新聞・雑誌等への寄稿・投稿

総領事館ほっとライン 第30回 マルセイユ
騒擾よりも邦人旅行者狙いの犯罪に注意

在マルセイユ総領事
小林 正雄

交通ストの方が深刻だったマルセイユ

 最近一連の騒擾事件がフランスで起きたことは、報道でご承知のことと思います。パリ郊外に端を発した事件は、やがて全国に広がり、昨年11月末現在、仏全土で約1万台の車が放火されており、このほか学校に火が付けられるなど、社会的事件となりました。連日、メディアが、炎上する車の映像を流し、センセーショナルに報道したこともあり、日本の多くの方が仏在住の家族の安否を心配し、問い合わせをされたと聞いています。

 南仏でも、他地域の事件に連鎖的に反応し、車の放火が普段より多く起きたのは事実ですが、パリ近郊と比較すればその件数はかなり少なかったのが現状です。また、フランスでは路上駐車が多いこともあり、昨年は騒擾事件が起きる前まで、1日平均80~90台の車が放火されています。これらの放火の多くは「シテ」と呼ばれる、郊外にある低家賃の集合住宅地域で起きています。今回の事件により、一般市民の普段の生活に大きな支障が起きたことはなく、むしろこれらの地域の一般住民が「暴力反対」などのデモを行うほどでした。

 日本ではあたかもフランス全体が燃え上がっているかのようなイメージが持たれたようですが、現実とはかなり隔たりがあったように思われます。例えば、総領事館のあるマルセイユ市は、ともすれば治安の良くない都市と見られがちなのですが、散発的な放火はあったものの、市民の間には、同時期の「都市交通の長期ストの方が生活にとって深刻」と言われるほど、騒擾事件は局地的な現象と受け止められていました。この背景には、当地に特有の、異文化を受け入れる鷹揚さや、宗教関係者をはじめとする人々による相互理解への努力があるとされています。

 当館では、今回の騒擾事件に際し、邦人が事件に巻き込まれたとの情報はなかったものの、不測の事態に備え、メールマガジンにより、在留邦人の皆様に、南仏で判明している事件の概要をお知らせし、特に夜間の車での移動にご注意願いたいとの注意喚起を行いました。

悩ませられるひったくり事件

 現在南仏の一般的な犯罪被害で当館を悩ませているのは、邦人旅行者に対するひったくり事件です。典型的な事例は、邦人旅行者がマルセイユの中央駅に降り立ち、旧港方面の市内繁華街に散策に出た際に、背後から近寄った若者が、旅行者のバッグをひったくるというものです。犯人は、日本人は現金を持ち歩くと認識しており、邦人に狙いを定めています。貴重品を取られたばかりではなく、犯人に抵抗した結果、肋骨を何本も折られ、当地で入院を余儀なくされた方もいます。また、車で移動中に信号前で停止した際、二人乗りバイクの後部座席の若者が、何食わぬ顔をして背後から近づき、助手席のドアを開け、座っている人のひざ上のバッグを盗むといった手口も頻発しています。さらに個人旅行者の場合、列車の中で居眠りをしていて、貴重品を盗まれるといった被害も時々起きています。

 こうした犯罪の一番の特徴は、騒擾事件もそうですが、犯人が主に18歳未満の未成年であるということです。フランスでは未成年の場合、法律上、警察に逮捕されても、大抵は説諭をした上で保護者が迎えに来て釈放ということになり、こういうことを承知の上で、同じ若者が犯罪を繰り返しているもようです。

 このような状況から、昨年6月、私からプロバンス・アルプ・コートダジュール地域圏警察長官に対し、邦人被害に対する犯罪取り締まり強化を要請しています。また、日本人は多額の現金を持ち歩くとの記事を数度にわたって掲載した新聞社に対し、邦人に対する犯罪を誘発するような記事は書かないでほしいとの申し入れも行っています。さらに、NHKの海外危険情報および外務本省のホームページで、南仏における犯罪の手口を紹介し、皆様の注意をお願いしています。

 このような努力は行っていますが、前述のような法律もあり、繰り返し犯罪が行われる構造的な問題があるため、残念ながら、事態の早急な改善は見込めません。

 当館が管轄している南仏地域は、ミストラルと呼ばれる強風が時折り吹きますが、温暖で日照時間が長く、世界遺産も多く、風光明媚な地域なので、年間を通じて多くの観光客が日本から訪れています。いろいろな旅行の形態があるようですが、団体旅行の場合、1週間から10日くらいかけ、南仏のニース、カンヌ、マルセイユ、エクサンプロバンス、アビニョン、アルル、ニーム、カマルグ、レボーなど各地を巡るツアーが一般的なようです。個人旅行者の場合は、イタリア、あるいはスペインから南仏に入って、各地を巡っています。

 旅を実りあるものにし、良い思い出を作って帰国していただくためにも、邦人の皆様が、犯罪被害に遭わないよう「自分で自分の身を守る」措置(別項)を取り、無事故で快適に、南仏の豊かな歴史と文化と自然を楽しんでいただきたいと願っています。

ワンポイント・アドバイス

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