新聞・雑誌等への寄稿・投稿

総領事館ほっとライン 第34回 済州
北東アジアの平和ハブを目指す島

在済州総領事
岡本 毅

条件に恵まれた国際観光都市

 在済州総領事館は、韓国最大の島、済州道(済州島を中心とした行政区画)を管轄区域としています。済州島の面積は佐渡島の約2倍程度であり、佐賀県と同じ緯度に位置しています。

 近接の周辺アジア地域に人口500万人以上の都市が18存在すること、気候も韓国内で最も温暖であり、風光明媚であることなどの地理的な条件、島独特の民俗を濃厚に残していることなどの文化的な条件、さらに、ホテルほかのインフラが整っていることから、済州道は、従来より観光に力を入れ国際観光都市として飛躍を期してきました。

 その間の努力が実って、昨年1年間に島を訪れた観光客は、500万人を超えました。そのほとんどは、韓国本土からの観光客ですが、外国人観光客は、約38万人です。日本人観光客は、その約40%に当たる約15万人で第一位を占めており、観光シーズンには、島内の至る所で日本人観光客を目にすることができます。今年の春のゴールデンウイークには、約7000人の日本人観光客が訪れました。また、今年は、済州市と本邦各都市間の直行航空路線が増設されたことや、いわゆる「韓流」関連のドラマ「太王四神記」(ペ・ヨンジュン主演)が済州でオールロケされるなどの「韓流」の流れに乗って約17万人が訪れるものと予想されています。

治安の良い「三無の島」

 日本人観光旅行者の援護業務は、当館業務の重要な柱です。幸いなことに、ここ数年の間は、日本人観光客が凶悪事件に巻き込まれる事例は起こっておりません。しかし、これだけ多くの観光客が訪れますと、やはり事故もつきものでいろいろと起こります。例えば、置き引き、車上狙い、夜の飲食街での喧嘩沙汰などが起こり、領事担当が出動することがしばしばあります。凶悪事件や交通事故に巻き込まれて日本人観光客が死亡する事件はこのところありませんが、不養生のため持病が急変したり、予後不良のため当地で亡くなられた事例は数件ありました。例えば、糖尿病を患っている人がゴルフツアーに参加し、ホテル内で飲酒後に入浴して亡くなられたケースがありました。また、手術後の通院治療をされている年配の方が、幼少の頃に住んだ当地を無理して訪れ、病に倒れた事例がありました。持病のある方や病後の方は、旅先で思い掛けず大事に至ることがあるので注意が必要だと思います。

 ところで、このように援護件数が比較的少ないのには、それなりの背景があります。日本人観光客の多くは当地旅行会社が受け入れてアテンドする団体旅行者であることのほかに、済州島の特別な理由があるようです。済州島は、古より「三無の島」といわれています。家に「門」がなく、「泥棒」と「乞食」がいない所といわれ、治安が良く貧富の差のない安定した伝統的な生活が長く続いてきました。国際観光地は世界のいずれの地域でも多少なりとも治安の芳しくないところが多い中で、治安の面で安心できる地域である理由はこのあたりにあるようです。

整った施設で多数の国際会議を開催

 済州島の南側の中文観光地域は、最高級のホテル・国際会議施設やゴルフ場、自然の景観、マリン観光資源が整っており、これまで韓国と諸外国との首脳会談や国際会議がたびたび行われています。国際会議ではアジア開発銀行(ADB)総会、アジア太平洋経済協力会議(APEC)閣僚級会議など、日韓首脳会談も、2004年7月に小泉純一郎首相・盧武鉉大統領会談、1996年6月に橋本龍太郎首相・金泳三大統領会談が開催されたほかに、日韓間の閣僚レベルや種々のセミナーなど多様な会議が開催されています。これまでに、ゴルバチョフ・ソ連大統領、江沢民中国国家主席、クリントン米国大統領(すべて当時)ほか錚々たる人物が訪問しています。

 韓国政府は昨年1月に「済州平和の島」を宣言、済州道を北東アジアの平和のハブにするとして、既に、研究機関などを設置、活動を始めています。韓国での首脳会談や各種の国際会議は、これからますます済州道で開かれることが多くなるでしょう。また済州道は今年7月1日より行政上「済州特別自治道」となり、自治権を大幅に付与された革新的な地方自治体として、さらに、経済的にも規制緩和と国際的基準が適用された国際自由都市として発展していこうとしています。

 済州道は、小さいながらも、特別自治道、国際観光都市、国際自由都市、平和の島など多様な面貌を整え、発展していく可能性を備えています。今後とも、一衣帯水の関係にある済州道とわが国との関係は、一層緊密になっていくことでしょう。

 当館は、これからも増えていく日本人観光客および在留邦人の方々が安全で快適に滞在できるようにと願い、努力していきたいと考えています。

ワンポイント・アドバイス

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