外務省: 第183回国会における岸田外務大臣の外交演説

演説

岸田外務大臣演説

第183回国会における岸田外務大臣の外交演説

平成25年2月28日

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 第183回国会に当たり,外交の基本方針について所信を申し述べます。

(総論)

 私は,昨年12月,日本外交が危機的な状況にある中,外務大臣に就任いたしました。それからわずか二か月の間に,北朝鮮が核実験を実施しました。また,中国公船による度重なる領海侵入や,中国政府航空機による領空侵犯,中国海軍艦艇による火器管制レーダーの照射事案などの事態も発生しており,我が国を取り巻く安全保障環境の厳しさを改めて実感しております。

 また,アルジェリアにおけるテロ事件やグアムの無差別殺傷事件に直面しました。世界各地で活躍する日本人や日本企業を多様な脅威から守り,支援していくことの重要性を痛感しております。

 私は,この二か月で実感した日本を取り巻く危機に,正面から立ち向かう覚悟です。外交の責任者として,日本と世界の平和と安定を脅かす危機や脅威から,我が国を守り,平和と繁栄を確保していく外交を推し進めてまいります。

 同時に,自由,民主主義,基本的人権,法の支配といった基本的価値に立脚した戦略的外交を展開し,日本の考え方や信念を世界に発信し,信頼を勝ち得ていきます。

(外交政策の三つの柱)

 こうした現状の下,私は,三つの柱,すなわち日米同盟の強化,近隣諸国との協力関係の重視,日本経済再生に資する経済外交の強化を軸に,大局的な観点から,全力で外交を推進してまいります。

 現下の地域の厳しい安全保障環境や世界中の様々な脅威に対処するためには,第一の柱として,我が国の外交・安全保障の基軸たる日米同盟の強化が不可欠です。先般の安倍総理大臣の訪米で,首脳間で主要課題についての戦略意識と目的を共有し,日米同盟の強い絆を内外に示すとともに,世界の平和と安定のため,日米が手を携えて協力していくことを鮮明にすることができました。私も同行し,ケリー国務長官との会談で,緊密な連携をとっていくことを確認しました。今後も,日米同盟の一層の強化に努め,幅広い分野での協力を進めます。

 先般,私は外務大臣として沖縄を訪問しました。普天間飛行場の移設を含む在日米軍再編については,現行の日米合意に従って進めながら,沖縄の負担軽減を実現いたします。特に,普天間飛行場の固定化はあってはなりません。沖縄の方々の声によく耳を傾け,信頼関係を構築しながら,普天間飛行場の移設及び嘉手納以南の土地の返還計画を早期に進めてまいります。

 次に,第二の柱として,近隣諸国との関係を重視し,大局的・戦略的視点を持って協力を推進します。「力」ではなく,「法の支配」により,この地域の平和と安定が図られるよう努力してまいります。二国間のみならず,アジア太平洋地域における三国間,東アジア首脳会議(EAS)といった多国間の枠組みも活用した外交を展開します。

 北朝鮮による昨年のミサイル発射や先般の核実験は,我が国として到底容認できず,断固としてこれを非難します。米国,韓国を始め,中国,ロシアといった関係国と連携し,国連安保理が新たな強い決議を速やかに採択するよう働きかけるとともに,北朝鮮に対し,ウラン濃縮活動を含む核・ミサイル開発の即時停止等,安保理決議及び六者会合共同声明に基づく具体的行動を改めて強く求めます。我が国としては,引き続き,日朝平壌宣言にのっとり,拉致,核,ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を図る考えです。特に,拉致問題の解決なくして国交正常化はあり得ないとの方針の下,拉致問題の解決に全力を尽くします。さらに,来月の国連人権理事会において,北朝鮮の人権状況に関する新たな調査メカニズムを設置すべく,関係各国との協力を進めます。

 中国との関係は,我が国にとり最も重要な二国間関係の一つであり,大局的な観点から戦略的互恵関係を推進していきます。一方,中国の透明性を欠く軍事力増強や周辺海域における海洋活動の活発化は地域の懸念事項です。尖閣諸島は,歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり,現に日本はこれを有効に支配しています。尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しません。尖閣諸島をめぐる情勢については,我が国の領土・領海・領空は断固として守り抜くとの決意で冷静に取り組みつつ,中国側に対しては,意思疎通を通じて,事態をエスカレートさせないよう,自制を強く求めていきます。

 北朝鮮等地域の脅威に対処する上でも,基本的な価値や地域の平和と繁栄の確保という利益を共有する韓国との関係は重要です。韓国は,日本と共に歩むパートナーです。個別の問題が全体を損なうことがないよう,大局的な観点から,未来志向で重層的でより強固な日韓関係を構築していきます。日韓間の貿易・投資や第三国における日韓企業間の協力の促進など,経済関係も一層強化していきます。竹島問題は,一朝一夕に解決する問題ではありませんが,いうまでもなく,韓国側に対して,受け入れられないものについては受け入れられないとしっかりと伝え,粘り強く対応していきます。

 ロシアとは,戦略的な視点に立って,地域のパートナーとしてふさわしい関係を構築すべく,安全保障,経済等あらゆる分野における協力の進展に向けて努力します。両国間の最大の懸案である北方領土問題については,両国の立場に依然として大きな隔たりはありますが,四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結すべく,解決に向けて粘り強く取り組みます。その観点から,本年中に行う総理訪露を,日露関係の発展に新たな弾みを与えるものとしたいと考えます。

 私は,日・ASEAN友好協力40周年を迎える本年の年頭に,ASEAN諸国とオーストラリアを訪問しました。先般,安倍総理が発表した「対ASEAN外交5原則」を踏まえ,12月の日・ASEAN特別首脳会議も活用し,更なる関係強化に取り組みます。また,日本は,ASEAN諸国,インドやオーストラリアなど地域の国々との間で「戦略的パートナーシップ」を始めとする友好関係を構築しており,協力関係を強化してまいります。中でも民主化・経済改革を進めるミャンマーに対し,その取組を後押ししていく考えです。さらに,民主主義が定着し,成長著しいモンゴルや,大洋州諸国との間でも関係を強化し,基本的価値を共有する欧州,国際社会での発言力を強めている中南米や民主的改革が進みつつある中東・北アフリカとの協力にも取り組みます。

 世界経済のグローバル化が加速する中,我が国の経済の再生に取り組むことは,我が国の力を強化し,世界の更なる発展に貢献する道でもあります。そのため,第三の柱として,日本経済再生に資する経済外交を強化します。

 まず,輸出の機会を拡大し,日本企業の対外投資のための環境を整備し,同時に,日本を魅力的な生産拠点・投資先とするため,アジア太平洋地域,東アジア地域,欧州などとの間で高いレベルの経済連携を戦略的に推進します。その際,外交力を駆使して国益にかなう経済連携を進めます。TPPについては,先の日米首脳会談も踏まえ,今後,政府として交渉参加について判断いたします。さらに,WTOやAPEC,G8・G20等の場を活用し,経済分野における国際的ルールの整備と実行に積極的に取り組みます。

 また,諸外国の活力を取り込んでいくため,ODAや,在外公館をも活用しつつ,地域の中小企業も含めた日本企業や自治体の海外展開を積極的に支援します。さらに,エネルギー・鉱物資源・食料等の安定的な確保のため,供給国の多角化なども含め,「資源外交」を強化します。

(多様な脅威に直面する日本人・日本企業の安全対策・外交的取組の強化)

 アルジェリアにおけるテロ事件で亡くなられた方々に対し,改めて心より哀悼の意を表します。尊い犠牲を決して無駄にしないためにも,海外の最前線で活躍する日本人や日本企業の安全対策を強化していきます。現在進められているこの事件の検証作業も踏まえ,北アフリカやサヘル地域などの各国機関との関係強化等情報収集・分析体制の強化,海外での緊急事態の際に迅速に現地に赴く緊急展開チームの創設,また,在留届制度の運用の見直し,官民間ネットワークの強化や,メールやホームページ等のITの一層の活用などを通じた,在留邦人に対する迅速かつ的確な安全情報の提供・周知等に取り組みます。

 また,脅威の多様化にも適切に対処します。国際社会と連携し,断固としてテロと闘うため,第一に国際テロ対策の強化,第二にサヘル・北アフリカ・中東地域の安定化支援,第三にイスラム・アラブ諸国との対話・交流の推進を三つの柱として,具体的な取組を迅速に実行していきます。

 また,海上航行の安全確保については,ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動に加え,関係国の海上保安能力や訴追能力の向上などへの支援を継続します。

 さらに,サイバー空間を利用した脅威への対策の強化や,宇宙分野での国際的な規範作りにも積極的に貢献します。

(地球規模課題などへの取組)

 私は,地球規模課題の解決にも積極的に取り組んでいきます。

 まず,私は,核兵器の惨禍を経験した広島の出身者として,軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)の枠組みを通じ,核兵器不拡散条約を基礎とした国際的な核軍縮・不拡散体制の維持・強化に全力で取り組んでまいります。北朝鮮に加え,イランの核問題の現状にも深刻な懸念を有しています。イランが速やかに平和的・外交的解決のため実質的行動を取ることを求めます。

 また,日本が原子力事故から得た知見と教訓を国際社会と共有し,国際的な原子力安全の強化に貢献します。

 気候変動問題に関しては,本年11月の国連気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)までに温暖化ガス25%削減目標をゼロベースで見直すとともに,技術で世界に貢献していく攻めの地球温暖化外交戦略の策定に取り組みます。

 平和維持・平和構築を推進するために,日本は,国連平和維持活動(PKO)への要員派遣や人材育成を始めとする多様な協力を継続します。現在,国連南スーダン共和国ミッションに自衛隊の部隊を派遣しており,同国の安定と国づくりのため,引き続き積極的に支援を行います。また,我が国が貢献をより迅速かつ効果的に行えるよう,法的基盤の整備についての検討や能力強化を進めます。

 アフガニスタンの平和構築は,国際社会の重要な課題です。テロとの闘いの観点からも,これまでの国際公約に従って,引き続き積極的な役割を果たしていきます。

 中東和平については,「二国家解決」の早期実現を働きかけるとともに,パレスチナへの支援を継続し強化していきます。また,人道上の危機にあるシリア情勢に対しても,積極的で目に見える役割を果たします。

 ODAについても,戦略的・効果的に活用します。ミレニアム開発目標に続く枠組み策定に向けて,人間の安全保障の理念に基づき,保健,人材育成,防災といった課題への取組を強化し,持続可能な成長に貢献します。

 近年高い成長を見せ,注目を集めているアフリカには,依然として国際社会全体で解決すべき多くの課題があります。本年6月,横浜で開催される第5回アフリカ開発会議(TICADV)では,アフリカでの人間の安全保障や平和と安定の定着のための協力を推進するとともに,日本企業の対アフリカビジネス展開を支援し,アフリカの成長の質の向上に資する取組を行います。

 地球規模の課題を効果的に解決していくためにも,国連の実効性を高めるための組織改革と機能強化は欠かせません。我が国は,安保理改革の早期実現と我が国の常任理事国入りに向けて積極的に取り組みます。

 また,人権・人道問題の改善を目指し,国連や二国間人権対話の場を通じた働きかけを行います。女性の権利保護等にかかわる国際的な取組にも積極的に参加してまいります。国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)は,子の利益を最重要に考えた国際的なルールであり,今国会に条約及び条約実施法案を提出し早期締結を目指します。速やかに御審議の上,今国会での御承認をお願いします。

(総合的な外交力及び対外発信の強化)

 厳しい東アジアの安全保障環境に対処し,世界の様々な脅威に立ち向かうためにも,外交実施体制の抜本的強化は焦眉の課題です。外交・安全保障の強化は現内閣の重要課題であり,外務省としても積極的に取り組んでいきます。

 同時に,外交政策の国内外における情報発信を強化し,中でも我が国の領土保全に係る立場を効果的に伝達していきます。

 日本の存在感を高めることも外交上の重要な課題です。この観点から,文化を含む我が国の魅力や価値の発信,海外での日本語の普及に取り組んでいきます。

 震災からの力強い復興を世界にアピールする証として,2020年オリンピック・パラリンピックの東京招致を全力で支援します。

(結語)

 我が国外交を取り巻く危機的状況を反転させる。それが,今何よりも求められていることです。平和で繁栄した日本と世界をつくるために,私は全力で外交の指揮をとる決意です。

 議員各位そして国民の皆様の御支援と御協力をお願い申し上げます。

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