組によるだろうと思いますけれども、ワクチン接種そのものは、自らの判断で行われるわけで、接種を強要するものでもありませんし、不当な差別になってもいけないという、そういった考え方もございますので、政府の中では、今後の国内での活用については、種々検討されていく段階にあろうかと認識しています。
 水際の、今言った入国・再入国におけるワクチン接種証明書の活用、これについては、基本的に外務省単独でどうだと言える立場にはありませんけれども、これまでも官房長官もこのような質問をお受けになって、現時点では具体的に申し上げられる状況には至っていないという説明をされているかと思います。
 一方、実態として、このワクチン接種証明が、今後の国際的な人の移動の再開に繋がる、一つの重要な手段になり得るという認識はございます。この点については、今後やはり国内外で、どういった議論が起きるのか。それから海外の各国・地域がどう対応していくのか、こういったものを鋭意注視をして、知見を集めて、政府内で検討を進めていくべきもの、このように認識しています。

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