演説

海江田万里内閣府特命担当大臣

国際原子力機関(IAEA)第54回総会
海江田万里内閣府特命担当大臣:政府代表演説

平成22年9月20日
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議長、事務局長、ご列席の皆様、

 日本政府を代表して、議長閣下が国際原子力機関第54回総会の議長に選出されたことを心からお祝い申し上げます。また、スワジランドの加盟を歓迎します。さらに、最初の総会を迎えられた天野IAEA事務局長に対し、ご就任から今日までの活動についての我が国の積極的な評価と、今後の更なるご活躍への期待をお伝え申し上げます。

議長、

 国際社会は本年、「核兵器のない世界」の実現に向けて、極めて重要な節目を迎えました。5月のNPT運用検討会議が最終文書において行動計画に合意したことは、多国間協調主義に基づく核軍縮・不拡散の取組を再出発させる契機となったといえます。IAEA加盟国は、今こそ一致団結し、IAEAと連携してその行動計画を着実に進めるべきと考えます。

 我が国自身は、非核三原則を堅持するとともに、唯一の戦争被爆国として核廃絶に向けた国際社会の努力を今後とも主導していく決意です。その一環として、今週の国連総会の機会をとらえ、日豪共催核軍縮・不拡散に関する外相会合を開催し、新たなグループを立ち上げて国際的な取組をリードしてまいります。

 去る8月には、広島・長崎両平和記念式典に天野事務局長のご出席をいただきましたが、これは「核兵器のない世界」に向けての機運を高める上で極めて重要な一歩であったと考えます。長崎でのシンポジウムにおいて、核軍縮の実施段階でIAEAも貢献できると述べられた天野事務局長の今後の取組に大いに期待しています。

議長、

 IAEAは、NPT運用検討会議で強調されましたとおり、核不拡散体制の維持・強化の要であるのみならず、原子力安全、核セキュリティ、技術協力など原子力の平和的利用を推進する上で主要な役割を果たしており、人類の平和と繁栄にとって最も重要な国際機関の一つであります。

 我が国は、IAEAに対し、発足当初からの理事国として、原子力の平和的利用の推進にIAEAと共同して取り組み、その発展に大きく貢献してまいりました。原子力の民生利用と保障措置の強化・効率化の両面で我が国が培ってきた知見と経験を、IAEA技術協力を通じて途上国支援に一層役立ててまいります。

 また、我が国は、このように重要性を増しているIAEAがその責務を十分に全うできるよう、他の加盟国と協調してIAEAの更なる発展・強化を引き続き支えてまいります。

議長、

 IAEAは、原子力科学技術を利用し、社会経済の発展のために重要な役割を果たしており、我が国はこれを高く評価しています。

 我が国は、本年6月には、低炭素社会実現のための「グリーン・イノベーション」の積極的な推進を柱とする新成長戦略を閣議決定しました。原子力は、供給安定性、環境適合性、経済効率性を同時に満たし,この取組を支える基幹エネルギーであると確信しております。

 申すまでもなく原子力エネルギーの利用は、核不拡散・保障措置、原子力安全及び核セキュリティの「3つのS」に十分配慮して推進することが求められております。我が国は、原子力発電を新たに導入しようという国のインフラ整備支援に際しては、引き続きこの「3つのS」の確保を重視してまいります。

 特に、アジア、中東地域を中心に原子力エネルギー需要が高まる中,新規プラントを導入するに当たり、安全設計評価、統合原子力基盤レビュー、国内法整備、専門家育成支援等におけるIAEAの役割はますます重要であります。我が国の原子力協力の国際展開においても、IAEAの知見の一層の活用を進めてまいります。

 本年4月、核セキュリティ・サミットが成功裏に開催されました。我が国はこれを大いに歓迎するものであり、このサミットで表明した「アジア核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」の設立準備を進めております。このセンターの活動を通じて、IAEAとも協力しつつ、アジア諸国を中心に核セキュリティ強化のための人材育成等に貢献していく所存です。

 また、我が国は、IAEA国際安全基準文書の策定への貢献のほか、地震国として原子力発電施設の耐震安全性に対する我が国の知見の国際的な共有を一層進めてまいります。防災・緊急時対応、放射性廃棄物管理等の分野では、アジア原子力安全ネットワークの活動を通じたIAEAの取組に対して引き続き特別拠出を行い、積極的に支援してまいります。さらに我が国は、放射線緊急事態への対応に関してIAEAの「緊急時対応援助ネットワーク(RANET)」への参加を決め、原子力事故の際の我が国専門家の知見の活用を進めてまいります。

 原子力の平和的利用には、放射性物質の安全な輸送も不可欠です。我が国は、「航行の自由」の原則の下、国際基準に従い、最大限慎重な措置を講じた上、安全な輸送に今後も努めてまいります。また、引き続き、輸送国と沿岸国との信頼醸成のための対話も積極的に継続していきます。

議長、

 我が国は、IAEAの活動において、今後とも「技術協力」が主要な柱の一つに据えられるべきと考えます。我が国は,がん治療などの医療分野を始めとする放射線技術の利用において長い歴史と実績を有しております。このような実績を踏まえ、我が国は、今後とも多くのIAEA加盟国のニーズが存在する技術協力活動を重視し、医療、工業等の放射線利用の分野において、技術的・人的貢献を続けて参ります。その一環として、この総会に併せて開催される科学フォーラムにも我が国を代表する専門家が出席し,議論をリードしていく予定です。

 また、我が国は、核燃料サイクル、廃棄物管理の取組み、高速増殖炉サイクル技術開発の着実な推進に取り組んでおり、「第四世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)」、「革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェクト(INPRO)」等の取組の進展を歓迎いたします。

 その一方、先進国、途上国を問わず、原子力の平和的利用を支える人材は不足しているのが現状です。我が国は、そのような人材育成に関するIAEAの取組を重視するとともに、我が国自身の人材のIAEAにおける活用にも一層意を用いて努めてまいりたいと考えます。

 核燃料供給保証については、その仕組みや使用済燃料の取扱いに関する国際的枠組みづくりの議論に引き続き取り組んでまいります。4年前のこの総会で、我が国は、各国がその核燃料供給能力をIAEAに登録することにより、供給面での不安の解消と市場の混乱の予防に貢献することを目指して「IAEA核燃料供給登録システム」を提案いたしました。他方、IAEA加盟国間の核燃料供給保証に関する意見には依然として隔たりがあり、まずはこの現実を乗り越え、実質的議論を進めることのできる環境が醸成されることが重要と考えます。

議長、

 核不拡散体制の強化のためにIAEA保障措置の強化と効率化が極めて重要であることは、今更申し上げるまでもありません。
 保障措置の強化のための最も現実的かつ効果的な方途は、すでに締結国が100ヵ国を超えた追加議定書の普遍化であると考えます。我が国は、今後ともアジア不拡散協議、IAEAセミナーへの協力等を通じて同議定書の普遍化に貢献していく所存です。加えて、我が国は、IAEA保障措置分析所の近代化によって独立した分析能力の向上を図ることを引き続き重視してまいります。

 また、我が国は、今後ともIAEA保障措置に関する義務の誠実な履行に全力を尽くし、国際的な信頼の下で原子力の平和的利用を推進すると同時に、国レベルの統合保障措置への移行に向けた努力を地道に行うことを通じ、効果を損なわないIAEA保障措置の効率化のために先導的な役割を担っていく決意であります。

議長、

 北朝鮮の核問題は、依然として東アジア及び国際社会全体の平和と安全に対する深刻な脅威であり、NPT体制への重大な挑戦であります。イランの核問題については、イランが国際社会の疑念を払拭し、その信頼を得ることが急務であり、不可欠であります。我が国は、これらの核問題の解決に向けて、国連安保理決議を着実に実施しつつ、引き続き国際社会と連携して行動してまいります。

議長、

 今日、世界各国の安全保障とそこに暮らす人間の安全保障の双方に関わる重要な課題が山積する中、IAEAは、その憲章上の使命を十分に果たすことを期待されております。

 我が国は、既に申し上げたように、不拡散に対する国際的な信頼が確保された上での原子力の平和的利用に関する自らの知見と経験を活かしてIAEAの取組に一層貢献してまいります。同時に、すべてのIAEA加盟国が共通の利益の最大化を最優先し、建設的な協力を通じて、それらの課題に立ち向かうことを呼びかけます。

 御清聴有難うございました。


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