(英文はこちら)
1.導入
1995年に社会開発サミットが開催されてから,15年が経過した。15年前,我々は安定・安全・調和のとれた,平和で,公正で,寛容な,そして多様性を尊重し,弱者に対しても機会均等を尊重する,インクルーシブな社会を形成することによって社会的統合を促進するとコミットした。その間,国連では高齢者,障害者,先住民,青年といった社会的弱者を保護する枠組みが策定され,事務総長報告書(A/65/168)によれば,初等教育と男女平等の分野では顕著な進展がみられた。しかし,社会の中で互いに多様性を尊重しながら,個人がそれぞれの役割をもって社会に参画し貢献していく「万人の社会(a society for all)」をつくるためには,全ての加盟国による更なる努力が必要。
2.経済・財政危機の社会開発への影響と社会的統合
2008年前半の食料・燃料価格高騰に引き続き発生した「世界金融危機」と,戦後最大の「世界同時不況」の中で,社会的弱者が特に大きな被害を受けている。特に社会的弱者の栄養失調,児童死亡率の増加,失業率の増加,貧困層の増加,就学率の低下等の問題が指摘されている。過去に起こった金融危機からの教訓をふまえ,日々の暮らしを守るための緊急的な対策と,将来の成長力を高め,持続可能で危機に強い社会の構築にむけた戦略の双方が必要。
3.社会的統合の追求
(1)高齢化社会に対する取組
日本では,65歳以上の高齢者人口が総人口の23%を超え,5人に1人が高齢者,10人に1人が75歳以上人口という「本格的な高齢社会」を迎えた。こうした中,すべての国民が長寿を喜び,高齢者が安心して暮らすことのできる社会を形成するために,高齢社会対策基本法を制定し,同法に則って高齢社会対策大綱を策定・推進している。大綱のもと,多様なライフスタイルを可能にする高齢期の自立支援,世代間の連帯強化,高齢者の地域社会への参画促進等を課題として,経済社会システムを不断に見直しつつ,高齢社会対策を講じていく。
(2)障害者
障害の有無にかかわらず,国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の実現は,我が国にとっても大変重要な課題。昨年12月に内閣に設置された「障がい者制度改革推進本部」のもとで,障害当事者を中心とする「障がい者制度改革推進会議」が開催され,制度の集中的な改革に向けた検討が行われているところ。
また,我が国は,「アジア太平洋障害者の十年」を踏まえも,ESCAPを中心とした,アジアにおける障害分野の国際協力に積極的に貢献している。我が国としては,国内外における取組をさらに進めるとともに,障害者権利条約の可能な限り早期の締結を目指す所存。
(3)青少年
我が国においては,非正規雇用の増大をはじめとした厳しい雇用環境や,経済的格差と世代をまたがる固定化による「子どもの貧困」の問題など,子どもや若者は大変厳しい状況におかれている。我が国では本年4月,子ども・若者育成支援施策を総合的に推進することを目的とする法律が施行され,これを受け,7月には,「子ども・若者ビジョン」を決定した。これらに基づき,子ども・若者が,自己を確立し社会の能動的な形成者となること,すべての子ども・若者を包摂する社会を実現すること等を目指し,教育,福祉,雇用を含めた諸施策に取り組んでいくこととしている。
4.結論
「万人の社会」の理念は,人間一人ひとりに着目して,個人及びコミュニティの保護及び能力強化を図り,参加型アプローチを採用する「人間の安全保障」の概念と合致するものである。
我が国は,「万人のための社会」実現に向けて,これからも人々を中心に据えたアプローチ(people-centered approach),すなわち人間の安全保障のアプローチを重視しつつ,国際社会と協力していく所存。