記者会見

吉田外務報道官会見記録

(令和3年7月29日(木曜日)15時29分 於:本省会見室)

北方領土問題(露首相の択捉島訪問)

【NHK 渡辺記者】日露関係についてお伺いしたいと思いますけれども、先日ロシアのミシュスチン首相が択捉島を訪問しました。それで、現地でのぶら下がり報道陣とか、現地の水産会社の幹部たちを前にして、あそこで関税・税制面での優遇をするような、そういう区域を設けるという話をしておりましたけれども、この提案、ミシュスチンが現地で行った提案というのは、その訪問前に、国家安全保障会議の中で、プーチン大統領が首相からこういう提案があると言っていたと、その提案と同一のものとして、外務省として認定しているのでしょうか。

【吉田外務報道官】まず、ロシアのミシュスチン首相、7月26日に択捉島を訪問したと承知しています。ロシアの現職の首相が択捉島を訪問したのは、北方領土問題に関する日本の一貫した立場とは相容れないもので、日本国民の感情を傷つけるものであって、極めて遺憾です、ということをまず申し上げたいと思います。
 ご案内のように、森外務次官がガルージン大使を召致して、日本の立場を申し入れて強く抗議をいたしましたし、茂木外務大臣の談話も発出をいたしました。
 まずもって、今回のロシアの首相が択捉島を訪れたことは、日露関係に資するものでは到底ないということを重ねて申し上げます。
 その上で、北方四島における共同経済活動につきましては、平和条約締結交渉の進展に向けて、日露関係前進のために建設的に対応するということをロシア側に求めたいと思います。
 今お尋ねのあった、現地でのロシアの首相の発言、それからそれに先立ちますプーチン大統領の発言、その両者の関係がどういうものなのかということについては、日本側としては、憶測をもって申し上げるのは控えたいと思いますけれども、北方四島における共同経済活動、先ほど言及しましたけれども、これは日本の法的立場を害さないことを前提に、ロシア側と協議を精力的に行ってきているものであります。まずプーチン大統領が、北方四島における共同経済活動について言及されたことについては留意したいと思います。
 一方、ロシアの首相の提案そのものにつきましては、今申し上げたような、我が国の法的立場を害さないことを前提として、北方四島における共同経済活動についての、ロシアと側の協議を継続していくという立場について変わりはありませんけれども、その首相が発言された内容そのものについて、中身はつまびらかに分かりませんので、コメントは差し控えておきたいと思います。

【NHK 渡辺記者】そうしますと、ロシアの首相が、現地で提案した、ぶら下がりの中で話した、特区を設けるという話ですね、経済的な意味での特区を設けるという話というのは、共同経済活動とは全く違うものだと思うんですけれども。それはそのロシアの法的枠組みでやるということだと思うんですね。だからこそ、日本とか西側の投資を呼び込むということを言ったと思うんですが、それは日本としては、その提案について、現地で話したそのロシア側の提案の内容は受け入れられないということでよろしいんでしょうか。 それはロシアの法的枠組みを前提とした話になっているからだと思うんです、と見ていますけれども、そういうことでよろしいですか。

【吉田外務報道官】ミシュスチン・ロシア首相が、択捉島を訪問しておっしゃった、これは自由関税領域体制とか免税措置とか、そういうことをおっしゃったようですが、その内容はどのようなものであるのかというのは、詳細は我々分かりませんし、それが、従来我々が議論してきているような北方四島における共同経済活動と、整合性のあるものであるのかどうかについても、必ずしも定かではないだろうと思います。 従いまして、ロシア側がいろいろ発言していることを、逐一それについてコメントするのは適当ではないと考えています。
 他方、ここで強調させていただきたかったのは、北方四島において、共同経済活動としてこれまで議論してきていることは、日本の法的立場を害さないということが原理原則でありますので、そういったものでなければならないということでありまして、日本の一貫した立場に基づいて、ロシア側とは議論は継続していきたいと、このように考えています。

国際機関における日本人職員

【時事通信 近藤記者】国際機関の幹部ポストに日本人を送り込むという、関係省庁連絡会議についてですが、2月に立ち上げて、先日2回目が行われたと思うんですが、改めてこの国際機関に日本人を派遣する意義と、あと今その国際機関トップに日本人がいないという現状についての問題認識や背景の分析、どのように考えていらっしゃるのかお聞きしたいんですけれども。

【吉田外務報道官】国際機関の幹部職員への日本人の送り込みにつきましては、従来から、外務省のみならず政府一体となって、尽力してきている重要課題です。まず、国際機関の中で、必ずしもトップに限られたことではありませんけれども、幹部職員が果たす役割を考えると、日本が国際社会で貢献している立場にふさわしい形で、日本人のプレゼンスが反映されることが望ましい、ということは言うまでもありませんし、そういった国際機関に貢献できる人材を発掘・養成していくこと、これは必ずしも日本の国益を追求するためというよりは、そういった国際社会に貢献する人材を提供することによって、日本の姿、そういったものを示していくと、それが日本の現在の国際社会における立ち位置にふさわしいものであるべきだと、こういった考え方に基づくものです。
 今、国際機関のトップに日本人がいないというお話がございましたけれども、厳密に言えば、それは国連の専門機関、国連ファミリーにおいては確かにそういうことですが、亡くなりましたけれどもIAEAのトップには天野之弥事務局長が長年指導力を示しておられましたし、現在、国連、先ほど申し上げたように、トップにのみならずと申し上げたのは、国連の極めてハイレベルの幹部職員として、中満さんという国連軍縮担当上級代表、次長クラスですが、こういった方々が活躍をしておられるという事実はございますし、国連ファミリーではありませんけれども、世界関税機関(WCO)のトップも財務省出身の御厨さんという方が務めておられたりします。
 従って、必ずしも日本の国際機関における幹部職員、あるいはトップレベルの人材がいないということではありませんけれども、まだまだそういったやるべきこと、あるいはそういった姿を反映していくことが十分でないというところがありますので、これは外務省のみならず、関係省庁、あるいは官のみならず民においても、そういった人材の養成・発掘にご協力をいただいて、実現をしていきたいというのが、この問題をめぐる日本政府の基本的な考え方です。

「明治日本の産業革命遺産」保全状況に関する決議

【テレビ朝日 澤井記者】「明治日本の産業革命遺産」についてお伺いします。先日の世界遺産委員会で、この文化遺産の説明が不十分だとする決議が全会一致で採択されましたが、このことに関する受け止めと、今後対応が求められてくると思うんですが、日本政府として、どのように対応していくのかというご説明をお願いします。

【吉田外務報道官】ユネスコの「明治日本の産業革命遺産」保全状況に関する決議というものが、22日、ユネスコの世界遺産委員会で採択されたということです。今般のこの決議ですが、今ご質問がございましたが、まずもって申し上げるべきは、「日本が多くの約束を満たし、また世界遺産委員会の関連決議の多くの側面を遵守していることに満足して留意し」と、このように決議の中には記述してございます。この点につきましては、これまでの日本の取組を正当に評価していただいたものと、このように受け止めています。
 一方、同じ決議の中に、今ご指摘がありましたけれども、一部、「十分に実施していない」といった記述があります。我が国としては、これまで世界遺産委員会における決議・勧告これを真摯に受け止めて、日本政府が約束してきた措置を含めて、それらを誠実に履行してきているという認識です。その上で、今回の決議も踏まえまして、今後とも、ユネスコにおける決議や勧告、こういったものを誠実に履行していくという立場には、何ら変わりはないということを申し上げたいと思います。

【テレビ朝日 澤井記者】追加でご質問いたします。誠実に履行していくということですが、センターの、例えば展示を追加したりだとか付け加えたりとか、何か追加で行うことはあるんでしょうか。

【吉田外務報道官】今回のその決議の中で、いくつかの点について言及があります。そのことにつきましては、まず、現在、新宿にある産業情報センター、ぜひ皆さんもご覧いただいたらと思いますけれども、戦時中の状況を示す資料でありますとか、当時のことが理解できる資料・書籍を幅広く展示をしています。それから、2015年の世界遺産登録当時に、日本政府の代表が行ったステートメント、これについてもきちんとパネルで展示をしていますし、当時の徴用政策などが理解できる展示もしています。これらは、今回のその決議の元になった現地調査報告書の中でも認められている点です。
 従来より、産業遺産情報センターというのは、まだ開館してから一年余りですから、その展示内容というのは、専門家の助言を得ながら充実させていくという方針ではいます。
 そういった中で、先ほども申し上げましたように、日本政府は、世界遺産委員会における決議・勧告を、これまで真摯に受けとめて誠実に履行してきていますし、今後ともその考えには変わりがないということです。

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