
国連改革に関するパブリックフォーラム(概要)
平成17年9月5日
8月30日、三田共用会議所において、外務省と「国連改革を考えるNGO連絡会」との共催で、「国連改革に関するパブリックフォーラム」が開催された(プログラムは別添)。
NGO、大学及び学術機関等を含む130名以上に及ぶ一般からの参加者を得て、活発な意見交換が行われた(外務省側より、開会挨拶に五月女NGO担当大使、国連改革全般についてのプレゼンテーションに相川総国長、その後のディスカッションに、神余国際社会協力部長、南国政長、岡庭経協計長、福島国環長、芹沢軍軍長、中前総平長、鈴木国人首席が出席)。分科会を受けてのパネルディスカッションでの議論の概要は以下のとおり。
- 星野教授による問題提起
国連改革の焦点となっている開発、平和、人権の三分野はパッケージであり、どういうふうにかみ合うのか、また、負の三角形にしてはならず、どうしたら正の三角形にできるのか。
- 神余外務省国際社会協力部長の発言
日本としては、地政学的変化を反映させて、国連が現状に合うよう変えていく努力をすべきである。種々の分野の中で、開発、軍縮・平和は重要。人権については、日本は、人間の安全保障を外交の柱としている。問題は、民主主義と独裁との関係をどうするか(北朝鮮、ジンバブエ等)ということである。この他、人道支援の実施のあり方、紛争の平和的解決・平和の創造、日本国内での国連分野での人材の育成が重要。
- 高橋氏(日本国際ボランティアセンター)の発言
三角形のコアに何を原則とするのかにあたり、弱者の立場に軸足をおいた人間の安全保障を前面に出すように努力すべし。目線を下におく必要があり、貧困がなぜ作られるのか、その構造を考えるべし。
負の三角形にならないようにするということが重要であるが、三分野の境界上で起こっている問題をきちんと見極めて対処する必要あり。
- 川崎氏(ピースボート)の発言
日本が1945年に学んだのは、広島・長崎、沖縄の現実(軍隊が人々を守れるのか)、アジア諸国との関係(自由化、解放という言葉の危険)である。
非戦、非武装、非暴力の原則を確認すべきである。
平和に生きる権利を保障することが重要。その上で軍縮、紛争予防を考えるべきである。日本としては、1945年に学んだことをベースにして主張をしていくべし。
- 上村氏(市民外交センター)の発言
日本の戦後を見ても、小作農への土地権の付与(農地改革)、労働者への労働権などの保障が日本の平和復興や経済成長の原動力の一つとなった。この「権利アプローチ」は、日本の経験からも重要で、開発や平和構築の分野にも利用できる。
民主主義の下で、マジョリティの人権は保障されやすくなるが、さまざまなマイノリティの人々の人権はむしろ侵害されることがある。欧米の植民地主義やナチズムはその例で、これに対する反省から国連の人権分野の国際協力は開始された。周辺化された人々の視点を持つガバナンスがなければ、紛争、開発、人権のいずれの問題も解決されない。
テロを含め暴力の連鎖を断ち切るには、二重規準の排除、普遍性の確立が不可欠だと考える。
- 星野教授によるまとめ
- 国連首脳会議を前に、国連改革に関して本件フォーラムが開催されたことは外務省、NGO双方にとり画期的かつ有益であった。率直で建設的な意見交換を通じ、多くの認識の一致も見られたと思う。今後、このようなフォーラムを年2回開催するとの外務省側の意向を歓迎する。
- 国連改革の三つの柱である開発、平和、人権は、それぞれを並列的にではなく三角形の相互連関で見るべきものであって、負のスパイラルを断ち切り、可能な限り正のサイクルをもたらすような改革の実現をはかるべきである。その三角形の中核には、人間、あるいは生命の尊厳を置くべきではないか。
- 各クラスターに関する分科会でも有意義な議論が行なわれた。開発については貧困と成長の関係やODAの量と質、感染症や自然災害への取り組みなどについてつっこんだ議論が行われた。平和については、ヒロシマ・ナガサキから60周年を迎え、大量破壊兵器の軍縮・不拡散、特に核廃絶に向け、世界の先頭に立ち、着実でねばりづよい努力をさらに進めるべきとの議論が行われた。紛争の平和的な解決や予防の重要性が強調され、紛争後の平和構築/平和定着支援のあり方や人間の安全保障の実践に関する議論も深められた。人権については、国連人権機構の強化、特に人権理事会のあり方、人権高等弁務官事務所の活動、人権小委員会に見られる専門家の活用、条約機関の政府報告制度、などについて活発な議論が行われた。
- 議論全体において以下の4つの視点の重要性が強調されていたと思う。第一は構造的視点であり、マクロとミクロ、あるいは上からと下からの両面で問題を捉え、ローカルな主体性・内発性・自助努力(オーナーシップ)を生かしながら、グローバルな支援(パートナーシップ)をかみ合わせるという視点が必要であるということ。第二は包括的視点であり、非軍事のアプローチや地域的(リージョナル)な枠組みの活用の重要性ということ。第三は長期的視点であり、目先の結果のみにとらわれず、2015年以降をも見据えるほどのスパンで問題に取り組むべきだということ。第四は人間の安全保障の視点であり、ここでは人間の安全の促進と不安全(insecurity)の除去の両面が求められる。最も立場の弱い人々のことを考える、という視点がまさに人間の安全保障の問題意識であるといえること。
- 全体を通じ、政府、国連、NGOの三者が相互の持ち味を生かし、多様な形でコラボレーションをさらに深めていくことの重要性が改めて強く認識された。
- 最後に、日本の発想、経験、アプローチ、イニシアチブを発信していくことは重要であり、そのためにも広く市民がこうした諸問題に積極的にかかわれるような機会や学びの場を提供することが必要であると認識された。