
国連の場における演説
第47回社会開発委員会
議題3(a)社会的統合
足木公使ステートメント骨子
平成21年2月4日
(英文はこちら)
1.導入
- 世界的な金融・経済危機が生じており、我が国もその影響から逃れることはできないが、適切な対応により、被害を最小に抑えることが重要と考えている。
- 経済危機のみならず、苦境の中で大きな影響を受けるのは社会的弱者。社会開発の目標である「万人のための社会」を実現するためには、児童、女性、高齢者、障害者、先住民、少数民族等といったいわゆる社会的弱者を保護し、社会の主体として取り込み、社会的統合を進める政策と迅速な対策が必要。
- 社会的正義は、社会開発サミットの3つの柱である貧困削減、社会的統合、ディーセント・ワークの普遍的価値を構成する礎である。本年初めて迎える「社会的正義デー」にあたり、その主旨である「万人のための社会」を目指した具体的な行動のフレームワークを構築し、コミットする意義に賛同。
2.人間中心の開発と人間の安全保障
- 人間一人ひとりに着目して、個人及びコミュニティの保護及び能力強化を図り、参加型アプローチを採用する人間の安全保障は、まさに「万人のための社会」を構築するための概念である。我が国は、人間の安全保障基金を通じて、女性や子どもといった社会的弱者が権利を確保し、尊厳をもって生きていくことができるよう、彼らを保護し、社会経済・政治面への参加を促進するプロジェクトの支援を行ってきている。
- 途上国の開発や自然災害等における人道支援、平和構築のために、市民参加によるボランティア精神の実践を支援する国連ボランティア計画(UNV)の活動を、我が国として高く評価。最も弱者に近い現場で、信頼を育み、コミュニティに根ざし活躍するUNVは、我が国が重視する「人間の安全保障」の理念と合致。今後の協力関係の強化を希望するとともに、UNVが、その活動の主体である市民参加の促進によって、社会的統合に更に貢献することを期待。
3.雇用
- 1月に公表されたILO年次報告において、「2009年の世界の失業者数が最悪の場合、初めて2億人の大台を突破する可能性があると予測」し、「世界経済の急速な悪化が「雇用危機」を招きつつあるとの認識を示した」ことに留意。雇用危機は世界の各所において、社会開発に対する大きな脅威であり、我が国においても現下の雇用失業情勢は厳しさを増してきている。
- また、雇用対策は景気回復のためのみならず、貧困削減のためにも重要な要素。社会的弱者に配慮し、すべての人に働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を確保する必要がある。
- 我が国は、国内の緊急雇用対策として、公共職業安定所の全国ネットワークを活用した職業相談・職業紹介の強化、職業訓練期間中の生活保障給付制度の創設、中小企業の雇用維持等への支援、及び女性、高齢者、障害者、外国人の就労支援等、現行制度による積極的対応を進めている。
- 我が国は、途上国の雇用対策への技術支援などを通じ、国内のみならず、国際社会におけるディーセント・ワークの実現に向けた取組を行っている。例として、ILOが実施する、スリランカの若年層を対象とした雇用機会の拡大によるディーセント・ワークの促進プログラムを通じて、就業や職業・起業訓練を支援している。
4.教育
- 貧困層や社会的弱者が教育を受けて、基礎的な知識や技術を身につけ、政治や経済、社会のさまざまな活動に参加できるようになれば、人生の選択の幅が広がり、貧困から脱却する道がひらけるようになる。また、教育は、貧困や不平等のない社会を実現するという国際社会共通の課題を克服し、途上国が自立的発展を遂げるための鍵となる要素。かかる考え方から、我が国は、教育を重視。
- 現在、我が国は障害者権利条約の早期締結に向けて取り組んでいるが、同条約の重要な要素の一つである障害者を包容する教育制度の実現に向けて引き続き努力していく所存。
5.医療
- 医療の充実は、乳幼児、妊産婦、高齢者、障害者等が安心して社会生活を送る上で重要。途上国では、予防接種や環境衛生の不備のために、感染症や栄養障害などの回避可能な原因によって、年間約960万人の5歳未満児が命を落としている。また、高齢者に対する医療の提供は、少子高齢化の進む我が国のような先進国にとって、重要な問題となっている。
- 我が国は、疾病毎の垂直的アプローチと保健システム強化の水平的アプローチが相互に補完しあうことが重要と考えており、昨年のG8北海道洞爺湖サミットにおいても、従来の疾病対策に加えて、人材育成を含めた保健システム強化の重要性を提唱した。その後もフォローアップ活動に務めており、11月には第4回G8保健専門家会合を実施した他、多数の専門家の参加を得、官民連携による保健システム強化に関する国際シンポジウムを開催。その結果、次のG8サミットに向けて、保健システム強化のための保健人材、財政、情報に関するG8諸国に対する政策提言書が出された。
6.結語
「万人のための社会(Society for all)」を実現するためには「社会のための万人(All for society)」の意識啓発と、様々なセクターのコミットメントが肝要。「すべての人権が尊重され、脆弱な集団と人間を含めた万人が機会の均等を享受する強固で安全かつ公正な社会の促進」に向けて、我が国も引き続き協力していく所存。