(英文はこちら)
1.冒頭
- 貧困削減は,1995年の社会開発サミットの最重要課題の一つに設定され,またミレニアム開発目標(MDGs)でも,極度の貧困と飢餓の撲滅がゴール1に設定されたが(ターゲット1A:2015年までに1日1ドル未満で生活する人の人口の割合を1990年の水準の半数に減少させること,ターゲット1B:女性,若者を含むすべての人々に,完全かつ生産的な雇用,そしてターゲット1C:ディーセントワークの提供を実現すること,2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させることとしている。),昨年9月に行われたMDGs国連首脳会合の成果文書(A/RES/65/1)で確認されたように,現在全世界では,極度の貧困と飢餓に苦しむ人の数は10億人を超えている。
- 貧困削減に関する事務総長報告(E/CN.5/2011/3)にあるように,貧困は,収入・生産資源の欠如,教育の不足,飢餓,意志決定への参加の欠如等多様な形で現れる。これら多様な課題の解決のためには,平等で万人の社会参加を促す効果的な社会政策と社会構造が不可欠。この観点から,我が国が国内外で行っている取組について紹介したい。
2.国内における取組
- 貧困削減の実現には雇用機会と収入の拡大が極めて重要である。特に厳しい状況にある新卒者雇用については,特命チームで対策を練り,全都道府県に新卒応援ハローワークを設置し,就職を支援するジョブサポーターを2000人に倍増した。雇用対策全般も,(1)雇用を「つなぐ」取組(新卒者の中小企業とのマッチング,第二のセーフティネットとして,職業訓練中に生活支援のための給付を行う求職者支援制度を創設),(2)雇用を「創る」取組(新成長戦略の推進で潜在的需要の大きい医療・介護,子育てや環境分野の雇用創出を図り,企業の雇用増を優遇する雇用促進税制の導入),(3)雇用を「守る」取組(雇用の海外流出を防ぐため,既に雇用効果が出ている低炭素産業の立地支援を拡充,雇用保険の基本手当の引上げ)という3つの柱により,一層拡充させていく。働くことで,人は収入だけではなく,「居場所と出番」を見付けることができるという意味でも,雇用対策は重要。
- 生活を維持できる職に就き,社会生活を送るためには,適切な教育を受けることが必要であり,貧困の次世代への循環を断ち切るため,将来を担う世代である児童に教育を与えることはとても重要。すべての意志ある者が希望する教育を受け,自らの能力を高める機会を確保できるようにするため,高校の授業料を実質無償化し,大学の奨学金や授業料減免等を充実させることとしている。
- また,所得の再分配を通じて社会的公平を実現し,国民の安心や生活の安定を支えるセーフティネットである社会保障制度も,貧困削減にとって重要。
3.国際社会における取組
- 我が国は,政府開発援助(ODA)大綱において,貧困削減を重点課題の一つに掲げ,教育,保健医療・福祉,水と衛生,農業などの分野における協力を重視し,開発途上国の人間開発,社会開発を支援することとしている。また,開発途上国の経済の持続的な成長や雇用の増加に対する協力も重点的に行ってきている。
- 具体的には,人間一人ひとりに着目し,保護と能力強化を図る人間の安全保障の概念のもと,効果的かつ効率的な開発支援を実施してきている。我が国のイニシアティブによって国連に設置された国連人間の安全保障基金を通じて,貧困削減に資するプロジェクトを支援している。
- 例えば,東ティモールにおける「貧困削減及びサービス提供におおける社会的一体性向上のためのコミュニティ-活性化」プロジェクトに約423万ドル拠出し,UNDP,UNICEF,WFP等による自助グループの設立・強化や職業訓練の提供を支援している。
- また,2010年の9月のMDGs国連首脳会合において,菅総理から保健,教育両分野において,2011年からの5年間でそれぞれ50億ドル,35億ドルの支援を行うという「菅コミットメント」を表明した。現在,同コミットメントを着実に実施している。
- 2011年6月には幅広い関係者の連携強化のため,MDGs国連首脳会合をフォローアップするための国際会議を我が国で開催予定。こうした取組を通じ,我が国は2015年までのMDGs達成に向け,国際社会の先頭に立って貢献していく所存。
4.結語
- 貧困を脱し最低限度の衣食住を得ることは,人間らしい生活を送るための基盤であり,豊かで持続可能な未来につなげるための第一歩。我が国は,以上のような国内外の様々な取組を通じて,貧困削減に向けてより一層努力する所存。