平成19年10月30日
(英文はこちら)
議長、
まずは、今月初めに行われたハイレベル対話の成功を祝福します。右ハイレベル対話を通じて、多くの国において、民族、宗教、文化を異にする人々が平和的に共存していることを改めて認識しました。また、多くの民間団体から様々な取組について聞くことができたのは、貴重な機会でございました。
ハイレベル対話における多くの政府、民間団体のステートメントは、「平和の文化」構築のために何が必要か、改めて考えさせるものでした。もしかすると、宗教、文化を異にする者を差別、排除、攻撃しようとするのは、人間の本性なのかもしれません。しかし、いくつかの政府、民間団体から紹介がありましたように、宗教・文化の違いが直ちに紛争に導くものではありません。危険なのは、宗教・文化の違いから敵意が醸成され、そこに政治的動機が加わって紛争や、時にはテロに発展することです。
また、いくつかの代表団が指摘したとおり、自分だけが真理に到達し得ると考えるのは誤りです。自己の信条を他者に押しつけようとすること、他者が深く傷つくことに配慮せずに自己の権利を行使することも避けるべきです。
議長、
我が国は、憲法上、国際紛争を解決するための手段としての戦争、武力行使及び武力による威嚇をいずれも放棄しました。この憲法に基づき、我が国は、戦後60年間、紛争の原因となる政治的動機の形成防止及びその排除のみならず、「平和の文化」構築のため、敵意醸成を回避するべく努めてきました。
例えば、我が国はこれまでに「世界文明フォーラム」及び「イスラム世界との文明間対話セミナー」を開催し、また、「対中東文化交流・対話ミッション」を派遣し、イスラム寄宿塾関係者の訪日招聘を行ってきました。また、我が国は、ユネスコの「文明間の対話」を支持しておりますが、それに加え、本年7月に「文明間の同盟」フレンズ・グループに加入しました。
議長、
敵意醸成回避のために、教育の果たすべき役割は重要です。我々は、自分たちの宗教・文化と共に、世界には他の多くの宗教・文化が存在することと、それらへの寛容さが、国際的な平和・安全と、人権と基本的な自由の保障の実現にとって不可欠であることを伝えなければなりません。
また、敵意醸成回避のためには、メディアの協力も不可欠です。この関連で総会特別情報プログラム決議に基づいて行われている国連広報局主催の中東和平メディアセミナーの継続的開催が重要であることを指摘したいと思います。このセミナーは、本年6月に東京でも開催されました。
そして、国、地域を含め社会の様々なレベルで、異なる宗教間・文化間の対話を継続することが極めて重要である。その対話に民間団体の参加が不可欠であることは言うまでもありません。
「平和の文化」を唱えることと、「平和の文化」を機能させることとは別の次元の問題です。「平和の文化」を実際に機能させるためには、民主主義や人権等の社会的規範や、我が国の平和憲法のような法的規範を充実させること、すなわち、社会資本の充実が必要です。それと同時に、教育や道徳的実践を通じた人間の尊厳の確立等個人の自立を促す人的資本の充実も必要であり、この両者が相俟って「平和の文化」が機能すると考えられます。
議長、
次に、人間の安全保障について述べたいと思います。「人間の安全保障」は、人間一人ひとりの保護と能力強化を図ることによって、人々が恐怖と欠乏から解放され、尊厳ある生命を全うできるような社会をつくることを目指すものです。「人間の安全保障」の目的は、「平和の文化」構築の目的、すなわち、人権と基本的な自由の保障の実現と共通するところが多くあります。その意味で「人間の安全保障」は社会の人的資本を充実させるための有効な手段でもあります。我々は、「平和の文化」を構築するに当たって、社会資本の充実と共に、「人間の安全保障」の視点が重要であると確信しています。
議長、
「平和の文化」の構築と、それを機能させるために、日本は途上国に対し、様々な支援を行っている。特に近年紛争後の平和構築ないし平和の定着に力を入れており、また現在日本が平和構築委員会の議長を務めているのもそのような努力の象徴的事例です。
その他、日本は1993年以降、アフリカの開発の問題に取り組んでおり、TICADを5年に1回開催しています。来年5月に第4回TICADが横浜で開かれますが、その大きな柱の1つとして、「人間の安全保障」の実現を通じた平和の定着を目指して議論を行ってゆく考えです。日本とアフリカが手を組んで「平和の文化」を共に構築できるよう、最大限の努力を行う所存です。
最後に、中東和平についても、日本は「平和と繁栄の回廊」という構想を実施してきています。ヨルダン川西岸地区における農産業団地の建設及び物流拠点整備はまさに経済の繁栄を通じた信頼醸成及び和平の推進を目指すものであり、「平和の文化」の構築と実践を目指すものです。このように、今や世界の各地で「平和の文化」を実際に機能させることが求められています。
ありがとうございました。