新聞・雑誌等への寄稿・投稿

総領事館ほっとライン 第32回 クリチバ
日系人も創造に貢献したエコシティー

在クリチバ総領事
萩生田 浩次

 ブラジル南部のパラナ州の州都クリチバは、サンパウロから南西に1時間ほど飛行した大西洋海岸山脈の西側、標高約900メートルに位置する人口約175万の高原都市です。当館は日本から見て一番遠隔の地にある公館の一つですが、対伯移民による日本との絆がありますので、「日系人」をキーワードに当地事情の一端を述べたいと思います。

 ちなみに、ブラジルの日系人は現在約140万人とされ、2008年は日本移民100周年に当たり、同時に日伯交流年と決まっています。当館の管轄は南部3州で、日本の1.5倍に相当する地域に及び、中でも、パラナ州はサンパウロ州を除けばブラジル最大となる約15万人の日系人口を有し、クリチバにはそのうちの約4万5000人が居住しています。あえて日系人にこだわる理由は、日本人旅行客がまれで、在留邦人数も相対的に少数にとどまる状況の下、ブラジル社会に確たる地歩を占める日系人を語らずしては当地の十全な紹介とならないからです。身近な例では、日系人の三大祭り(花、移民、春)はクリチバの歳時記に入っており、日系人関連事務は総領事館の領事業務の大きな比重を占めています。

「人間重視」の都市

 ところで、クリチバは1992年にリオデジャネイロで開催された国連世界環境会議で優れた「エコシティー」として表彰されており、都市計画や環境の専門家の間では知る人ぞ知る存在です。クリチバ市民の誇らしげな説明によれば、何の変哲も無い地方都市が世界の称賛を浴びる「人間重視」の都市に変貌した理由は、1970年代以降、強力な政治指導により、独創的な交通・都市計画・環境・緑化政策を整合性をもって実践した成果であるというわけです。実は、今日のクリチバが創造された過程で多くの日系人の関与と貢献があります。例えば、私の着任当初のクリチバ市長で、ブラジルで日系人として初めて州都市長を務めたカシオ・タニグチ氏がいます。同氏は若い時から市長や州知事を補佐しつつ、自らも自治体首長としてクリチバの都市計画や環境行政を成功裏に推進した功労者の一人です。その他、日系人がクリチバ市の環境局長や都市計画研究所長などの要職に就き、都市行政に指導的役割を果たしたことはあまねく知られています。当地では、先駆移住者の努力で、日系人は勤勉で規律正しく責任感が強いとの社会的評価が確立しており、パラナの政界、官界、法曹界や医師など専門職で日系人が幅広く活躍していますが、ブラジル人の良好な対日観には日系人に対する高い社会的評価が反映されていると見て間違いありません。

日本向け「出稼ぎ」関連業務に対応

 さて、パラナ州にはクリチバから最長600キロの範囲に70余の日系コロニアが散在していますので、遠方の地域を対象に巡回領事サービスを実施することも総領事館の重要な仕事です。こうした「一日領事館」では、戸籍や国籍、証明、在外選挙人証などの事務受け付けや照会、あるいは種々の相談にあずかりますが、時には長年大切に保管された婚姻届や死亡届が提出されることがあり、身分関係や法的整理が十何年ぶりかで図られるといったケースもあります。

 しかし、総領事館が最大の努力を傾注して対応しているのは、「出稼ぎ」関連業務です。「出稼ぎ」はそのままポルトガル語として通用するほどになっていますが、1990年の入管法改正により、一定の日系人に就労を含む活動に制限の無い「定住者」の資格での日本への入国が認められたことが契機となり、パラナからも多くの日系人が日本に赴いています。今や家族や親族の中に「出稼ぎ者」がいない日系人を見いだすのが困難なほどです。こうした事情を背景として当館の査証発給件数はおおむね年間6500件に達し、査証発給実績ベースで見ると当館は中南米地域の30余のわが国在外公館の中で第2位になります。当館への査証申請の大宗は「出稼ぎ」目的と見られますので、クリチバは、いわば日本への出稼ぎ者の主要な出入り口です。

 在日ブラジル人約28万人の約4分の1がパラナ州出身と言われます。戦前・戦後の対伯移住者の総数が約26万人ですから、これを凌駕するブラジル人が滞日する逆流現象が起こっています。「出稼ぎ」については、日伯間の人的絆、20億ドルを超える膨大な本国送金といった経済的貢献のような明るい面と共に、日系社会の空洞化、家庭破壊、子弟教育・異文化不適応といった問題などその功罪があると言われますが、現実の問題として彼我の賃金格差などから当面出稼ぎ現象が収まる兆候は見られません。市内には、「出稼ぎ者」の訪日前後のケアを目的とするNGO(非政府組織)協会が設けられており、渡航情報、起業相談、税務会計相談、教育相談、日本語教育といったサービスを提供しています。総領事館の窓口では、「出稼ぎ者」の訪日が成功することを念じつつ、厳正・公正・迅速をモットーに途切れることのない申請を少数精鋭主義で対応しています。

ワンポイント・アドバイス

 ブラジルの中でも比較的治安が良いとされてきたクリチバも、「住みやすい都市」の評判がかえってあだとなり、州内外からの人口集中が進み、犯罪発生件数が軒並み増加傾向にあります。特に、被害者を数時間拘束して連れ回し、現金自動預払機(ATM)や自宅から金品を引き出させてから解放する「電撃誘拐」が急増しています。以下のような注意が必要です。

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