平成21年3月16日
於:トルコ・イスタンブール
(英語版はこちら)
議長、
ご列席の皆様、
先ずは、本日の首脳会合開催に際し、ギュル大統領をはじめとするトルコ共和国政府の関係者のご尽力に対し、心より感謝申し上げます。また、今回の世界水フォーラム開催に当たっての世界水会議、トルコ第5回世界水フォーラムの関係者の方々に対しても改めて感謝申し上げます。私は、この意義ある会合において、日本の代表として発言の機会を与えられましたことを大変光栄に思います。
水は、あらゆる生命の源でありまして、人間の生命・健康の維持はもちろん、生態系の保全や経済社会活動に不可欠な資源であり、人間の安全保障を実現する基礎となるものであります。我々は、水なしに一日たりとも生きていくことができません。
その貴重な水資源は、今、様々な脅威に直面しています。しかし、その脅威、即ち立ち向かう相手を知らなければ、闘いに勝つための第一歩は踏みだせません。その意味で、この会合において、首脳レベルで、水資源が直面する脅威について議論することは極めて有意義なことだと思います。
人口の増加、及び人類の活動の拡大から生じる水への需要圧力の増大は、明らかにそのような脅威の一つであり、無計画な水資源の利用はこの脅威を増大させます。利用後に適切な処理が行われない結果生じる汚染の進行も、水資源が直面する脅威でもあります。水は、自然界の中での循環を通じて浄化されますが、汚染は自然界内の循環を通じて増幅されることもあります。水の流れは、時に国境を越えます。その際に関係国が希少な資源を巡って相争えば、水資源の効率的かつ衡平な利用の実現などは望むべくもなく、それはまさに個人や地域社会の人間の安全保障を脅かすわけであります。気候変動は、自然界における水資源の循環に深刻な影響を与え、その結果、水資源の更なる偏在を産み、水関連災害や干ばつなどを引き起こします。更に、昨今の世界的な経済危機も、我々が直面する脅威に立ち向かうために必要な資金の調達を難しくするという意味では、広い意味での脅威と呼べるかもしれません。
そのような様々な脅威を乗り越えて、貴重な水資源を大切に使っていく以外に、人類の選ぶべき道はありません。幸い水資源は、元来循環するものであり、賢く使えば持続的に利用が可能であります。水の循環を上手に管理すれば、水資源の持続的利用が可能となります。
それでは、水資源の持続的利用を阻むものは何でしょうか。私は、それぞれの脅威そのものの恐ろしさもさることながら、本当の脅威は我々の中に生まれる亀裂 divideではないかと考えます。先進国と途上国、河川上流国と下流国、水資源に恵まれた国とそうでない国など、様々な立場の違いに端を発して、我々の中には容易にdivideが生まれがちであります。しかし、我々が直面する脅威に立ち向かうためには、そのような亀裂 divideを埋めて、bridge、皆が力を合わせて取り組まなければなりません。
日本は、水資源への脅威に立ち向かうにあたり二つの良き伝統をもっております。一つは、皆で苦労を分かち合うという助け合いと全員参加の伝統であります。たとえば我が国は、近世の頃から、河川を利用するに当たり、流域の全てのステークホルダーが協調的に協議し尽くすことを通じて、水資源の効率的で衡平な利用を実現してきました。もう一つは、最近、国際的な言葉になってきましたが、「もったいない」の精神に代表されるモノを大切にする心です。我が国は、先ほどの皇太子殿下のスピーチにもありましたように、江戸時代より、汚水の再利用を進めるなど正に循環的に水資源を利用して来ており、そのための知見と技術を蓄積してきました。
我が国は、このような良き伝統に基づいて、我々の知見と技術を世界と共有し、貢献してきています。その一環として、我が国はこれまでも積極的に水と衛生の分野における支援を実施してきており、1990年代以来一貫して世界のトップドナーであります。私が議長を務めました昨年5月の第四回アフリカ開発会議 TICAD IV においても、水の問題をアフリカの指導者と真剣に議論いたしました。また、当時の福田総理は、我が国の知見と技術を、アフリカの人々が持続的に水を利用することに役立ててもらおうと、「水の防衛隊」の派遣を発表し、既にいくつかのアフリカ諸国に派遣済みであります。昨年7月のG8北海道洞爺湖サミットにおいては、水と衛生の問題を5年ぶりに取り上げまして、水資源を大切に使用し続けるための包括的概念である「循環型水資源管理」の重要性をアピールいたしました。
水問題は極めて多岐な分野に亘っているため、政府においても複数の省庁に所掌が跨ります。関係するステークホルダーも多種多様であり、時に立場の違いから複雑な利害関係が生じることもあります。これらを乗り越えて、皆が力を合わせるためには、政治的な意志が極めて重要であります。我が国の例を申し上げれば、はじめは与党自民党のイニシアティブにより、その後次第に与野党の垣根を越えた超党派の動きとして、また、政府のみならず、学界、産業界、市民社会が緩やかに連携しつつ、我が国水関係者が一体となって水問題に取り組む「チーム水日本」が結成され、活動を始めております。このような取組には、正に政治的なイニシアティブが重要です。政治的なリーダーシップなくして、各関係者が効果的に脅威に立ち向かうことは難しいものであります。その意味で、東西の文化が融合するここイスタンブールの地で「水問題解決のための架け橋」(Bridging Divides for Water)というテーマの下に様々なステークホルダーが、政治レベルで参集して本会合が開催されているということ自体が、誠に意義のあることと言えましょう。今回の会合の成功を祈りつつ、私のステートメントを終えたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。