平成20年3月3日
私は、外務副大臣で衆議院議員の小野寺五典です。「鯨類の持続可能な利用に関するセミナー」の開催に当たり、外務省を代表して一言ご挨拶申し上げます。
このセミナーは、我が国の捕鯨に関する立場についての理解を深めてもらうために、水産庁、日本捕鯨協会のご協力を頂き、IWC(国際捕鯨委員会)の加盟国だけでなく、未だIWCに加盟していない国々の方の参加も得て行うもので、外務省としても初めての試みです。ナカムラ・パラオ前大統領閣下を始め、アフリカ、アジア、大洋州の国々から多くの閣僚及び政府関係者にご参加頂き、本日本セミナーを開催できたことを大変嬉しく思います。
開会に当たり実は残念な事件が起きてしまいました。まずはこれを報告させていただきたいと思います。日本の捕鯨魚船に対する環境保護団体シーシェパードの妨害については、度重なる妨害活動が行われてきましたが、つい今朝ほど、日本時間7時52分、シーシェパード所属のスティーブ・アーウィン号(1000トン)、この船から日本の捕鯨母船日新丸(8044トン)に対し白い粉末状のようなものが入った茶色の紙包みのようなものが多数投げ込まれました。日本時間8時21分、スティーブ・アーウィン号から投げ込まれた酪酸の飛沫が日新丸乗員2名および警戒中の海上保安官2名にかかり痛みを訴えました。現在被害を受けたこの4名の方は治療を受けている最中ですが、現在もスティーブ・アーウィン号の妨害が続いています。日本政府としては、アーウィン号が所属するオランダに対し速やかに抗議を行うとともに、現在も状況把握に努めているところですが、このような暴力的な妨害は決して許されるべきではないと思っています。冒頭の挨拶で報告させていただきました。
捕鯨の歴史は、乱獲の歴史と言う人もいますが、日本の捕鯨は、縄文時代から伝統的に沿岸で鯨類資源を害することなく行われ、その鯨肉を食用として、鯨油、骨、ヒゲ等も貴重な取得品として用いておりました。19世紀に入り、欧米諸国の遠洋捕鯨が日本近海まで拡大し、鯨類資源を悪化させたことで、我が国の沿岸捕鯨は大きな打撃を被り、これが契機で、1934年、日本の南氷洋捕鯨が始まることとなりました。
第二次世界大戦後の1948年、国際捕鯨取締条約に基づき、IWCが設立されましたが、ほぼ同時期に、南氷洋の捕鯨が第二次世界大戦後の我が国の食料難を救ってくれました。それ故、この時代を経験した人の多くは、鯨肉に対して特別な感情を持っています。
我が国は、鯨資源は、他の海洋生物資源と同様、持続可能な利用が図られるべきと考えております。勿論、シロナガスクジラやホッキョククジラなど資源量が減少している鯨種を保護することは当然でありますが、資源量が豊富な鯨種まで一律に捕獲を禁止することは、十分な科学的根拠に基づいているとは言えません。1987年以降、日本は、科学的根拠に基づく十分な管理の下、国際捕鯨取締条約に従って合法的に調査捕鯨活動を行っています。調査結果については、IWCの場や出版物で公表し、高い評価を得ています。捕鯨問題は感情的になりがちですが、あくまでも科学的見地から冷静に議論すべきではないかと思います。
現在のIWCの状況は、科学的根拠に基づいた鯨類の資源管理機関として正常とは言えない状況にあります。1982年には、鯨類に関する科学的知見の不足を理由に商業捕鯨を一時停止するモラトリアムが導入され、商業ベースの捕鯨ができない状況が現在まで続いております。また、1994年には、南太洋に、一般にサンクチュアリと呼ばれる鯨類保護海域が設定され、資源状況にかかわらず、一律に商業捕鯨が禁止されました。残念ながら、IWCは、持続可能な利用支持国と反捕鯨国がイデオロギー的に対立したままで、両者の間に建設的な話し合いが行われず、前向きな議論や決定が何もなされていない状態にあります。日本としては、鯨類の持続可能な利用を支持する立場から、商業捕鯨を再開するため、国際捕鯨取締条約に従って、科学的知見の収集を目的とした調査捕鯨を行うとともに、こうした現状を改善しようと努めております。
ご存じの方もいると思いますが、昨年末、我が国のザトウクジラの捕獲計画に対して豪州他の反捕鯨国から反発がありました。ホガースIWC議長より、IWCの現状は好ましいものではなく、その正常化に精一杯取り組むことを確約するので、1~2年はザトウクジラの捕獲を延期してほしいとの要請があり、日本としても、IWC副議長国として、正常化に積極的に貢献するため、計画自体の変更はしないものの、正常化プロセスが進行していると我が国が判断する間、ザトウクジラの捕獲を延期することにしました。
我が国としても、今週の英国での中間会合や今年6月チリで開催されるIWC総会において、IWCの正常化に向けた我が国の考え方に基づき、引き続き鯨類の持続可能な利用を訴えていきたいと考えております。この問題は、単に鯨のみに関わるものではありません。鯨類は、海洋の食物連鎖の上位に位置しており、これを過度に保護することは、海洋の生態系を乱し、海洋生物資源の供給に否定的な影響を及ぼす危険性も指摘されております。
私は実は海洋生物資源の研究を行っていました。一部の生物資源のみを保護することは生態系に対しては決して良いことではありません。
最後に、先程冒頭でお話させていただきましたが、危険な暴力を用いて日本の調査捕鯨を阻止しようとするシーシェパードの活動について一言述べたいと思います。皆様方もご存じかと思いますが、今日この時点で南極洋で妨害行為が行われていますが、実は今年の1月半ばにおいても同じく、南極海で調査捕鯨活動中の調査船に対し、同じく酪酸入りの瓶を投げ込んだり、日本調査捕鯨船に不法侵入する妨害活動が行われた。日本政府は、なるべく安全に、乗り組んできた活動家に対しても対応しましたが、日本の主権を侵すこのような行動に対しては強い憤りを感じています。そしてまた、今日2度目の妨害行為が行われました。今回は、また人的被害もでております。このような反社会的といえる危険行為は決して許すことができません。このような危険行為の再発防止に取り組むよう捕鯨国、反捕鯨国の枠を超え、一致協力していくことが必要であると思います。
明日、皆様方のため、鮎川とともに日本の誇る伝統捕鯨地である和歌山県太地町に視察に行って頂くプログラムを用意させて頂きました。皆様方におかれましては、是非、東京だけではなく、伝統的な漁村や捕鯨コミュニティーの様子がどういったものなのか見て頂ければ幸いです。本セミナー及び地方視察を通じて、日本の捕鯨問題に関する立場更には、広く日本の現状全般について理解を深めて頂き、IWCの場においてもご協力して頂ければと思います。
最後になりましたが、これからのセミナーが有意義なものとなり、また、今次訪日が、今後のより良い二国間関係に繋がることを心より祈念し、私の挨拶と替えさせて頂きます。ご静聴ありがとうございました。