在ハガッニャ総領事
小林 誠
コバルトブルーの美しい海に浮かび、ブーゲンビリア、ハイビスカスの花が咲き乱れるグアム島は、日本から2500キロ、飛行機で約3時間半の人口約16万人の島です。太平洋に浮かぶこの島は、年間120万人を超える観光客でにぎわうリゾートの島となっています。
この島を訪れる日本からの観光客は年間延べ約100万人、観光客全体の約8割を占め、日本から最も近い米国として、若者にとってはダイビングやイルカウオッチング、あるいは素敵な教会での結婚式、また中高年の人々にとっても、ゴルフやヤシ並木の海岸を夫婦でゆったりと散歩のできる、気軽に訪れることのできるリゾート地として近年人気が高まっています。
グアム島の観光産業は、1962年、軍による多くの規制が緩和されたことなどを受け、また70年に日本航空がグアム-東京線を開設したことなどから日本資本の観光関連企業によるホテルなどの観光開発が急激に進んだという経緯があります。現在では島の経済の3分の2が観光産業関連といわれています。これらの進展を受けて75年に日本総領事館が開設されました。
グアム島の治安は比較的良いため、日本人が巻き込まれる凶悪犯罪は発生しておりませんが、それでも旅行者を狙った「置き引き」や「ひったくり」のたぐいの被害は多く、総領事館の援護を必要とするケースはかなりの数に上っています。深夜便で到着後、24時間営業のコンビニ・ショップに行き、ひったくりの被害に遭うこともまれではありません。レンタカーを風光明媚な場所の路上脇に駐車したまま記念撮影に熱中し、車の中の貴重品を盗まれるような事件も起きています。こうした事件・事故の際には、総領事館は支援を行うと同時に、概要を旅行関連業界に速やかに通報し、類似の事件が繰り返されないよう注意喚起し、またグアム政府も、旅行者が多く集まる場所に交番を設けるなどして犯罪防止に努めていますが、根絶は難しいのが実情です。
また、最近は高齢の旅行者も増えており、こうした高齢者が潮流の速い遠浅の海中で水難事故に遭ったり、年齢に関係なくダイビング、レジャーボートなどで海に出て、現地の気象・海流などに通じていないため潮流に流され、コーストガードに捜索を依頼するなどの事故がたびたび発生しています。
これら事故防止のため日本語による情報の提供が必要として、昨年秋に日本語FM放送局が開局され、気象情報、犯罪情報などを提供するとともに、台風・地震など自然災害の緊急時にも必要な情報を流す体制が整いました。
平和そのものに見えるグアム島ですが、島の約29%が軍の管理下に置かれていることに見られるように、米国連邦政府は、この島の戦略的な重要性を認識し、ここに海軍、空軍の基地を整備してきています。
先の大戦では、日・米の激戦地となり、双方の将兵および多くの住民が犠牲となった戦争の傷跡を残す島でもあります。米軍はグアム島、サイパン島およびテニアン島を日本空爆のための基地とし、特にテニアン島は、広島、長崎への原爆投下機が飛び立った島として知られています。今も犠牲者の慰霊のため毎年多くの戦友会・遺族会の方々が戦跡を訪れています。
総領事館では、これらの島々を慰霊のために訪れる方々の気持ちが、これらの地で尊重されるよう現地の政府と意思疎通を図るように努めています。
グアム島は治安が良いこともあり、修学旅行先として日本から多くの高校生が訪れています。2005年には50校、5400人余が訪れ、現地の高校を訪問していろいろな交流を深めています。こうしたこともあり、当地で日本語を教えている高校は10校に上っていますが、この傾向がさらに続き、日本とグアムの間で草の根レベルでの理解・友好がますます深まっていくことが期待されています。
さらに、島の人々と友好親善を図るため日本人会が中心となって毎年「秋祭り」を開催し、日本文化の紹介をはじめとする数々の催しを行っています。今ではグアムにおける最大のイベントの一つとなっており、昨年は島中から約2万1000人の老若男女が集まり和気藹々、感動と喜びを分かち合う楽しい一日を過ごしました。この他にもグアムの邦人社会は、現地住民とともにピースウオークやボランティアによるビーチの清掃などを行って地域社会に貢献しています。
この人口16万人で淡路島ほどの小さな島に8000人(家族を含め約1万7000人といわれる)の海兵隊が沖縄から移転してくるとのニュースが、昨年からこの島を揺るがせています。移転により多くの人が住むようになれば、電気、水道などの供給はさらに悪化するのか、それとも日本および米連邦政府の資金で整備が行われ、インフラ整備が改善するのか。また、海兵隊の移転で治安などに変化はあるのか。大半を観光収入に頼っていた経済はどう変化するのか。多くの人々は、期待と心配が入り交じった気持ちでこの成り行きを見守っています。移転は数年先のことですが、関係機関・企業との調整がますます重要になってくるものと思われます。