新聞・雑誌等への寄稿・投稿

総領事館ほっとライン 第35回 サンパウロ
3つの“世界一”を抱えた総領事館
-在外選挙数、特定査証と戸籍届け出数

在サンパウロ総領事
西林 万寿夫

 サンパウロという街をご存じですか。まずは幾つかの事実関係をおさらいしておきましょう。

“世界一”の事情と対応策

 こうした状況の下で総領事館はいつも大忙し。領事部の待合室は各種手続きに来られる方でいつもごった返しています。一番大変なのは在外選挙が実施される時です。昨年9月の衆議院議員選挙の時には2123人の方が投票に来られました。この数字は日本在外公館の中で一番です。第2位の在ニューヨーク総領事館が848人だったので、この数字がいかに大きいかお分かりいただけると思います。投票は4日間実施されましたが、初日の午前中、300人近い方--多くはブラジル生まれの日本国籍を有するお年寄り--が延々長蛇の列を作っている光景は今もって忘れられません。次回からこれまでの比例代表に加え選挙区・小選挙区にも投票ができるようになりました。選挙に対する関心がさらに高まり、また投票により時間がかかるのでこの列はもっと長くなることでしょう。少しでも待ち時間を減らすよう今からいろいろ対応策を検討しているところです。

 “世界一”といえば「特定査証」の発給件数もダントツです。在サンパウロ総領事館では年間3万3000件の査証を発給していますが、その8割がいわゆる出稼ぎを目的とした日系人とその家族に対する「特定査証」です。現在約30万人のブラジルからの日系人が日本に在住していますが、その多くがサンパウロおよびその周辺の出身者です。「特定査証」発給に当たっては、日本人の子孫であるという身分を確認しなければなりません。これは結構骨の折れる作業です。時々虚偽の書類を出して日系人だとごまかすケースに出くわします。これを見破るのが査証担当者の腕の見せどころです。昨年広島県で犯罪歴を持つ日系ペルー人による女児殺害事件が起きたことは記憶に新しいところです。こうした痛ましい事件の再発を防止するためにも「特定査証」を発給する際の審査をもっと厳しくしなければならず、限られた人数の査証担当者は日夜奮闘しています。

 もう一つの“在外公館一”を紹介しましょう。戸籍の届け出数です。昨年は3600件を処理しました。第2位公館の倍以上の件数です。移住者の多くが戸籍の届け出をされていないので、総領事館としては特別プロジェクトを企画し、戸籍の整理を推進しているのです。そんな訳で当館の領事窓口はいつも混み合っていますが、少しでも円滑に手続きを進めるべく行政サービスの向上に努力しているところです。

想像を超えた事件の発生

 ありがたくはない話ですが、サンパウロは治安が悪いことでも有名で、犯罪の9割は拳銃が使われています。空港から尾行され帰宅したところやホテルに入る直前で狙われるという事件も頻繁に起きています。高級アパートの守衛が人質になり、そのアパートの住人全員が襲われるといったちょっと信じられないような事件も時々起きています。犯人は10人以上の集団で襲ってきますので、ひとたまりもありません。警察が出動すると銃撃戦になります。いつ流れ弾が飛んでくるか分かりません。

 被害者に在留邦人や日系人そして日本人旅行者が含まれることもしばしばです。当館ではeメールや当地邦字紙などを通じて注意喚起を行っていますが、残念ながら治安状況は今のところ改善する兆しはありません。おまけに5月中旬には麻薬密売組織による警察署や刑務所への一斉襲撃事件が発生し、世界中にサンパウロの治安のひどさがニュースとして流れました。原因の一つは受刑者がサッカーW杯を見るためにテレビを刑務所に設置してくれと要求し、断られたので携帯電話(受刑者が持っているのですよ!)を使い、外部と連絡を取り合って事件を起こしたのだとか。いかにもブラジルらしい事件ですが、笑ってはいられません。100人を超える犠牲者が出ました。幸い在留邦人や日系人は被害に遭いませんでしたが。こうした大きな事件への対処も邦人保護の観点から総領事館として重視しなければならず、さらなる対策を立てていくつもりです。

 2008年は第1回の移民船笠戸丸がサントス港に着いてからちょうど100年目となります。日本とブラジル両国政府はこの年を「日伯交流年」と定め移住100周年をお祝いすることになっています。日本と、サンパウロを中心とするブラジル各地でいろいろな記念行事が企画されていますのでぜひともご注目ください。

ワンポイント・アドバイス

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