平成18年8月
去る7月25日、三田共用会議所において、外務省と「国連改革を考えるNGO連絡会」との共催により、第3回国連改革に関するパブリックフォーラムが開催された(プログラムは別添(PDF))。
過去2回のパブリックフォーラムは、昨年8月30日及び今年2月2日に開催され、国連創設60周年を迎え、国連改革論議が盛り上がりを見せる中、外務省、NGOの間での有益な意見交換の場となった。今回は、そのフォローアップとして開催されたものであり、外務省、NGO、国際機関及び研究者に加え、今回初めて国連グローバル・コンパクトに参加する企業の関係者が参加した。学生等を含む一般参加者を含め総勢160名以上の参加を得て行われた分科会や公開討論会では、国連改革の現状と今後の課題を中心に、活発な議論が行われた。(主な発表者、参加者は別添(PDF)参照。)
フォーラム冒頭、開会挨拶・キーノートスピーチに立った伊藤外務大臣政務官からは、日本が国連に加盟してから50年の歩みと今後の課題、国連改革の現状と我が国の取組について言及しつつ、NGO、企業を含む市民社会とパブリック・セクターとの間の対話を深め、有機的に連携していくことの大切さが強調された。また、同政務官からは、先般の北朝鮮のミサイル発射に対する安保理決議の採択の意義についても言及がなされた。
同じく開会挨拶を行った高橋清貴・国連改革を考えるNGO連絡会/日本国際ボランティアセンターからは、国連は、国際社会の問題解決に必要な枠組みであるが、それは国連ミレニアム宣言のビジョン・原則の重要性を改めて認識し、多様なステークホルダーの連携のもと、実効的な形で具現化していくことにおいて意味を持つものであると指摘した。その観点から、国連改革は、最も利益を受けるべき人々、特に開発途上国の市民に対してアカウンタブルな国連となるための視点から検討されるべきものであることが述べられた。
引き続いて行われた分科会は、「開発」、「平和構築」、「軍縮」、「人権」の4つに分かれ、ファシリテーターにより議題・問題提起がなされた後、個々の分野について、詳細で専門的なイシューにも斬り込む議論がほぼ2時間にわたりじっくりと行われた。
「開発」分科会では、今回、多数の企業の参加も得て、貧困削減に向けた企業の役割をテーマに、国連グローバル・コンパクトと企業の社会的責任(CSR)を踏まえて、開発途上国での企業活動を如何に貧困削減につなげていくかについて議論が行われた。多様な取組を持つCSRだが、「人々の不安全の除去」につなげていくことが、人間の安全保障の考え方につながることを確認した。この観点から、ドナー国及び開発途上国政府、企業、NGOが、現場中心の視点をもって更に連携していくために、対話を継続すること、日本の消費者、NGO、マスコミの更なる意識向上が重要との議論がなされた。
「平和構築」分科会では、日本の東ティモールに対する平和構築の取組を、教訓を学ぶ具体的事例として取り上げつつ、日本が平和構築委員会において果たす役割について議論がなされた。出口戦略も考慮した上での平和構築の戦略、開発途上国政府及び現地の人々の人材育成、また、日本の経験及び人間の安全保障の理念を活かして、日本が平和構築において主導的役割を果たす必要性等について議論された。
「軍縮」分科会では、核兵器の使用・威嚇の合法性に関する国際司法裁判所(ICJ)勧告的意見から10周年にあたることや、今年6月に出された大量破壊兵器委員会(ハンス・ブリクス委員長)の勧告等に関して言及しつつ、まず、昨年12月に国連加盟国最多の支持を得て採択された日本の国連総会核軍縮決議に関する評価と、今年の同決議のあり方について意見交換がなされた。続いて、北東アジアの安全保障環境と日本の課題について意見交換がなされた。とりわけ、日米安保と多国間安全保障協力の関係や、日本に対する大量破壊兵器の脅威と米国の核抑止力の関係について意見交換が行われた。非軍事的な多国間安全保障努力を強化する必要性に言及があった。
「人権」分科会では、人間の安全保障及び人権のメインストリーム化を前提に、「人権理事会」を有効に出発させるための政策、「普遍的定期レビュー」での条約機関の勧告の活用、特別会期の重要性、人権を後退させる政治化を排除するための規準設定、専門家機関の重要性など包括的な問題が建設的に議論された。また、日本政府が初めての理事国として行った「公約」に基づき、特別手続きなど国際的義務の履行、アジア地域における積極的貢献が確認された。
昼休憩を利用して、国連改革に関する議論の初心者を対象に、国連改革に関するQ&Aセッションが開催された。庄司真理子・敬愛大学教授(ファシリテーター)の他、外務省、NGO、国連広報センターの担当者が一般参加者からの国連システムあるいは国連改革に関する様々な質問に対応した。
最後に、各分科会のファシリテーターからの各分科会での議論の報告と功刀達郎・国際基督教大学教授のまとめを踏まえ、「私たちの目指すべき国連とは?」のテーマで公開討論会が開催された。星野俊也・大阪大学大学院教授がファシリテーターを務め、パネリストとして、神余隆博・外務省国際社会協力部長、上村英明・市民外交センター、房野桂・国際婦人年連絡会/JAWW、野村彰男・早稲田大学大学院公共経営研究所客員教授が出席した。
神余部長からは、NGOとの意見交換の意義を再確認した上で、国際社会の平和と安定に不可欠な枠組である国連は、今後、実効的・効率的、人間中心なものとなることが必要であり、そのためには適切に機能する安保理、国連組織の拡大に伴って増えた無駄を排除するマンデート改革の実行、先進国と開発途上国の間の分断の回避、人間の安全保障及び人権の主流化、軍縮の成果の開発への還元が必要であるとの発言がなされた。また、国連改革の現状について、平和構築委員会、人権理事会及び中央回転基金の設立は成果の一つであるが、安保理改革、行財政・マネジメント改革等改革全体として見ると進捗が遅いことが指摘された。
上村氏からは、国連は国家間の利害調整の場であると同時に、社会問題解決における弱い立場に置かれた人々の救済機関であるとの基本認識が不可欠であり、その認識に立てば、国連は、効果的な緊急対応の強化と同時に、問題の本質的解決に向けて前進できる機関であるべきとの指摘がなされ、これら2つの課題のバランスは難しいが、本質的な問題解決への前進がなければ、長期的には人材や資源の浪費になるであろうとの発言があった。さらに、こうした国連の創造のためには、外交政策において一貫性のある日本の考え方を打ち出すべき、また、国連は、平和・安全保障、軍縮、人権、開発の各分野において地域的枠組をより重視すべきであることから、日本もパレスチナ問題等を含め、アジア地域への選択性を排除した貢献をすべきとの発言もなされた。さらに、今回、国連改革を考えるNGO連絡会がまとめた「国連新体制の中での日本の役割-NGO提言」という政策提言につき言及するとともに、今後、国連に関する政策決定に、市民社会の意見を恒常的に取り入れるべきであること、「国連政策に関するパブリックフォーラム」が必要であることが述べられた。
房野氏は、多くの国連機関において、ジェンダー平等への取組及び資源の配分が不十分であることを指摘し、国連機関の活動全般におけるジェンダー平等への取組の強化及び日本の積極的な関与・貢献が必要であると述べた。ジェンダー平等と女性のエンパワーメントは開発において重要であることが国際的に合意されながらもなかなか実施に移されていないことを述べ、独立したマンデート及び少なくとも10億ドルの資金を持つ、国連事務次長が率いる女性に特化した機関の創設が必要であることを強調した。モデルとすべき機関はユニセフであり、ユニセフが「児童の権利条約」に対して行っていることを「女子差別撤廃条約」に対して行う機関の必要性を述べた。
続いて、野村氏から、国連の根本問題は、国連を活用すべき加盟国、特に米国等大国の姿勢にあるのではないか、との指摘があった。また、国連のほとんどの活動は人間の安全保障につながる活動である、数ある国連改革の事項の中で優先順位を付して考えるべきとの発言があった。
ファシリテーターの星野教授から、全体の議論のまとめとして、次の諸点が言及された。
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