演説

岡田外務大臣演説

「紛争後の平和構築」に関する安保理公開討論
岡田外務大臣ステートメント(仮訳)
(平成22年4月16日 ニューヨーク 国連安保理議場)

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 「紛争後の平和構築」という重要なテーマについて公開討論を開催することができ大変光栄です。バン事務総長および、特に、この会合で自らのご経験や知見を共有していただくため、遠くよりお越し頂いている閣僚やご来賓の方々に感謝申し上げます。

 どうして停戦終結後も紛争は再発するのか、どうして平和は定着しないのか。これは、国際社会にとってまだ回答が得られていない重大な問題です。この問いの解決の鍵を握るのは、紛争後に人々が将来に希望を持つことだと思います。そのためには、政治的安定、治安の確保と並行して社会的安定を如何に達成するのか。そして、これらを実現するための包括的な戦略をいかに国際社会が支援して作っていくかについて本日は御議論頂ければと思います。

 平和構築を考えるに当たって重視すべきことは、まず、和平合意を当事者が強い意志をもって実施することです。民主的選挙を通じて得られた成果、政治的安定という恩恵を選挙の勝者のみならず、敗者を含む全ての国民が享受することも重要です。紛争当事者の共存と和解がこのための基礎となります。旧ユーゴスラビア、中でも最も影響を受けたボスニア・ヘルツェゴビナでは、共存と和解のための絶え間ない取り組みが行われています。アフガニスタンが現在取り組んでいる和解・再統合に向けた自立的な努力に対する国際社会の支援、協力が不可欠です。

 治安の維持については、PKOにより治安確保を支援し、治安部門改革(SSR)を促進する必要があります。例えば、ハイチや東ティモールでは、特に国家警察の能力強化が喫緊の課題となっています。ハイチでは震災でアンナビ事務総長特別代表を含む多くの同僚を失い、また、昨月ディリにてこの問題を担当していた川上事務総長副特別代表が志半ばで亡くなりました。彼らの遺志を継いで多くの紛争後の国における国家警察強化への取り組みを強化していくことを国際社会に呼びかけたいと思います。

 社会的な不安定の悪循環を断ち切り,紛争の再発を防ぐためには、紛争の影響を受けた人々が基礎的サービスを享受し平和の配当を実感することが必要です。特に弱者や女性を含む個人を、人間の安全保障の視点から保護すると共に、能力を強化することが不可欠です。また、難民・国内避難民(IDPs)や元戦闘員等が社会に再統合されることが重要です。共存と和解を推進することにより,平和が後戻りしてしまわないような状況を作り出す必要があります。紛争後の多くの国では、若年者の失業問題が共通の深刻な課題となっております。これらの国への支援に際しては、若年層の雇用の創出に高い優先順位をおくことを提案します。将来の担い手である若者が武器を手に取ることなく、国家やコミュニティーの再構築に参加することは社会経済開発の基礎となり、平和を定着させることにつながります。

 平和を永続的なものとするためには、当事国と国際社会が協力して息の長い取り組みを行っていく必要があります。具体的には、以下の3点を提起したいと思います。
 第一に、平和構築の取組を、いかに統合的に実施するかという点です。シエラレオネについては、国連平和構築委員会(PBC)とシエラレオネ政府が協働して、政治的安定、治安に加えて、エネルギー支援等の社会経済開発を含む協力枠組を策定しました。現在これに基づき国際社会の支援が行われています。こうした枠組みは今後の平和構築戦略を作る際の一つのモデルとなるのではないでしょうか。
 第二に、国際社会の支援と関与は、当事国のオーナーシップにかかる努力に相反する影響を与えることがあります。例えば、食糧支援は現地の農業促進に、法的正義への国際的要求は国民和解に、優秀な現地人材の国際支援の職場での活用は現地の政府の職場での活用に、それぞれ資する形で行われているか。これらの問題を見逃しては、当事国の自立を育むという目的は実現しません。当事国のオーナーシップと能力強化の取組を国際社会が尊重することが求められます。
 第三に、息の長い平和構築への取組にあたっては持続的な資源の確保が必要です。まず、平和構築基金(PBF)を始めとする紛争直後のための資金を一層活用することにより、二国間援助・多国間援助を含む中期的資金の確保につなげる必要があります。また、ガバナンスや法の支配等多様な平和構築活動に取り組む専門要員の確保と拡大が重要です。この関連で、先月、事務総長が立ち上げた文民能力強化のためのグループの作業に期待します。

 今後とも、安保理では平和構築への強い取組が継続され、またPBCでは本年のレビューを踏まえて更なる努力・工夫を行っていく必要があります。我が国としても、本日の議論を踏まえ、紛争後の各国において平和を永続化させるための取り組みに積極的に参加していきたいと考えております。

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