議長,
ご列席の皆様
(冒頭挨拶)
まず,この場をお借りし,日本政府を代表して,東日本大震災に際して各国から頂いた多大なご支援に心より感謝申し上げます。我が国は,この困難を乗り越えるために全力を尽くしつつ,できるだけ早期に復興を果たし,本日の会合のテーマである民主主義をはじめ国際的諸課題にも,引き続きしっかり取り組んでいく所存です。
(民主主義共同体)
本日,民主主義共同体「地域協力」WGに参加し,アジア地域における我が国の取組を紹介する機会を得たことを大変喜ばしく思います。議長を務められる韓国及びルーマニアのリーダーシップに深く敬意を表します。
民主主義共同体は昨年10周年を迎え,6つのWGを創設しました。今後,WGの活動を通じて,民主主義促進のための同共同体の活動が強化されていくことを期待しています。
(我が国のアジア地域における民主主義促進の取組)
民主主義は,普遍的価値である人権及び基本的自由を保障し,平和で安定し,繁栄した社会を実現するための最も重要な手段です。戦後,民主主義を基礎に平和と繁栄を達成した我が国は,政治体制,経済発展段階,宗教,文化,伝統など多様性を有するアジアの事情を踏まえつつ,アジア地域の平和と安定,繁栄に積極的に貢献してきました。
アジア地域における民主主義の経験を踏まえ,我が国としては,更に民主主義を促進していく上で,特に3つの要素が重要と考えております。第一は,経済成長を通じた安定と繁栄,第二は,地域協力の推進,第三は地域の安定の確保です。以下,それぞれの要素について,グッドプラクティスを共有する観点から,我が国の主な取組を紹介いたします。
1.経済成長を通じた安定と繁栄
経済成長を通じた安定と繁栄は,民主主義の基盤となるものです。我が国は,こうした考え方の下,これまでODAの供与等を通じて,アジア地域の経済成長を通じた安定と平和に貢献してきました。具体的には,一人ひとりが尊厳をもって自らの持つ豊かな可能性を実現できるような社会を目指す人間の安全保障のアプローチに基づき,インフラ整備,法・制度構築,人材育成など多岐にわたる支援を行っています。人々を脅威から保護するのみでなく,脅威に対処できるよう能力強化を図ることによって,経済活動における基礎体力の要請を支えてきました。こうした援助の実施に当たっては,ODA大綱に基づく援助実施の原則として,民主化の促進,市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払ってきました。
(カンボジア)
1970年代から20年にわたる内戦を経験し,法制度が破壊されたカンボジアに対して,我が国は,1999年から「法制度整備プロジェクト」を開始し,民法・民事訴訟法の起草,立法化,法律を適切に運用するための法曹人材の育成を支援してきました。また,我が国は,同国の経済成長の観点からも,同国の投資環境のため,南部経済回廊のハードやソフトのインフラ整備や,官民合同会議等の枠組みを用いた複合的な協力を通じて,民生の向上に向けて同国の努力を支援してきました。
このようなカンボジアの各種改革の努力を慫慂すべく,日カンボジア人権対話の実施や人権理事会におけるカンボジア人権状況決議の提出,KR裁判への人的・財政的支援等,国際的な枠組みを用いた複合的な協力を通じて,同国の人権状況の改善に向けた努力を支援してきました。
同時に,我が国が設置を主導した国連「人間の安全保障」基金を通じて,例えば「リスクにさらされたストリートチルドレンに対する非公式基礎教育及び職業訓練」プロジェクトを実施し,多くの子ども達の正規教育への復帰の実現を支援するなど,成熟した民主主義社会を形成する上で必要不可欠な一人ひとりの能力強化にも取り組んでいます。
(中国)
アジア最大の人口を抱え,目覚ましい経済成長を遂げている中国に対しても,我が国は1978年の改革開放以来,法制度支援を含む多くの分野で支援を実施し,その経済成長を支援てきました。中国が,引き続き責任ある大国として,民主主義や人権といった分野でますます前進を図っていくことを強く期待しています。
2.地域協力の推進
アジア地域においては,近年,文字通り「地域協力」と呼ぶべき,国境を越えた協力関係が顕著に進展しています。こうした取組は,様々な課題に直面する各国が,知見や経験を共有しながら,民主主義をともに進めていく上で極めて有意義かつ有効な手段と考えております。
(バリ民主主義フォーラム)
アジア地域において民主主義分野における特筆すべき取組の代表例として,民主主義の原則を確認したASEAN憲章に基づき,昨年ASEANにおいて設立された人権に関する政府間委員会があります。また,本年ASEAN議長国として同地域協力の推進役を担うインドネシアのイニシアティブによるバリ民主主義フォーラムの存在があります。
インドネシアは,政治経済面での様々な困難を乗り越え,着実に民主主義を定着させているロールモデルといえます。アジアにおいては,その特色である多様性を十分尊重しつつ,各国がお互いの経験を共有し,辛抱強く議論を重ねて民主主義を根付かせることが重要です。インドネシアはまさにその重要性に着目し,バリ民主主義フォーラムを牽引しています。我が国は,アジアにおける民主主義を促進するものとして,バリ民主主義フォーラムを高く評価しており,インドネシアのイニシアティブを支持しています。
日本政府は2009年に,当時の鳩山総理がユドヨノ・インドネシア大統領とともに共同議長を務め,透明で開かれた選挙が民主主義の根幹であるとの考えから,昨年7月の参議院選挙の際に,選挙訪問プログラムを実施しました。また,本年4月10日の東京都知事選挙に際しても,アジア諸国等13か国から選挙実務担当者等26名が出席し,日本の選挙制度及び行政制度等に関するワークショップ,投票所へのスタディ・ツアーなどを行う選挙訪問プログラムを実施しました。
(メコン地域諸国への支援)
我が国は,ASEANの安定と発展なくして,東アジアの安定と発展はないとの考えの下,メコン地域諸国への支援を重視しています。ASEANは,域内安定と発展のため,2015年に域内統合することを目標に掲げ,域内の連結性向上のための施策の具体化を進めていますが,そのためには,ASEAN先発6カ国と他の後発地域であるメコン諸国(CMLV)との格差を是正するための支援を継続していくことが不可欠です。
具体的には,日メコン首脳会議,日メコン外相会合等を定期的に開催している他,官民が緊密に連携しつつ,総合的なメコン地域の発展のために,ハード・ソフトインフラの整備や,地域横断的な経済面での制度整備支援,環境・気候変動対策,感染症・防災対策等の脆弱性の克服,人文交流等,多岐にわたる案件を実施してきました。
(ミャンマー)
メコン地域に関連し,ミャンマーでは,昨年の総選挙実施,スー・チー女史の解放,議会招集等,前向きな動きがあります。引き続き多くの課題がありますが,このようなミャンマー政府による自発的な取り組みをアジア地域が一丸となって力強く慫慂していく必要があると考えております。
3.地域の平和と安定の確保
平和と安定の確保なくして,民主主義は達成し得ないことは言うまでもありません。こうした観点から,我が国は,我が国の外交・安全保障の基軸であり,世界の安定と繁栄のための共有財産でもある日米同盟を深化させてきました。我が国は,さらに以下のような取組を通じ,関係国や国際社会と緊密に連携しながらアジア地域の平和と安定の実現に努めています。
(平和構築人材育成分野)
我が国は,平和構築の現場で活躍できる日本人及びアジア人の文民専門家を育成するため,2007年より,平和構築人材育成事業を実施しています。これまでに約160名の研修員が各種コースに参加し,その多くはアフガニスタン,スーダン,シエラレオネ,東ティモール等における国際機関の現地事務所,国連PKOミッションを始めとする平和構築の現場で活躍しています。
(アフガニスタン)
アフガニスタンに対しては,我が国は2009年から概ね5年間で最大約50億ドル程度までの規模の支援を行うこととしており,(1)アフガン自身の治安能力向上のための支援,(2)元タリバーン等兵士の社会への再統合支援,(3)アフガンの持続的・自立的発展のための支援を実施してきております。
更に,アフガニスタンの安定のためには周辺国を含む地域的な取組が重要であることから,タジキスタン,トルクメニスタン,キルギス等に対する麻薬対策及び国境管理強化のための支援,パキスタンに対する電力セクター等への経済成長支援,貧困削減や洪水対策支援のほか,国境地域の民生安定化支援等,を通じ,地域の安定に向けた取り組みも実施しております。
(東ティモール)
1999年以来,東ティモールに対し,様々な復興支援,平和構築支援及び開発支援を実施しております。2002年から約2年にわたり,PKOミッションに自衛隊施設部隊等のべ約2,300名を派遣し,道路・橋梁の維持補修等の後方支援業務や各種民生支援業務を実施しました。また,大統領選挙及び国民議会選挙に対する選挙監視団,自衛官・文民警察官の派遣等を通じて,東ティモールの,自立に向けた国づくりへの努力を積極的に支援してきております。
(地域におけるルール作り)
また,地域における平和と安定を確保するためには,紛争の平和的解決を含む,地域における将来の共通のルールを策定していくことが重要です。本年から,東アジア首脳会議等の地域協力の枠組みを活用して,海洋の自由航行,宇宙空間やサイバーといった新たな公共空間といった分野におけるルール作りを推進していく考えです。
(北朝鮮)
このようにアジア地域においては全体として前向きな動きが見られる一方で,残念ながら隅々にまで民主主義が根付いたとはまだまだ言えない状況があります。北朝鮮では,民主主義が否定され,拉致問題を含め深刻な人権侵害が継続しており,引き続き,国際社会の注意を喚起する必要があります。我が国は,国連総会及び人権理事会において,北朝鮮人権状況決議を主提案国として提出してきておりますが,アジア地域のみならず国際社会全体として同決議に対する支持が拡大していることは,北朝鮮に対して明確なメッセージを発するものであり,心強く思います 。
4.結び
過去数ヶ月,間に中東・北アフリカ地域で発生している大規模デモや暴力を通じて,我々は,各国政府が国民一人ひとりを尊重し,市民社会の声に十分耳を傾け,民主化に向けて不断の努力を行う重要性を改めて認識しました。同時に我々は,普遍的価値である人権及び基本的自由を保障する上で,民主主義の価値や重要性を再認識することになりました。
我が国は,これまでの豊富なグッドプラクティスをベースに,世界各国・地域における民主化促進・普及のために引き続き貢献していく考えです。