平成21年3月6日
(英文はこちら)
はじめに、日本政府を代表し、議長を始めとするビューローメンバーに対し、昨年に引き続いて議事とりまとめの労をとられることに感謝したいと思います。
議長、
今次婦地委の優先テーマである「HIV/エイズのケア提供を含む男女間の平等な責任分担」は、ジェンダー平等を論じるに当たり中核とも言えるテーマです。HIV/エイズのケア提供に限らず、固定化された男女間の役割分担が女性に不均衡な負担を与え、収入を含む様々な機会を奪い、女性の自立のための基盤形成を阻害していることはこれまでも指摘されているところです。
また、HIV/エイズは、それ自体社会開発上重要な課題ですが、ジェンダーの視点から見た場合に一層深刻な問題をはらんでいること、すなわち、予防や治療への不十分なアクセス等によるHIV/エイズに対する女性及び女児の脆弱性、さらに、HIV/エイズ患者への主要なケア提供者として女性に過重な負担がかかっていること等も様々な形で確認されてきています。
議長、
我が国では、男女共同参画社会の実現を目指して、男女共同参画社会基本法に基づき、男女共同参画基本計画を閣議決定し、総合的かつ計画的に関連する施策の推進を行っているところです。男女の役割分業に関する啓発もその一つで、近年の国民意識調査において、夫は家族の養い手・妻は家庭を守る人という性別分業に反対とする回答が過半数を超えており、国民の意識も変化しています。
しかしながら、残念なことに男女間の責任分担は引き続き不均衡な状態であるといわざるを得ません。我が国では、一日のうち家事関連に費やす時間について、男女差は年々縮小しているものの、未だ女性は男性の約7倍というデータがあります(男性38分、女性3時間35分。平成18年社会生活基本調査)。また、家族の介護については、時間総量で見ると約8割が女性によって担われています。
少子・高齢化問題への対応の観点からも、男女間の平等な責任分担は不可欠なものとなっています。我が国は、2007年末に、関係閣僚、経済界・労働界・地方公共団体の代表等からなる「官民トップ会議」において「仕事と生活の調和憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定しました。ここでは、6歳未満の子どもをもつ男性の育児・家事関連についての数値目標も掲げられています。政府としては、男女ともに仕事、家庭生活、地域活動など様々な活動を自分の希望するバランスで実現できるように、長時間労働の抑制、育児や介護のための休業制度の整備等に官民一体となって取り組んでいくこととしています。
議長、
また、HIV/エイズに関し、我が国は、国内においては、学校教育も含めた正しい理解を促進するための取組、検査・相談体制の充実、医療提供体制の再構築などの施策の推進に取り組んでいます。このような国内における取組と同時に、我が国は国際協力分野にも力を注いできており、エイズ対策に大きな成果を上げている世界基金への拠出、2005年に発表した「保健と開発」に関するイニシアティブ(HDI)の着実な実施等により、国際的なエイズ対策支援に貢献してきました。例えば我が国は、タイにおける「HIV/エイズ地域協力センタープロジェクト」等の二国間技術協力等を通じ、HIV/エイズに関する予防及び検査・相談体制強化のための支援を行っています。更に、日・UNDPパートナーシップ基金の下、昨年よりアフリカ地域6カ国において実施している「効果的な在宅ケアのための政策及び制度構築」プロジェクトでは、主に女性によって担われている「在宅ケア」に焦点を当て、女性のエンパワーメントを支援しています。
我が国は昨年開催したTICADIVにおいて、女性の人権の推進・保護及びエンパワーメントなど、ジェンダー平等の重要性を指摘するとともに、HIV/エイズ等感染症対策を含む国際保健を重要な課題として取り上げ、G8北海道洞爺湖サミットでは議長として「国際保健に関する洞爺湖行動指針」を発表して、保健課題にG8として取り組む重要性を明記し、過去のG8のコミットメントをフォローアップするメカニズムを立ち上げました。引き続き、開発におけるジェンダー主流化の重要性を踏まえつつ、HIV/エイズ対策への協力にコミットしていきたいと思います。
議長、
今回の婦地位では、「金融危機におけるジェンダーの視点」という、極めて時宜を得たテーマも取り上げられています。昨年の金融危機に端を発する国内経済情勢の悪化に関しては我が国も例外ではなく、非正規雇用者の解雇問題や失業率の増加等が社会問題となっています。しかしながら、金融危機の発生以前から、女性労働者の過半数が非正規雇用者であり、低賃金や不安定な雇用条件の下にあったということを想起する必要があります。金融危機による様々な負の影響は女性に対しより重い負担を強いるおそれがあり、金融危機からの脱却及び社会回復においては、ジェンダー平等の視点に立つことが重要であると考えます。
議長、
本年は、女子差別撤廃条約採択30周年に当たるのみならず、我が国においては男女共同参画社会基本法制定10周年という極めて重要な年です。「男女間の平等な責任分担」はジェンダー平等の議論における普遍的かつ根本的なテーマであり、本テーマを選ばれた婦人の地位委員会に敬意を表するとともに、今次委員会の成果を我が国における男女共同参画社会の実現に向けた取組の中に反映させていきたいと思います。また、女性の地位向上のために、今後とも国際社会、国際機関、そしてNGOを含む市民社会との協力を一層強化していくつもりです。